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フュージョンやポップスなどの名曲をストリングスとの共演で描いた 渡辺香津美の最新作『TOKYO WANDERER』

2017/12/13
サンタナ、ウェザー・リポート、チック・コリア、ビートルズ……。日本が世界に誇る“スーパー・ギタリスト”渡辺香津美さんのニュー・アルバム『TOKYO WANDERER』は、ジャズ/フュージョン、ロック/ポップス、スタンダードやフォークなど、実に多彩な楽曲を「奥村愛ストリングス」との共演で描いた野心作です。音楽ホールを借り切って行われたというレコーディングの様子も興味深いこの新作の聴きどころとは? トーク&フリーライヴ・イヴェントでGibson Brands Showroom Tokyoを訪れた渡辺香津美さんにお話を伺いました。

文・取材/撮影◎山本 昇


『トーキョー・ワンダラー』/ 渡辺香津美


■新しい音楽ホールを活用したレコーディング

--昨年(2016年)発売された『Guitar Is Beautiful KW45』は、11人のギタリストを迎えたデュオという内容でしたが、この度の新作『TOKYO WANDERER』は全編ストリングス・セクションとの共演となりました。どのような意図から、こうした編成となったのでしょうか。

 前作『Guitar Is Beautiful KW45』ではたくさんのギタリストと共演させてもらいましたので、今度のギタリストは一人でいいかなと(笑)。今回参加してもらった奥村愛さんのストリングス・チームとは、昨年の10月に京都の上賀茂神社で開催された「都のかなでコンサート」でご一緒させてもらいました。そのときに、弦に包まれてギターを弾くことの心地よさに改めて気付くという、ちょっとしたマジックを体験したんです。オーケストラと一緒にやったことはこれまでも何度かあったんですが、そういうのともちょっと違う「何かが来たぞ」という手応えがありました。それを今度は僕の作品のほうに引き寄せてやってみようと思ったんです。

--ヴァイオリンの奥村愛さんを筆頭に、ヴァイオリン5、ヴィオラ2、チェロ2、コントラバス1からなる総勢10名の「奥村愛ストリングス」の皆さんとのやり取りは、どのような感じで行われたのですか。

 彼女たちはクラシックのプレイヤーですから、アドリブがどうのではなく、構築されたものを完璧に演奏する人たちです。同じように音大から育ってプロになった人たちの集まりなので、いわゆるスタジオのストリングス・セクションとも違う“和気藹々感”があって、なんかいいんですよ(笑)。

--それでは、レコーディングの様子について教えてください。

 僕が音楽制作の拠点にしているヒルトップ・スタジオは新浦安にあるんですが、その近くに今年4月、浦安音楽ホールという新しい施設がオープンしました。300人規模の音楽ホールですが、そこが実に素晴らしい響きを持っていることを知り、「ここで弦を録りたいな」と狙っていたところだったんです。ライヴ・レコーディングではなく、ホールを借り切って録るということですね。結果的に、この場所を選んで正解でした。

--そこはサウンドの面で興味深いところですね。実際に音を聴くと、そのホール録音がアルバムの印象をより強くしています。

 僕は『Guitar Renaissance』シリーズで銀座の王子ホールや紀尾井町ホールで録音したことで、ホールならではの“生鳴り”というものが、いかに特別なものかを思い知りました。だからこそ、今回のストリングスもこうしたホールで録りたいと思ったわけです。それも、録り方が制限されてしまうライヴ録音ではなく、こうした貸し切りでの録音なら、マイクを立てる位置も自由に選べます。今回も、いろんなポイントにオフ・マイクを立ててアンビエントを録ったりすることができました。

--香津美さんのギターは別録りですか。

 そうです。サイズ感やバランスなど、いろんなものを把握するため、ホールでも何度か弦と合わせてギターを弾いたりしましたが、最終的には弦だけの音を録音しました。弦を録り終えたらヒルトップ・スタジオに持ち帰り、時間は無制限でギターをダビングするわけですが、これがまた楽しいような苦しいような(笑)。
 そして実は今回、ギターの音をもう一度ホールに持ち込んでギター・アンプを鳴らしてレコーディングしているんです。“リアンプ”(注)という手法ですね。だから、最終的な音場感はストリングスもギターも同じになりました。そのあたりはアルバムのレーディングとミックス、マスタリングを担当したソニー・ミュージックスタジオのエンジニア、鈴木浩二さんがこだわりを持ってやってくれました。まさにそこが、今回のツボかなと思います。

注:ギター・アンプを通す前の音を録音し、別途用意したアンプやアンプ・シミュレーターに通して録音し直すこと。今回はスタジオで録ったギターの音を、ホールに設置したギター・アンプで鳴らし、それをマイクで収録している。


--なるほど。リヴァーブ感も、別々に録ったとは思えない仕上がりです。

 そこが狙いなんです。そう感じてもらえるとありがたいですね。



ニュー・アルバム『TOKYO WANDERER』のレコーディングの様子や聴きどころについて、楽しく語ってくれた渡辺香津美さん


■日本人としての“ふるさと感”を大事にしたい

--選曲はどのようにして行われたのですか。

 中学生の頃からギターをジャズ~ロックと弾いてきた中でいろんな曲に出会いましたが、僕と同世代のリスナーの皆さんも同じ時代にそれらを聴いていますよね。そういったものの中から今回は、あまりジャズに偏らない選曲をしてみようと思いました。例えば、「君の瞳に恋してる」というスーパー・ポップな曲は、我々日本人にとってはテレビ番組の主題歌だったりして、本国とは違う時間の過ごし方をしているはずで、それをいま取り上げてみるのも面白いのではないかと。
 『TOKYO WANDERER』というアルバム・タイトルも、東京に代表されるいろんなメディアの時間の流れやヒストリーに世代間で共通するものもあるんじゃないかと思ってつけたものです。2001年には『Dear Tokyo』というアルバムを出しましたが、そのときにプロデューサーの笹路正徳さんと話していたのは、「ニューヨークじゃないし、パリでもない」ということでした。僕たちの世代のちょっとしたこだわりというか……。もちろん、海外の音楽もたくさん聴いてすごいと思って育ってきたけれど、俺たちは日本人だっていうね。いわゆるナショナリズムではなく、ある種の“ふるさと感”というか、そういうものも大事にしていきたいという想いがどこかにあるんでしょうね。

--ストリングス・アレンジはどのように決めていったのですか。

 今回はほとんどの曲で、萩森英明さんに弦のアレンジをお願いしました。彼と相談したことと言えば、弦とギターがバランスよく鳴るにはどこでどう折り合いをつければいいかということや、テンポ感など。ほかには全体のイメージを少し伝えて、あとは自由にどうぞとお願いしたところ、僕が想像したとおりの映画音楽のようなきれいなストリングスを仕上げてくれました。それはもう、「ここにそれが来なくてどうする!」という感じで、また同時に、「ここにそれが来てどうする! 泣いちゃうじゃないか!?」みたいな(笑)。そういう音楽の肝をしっかり譜面に表してくれたので、すごくやりやすかったです。ただ、実際には細かい部分でものすごく動きが激しくて弓が追い付かないとか、大変だった場面もありました。
 また、今回は僕も弦のアレンジを3曲ほどやっていますが、見様見真似で好きに書いたので、プレイヤーたちには「難しすぎる」と言われてしまいました(笑)。理想としては、すごくみっちり聞こえるんだけど、演奏するほうは弾きやすいとかね。でも、ギター弾きが譜面を書くと、ハーモニーがコード的になったり、ジャズのトゥッティはみんなが合わなければいけないとか、あるいはジャコ・パストリアスのように変な三連符を入れてみたり。「こんな音符は弾いたことがありません」と言っていたように、彼らにとっては初体験でやりづらかったかもしれないけど、すごくチャレンジしてくれました。本当にいい若者たちでしたね。完成したアルバムを聴いて、みんなとても喜んでくれました。

--香津美さんが演奏したギターは?

 今回は、アコースティック系が3本、エレクトリック系が3本の計6本です。アコースティックは、マーティンのヴィンテージ・ギターと、「ハヴァナ」で使用したマーティンの12弦、ポール・ジェイコブソンのナイロン弦のクラシック・ギターです。エレクトリック・ギターでよく弾いたのが、コリングスというブランドのEastside Jazz LC Deluxeで、レトロ感があってなかなかいい音がする新しいフルアコです。オクターブ奏法もいい感じで弾けました。エレクトリックのもう1本は、プライヴェート・ストックがたまたま手に入ったポール・リード・スミスのホロウボディで、「バードランド」や「スペイン」といったチョーキングを多用する曲で弾いています。
「これからの人生」では、どちらのエレクトリック・ギターもしっくりこなくて、もっと枯れた感じがほしいと思っていたところ、たまたま趣味で買っていた1969年製のテレキャスターを試してみたらけっこういい感じだったので、これでやってみました。

--確かに「これからの人生」のギターは、ほのかな歪み感も心地よい、味わいのあるサウンドですね。

 ちょっとクランチにしてね。この曲ではピックを使わず、全音を人差し指だけで弾いているんですよ。さすがに早弾きはできないんだけど(笑)、そうすることで哀しみが表現できたかなと思っています。ちょっと不自由な感じがね。

■ジャコ・パストリアスの想い出

--「スリー・ヴューズ・オブ・ア・シークレット」の作者であるジャコ・パストリアスは今年で没後30年となりました。そのジャコが1983年に行った日本公演に、香津美さんはマイク・スターンの代役として参加しました。彼と接した中で、覚えていることは何ですか。

 彼らが日本にやって来て、リハーサル・スタジオに行ってみたら、初めて参加するメンバーがいるというのに譜面がないんです。しかも、ホーン・セクションのアレンジもできていなくて、ジャコがその場でフレーズを口ずさんで作ったりしている。音楽の作り方としては素晴らしく理想的なんだけど、このやり方では1ヵ月経ってもツアーに出られない(笑)。このままではまずいなと、リハの2日目に僕があらかじめ用意しておいたワード・オブ・マウスやウェザー・リポートなどの簡単な譜面を持って行って「これでやろうよ」と(笑)。たぶん、アメリカでもそういう作り方をしていたんでしょうね。例えばパット・メセニー・グループもそんな感じで、譜面を使わないパットの代わりにベースのスティーヴ・ロドビーが秘かに譜面を書いてみんなで確認していたりするんです。誰か一人は、そういう犠牲になる人というか、参謀がいないとだめなんですね。
 リハーサルの思い出といえば、ある曲でジャコがいきなりキーボードを弾き出したんです。ベースはどうするんだろうと思って見ていたら、「君が弾け」と(笑)。たまたま知っている曲だったから、その時は弾きましたけどね。本番では、ツアーの途中のどこかで、アンコールのときに、ジャコがウェザー・リポートの「ブラック・マーケット」を突然やり出して。するとキーボードのデルマー・ブラウンが「これは何という曲だ?」と慌てて聞いてくるから、「とりあえずD♭でやってくれ。当分コードは変わらないから大丈夫だ」って(笑)。もう、メンバーが知っていようが知るまいが、お構いなし。レパートリーになりそうな曲はすべて暗譜していると思っているのかもしれません。アメリカのミュージシャンのそんな恐ろしさの一方で、けっこうファジーなところも垣間見えたりして楽しかったし、刺激になりました。

■ハイレゾは弦楽器の倍音の広がりやリアル感が素晴らしい

--『Guitar Renaissance』では必ずビートルズのカヴァーが入っていますが、本作でも「ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス」を取り上げています。

 僕らの世代にとっては、もはやクラシックに近いとも言えるビートルズですが、この「ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス」は、なかなか手が出せなかった曲なんです。原曲のイメージが強いし、何と言ってもエリック(・クラプトン)さんですから(笑)、ちょっと難しいなという感じが自分の中にありましてね。でも、今回は弦も入ることだし、むしろ気持ちよく弾けるような気がしたんです。

--「スペイン」の原曲のハンドクラップに聞こえる部分の音は何ですか。

 あれは萩森さんのアイデアで、コントラバスのボディを手で叩いてもらったんです。ところが、それをホールで一緒に録ると他の楽器の細かいフレーズが聞こえなくなってしまうので、弦全体を録ったあとに単独で叩いてもらいました。あとでうまく混ぜるのにはちょっと時間がかかりましたけど(笑)。

--書き下ろし曲「花ごよみ」について教えてください。

 これは僕が20代のときに初めて書いた弦楽四重奏曲で、友達のベーシストのアルバム用に依頼されて作ったものです。「弦カルの曲を好きに書いて」と言われたけど、そんなの書いたことがなかったんです。それで、お手本になりそうなドビュッシーやラヴェルの譜面を買ってきて、ローランドの4トラック・シーケンサーMC-4に打ち込んでサウンドの流れを自分なりに解析してみました。そのときの闇雲なイメージで書いた曲ですが、今回、その譜面が出てきたので少し手直しして録音しました。続く「七つの水仙」はカルメン・マキさんに歌っていただきましたが、そもそもアレンジが歌を乗せるように書いていないから彼女も大変だったと思います。彼女がフォーク・ソングを歌うのも初めてだけど、そういうことにもチャレンジできるバイタリティのある方ですね。

--では、この作品をハイレゾで聴くe-onkyo musicのリスナーへのメッセージをお願いします。

 僕がハイレゾでいいと思うのは、弦楽器の倍音の広がりやリアル感です。今回は特にそれが生かせたんじゃないかと思います。ストリングスはまさにそのためにあるようなものですからね。僕がよく買うハイレゾ音源も、ヴァイオリン・コンチェルトやチェロのコンチェルトなど、弦のものが多いんです。だから自分で出すハイレゾはこれでいきたいというのもあったんですよ。先ほどお話ししたホールの音も含めて、楽しんでいただけるんじゃないかと思います。

--今後のご予定を教えてください。

 2018年にはこのアルバムの記念コンサートも行う予定です。また、ジャズ・クラブで今回の弦のアレンジを別のユニットでやることも企画しています。来年は、こうした贅沢なアンサンブルで気持ちよく弾かせてもらおうかと。そして、大晦日には札幌で、札幌交響楽団と年越しコンサートを行います。そこでも『TOKYO WANDERER』のレパートリーを「ぜひやりましょう」と言っていただけたので、萩森さんにオーケストラ用のアレンジを書いてもらっています。年末も幸せな感じで楽しみです。

--ところで、バンド・サウンドに戻るご予定は?

 僕の場合、どこに回帰するということもなく、打ち込みも嫌いじゃないし、ジャズ・トリオやバンドはもちろん、いろんなプロジェクトなんかもやってみたいと思っていますよ。何と言っても、“ライヴ命”ですから。



 前作『Guitar Is Beautiful KW45』は、収録曲「Bolero」(押尾コータロー×渡辺香津美)が第23回日本プロ音楽録音賞の「ハイレゾリューション部門 2chステレオ」で最優秀賞を獲得した。エンジニアは今回のアルバム『TOKYO WANDERER』と同じく鈴木浩二氏だ。演奏はもとより、より良い音を追求してきたミュージシャンとエンジニアが作り上げた本作も、ストリングス・チームとの共演という新たなフォーマットを最良の方法で捉えているのはさすが。特に、ストリングスとギターのバランスは絶妙で、どちらかを犠牲にすることなく完成させた録音とミックスは本当に素晴らしい。“攻めのミックス”とも言えそうなこのあたりの塩梅は、ハイレゾでより鮮明に届けられることだろう。この素敵な音楽を、ぜひともいい音でご堪能いただきたい。


Gibson Brands Showroom Tokyoで開催された、最新作『TOKYO WANDERER』のハイレゾ配信開始記念イヴェントから。右は司会進行を務めた音楽ライターの石沢功治さん


ライヴ・コーナーで使用されたギターは、香津美さんの大ヒット・アルバム『TO CHI KA』の裏ジャケでお馴染みのギブソンLes Paul Special

◎ライヴ情報

「HTB・朝日 ジルベスターコンサート2017」
日時:2017年12月31日(日) 開場21:00/開演22:00
2018年1月1日(月) 終演0:15(予定)
出演:現田茂夫(指揮)、山下洋輔(ピアノ)、渡辺香津美(ギター)、Ms.OOJA(歌手)、札幌交響楽団(管弦楽)
会場:札幌コンサートホール Kitara 大ホール
問い合わせ:HTB(Tel.011-820-5536)
ミュージックギャラリー 011-211-1463
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「Castle In The Airプレゼンツ ライフ・イズ・ビューティフル〈自分の畑を耕そう〉」
日時:2018年1月13日(土) 開場16:30/開演17:00
出演 Castle In The Air〈谷川公子(ピアノ)+ 渡辺香津美(ギター) with ヤヒロトモヒロ(パーカッション)〉、村治佳織(クラシックギター)、沖 仁(フラメンコギター)、元ちとせ(ヴォーカル)
会場:船橋市民文化ホール(千葉県船橋市)
問い合わせ:船橋市民文化ホール(Tel.047-434-5555)
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「渡辺香津美 with ストリングス」
日時:2018年3月7日(水) ◎1st Stage 開場17:30/開演18:30 ◎2nd Stage 開場20:30/開演21:30
会場:ビルボードライブ大阪
問い合わせ:ビルボードライブ大阪(Tel.06-6342-7722)
*詳細はこちらへ
日時:2018年3月9日(金) ◎1st Stage 開場17:30/開演19:00 ◎2nd Stage 開場
20:45/開演21:30
会場:ビルボードライブ東京
問い合わせ:ビルボードライブ東京(Tel. 03-3405-1133)
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