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【12/15更新】 印南敦史の名盤はハイレゾで聴く

2017/12/15
ひょんなことからハイレゾの虜になってしまった、素直さに欠けたおじさんの奮闘記。毎回歴史的な名盤を取り上げ、それをハイレゾで聴きなおすという実験型連載。
月間50本以上の書評を執筆する書評家であり、ベストセラー『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』の作家としても知られ、更にヒップホップなどのブラック・ミュージックからクラシックまでを幅広くフォローする異色の音楽評論家としての顔を持つ印南敦史による新連載「印南敦史の名盤はハイレゾで聴く」がスタート!
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「名盤をハイレゾで聴く」という企画が持ち上がったときから、ぜひともレッド・ツェッペリン(以下、ツェッペリン)を取り上げたいと思っていました。なぜかって、理由はとてもシンプル。もしハイレゾで聴いてみたとしたら、そのサウンドが悪いわけがないから。聴く前からそれが想像できたのです。

ブリティッシュ・ハード・ロックの最重要バンドであるツェッペリンといえば、その幅広い表現力がポイント。ロックのダイナミズムを最大限に発揮しつつ、ロックという枠の中には収まりきらない音楽性を備えていたわけです。クラシックの要素をも、過不足なく取り入れていたりね。

そしてそのサウンドも、オリジナル盤がアナログ・レコードでリリースされた時点で突き抜けていました。音楽的な幅が広いこともあり、単に激しいだけのロックにはない、独自の立体感や奥行きを感じさせてくれたわけです。

だとすれば、それをハイレゾで再現したら、さらにものすごいことになるに決まっているじゃないですか。そんなわけでチェックしてみたところ、予想どおり、いや、予想をはるかに上回ったクオリティ。恐れ入りました。

ちなみに僕は音楽を聴く際、ヘッドフォンではなくスピーカーから音を出したいタイプなのですが、ツェッペリンをハイレゾで聴くようになった結果、妻から「最近、音楽のボリュームが大きくない?」と文句を言われるようにもなってしまいました。

「こんなに音像がクリアでダイナミックなんだから、できるだけ大きな音で聴きたいじゃんよー」って、なんだか荒々しいものに惹かれていた中学生時代に戻ってしまったような気分。でも、それほどハマッてしまったのです。

さてさて、テーマが「名盤をハイレゾで聴く」で、扱うバンドがツェッペリンだというのであれば、みなさんはどのアルバムを選ぶでしょうか? 個人的には、ぱっと思いつくのは1976年の6作目『フィジカル・グラフィティ』です。

リリース当時は2枚組だった同作は、ストレートな「カスタード・パイ」、うねりのあるグルーヴが強烈な「カシミール」など重要曲がぎっしり。ツッコミの入れどころがないほどの完成度の高さです。

だから、当然ながら取り上げるのはこれ……だと思っていたのですが、だんだん気持ちが変化してきたのです。「誰もが認める名盤を当たり前のように紹介するんじゃ、ちょっと芸がなくね?」って。

そういうことを言い出すと、この連載のコンセプト自体が崩壊することになります。が、ハイレゾで聴いておきたい作品が多いツェッペリンだからこそ、ちょっと変化球で行きたいような気がしたのです。

そこで着目したのが、『フィジカル・グラフィティ』のひとつ前にリリースされた73年作『ハウス・オブ・ザ・ホリー』でした。もちろん、これを選んだことにも理由があります。

というのも、『聖なる館』という邦題がついていたこのアルバムは、数あるツェッペリン作品のなかではどちらかというと評価が低い作品だったから。ただし僕個人は逆の考えを持っていて、むしろとてもよくできていると思っているのです。

評価されなかった理由も理解できます。シンセサイザーとかメロトロンなど、当時としては「新しすぎた」楽器を導入したサウンドも、レゲエやファンクにまで広がる音楽性も、考えようによっては実験的だったから。つまり、ファンのニーズとかけ離れていたということです。

しかし、だからといって内容が悪いということにはならないはず。それどころか、改めてハイレゾでチェックしてみれば、新たな気づきが得られるのではないかとも期待したわけです。

結論から言えば、そんな予想は“当たり”でした。これ、決して大げさな表現ではなくファクト(事実)なんですが、オープニングの“The Song Remain The Same”を耳にした時点で鳥肌が立ちました。この曲って、こんなに粒立ちがよかったっけ? それに、こんなに疾走感があったっけ?

続く“The Rain Song”は、ジミー・ペイジのギターの音色が印象的。まるで、すぐ近くで弾いてくれているようなリアリティがあります。ギターに関していうと、“Over The Hills And Far Away”冒頭 の12弦ギターの広がりも魅力的。中盤以降を効果的に盛り上げてくれるプレイだと言えます。

タイトなファンクに仕上がった“The Crunge”は、圧倒的なグルーヴ感が決め手。この曲とかレゲエのリズムを導入した“D’yer Mak’er”は、たしかに当時のツェッペリン・ファンが求めていたものとは異なっているかもしれません。しかし、だからこそ、こういう曲をやってみたいんだという彼らの主張がはっきりとわかるし、とてもよくできた楽曲だと思います。

その他、“Dancing Days”や“The Ocean”の重量感だって、絶対に他のバンドでは表現できないだろうし、やっぱりこれ、いいアルバム。かつては肯定的に思えなかったという方には、特に再検証してほしい作品です。いまならきっと、感じるものがあるはずだから。

なお、他のアルバムと同様、本作はジミー・ペイジ監修のもとでリマスターされています。その効果が明確にわかるのですが、もうひとつ、そこに未発表音源を追加収録したデラックス・エディションも存在します。

最大のオススメは、“Over The Hills And Far Away(Guitar Mix Backing Track)”かな。早い話がインストゥルメンタルなのですが、そのぶん楽曲本来のダイナミズムが伝わってくるようです。

その他のRough Mixは、ぱっと聴いただけではオリジナル・ヴァージョンとそれほど差があるとは思えないかもしれませんが、ハイレゾでじっくり聴き込んでいけば、ちょっとした違いに気づくことができるかも。

僕自身はまだそこまでたどり着けていないのですが、これから時間をかけて解明していきたいとも思っています。


◆今週の「ハイレゾで聴く名盤」






印南敦史 プロフィール

印南敦史(いんなみ・あつし)
東京出身。作家、書評家、音楽評論家。各種メディアに、月間50本以上の書評を執筆。ベストセラー『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)をはじめ著書多数。音楽評論家としては、ヒップホップなどのブラック・ミュージックからクラシックまでを幅広くフォローする異色の存在。

ブログ「印南敦史の、おもに立ち食いそば」