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【1/12更新】 印南敦史の名盤はハイレゾで聴く

2018/01/12
ひょんなことからハイレゾの虜になってしまった、素直さに欠けたおじさんの奮闘記。毎回歴史的な名盤を取り上げ、それをハイレゾで聴きなおすという実験型連載。
月間50本以上の書評を執筆する書評家であり、ベストセラー『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』の作家としても知られ、更にヒップホップなどのブラック・ミュージックからクラシックまでを幅広くフォローする異色の音楽評論家としての顔を持つ印南敦史による新連載「印南敦史の名盤はハイレゾで聴く」がスタート!
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The Doobie Brothers『Best of the Doobies』前期と後期のサウンドの違いを楽しもう

今回ご紹介したいのは、カリフォルニアの……というよりアメリカン・ロック・バンドのレジェンドというべき、ザ・ドゥービー・ブラザーズ(以下:ドゥービー)のベスト・アルバム『The Best Of The Doobies』です。

「ベスト・アルバムが“名盤”って、ちょっと違和感あるんじゃない?」

そんな意見があったとしても当然だと思います。僕だって、少なからずそう感じますから。でも、それには理由があるのです。

ドゥービーに関しては書きたいことがいくつかあり、それらについては今後書いていこうと思っているのですけれど、その発端となったのがこれなのです。つまり、これを外してしまうと、あとの話に続いていかなくなってしまうというわけ。

このアルバムが出た1976年、僕は14歳でした。音楽の魅力にどっぷり浸かっていた時期であり、ジャンル不問でさまざまな音楽を吸収してもいました。なにしろ思春期の中二病ですから、頭のなかは音楽とエロネタだけといった感じ(特に後者は重要だったよ)。

インターネットの「イ」の字もなかったそのころは、音楽を聴こうにも手段が限られていました。なにしろ、レコードなんか高くてそうそう買えませんでしたからね。シングル500円、LP2500円は、決して安くなかったわけです。

だからこそ欠かせなかったのは、「FMエアチェック」でした。FMラジオの番組から、好きな音楽をカセットテープに録音するという手段ですが、40代以上の方ならわかっていただけると思います。「軽音楽をあなたに」とか「クロスオーバー・イレブン」とか、みんな好きだったでしょ。

ただ、さまざまな音楽を提供してくれるFM番組の多くには、ちょっとした(いや、かなり大きな)不満もありました。たとえばアーティストがニュー・アルバムを出した場合、その特集が放送されるのですが、多くの場合、アルバム一枚をまるまるかけることはなく、たいていは数曲が外されていたのです。

全曲かけちゃったら、みんなエアチェックしちゃうからレコードの売り上げに影響する可能性があります。だから、そうしていたのでしょう。その理屈も理解はできます。でも、大人の事情は無関係。音楽に飢えていた少年としては、やはり全曲を聴いてみたかったわけです。

しかし、そんな要望に応えてくれる番組が、僕の知る限りひとつだけありました。(たしか)毎週土曜日の12時50分からNHK FMで放送されていた、「ロック・アルバム」。その名のとおり、毎週1枚のロック・アルバムをまるまる一枚、しかもA面とB面に分けてかけてくれるという、非常にありがたい番組だったのです。

ところが土曜日は4時間目まで授業がありましたから、12時50分という時刻は非常にギリギリ。そのため土曜日はどこへも寄らず、友だちともつるまず、家まで本気で走って帰ったものです。息を切らせて家に戻り、昼食を食べるよりも先にラジカセのスイッチを入れる、そんなシチュエーションでした。

もうおわかりかと思いますが、ある日、この番組でかかったのが、ドゥービーの『The Best Of The Doobies』だったのです。それを聴き、初めてこのバンドのことを知ることになったということ。

オープニングの「チャイナ・グローヴ」を耳にした時点で、「これは自分のためにあるバンドだ!」と感じました。いや、決めました。勝手に独占すんなよって感じですが、アメリカかぶれのガキにとっては、理想的というしかなかったんですよね。

いま、これを書きながら聴いているんですけど、ただでさえ立体的なサウンドは、ハイレゾだとさらに際立ちます。ひとことで表現するなら「立体的」(ボキャブラリーなさすぎ)。続く「ロング・トレイン・ランニン」もパキパキで、心地よいったらありゃしない。

e-onkyoには2016年のリマスターがあるのですが、「リマスターをハイレゾで聴くと、こういう感じになるのかー!」と新鮮な思いです。体験した人にしかわからない、これがハイレゾの魅力なんでしょうね。

なおご存知の方も多いと思いますが、ドゥービーは初期と中期とでは音がガラッと変わります。初期はリーダーのトム・ジョンストン色が濃いギター・ロックだったものの、彼が脱退し(現在は復帰)、元スティーリー・ダンのキーボード奏者であるマイケル・マクドナルドが加入してからは、彼のヴォーカルとキーボードを全面に押し出したAOR路線へと変貌したのです。

そのため当時は、「前期派か、後期派か」というような議論が多く交わされていました。が、そんななかで僕がとっていたのは「どっちも最高じゃん」というスタンス。無難な道を選んだということではなく、本当にどちらも好きなのです。

そう思うようになったのは、このアルバムがあったから。ここには、どちらも収録されているからです。

たとえば「ロング・トレイン・ランニン」の次にマクドナルドをフィーチャーした「テイキン・イット・トゥ・ザ・ストリート」が出てくるので、異なるテイストを無理なく受け止めることが可能。しかも次はギター路線の「リッスン・トゥ・ザ・ミュージック」だし、双方がうまく共存しているということ。

ちなみに僕はもともと、「リッスン・トゥ・ザ・ミュージック」と「ブラック・ウォーター」の牧歌的な雰囲気がそれほど好きではありませんでした。でもハイレゾで聴きなおすと、先に触れた立体感が際立ち、印象がガラッと変わったことを認めましょう。大げさではなく、「こういう曲だったのかー」という印象なのです。

なお立体感に関していえば、アナログではB面のトップだった「ジーザス・イズ・ジャスト・オールライト」や「サウス・シティ・ミッドナイト・レディ」も捨てがたいですね。ぐいぐい迫ってくるのですわ。

あ、そういえば蛇足ですが、前者に当時、ひどい邦題がついていたことを暴露しておこう。「キリストは最高」っていうタイトルだったんです。直訳すればたしかにそうなんだけど、ちょっと考えてほしかったですね。

……と、ドゥービーについては、書いても書いても書ききれないほどの思いがあるのです。でも、それくらい好きだということ。

しかも14歳でこのアルバムに衝撃を受けた数年後の高校生時代、僕はメンバーと対面することになるのですから、人生はなんとも不思議なものです。

でも、その話はまたの機会に。


◆今週の「ハイレゾで聴く名盤」


『The Best Of The Doobies』/ The Doobie Brothers






印南敦史 プロフィール

印南敦史(いんなみ・あつし)
東京出身。作家、書評家、音楽評論家。各種メディアに、月間50本以上の書評を執筆。新刊は、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(日本実業出版社)。他にもベストセラー『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)をはじめ著書多数。音楽評論家としては、ヒップホップなどのブラック・ミュージックからクラシックまでを幅広くフォローする異色の存在。

ブログ「印南敦史の、おもに立ち食いそば」