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【2/13更新】 印南敦史のルール無用のクラシック

2018/02/13
タイトル通り、ロック好きでもJ-POPファンでも楽しめるクラシック音楽を紹介する、ジャンル不問のクラシック・レヴュー。月間50本以上の書評を執筆する書評家であり、ベストセラー『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』の作家としても知られ、更にヒップホップなどのブラック・ミュージックからクラシックまでを幅広くフォローする異色の音楽評論家としての顔を持つ印南敦史による新連載「印南敦史のルール無用のクラシック」がスタート!
◆バックナンバー
【2/6更新】 フルートに対する“常識”を打ち破る、画期的でスリリングなアルバム
【1/30更新】 ラフマニノフとフィリップ・グラスを無理なく共存させてみせた、聴きやすく高密度な作品
【1/23更新】 声の力と存在感で、リスナーをぐいぐい引き込む才女によるグラミー・ノミネート作品
【1/18更新】 イギリスのリコーダー・カルテットによる結成20周年作のモチーフは、現代作曲家作品
【1/11更新】 ワルツやポルカの楽しさを存分に味わえる、年に一度のお楽しみ
【12/26更新】 現代音楽界のトップ・グループが、トラッド・ミュージックを再現した快作
【12/22更新】 年末だから「第九」を聴こう
【12/15更新】 マリンバという楽器に注目したことはあるでしょうか?
【12/8更新】 はじめまして。


スティーヴ・ライヒ『パルス/カルテット』
ミニマル・ミュージック界の重鎮、ライヒの才能を実感できる心地よい作品


 これまでの記事をお読みいただいている方ならおわかりかと思いますが、この連載はちょっと“偏って”います。なぜなら基本的に、僕個人の感じ方に重点を置いて作品選びをしているから。

 一般的なクラシックに対する“常識”からは外れているとも言えるわけで、そういう意味では“邪道”かもしれません。

 でも、そうでなければ意味がないとも思っているのです。なぜって、どこででも紹介されているようなものを、他の評論家の先生方と同じような視点に基づいて取り上げたとしても、それはオリジナルとは言えないから。

 しかも一概にクラシックといっても、そのスタイルは多種多様です。だから当然のことながら、大々的に紹介される機会は少ないかもしれないけれど、クオリティの高いアーティストや作品は確実に存在するわけです。だからこそ、僕はそちらに焦点を当て続けたいということ。

 で、そうなると、個人的に無視できないのが現代音楽です。なかでもミニマル・ミュージックのことは、ひとりでも多くの方に知っていただきたいと思っています。

 ミニマル・ミュージックとは、その名のとおり音数を最小限まで抑制し、残されたフレーズを反復させる音楽。いたってシンプルなアートフォームなのですが、その「反復感」がとても心地よく、聴けば聴くほど惹きつけられるのです。

 しかも知識の類は必要なく、気軽に聴くことができます。もちろん邪魔にもならないので、作業中や読書の際のBGMにも最適。ものを書くことに1日の大半を費やす僕にとっても、欠かすことのできない音楽なのです。

 で、ミニマル界の重鎮であるテリー・ライリー(この人の作品についてもいずれご紹介します)や、先日ご紹介したアンリ・ドマルケットとヴァネッサ・ベネッリ・モーゼルの『Echoes』でも取り上げられていたフィリップ・グラスと並ぶ最重要人物が、今回ご紹介するスティーヴ・ライヒです。

 ニューヨーク出身の彼は1936年生まれですから、今年で82歳。コーネル大学で哲学を専攻したのち、ジュリアード音楽院とミルズ・カレッジで音楽を学んだというインテリですが、いつもキャップを被った親しみやすい人物としても有名です。

 これまでにも数々の作品を残しており、グラミー受賞経験も。世界を股にかけた演奏旅行を続けており、来日経験も豊富。クラシック、現代音楽、ミニマル・ミュージックといったレッテルを超え、クラブ・ミュージック・クリエイターなど幅広い層から支持されている人物なのです。

 クラシックのベースを保ちつつ、そこにさまざまな音楽からの影響を感じさせるリズム感を融合させた、独特なリフレインが彼の持ち味。

 しかも、2014年の『Radio Rewrite』でレディオヘッドのギタリスト、ジョニー・グリーンウッドと共演するなど、既成概念の枠にとらわれることのないアプローチを積極的に行なっていることでも知られています。ちなみにこの作品もとてもいいので、機会があったらぜひ聴いてみてください。

 いずれにしても、作品が発表されるごとに新鮮な感動を与えてくれる人。だからこそ僕も、6台のマリンバによるリフレインで構成された1986年作品『Sextet; Six Marimbas』に衝撃を受けて以来、彼の動向を追い続けているわけです。

 ですから、先ごろ新作が登場したときにも興奮を隠せなかったのでした。それが、今回ご紹介する『パルス/カルテット』。2015年作品「パルス」と、2013年作品「カルテット」とのカップリング作品です。

 管楽器、弦楽器、ピアノ、エレキ・ベースのために書かれた前者は、一聴しただけでライヒのそれだとわかる独特の調性が心地よい楽曲。背後に位置するピアノのリフがバランスを整える役割を担っているため、ミニマル初心者でも無理なく受け止めることができるはず。またハイレゾで聴くと、綿密に積み上げられた音のレイヤーがさらに立体的に聴こえます。

 3楽章に分かれた後者は、2台のピアノと2つのパーカッションによって演奏される楽曲。というだけで珍しくもありますが、ライヒによればそれらは「常に中心的な役割を果たす楽器」なのだとか。

 目まぐるしくキーが変わるのですが、難解さは皆無。先述した『Sextet; Six Marimbas』に近いテクスチャーを備えているだけに、初めてライヒ作品に触れる方にも適しているように思えます。

 正直なところ、最初に聞いたときにはさほどのインパクトがあったわけではありませんでした。だから戸惑いもしたのですが、ふと気がつけば、毎日何度も繰り返し聴いていたのでした。

 なんだかんだいって、またもや知らず知らずのうちにライヒ世界に引き込まれていたということ。そんなわけで、今回も「してやられた」って感じです。



◆今週の「ルール無用のクラシック」


『Pulse / Quartet』/ Steve Reich




『Radio Rewrite』/ Steve Reich





印南敦史 プロフィール

印南敦史(いんなみ・あつし)
東京出身。作家、書評家、音楽評論家。各種メディアに、月間50本以上の書評を執筆。新刊は、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(日本実業出版社)。他にもベストセラー『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)をはじめ著書多数。音楽評論家としては、ヒップホップなどのブラック・ミュージックからクラシックまでを幅広くフォローする異色の存在。

ブログ「印南敦史の、おもに立ち食いそば」