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【2/2更新】 印南敦史の名盤はハイレゾで聴く

2018/02/02
ひょんなことからハイレゾの虜になってしまった、素直さに欠けたおじさんの奮闘記。毎回歴史的な名盤を取り上げ、それをハイレゾで聴きなおすという実験型連載。
月間50本以上の書評を執筆する書評家であり、ベストセラー『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』の作家としても知られ、更にヒップホップなどのブラック・ミュージックからクラシックまでを幅広くフォローする異色の音楽評論家としての顔を持つ印南敦史による連載「印南敦史の名盤はハイレゾで聴く」。
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ジョニー・マーとモリッシーの才能が奇跡的なバランスで絡み合った、ザ・スミスの最高傑作

なにをやってもうまくいかず、空回りばっかりしていて、だから、常にカリカリしていたーー。

そんな時期は、誰にでもあるものではないでしょうか。もちろん、程度の差こそあるでしょうけれど。いずれにしても、いかにも青春時代ならではって感じですよね。

それは僕も同じで、20代前半のころまではかなり精神的に荒れていたように思います。なんとか自我を確立したいのだけれど、どうしてもそれがうまくいかなかったわけです。

乱読していた本と同時に、そのとき支えになっていたもののひとつが音楽でした。当時は10代のころに洗礼を受けたパンク・ムーヴメントに端を発するニュー・ウェイヴに感化されていましたが、シーンの最前線にいたクリエイティブなアーティストの立ち居振る舞いに、「同じようになりたい自分」を重ね合わせていたのかもしれません。

だから、あのころ影響を受けたアーティストたちからの存在は、自分のなかでいまなお大きいのです。

そして、そんななかでも突出していたのが、今回ご紹介するザ・スミス(以下:スミス)でした。

スミスは、1982年にイギリス・マンチェスターで結成されたロック・バンド。ギタリストであるジョニー・マーの、キャッチーなソングライティング・センス、そしてヴォーカリスト、モリッシーのしなやかな声質と繊細な表現が魅力です。

両者のコンビネーションは、とにかく絶妙。暗く、それでいてユーモアをもたたえたモリッシーの歌詞とヴォーカル、その魅力を補ってあまりあるマーのセンスが、奇跡的な化学反応を起こしていたといえるかもしれません。

つまり、このバンドにはモリッシーとジョニー・マーのためにあったような側面があるのです。残りのふたりは裏方的な存在だったわけですが、そのアンバランスな関係性が、結果的にはバンドとしての個性を際立たせてもいました。

活動期間は結成から5年、シングル“Hand In Glove”をスタート・ラインとするならわずか4年ということになりますが、その短期間でシーンに与えた影響の大きさは計り知れません。

実際のところ驚かされるのは、いまもなおスミス好きを自称する人の多さです。当時から僕のなかには、「自分こそ誰よりもスミスのことを理解している人間だ」という自負があったのですが、それは大きな勘違い。

同じようなことを考えていた、もしくはいまでも考えている人は、いくらでもいるのです。それは、彼らがそこまでの伝播力を持っていたことの証明でもあります。

さて、今回ご紹介する『Queen Is Dead』は、1986年にリリースされた3作目。彼らにとっての最高傑作として名高い作品です。

しかもスミスって、実は音質面においても非常に優秀なバンド。僕の知る限り、その点に焦点が当たることはさほど多くなかった気がするのですが、リマスターをハイレゾで聴いてみると、ただでさえ優れていた音質のクオリティがさらに際立ちます。

たとえばオープニングのタイトル・トラック“ザ・クイーン・イズ・デッド”。この曲は、ブライアン・フォーブス監督が1962年に撮った『L型の部屋(The L-Shaped Room)』から引用された一節からスタートするのですが、その臨場感からしてすごい。そこに居合わせているかのようなリアリティがあります(そりゃちょっと大げさか?)。

そこに被さるジャンルグ・ビートと、マーのギターが生み出す、絶妙のグルーヴ感もスリリング。モリッシーのヤワヤワしたヴォーカルとのミスマッチ感も素晴らしく、気持ちがガンガン盛り上がります。

それから、このアルバムを語るうえで避けて通れないのが“Cemetry Gates”。爽やかでありながら、どこかもの悲しい曲調が印象的。音質的にはセパレーションが非常にいいので、爽やかさをより効果的に引き立ててくれています。

しかしセパレーション的には、先行シングルの“Bigmouth Strikes Again”も捨てがたいところ。疾走感に満ちたオリジナル楽曲の持ち味が、リマスター/ハイレゾによってさらに際立っている印象があります。

逆に、本作の前年にシングルカットされ、スミスを代表する名曲のひとつとしても知られる“The Boy With the Thorn In His Side(邦題:心に茨を持つ少年)”は、サウンド的な全体のコンビネーションがより強固なものに。それにしても、何度聴いてもいい曲だなー。

また、単体の楽曲としてはそれほど有名ではないかもしれませんが、感傷的な“I Know It’s Over”も音の奥行きがくっきりとして、これまで感じることがなかった新鮮さを意識させてくれます。その他、やはり代表曲のひとつである“There Is a Light That Never Goes Out”のギターの音質のクッキリ感もにも注目したいところ。

つまり全体的に、リマスター/ハイレゾが名盤の名盤たる魅力を、究極まで際立たせてくれているのです。当時、スミスにハマッたことがある人であれば、このリアリティは絶対に体験しておくべきです。もちろん、ハマッたことがない人もね。

でも、このアルバムのリマスターを出してくれたのなら、ぜひとも他の作品のリマスター化も強くお願いしたいところです。なにしろ彼らには、駄作というものが存在しませんからね。

特にお願いしたいのは、一昨前にあたる1985年作『Meat Is Murder』だな。こちらも、『Queen Is Dead』に負けず劣らずの名作ですから。

この原稿を書きながら『Queen Is Dead』を聴いていたら、また30数年前の不器用すぎた自分のことを思い出してしまいました。いまにしてみれば甘酸っぱい思い出ではありますけど、当時の自分にいま会えるのだったら、飲み屋で小一時間くらい説教したいかも。


◆今週の「ハイレゾで聴く名盤」


『The Queen Is Dead (2017 Master)』
/ The Smiths






印南敦史 プロフィール

印南敦史(いんなみ・あつし)
東京出身。作家、書評家、音楽評論家。各種メディアに、月間50本以上の書評を執筆。新刊は、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(日本実業出版社)。他にもベストセラー『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)をはじめ著書多数。音楽評論家としては、ヒップホップなどのブラック・ミュージックからクラシックまでを幅広くフォローする異色の存在。

ブログ「印南敦史の、おもに立ち食いそば」