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【1/18更新】 印南敦史のルール無用のクラシック

2018/01/18
タイトル通り、ロック好きでもJ-POPファンでも楽しめるクラシック音楽を紹介する、ジャンル不問のクラシック・レヴュー。月間50本以上の書評を執筆する書評家であり、ベストセラー『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』の作家としても知られ、更にヒップホップなどのブラック・ミュージックからクラシックまでを幅広くフォローする異色の音楽評論家としての顔を持つ印南敦史による連載「印南敦史のルール無用のクラシック」。
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イギリスのリコーダー・カルテットによる結成20周年作のモチーフは、現代作曲家作品

過去にさんざん聴き込んできた作品を、時間が経ってからあえて聴きなおすのはなかなか楽しいものです。聴き込んできたものである以上は細部について記憶しているわけですが、それでも改めて聴いてみると、以前には気がつかなかった微妙なニュアンスなどに気づかされたりもしますしね。

しかも、その音源がハイレゾだった場合は、音質面で決定的な違いを確認することが可能です。そういう意味では、慣れ親しんだお気に入りの作品を聴きなおそうというときこそ、ハイレゾが適しているといえるかもしれません。

僕自身、ハイレゾを知ってからは、しばらく聴いていなかった作品を聴きなおす機会がとても増えました。

ただ、その一方、「自分の知らない音楽、聴いたことのない音源を知りたい」という欲求もとても強いのです。いってみれば、好きな作品だけを繰り返し聴いているだけでは満足できないのです(ワガママだぜ)。

たとえば、かつてヒップホップの新譜を追いまくっていたのも、そんな理由があったから。いまもヒップホップはチェックしていますけれど、1990年代あたりの熱量は、「それ、無駄なんじゃね?」と自己ツッコミを入れたくなるほど大きなものでした。

でも、気になっちゃうんですよ。知らないことがあったら、どうしても知りたくなっちゃうんです。だから、それは仕方がないことなんです。

ちなみに、かつてヒップホップに向けられていたそういった好奇心ですが、近年はクラシックに向けられることがとても多くなっています。

クラシックは中学生時代から聴いていたとはいえ、系統立てて学んできたわけではありませんから、まだまだ知らないことだらけ。そんなせいもあってか、未知の情報を求めてしまうわけです。

ですからいまでも毎日、ハイレゾのみならず、ストリーミングサービスやインターネットラジオなど、あらゆるメディアを駆使してクラシックに関する最新情報を探し続けています。

大切なのは、「有名だから」とか「人気があるから」というようなことだけではなく(そういうものをチェックすることも、もちろん大切ですが)、「自分の感覚にフィットするか」ということ。有名か無名かにかかわらず、そういう作品を見つけ出すのが楽しいのです。

と、ここでひとつ、あまり知られていないのではないだろうかと思われる情報を。

そうやって未知の音源を探し続けている過程で、気づいたことがあったのです。

e-onkyoのトップページには、新着作品がズラリと表示されますよね。左上の「Genre」から入ってみれば、ジャンルごとのチェックも可能です。だから当然ながら、「ここにすべての新作が表示されるんだな」と思うのではないでしょうか。事実、僕もずっとそう思っていました。

ところが実際には、「トップページやジャンルページに表示されない新譜」も存在するのです。なぜそうなるのかはわかりませんし、サイトの構造をディスりたいわけでもありません。

ただ、「表示されていないから、ないんだろうな」と諦めかけていた作品も、試しに検索欄に入れてみるとしっかり出てきてくれたりするのです。

アーティスト名では表示されなかったのに、タイトルを入れてみたら見つかった、なんてことも。大々的にクローズアップされないまま、ただ収納されていく新譜が実は隠れていて、検索の仕方次第でそれらを見つけ出せるというということです。

だから意外な作品を見つけると、自分だけのお宝を発見したような感じでとてもうれしい。しかもその音源は、当然のことながらインターネットラジオとはくらべものにならないほどクリアです。

よって、ストリーミングで垂れ流していた作品をハイレゾで聴きなおした結果、大きな感動を得ることもできるわけです。

気に入った新作をよりよい音で楽しめるのですから、この新作チェック法はおすすめ。「検索するのは面倒だ」なんて言わず、一度試してみてください。“面倒”のその先に、素晴らしい出会いが待っているかもしれないのですから。

さて、前置きが長くなってしまいました。

実は今回ご紹介したいのも、好奇心のアンテナを張り巡らせた結果、そうやって見つけ出した作品なのです。そして結果的に、僕は今年に入ってから、これを毎日聴き続けています。

フラウタドース・リコーダー・カルテットの、『Bavardage』。

キャサリン・フレミング、マーリン・ハリソン、セリア・アイルランド、イアン・ウィルソンで構成されるフラウタドース・リコーダー・カルテットは、1997年に結成されたイギリスのリコーダー・アンサンブル。古楽から現代音楽までを、さまざまな種類のリコーダーを駆使して再現してみせる稀有な存在です。

特徴的なのは、リコーダーという楽器から最大限の効果を生み出すべく、常に実験を繰り返し、レパートリーを積極的に増やしている点。「この楽器だから、ここまでしかできない」ではなく、「この楽器で、(これまで誰もやったことのない)どれだけ画期的なことができるか」というような視点を持っているのです。

いってみれば、誰にも真似のできないオリジナリティの塊。多くの受賞実績を持っていることにも、充分納得できます。

結成20周年記念作品である本作は、そのオリジナリティがこれまで以上に発揮された作品。結果的に表現の幅がさらに広がっているのです。というのも、エリザベス王朝時代の音楽家たちが残した楽曲をリコーダーで再現した前作『Cynthia’s Revels』に対し、ここでは現代作曲家の作品を取り上げているから。

冒頭のスコットランド民謡「Ca the yowesは、ひんやりと澄んだ空気を思わせる清涼感が魅力。かと思えば「Dandy Dancer」は、同じくスコットランド民謡でありながらポップでかわいらしいムードがあります。この2曲を聴いただけでも、リコーダーのカルテットという形態にどれだけの表現力が隠されているかがわかるはず。

ディヴィット・マーフィー「Bavardage (2002,rev.2016)」は、音のパーツをコラージュしたかのような雰囲気。軽井沢の「セゾン美術館」など、現代美術系の美術館で聴いてみたいなあと感じたりもしました。

なお、石井眞木の「Black Intention IV」と廣瀬量平の「Idyll 1」と、日本人作曲家の楽曲も2曲収録されています。特に56種もの異なるリコーダーを駆使したという前者には、吸い込まれていくような奥行きに強い説得力が。

なかでも突出しているのは、テリー・ライリーの「In C」。アメリカを代表するミニマル・ミュージックの巨匠が生み出した不朽の名曲を、リコーダーだけで再現しようという発想自体が画期的。しかも15分15秒におよぶその表現は、この上なく刺激的です。

しかも素晴らしいのは、アルバム全体がひとつの流れを形成していることです。すべて「現代作曲家の作品」だとはいえ、各楽曲はそのバックグラウンドも表現方法も多種多様。しかし一枚のアルバムに収められた結果、“点”が“線”になったかのようニュアンスが生まれているのです。

こうしたエキセントリックなカルテットがクローズアップされる機会は、現実的にあまり多いとはいえないでしょう。しかし先入観を排除して耳にしてみれば、理屈抜きで心地よく、そしてクリエイティヴな作風に魅了されるはず。

1月初頭にリリースされたばかりですが、個人的には早くも2018年の新譜ベスト5内に入れるべき作品だと確信しています。



◆今週の「ルール無用のクラシック」





印南敦史 プロフィール

印南敦史(いんなみ・あつし)
東京出身。作家、書評家、音楽評論家。各種メディアに、月間50本以上の書評を執筆。新刊は、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(日本実業出版社)。他にもベストセラー『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)をはじめ著書多数。音楽評論家としては、ヒップホップなどのブラック・ミュージックからクラシックまでを幅広くフォローする異色の存在。

ブログ「印南敦史の、おもに立ち食いそば」