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【新連載】 印南敦史のルール無用のクラシック Vol.1

2017/12/08
タイトル通り、ロック好きでもJ-POPファンでも楽しめるクラシック音楽を紹介する、ジャンル不問のクラシック・レヴュー。月間50本以上の書評を執筆する書評家であり、ベストセラー『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』の作家としても知られ、更にヒップホップなどのブラック・ミュージックからクラシックまでを幅広くフォローする異色の音楽評論家としての顔を持つ印南敦史による新連載「印南敦史のルール無用のクラシック」がスタート!
◆バックナンバー
【12/15更新】 マリンバという楽器に注目したことはあるでしょうか?

はじめまして。
今回から連載をはじめることになりました、印南敦史(いんなみあつし)と申します。作家、書評家、音楽評論家、DJと、いろんなことをやっているのですが(つまりは節操がないのですが)、そんな立場から、ここでは「ハイレゾで映える良質なクラシック」をご紹介させていただきたいと思っています。

まずは、なぜ僕がクラシックを取り上げたいと思ったのか、そのことについてご説明したいと思います。つまり、こういうことです。

クラシックという音楽には、圧倒的なハードルの高さがあるじゃないですか。知識がないと理解できそうもないようなイメージが強いですし。そもそも、どこから入ったらいいのかわからなかったりもするわけです。

クラシック・リスナーがなかなか増えないのは、きっとそのせい。しかし、ここにはすぐにでも改善すべき重要なポイントがあると個人的には考えています。

というのも実際には、クラシック・リスナーは増える可能性があるのです。間違いなくあるのです。しかし、送り手の側がそれに気づいていないのです。だから結果的に、可能性そのものを潰してしまっている。しかも、潰してしまっていることにすら気づいていない。そういうこと。

だとすれば、送り手が気づくべきポイントはどこなのでしょうか? この問いに対する答えは、非常にシンプルです。

「クラシックに、なんとなく興味がある。でも知識がないし、なにから聴いたらいいのかわからない。そんなことを人に聞いたら、笑われそうな気もするし」

可能性を持つ潜在的クラシック・リスナーとは、たとえばこんなタイプの人なのです。「知らないけど、実は知りたい」、そんな人のために、「クラシックって、決して難しいものじゃないんだよ」と、扉を開けてあげればいいのです。

しかし、これまではこの段階で問題が生じてもいました。開いた扉から足を踏み入れてみようとすると、「マニア」という冠をつけた怖い人たちが行く手を遮り、「なに、君は知識あるの? 理解してるの?」というような感じで理論武装していたりしたわけです。あくまでイメージですが、とはいえ、そんなところに喜んで入っていこうと思えるはずがないじゃないですか。だから多くの潜在的リスナーは、「残念だけど、ここから先には進ませてもらえそうにないな」と諦めるしかなかったわけです。

でも、知識ってなんでしょうか? 理解するって、どういうことでしょうか? なにか越えなくてはならない“資格”のようなものがあるのでしょうか? 馬鹿げています。そんなもの、あるはずがありません。知識がなくてもいいんです。理解できなくてもいいんです。ただ、「感じれば」いいのです。むしろ、本当の意味で、それこそが「理解する」ということであるはずです。

ロックだってヒップホップだって、理屈を楽しむものではないですよね。「おっ、このビート、かっこいいじゃん!」とか「このギターリフがぐっとくるんだよねー」とか、好きになる入り口はそういうところ。もっといえば、アーティストのルックスが興味の発端になることだってあるでしょう。

なのに、どうしてそれがクラシックだけには許されないのでしょうか? クラシックだって、「詳しいことは知らないけど、なんとなくかっこいいから」聴いたってかまわないのです。好きな音楽と対峙するとき、その音楽は自分のためにあるのですから。

そういう意味では「常識」とか「規則」は捨て去るべきです。「こうしなくちゃいけない」という視点で捉えようとするから窮屈になるのであって、もっとフラットに受け止めれば、難しいとかいう以前に心地よいクラシックはいくらでもあるのです。



そういう意味で、「これからクラシックを知りたい」方におすすめしたいのが、ルクセンブルク出身のピアニスト、フランチェスコ・トリスターノです。ルクセンブルク音楽院、パリ私立音楽院などを経て、ジュリアード音楽院で修士号を取得したというエリート。

前作『ロング・ウォーク』リリース時にインタビューしたことがあるのですが、話の流れでふとグレン・グールドの名前を出したら、(別に比較しようとしたわけではないのに)ライバル心むき出しの表情になったのが印象的でした。つまり、単なる甘いイケメンではなく、なかなか男っぽいやつなのです。その男っぽさは、活動の仕方にも表れています。

音楽的なバックグラウンドは、バッハなどのバロックや古典。しかしおもしろいのは、その一方で20世紀以降の現代音楽や、テクノなどのエレクトロ・ミュージックにも強い関心を示している点です。たとえば、Aufgangというエレクトリック・アコースティック・トリオのメンバーでもありますし、テクノ・ナンバーの作曲やリミックスにも携わっています。

だからこそ、古いクラシック・リスナーの目から見れば邪道なのかもしれません。しかし、ソニー・クラシカル移籍第一弾作品であるニュー・アルバム『PIANO CIRCLE SONGS』を耳にしてみれば、古い価値観でしか物事を判断できない人たちのほうがよっぽど邪道であることがわかるでしょう。

『ロング・ウォーク』ではバッハの楽曲と自作のテクノ・テイストな楽曲を並列させるという大胆なことをしてくれたのですが(それもなかなか痛快でした)、今回はリズムやビート感を排除した自作のピアノ作品集。明らかにクラシックであり、同時に現代的な「ネオ・クラシカル」でもあり、とても聴きやすく、しかも奥深い作品になっているのです。

ちなみに全15曲中4曲では、カナダの異彩として知られるチリー・ゴンザレスとも共演しています。タイプは違えどどちらも頑固そうですし、作品を耳にしてみても、これが必然的な出会いであったことは明らかです。ぜひチェックしてみてください。



◆今週の「ルール無用のクラシック」







印南敦史 プロフィール

印南敦史(いんなみ・あつし)
東京出身。作家、書評家、音楽評論家。各種メディアに、月間50本以上の書評を執筆。ベストセラー『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)をはじめ著書多数。音楽評論家としては、ヒップホップなどのブラック・ミュージックからクラシックまでを幅広くフォローする異色の存在。

ブログ「印南敦史の、おもに立ち食いそば」