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【12/26更新】 印南敦史のルール無用のクラシック

2017/12/26
タイトル通り、ロック好きでもJ-POPファンでも楽しめるクラシック音楽を紹介する、ジャンル不問のクラシック・レヴュー。月間50本以上の書評を執筆する書評家であり、ベストセラー『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』の作家としても知られ、更にヒップホップなどのブラック・ミュージックからクラシックまでを幅広くフォローする異色の音楽評論家としての顔を持つ印南敦史による新連載「印南敦史のルール無用のクラシック」がスタート!
◆バックナンバー
【12/22更新】 第九
【12/15更新】 マリンバという楽器に注目したことはあるでしょうか?
【12/8更新】 はじめまして。


現代音楽界のトップ・グループが、トラッド・ミュージックを再現した快作

とうとう年末も大詰め。次の日曜日は大晦日ですから、早くも「年末休みモード」に入っているという方も少なくないのではないでしょうか? かくいう僕のそのひとり。もう気分的には、すっかり年末の閉店準備に入っています。

とはいえ会社勤めをしているわけではなく、基本的には物書きという名の個人事業主なので、結局はいつも大晦日まで仕事してるんですけどね。あ、考えてみると、今年のお正月は元日から仕事してたっけな。まぁ、好きな仕事なのでそれはそれでかまわないのですが。

どうあれ、好きなことを仕事にできているということには、感謝しなければいけません。いやいやこなしているのとは違って、好きでしている仕事なら、それだけ人に伝わりやすいのではないかと思いますし(そうあってほしい)。

ちなみに同じことは、音楽にも言えるのではないでしょうか。もちろん音楽家である以上、それぞれの「思い」を抱いて音楽を仕事にしているのですから、「やる気のない音楽」というものは基本的に存在しないでしょう。かりにそういうものがあったとしても、心に響くはずがありません。

だとすれば、逆の考え方もできそうです。「やりたいこと」に特化した音楽家の作品は、より魅力的なものとして耳に飛び込んでくるはずだということ。

「この人(たち)、『いかにウケるか』ということよりも、絶対に好きなことのほうを重視してるよなー」って確信できるような音楽家は、たしかに存在するわけです。

たとえばクラシックの領域でいうと、僕が強くそう感じるのはクロノス・カルテットです。サンフランシスコを拠点とする彼らは、1973年に結成された古株の弦楽四重奏団。何度かメンバー・チェンジを繰り返しながらも、いまなお積極的な活動を続けています。

彼らがやっている音楽をジャンル分けするなら、現代音楽ということになります。ただ、現代音楽には難解なイメージがあると思うのですけれど……いや、そりゃ難解な部分だってあるのですが、クロノス・カルテットはちょっと違う。現代音楽でありながら、それでもどこかキャッチーで、入り込みやすいタイプなのです。

たとえば2014年作品『Adventureland』では、シカゴのパーカッション奏者/作曲家であるグレン・コッチの作品を演奏しているのですが、アンビエントにも通じるその雰囲気は、文句なしに心地よいはず。テクノなどのダンス・ミュージックにも通じる連続性は、作業のBGMとしても効果的です。

2015年リリースの『Sunrise of the Planetary Dream Collector』では、ミニマル・ミュージックのレジェンドであり、長い交流のあるテリー・ライリー作品を取り上げています。ライリーのミニマリズムとクロノス・カルテットってすごく相性がいいので、これもまたすんなりと入り込めることでしょう。

カリフォルニアの保養地「シーランチ」誕生50周年を記念して、作曲家のアレクサンドラ・ヴレバロフが作曲した楽曲を取り上げている2016年の『The Sea Ranch Songs』は、シーランチの自然環境を見事に音像化した作品。華やかではないけれど、しっかりつくられているので、何度でも聴き返すことができます。

他にも1991年の『Pieces of Africa』ではアフリカ音楽に傾倒し、2000年の『Kronos Caravan』では広くワールド・ミュージックの世界へと飛び出し、2002年の『NUEVO』ではメキシコ音楽を取り入れたりもしています。とりあえず、その時点で気になった音楽があったら、まずやってみちゃうって感じ。そもそも彼らが注目されたきっかけは、伝説のギタリスト、ジミ・ヘンドリクスの「紫のけむり」のカヴァーでしたしね。

つまりクロノス・カルテットにとっては、ジャンルなんかどうでもいいのでしょう。ただ、やりたいことだけをしている。しかも、なにをやっても完璧にこなしてしまう。だから、説得力があるのです。

さて、ここまでが、クロノス・カルテットについての基本的な部分。で、本題はここから先です。今回、メイン作品として取り上げたい2017年作『Folk Songs』について。

これまでお話ししてきたとおり、興味を持った音楽を次から次へと形にしていくことが彼らの特徴なのですが、そんななかにあっても、今作は異色といえるかもしれません。なぜなら、2014年にロンドンとニューヨークで開催された、所属レーベルである「ノンサッチ」の50周年記念コンサートに出演したことがきっかけになって生まれたものだから。

そこで彼らは、レーベル・メイトである4人のヴォーカリストと共演したのですが、そのパフォーマンスが好評だったため、改めてレコーディングしなおしたというのです。つまりそういう意味では、ヴォーカリストの音楽性に合わせてつくられた作品であるとも言えるかもしれません。でも経緯はどうであれ、それが抜群の効果を生み出しているのです。

「Oh Where」と「I See the Sign」に参加しているサム・アミドンは、トラッド・ミュージックと現代感覚を無理なく調和させるシンガーソングライター。朴訥としたヴォーカルには、聴いているだけでホッとするような魅力があります。

「Ramblin' Boy」と「Montagne, que tu es haute」を担当しているオリヴィア・シャネイは、イギリスのフォーク・ミュージック・シーンにおける有力株。その歌声には不思議な透明感があり、トラッド・ミュージックの雰囲気とも見事に調和しています。

「Factory Girl」と「Lullaby」を歌うリアノン・ギデンズは、アメリカン・ルーツミュージックを独自の解釈で表現する才女。繊細で暖かいヴォーカルは、アーシーなサウンドとの相性が抜群です。

「The Butcher's Boy」とf「Johnny Has Gone for a Soldier」に参加しているナタリー・マーチャントは、10,000 マニアックスのヴォーカリストとして一斉を風靡した人物。ハスキーな声質には圧倒的な存在感があり、リスナーを瞬く間に魅了することでしょう。

ちなみに個人的には、リアノン・ギデンズによる最終トラックの「Lullaby」がいちばん気に入っています。その名のとおりの子守唄なのですが、かわいらしい曲調とシンプルな演奏が、人間味にあふれたヴォーカルと理想的なかたちで調和しているのです。

この曲を聴いていると、純粋すぎるがゆえに、音楽という表現そのものの魅力を再確認することができます。だから、この一曲だけのためにアルバムを購入したとしても絶対に損はしないはずです。が、もちろん他の楽曲も素晴らしいので、できればアルバムを通して聴いていただきたいところ。

トラッド・ミュージックなので、クラシックの範疇に収めることは難しいと思います。とはいえこれは、しっかりとしたクラシックの基盤を持つクロノス・カルテットだからできることでもあります。

年末年始に、ゆっくりお酒でも飲みながら聴くには最適。ぜひ、チェックしてみてください。



◆今週の「ルール無用のクラシック」







印南敦史 プロフィール

印南敦史(いんなみ・あつし)
東京出身。作家、書評家、音楽評論家。各種メディアに、月間50本以上の書評を執筆。ベストセラー『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)をはじめ著書多数。音楽評論家としては、ヒップホップなどのブラック・ミュージックからクラシックまでを幅広くフォローする異色の存在。

ブログ「印南敦史の、おもに立ち食いそば」