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【2/9更新】 印南敦史の名盤はハイレゾで聴く

2018/02/09
ひょんなことからハイレゾの虜になってしまった、素直さに欠けたおじさんの奮闘記。毎回歴史的な名盤を取り上げ、それをハイレゾで聴きなおすという実験型連載。
月間50本以上の書評を執筆する書評家であり、ベストセラー『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』の作家としても知られ、更にヒップホップなどのブラック・ミュージックからクラシックまでを幅広くフォローする異色の音楽評論家としての顔を持つ印南敦史による連載「印南敦史の名盤はハイレゾで聴く」。
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サイモン&ガーファンクルの復活曲も誕生。ポール・サイモンの才能が発揮された優秀作

数日前、スマホでチェックしたニュースのヘッドラインに「ポール・サイモンが」というフレーズを確認したとき、「えっ、まさか……」と、訃報と勘違いしてしまったことをまずは白状しなければなりません。

ウッカリにもほどがありますが、とはいえもう76歳だというし、なにがあっても不思議ではないからなぁ。それに、彼は僕にとっても大きな存在なので、ついつい気になってしまうわけです。

多くの方々がそうであるように、彼の原点であるサイモン&ガーファンクル自体、もともと大好きなグループでした。そして、相棒のアート・ガーファンクルもまた、きわめて魅力的なアーティストだと感じていました。

ただ、それでも、ソロ・アーティストとしてのポール・サイモンはまた別格だったとしか表現できないのです。いや、「人としてのポール・サイモン」と言ったほうが近いかもしれないな。

昔からよく感じていたのは、サリンジャーの名作『ライ麦畑でつかまえて』の主人公、ホールデン・コールフィールドとの近似性です。もちろん、それは「ポール・サイモンとホールデン・コールフィールドって似てんじゃね?」ってな僕の主観にすぎないのですけれど。

しかし、どこか大人になりきれない感じとか、考えすぎの気難しい人というような印象が、どうしても重なってしまうのです。

事実、2014年にはパートナーのエディ・ブリッケルと派手な夫婦喧嘩をやらかし、夫婦揃って逮捕されたりもしましたしね。まー、あの話に関しては、そもそもブリッケルと婚姻関係にあったこと自体が驚きだったのですが。

そんなわけなので「ちょっと、友だちにはなれそうにないなー」とも密かに思っていたのです(なれるはずなんかないから心配なし)。

でも、こと音楽に関しては話がまた別。音楽家(ミュージシャンではなく、あえてこう表記しますが)としての才能は、どうしても認めないわけにいかないからです。

彼の音楽的な特徴は、その時代において自分の嗅覚を刺激した音楽の要素を、積極的に取り入れること。いってみれば、プロデューサー的な感覚を持っているのです。

たとえば1986年の『Graceland』ではアフリカン・ミュージックを導入して大きな話題を呼びましたし、1990年の『The Rhythm of the Saints』ではブラジル音楽に焦点を当てたりもしました。

2000年以降も音楽的好奇心は衰えず、2006年の『Surprise』では、ブライアン・イーノをプロデューサーに迎えてドラムン・ベースなどのクラブ・ミュージックを導入。2016年の『Stranger To Stranger』でも、現代音楽の作曲家ハリー・パーチからの影響を露わにしていました。

サイモン&ガーファンクルの功績が大きすぎただけに、そのイメージから離れられない方もいらっしゃるかもしれません。しかしソロ・アーティストとしては、常に新しい音楽に関心を示し、それらを取り入れずにはいられないという好奇心の塊なのです。

なにしろ1972年の実質的ソロ・デビュー・アルバム『Paul Simon』からのヒット・シングル「Mother and Child Reunion」からして、当時はほとんど知られていなかったレゲエのリズムを導入した楽曲でしたしね。

ですから、彼に駄作はないと個人的には考えています。失敗作と言われた1983年の『Hearts And Bones』だって、実はとてもクオリティの高い作品だったし。

でも、それらのなかから1枚だけ選べと言われたら、個人的には1975年の『Still Crazy After All These Years』ということになるだろうなと思います。おそらくこれは、僕がリアルタイムで聴いた初めてのポール・サイモン作品だったから。

音楽って、それを聞いていた当時の記憶と結びつくじゃないですか。しかもこの当時の僕は多感な中学1年生だったので、いまでも聴くと当時の光景が頭に蘇ってくるのです。あのころよく遊んでたT内くん、どうしてるかなぁ……?

ゴードン・エドワーズ(b.)、スティーヴ・ガッド(ds.)、リチャード・ティー(key.)、ボブ・ジェームス(key.)、マイケル・ブレッカー(sax.)、デヴィッド・サンボーン(sax.)、などなど、当時ノリにノッていたクロスオーヴァー/フュージョン系ミュージシャンが総結集した作品。これがきっかけとなって、エドワーズ。ガッド、ティーらによる伝説的グループ、スタッフが誕生したことも有名な話です。

というだけあって、音楽的クオリティが驚くほど高い作品。オープニングのタイトル曲が聞こえてきた時点で、それが過去の記憶と絶妙に融合。涙が出そうになってしまいます。

ちなみにサイモンの代表曲のひとつでもある「50 Ways to Leave Your Lover(恋人と別れる50の方法)」は、リハーサル時にガッドが叩いていたドラム・パターンをそのまま借用したことでも知られています。

でも最大のトピックは、やはりシングル・ヒットした「My Little Town」でしょう。いうまでもなく、サイモン&ガーファンクル解散後としては初めて、アート・ガーファンクルとデュエットしたナンバーです。そんな曲が悪かろうはずもなく、この2曲だけで完全に気持ちを持って行かれてしまうのです。

もちろん他の楽曲のクオリティも申し分なく、いまなお輝き続ける名盤だと断言できます。


◆今週の「ハイレゾで聴く名盤」


『Still Crazy After All These Years』
/ Paul Simon












印南敦史 プロフィール

印南敦史(いんなみ・あつし)
東京出身。作家、書評家、音楽評論家。各種メディアに、月間50本以上の書評を執筆。新刊は、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(日本実業出版社)。他にもベストセラー『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)をはじめ著書多数。音楽評論家としては、ヒップホップなどのブラック・ミュージックからクラシックまでを幅広くフォローする異色の存在。

ブログ「印南敦史の、おもに立ち食いそば」