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【1/11更新】 印南敦史のルール無用のクラシック

2018/01/11
タイトル通り、ロック好きでもJ-POPファンでも楽しめるクラシック音楽を紹介する、ジャンル不問のクラシック・レヴュー。月間50本以上の書評を執筆する書評家であり、ベストセラー『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』の作家としても知られ、更にヒップホップなどのブラック・ミュージックからクラシックまでを幅広くフォローする異色の音楽評論家としての顔を持つ印南敦史による新連載「印南敦史のルール無用のクラシック」がスタート!
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ワルツやポルカの楽しさを存分に味わえる、年に一度のお楽しみ

1987年に、『グッドモーニング、ベトナム』という映画が公開され、話題を呼びました。1965年、ベトナム・サイゴンにやって来た米軍放送のDJを主人公にしたヒューマン・ドラマ。実在の人物であるエイドリアン・クロナウアー役を演じる、ロビン・ウィリアムスのマシンガン・トークも痛快でしたよね。

先日ひさしぶりに観たのですが、やっぱり名作。もう30年も前の作品ではありますが、名作の普遍性を改めて実感させられました。

ただ、一箇所だけ、どうしても気になってしまうことがこの映画にはあるのです。(もともと駐留軍向けのラジオ番組で流されていた)ポルカが、エイドリアンがプレイするロックンロールやリズム&ブルースとは対極の位置にある「イケてない音楽」として扱われている点。

いや、もちろん好みの問題です。でも、ポルカって最高じゃないですか。少なくとも僕は、ロックンロールやリズム&ブルースと同じくらい好きなんですよね。というより、そもそも、どちらがイケててどちらがダサいかなんて比較すること自体がナンセンス。どちらも優れた音楽だと信じて疑わないので、その点だけが引っかかってしまったわけです。

僕がポルカを好きになったのは、中学1年生のとき。その年にNHK FMで放送された、「ウィーンフィル・ニューイヤーコンサート」がきっかけでした。一生懸命お金を貯めて念願のラジカセを入手し、ジャンル不問であらゆる音楽を吸収していた時期のことです。話は飛びますけど、あのころは日本の民謡のテープまでつくっていたので、振り返ってみればヘンな中学生としか表現のしようがありませんね。

それはともかく、ウィーン・フィルのニューイヤー・コンサートです。

ご存知のとおり、毎年1月1日に開催される、クラシックの世界でもっとも有名なコンサート。スタートが1939年ですから、その歴史は実に75年以上。しかもテレビとラジオを通じて世界80カ国以上で放送され、実に4億人が耳にするという規模の大きさ。僕があの年に聴いたのも、そんな放送のひとつだったわけです。

ちなみに1987年のヘルベルト・フォン・カラヤン以降は、指揮者が毎年変わることでも知られています。でも、それ以前に指揮したのはクレメンス・クラウス、ヨーゼフ・クリップス、ヴィリー・ボスコフスキー、ロリン・マゼールの4人のみ。つまり当時の僕は、1955年から1979年を担当していたボスコフスキーの回を聴いていたことになります。

このコンサートの楽しさといえば、誰でも一度は耳にしたことがあるワルツやポルカが次々に飛び出してくるところ。「指揮者も演奏者も楽しんでるなー」ってことが音から伝わってくるので、理屈抜きで楽しめるんですよね。

だから、「みんなお正月には、このコンサートをもっと楽しめばいいのにな」って毎年のように思います。芸能人が騒いで笑ってるだけのバラエティ番組よりも、ずっと有意義ですぜ。

そんなウィーン・フィルのニューイヤー・コンサートですが、今年は14年ぶりにリッカルド・ムーティが指揮を担当しました。2010年以来シカゴ交響楽団の音楽監督を務める、文字どおりの巨匠ですね。1993年を皮切りに1997年、2000年、そして2004年に続き、今回は5度目。これはズービン・メータと並ぶ登壇数で、当然ながらウィーン・フィルからの信頼の高さを代弁していることになるでしょう。

そういえばメータの2007年版と2015年版も非常に完成度が高いので、ぜひ聴いてみてください。特に後者は、「アンネン・ポルカ作品117」から「ワルツ「美しく青きドナウ」作品314」「ラデツキー行進曲作品228」と続く後半の流れがとてもいいと思います。

さて、話をムーティによる2018年版に戻しましょう。

颯爽とした雰囲気が魅力的な「喜歌劇『ジプシー男爵』より入場行進曲(ヨハン・シュトラウス2世)」で幕を開け、ゆったりとした「ワルツ『ウィーンのフレスコ画』(ヨーゼフ・シュトラウス)」に続き、4曲目の「ポルカ・シュネル『浮気心』作品319(ヨハン・シュトラウス2世)」でテンポ・アップ。中盤にはおなじみの「『ウィリアム・テル・ギャロップ』作品29b(ヨハン・シュトラウス1世)」が登場し、その後も緩急をつけながらアンコールの「ワルツ『美しく青きドナウ』作品314(ヨハン・シュトラウス2世)」「 ラデツキー行進曲作品228(ヨハン・シュトラウス1世)」と、一瞬たりとも飽きさせることなく一気に聴かせる素晴らしい演奏。指揮者の構成力とセンスが、わかりやすい形で示されています。

しかもハイレゾで聴くと、音の解像度や立体感、臨場感が明らかに違います。録音も優れているし、まさにハイレゾ向けといえるのではないでしょうか。

このコンサートのチケットは高額で、世界一入手困難だといわれているから、どう考えても手に入らないはず。一度は行ってみたいけど、僕にはたぶん無理。でもハイレゾで疑似体験するだけでも、その場に居合わせたかのような、ちょっといい気分になれたりします。

他の指揮者の演奏にも言えることですが、知識の有無に関係なく、文句なしで楽しめるところが「ウィーンフィル・ニューイヤーコンサート」の魅力。「クラシックを聴いてみたいんだけど、どこから入ったらいいのかわからない」という人には最適です。



◆今週の「ルール無用のクラシック」







印南敦史 プロフィール

印南敦史(いんなみ・あつし)
東京出身。作家、書評家、音楽評論家。各種メディアに、月間50本以上の書評を執筆。新刊は、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(日本実業出版社)。他にもベストセラー『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)をはじめ著書多数。音楽評論家としては、ヒップホップなどのブラック・ミュージックからクラシックまでを幅広くフォローする異色の存在。

ブログ「印南敦史の、おもに立ち食いそば」