PC SP

ゲストさん

NEWS

【新連載】 印南敦史の名盤はハイレゾで聴く Vol.1

2017/12/08
ひょんなことからハイレゾの虜になってしまった、素直さに欠けたおじさんの奮闘記。毎回歴史的な名盤を取り上げ、それをハイレゾで聴きなおすという実験型連載。
月間50本以上の書評を執筆する書評家であり、ベストセラー『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』の作家としても知られ、更にヒップホップなどのブラック・ミュージックからクラシックまでを幅広くフォローする異色の音楽評論家としての顔を持つ印南敦史による新連載「印南敦史の名盤はハイレゾで聴く」がスタート!
◆バックナンバー
【2/2更新】 The Smiths『The Queen Is Dead』ジョニー・マーとモリッシーの才能が奇跡的なバランスで絡み合った、ザ・スミスの最高傑作
【1/25更新】 スタイリスティックス『愛がすべて~スタイリスティックス・ベスト』ソウル・ファンのみならず、あらゆるリスナーに訴えかける、魅惑のハーモニー
【1/19更新】 The Doobie Brothers『Stampede』地味ながらもじっくりと長く聴ける秀作
【1/12更新】 The Doobie Brothers『Best of the Doobies』前期と後期のサウンドの違いを楽しもう
【12/28更新】 Barbra Streisand『Guilty』ビー・ジーズのバリー・ギブが手がけた傑作
【12/22更新】 Char『Char』日本のロック史を語るうえで無視できない傑作
【12/15更新】 Led Zeppelin『House Of The Holy』もっと評価されてもいい珠玉の作品



Donny Hathaway『Live』はじめまして。


『Live』/ Donny Hathaway




はじめまして。
今回から連載をはじめることになりました、印南敦史(いんなみあつし)と申します。作家、書評家、音楽評論家、DJと、いろいろな肩書きを持っており、早い話が節操のない男ではあります。が、そのぶん好奇心の幅は広いため、別ページではクラシックに関するエッセイも書いています。そちらもぜひチェックしてみてください。

そして、ここでご紹介していきたいのは、ずばり「ハイレゾで聴く名盤」です。「聴き慣れた名盤の数々をハイレゾで聴いたら、そこにどんな感動が生まれるのか?」「そもそも、なぜハイレゾで聴くべきなのか?」など、名盤とハイレゾとの関係性をさまざまな角度から検証していきたいと思っているわけです。

なぜ、そんなことをしようと思ったかというと、実はそこに理由があります。実はほんの1年くらい前までは、ハイレゾにそれほど関心はなかったのです。

僕は、中学高校時代に70年代のオーディオ・ブームを通過してきた世代です。中学生のころにはBCL(短波放送を受信して楽しむ手段)ブームがあり、ラジカセでのエアチェック(ラジオから音楽を録音すること)が一般化し、アンプ、チューナー、スピーカー、レコードプレイヤー、カセットデッキを揃えた「システムコンポ」が流行り、高校生のころにはソニーから発売された「ウォークマン」が一世を風靡しました。

つまり、どう転がってもオーディオに興味を持たないわけがなかったのです。ただし現実の壁はなかなか厳しく、喉から手が出るほど欲しかったオーディオ機器も、なかなか手に入れられませんでした。経済的な事情を考えるとオーディオばかりにお金をかけるわけにはいかず、人生の節目節目でオーディに関する夢と見切りをつけなければならなかったわけです。

要するに、興味がなくなったのではなく、「興味はあってもお金がなかった」のです。だから年齢を重ねていくごとに、「オーディオは、僕以外のお金持ちがやるもの」と諦めるしかなくなったということです。

で、そうこうしているうちに、「高音質」であることに対する執着も薄れていきました。たとえばCDのリマスターなどを聴いてみても、いまいちピンときませんでしたし。そもそもアナログ・レコードの音質が好きだったので、“解像度”のようなことはどうでもよかったんですよね。

なのに不思議なもので、いま僕はハイレゾにどっぷりとハマッています。もちろんアナログも大好きですけれど、アナログとハイレゾとでは音の質が全然違います。つまり両者を、「異なるハードウェア」として使い分けているような状態なのです。自分でもこの変わりようには驚くしかないのですが、聴けば聴くほど好奇心が広がっていく気がして、とても楽しいのです。

さて問題は、なぜ僕がここまで変わったのかについてです。実はもう数年前から友人に「ハイレゾやってみな」と勧められていたのですが、やはり経済的な事情から現実的に考えられなかったわけです。

ところがあるとき、その友人が機材を買い換えるとかで、それまで使っていたパイオニアのUSB D/Aコンバーター「U-05」をポンとくれたのでした。驚くべき気前のよさですが、ともあれそれが結果的に、僕のハイレゾに関する好奇心を羽ばたかせることになったということ。

このサイトの「Products」というページを見ていただければおわかりのとおり、ハイレゾを楽しむにはいくつかの方法があります。そんななか、僕が試してみることになったのは「USBオーディオ」です。スピーカーとつながった従来のアンプにつないだ「U-05」をPCと接続し、PC内のハイレゾ音源を聴こうという手段。たしかにこれなら、大きなお金をかけてシステムを組む必要もありません。

ただ、そうはいっても、アンプもスピーカーもハイレゾ仕様ではないので、「本当に音がよくなるのかなー?」という疑い深い気持ちはなかなか払拭できませんでした。

そんななか、友人に手伝ってもらってセッティングした結果、初めて再生したのが今回ご紹介するダニー・ハサウェイの『ライヴ』でした。いうまでもなく、ソウルの歴史に燦然とかがやく名盤中の名盤。小さなライブハウスでレコーディングされた、アットホームな雰囲気が魅力的な作品です。

ただ、あまりにも聴き慣れた作品であり、その魅力はアナログでこそ生きるものだという印象は否めなかったのです。だから、「いまさら高音質で聴こうと言われてもね……」みたいなヒネクレ心を隠しきれなかったといいますか。

ところがですね、音が出た瞬間に、自分がいかに素直ではなかったかを痛感させられることになりました。それは明らかに、何千回と聴き慣れた作品ではありました。しかし、圧倒的に違ったのです。

まずは、少し前までどうでもいいと思っていた「解像度」です。各楽器の位置がはっきりとわかりリアリティがものすごく、その時点でひれ伏すしかないような感じでした。しかも、それだけではありません。決して大げさな表現をしたいわけではなく、ダニー・ハサウェイが目の前に現れたような気がしたのです。いいかえれば、手を伸ばせば届きそうな距離感。冗談でもなんでもなく、鳥肌が立ちました。

なるほど、これこそがハイレゾなのか。そう感じた瞬間、つい数分前まで自分の内部に巣食っていたヒネクレ心が崩壊しました。そしてその日以来、クラシックの新譜チェックと並行して、アナログで聴き慣れた過去の名盤をハイレゾで聴きなおすという作業に取り憑かれてしまったのです。

つまりこの連載は、ひょんなことからハイレゾの虜になってしまった、素直さに欠けたおじさんの奮闘記だといえます。まだまだハイレゾリスナーとしては初心者ですが、だからこそ感じられるものがあるのではないかとも思っています。

そこで、毎回歴史的な名盤を取り上げ、それをハイレゾで聴きなおすという実験をしていきたいと思っています。今後とも、よろしくお願いします。




印南敦史 プロフィール

印南敦史(いんなみ・あつし)
東京出身。作家、書評家、音楽評論家。各種メディアに、月間50本以上の書評を執筆。ベストセラー『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)をはじめ著書多数。音楽評論家としては、ヒップホップなどのブラック・ミュージックからクラシックまでを幅広くフォローする異色の存在。

ブログ「印南敦史の、おもに立ち食いそば」