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【連載】ヴァイオリニスト鈴木舞の連載コラム【第3回】

2017/10/11
9月20日にデビュー・アルバム『Mai favorite』をリリースしたヴァイオリニスト、鈴木舞。2016年スピヴァコフ国際ヴァイオリンコンクール第二位の受賞をはじめ、国内外の数々のコンクールで受賞経験を持つ。そんな、将来を嘱望される新世代のヴァイオリニストとして高い注目を集める鈴木舞の連載コラム。
◆バックナンバー
ヴァイオリニスト鈴木舞の連載コラム 【第2回】
ヴァイオリニスト鈴木舞の連載コラム 【第1回】



『Mai favorite』/鈴木舞




--音楽と向き合う

私が住んだレマン湖地方では、チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲や、ストラヴィンスキーの「兵士の物語」をはじめら数々の傑作が生み出されてきました。中でもショーソンの「詩曲」は、様々な表情を見せてくれるレマン湖の情景が音楽で描かれているように思います。

あの作曲家もこの道を歩き、同じ景色を見たかもしれない。
歩きながらどんな事を考えたのかな? どんな食事をしていたのだろう? そんな事に思いを巡らせつつスイスの自然の中にたたずんでいると、手の届かない存在だった作曲家たちも、実は自分と変わらない人間だった事に気がつきました。

平成元年。私が生まれたその年は、ベルリンの壁が崩れ、3年後にはソ連が崩壊。

「食べるものがなくて常にお腹を空かせていた」
「冬には暖房が入らず、震えながら家族で丸くなって眠った」
「ソ連から亡命し、ヨーロッパ各地を転々としながらヴァイオリンを弾いていた」

学校で出会った私と同世代の音楽家たちから聞いた話です。

平和な日本で生まれ育った私には、想像もつかない世界。

激動のヨーロッパを生きた彼らの音楽には、激情が宿り、聴く者の心に突き刺さります。

人生の経験や喜怒哀楽の全てが、個性として演奏に結びついてゆくのです。

ヨーロッパに住み、そこに生きる人々と関わり、作曲家をより身近に感じられるようになった事で、自分が本当の意味で音楽と向き合えるようになり、お腹の底から曲に共感できるようになりました。

■音楽という芸術

芸術は、その場限りで終わる娯楽とは違い、人の価値観を揺さぶり、時に眼前の世界を変えてしまうような力を秘めています。

読む芸術である文学の世界では、書店や図書館でも、今の時代なら電子書籍でも作家の言葉に触れることができるようになりました。

見る芸術の絵画は、美術館に行くことで画家が心血を注いで描いた作品に対面する事ができます。

クラシック音楽はどうでしょうか。
作曲家が命を削って書いた楽譜を見るだけでは成立しません。演奏者が楽譜を読み取り、音に再生して初めてその姿を表すのです。そして、その演奏ははかなくも一瞬で消えてしまいます。
しかも、二度と同じものは生まれないという尊さがあります。

音楽はその瞬間が全てであり、そこにどれだけの想いを込めて音を生み出すか。
空気の振動となって音が確かに聴き手に伝わる事を信じ、演奏家は音を世に放ちます。

演奏家は自分を表現するのではなく、作曲家が命を削って遺した楽譜に自らの命をも削る覚悟で正面から向き合い、作曲家のメッセージを受け止めて、音に昇華させるのだと思います。

■緊張

留学で学んだ事の一つに「緊張」とのつきあい方があります。
私は小さい頃からあがり症で、発表会では舞台上で何を演奏したかすら全く覚えていない、なんて事もありました。

「観客をカボチャと思え」などとよく言われますが、緊張してしまうとカボチャを思い出す余裕すらありません。
何度人前で演奏しても、たとえ客が一人でも緊張は消えません。

アモイヤル先生に緊張をどう克服すべきかを尋ねた事があります。

「僕は人前で演奏する事が嫌いだし、コンサートはいつも怖くてストレスばかり。でも、それ乗り越えた時に、音楽のマジックが起こるんだ」 「緊張するのは良い兆候だ。緊張感のある演奏が人の心に届く。そうでない演奏は退屈なだけだよ」。

巨匠ハイフェッツの元で学んだアモイヤル先生は「あのハイフェッツでさえコンサートの二週間前から目に見えて緊張して、その様子から誰もが、もうすぐコンサートがあるのだと分かった」と教えてくれました。

演奏するということは、過去、現在、未来を同時に考える必要があります。
メロディと理想の音を頭の中にイメージし、音を出し、そして出た音を聴き吟味して、次の理想へと繋げる。
ただでさえ忙しい演奏家の頭の中ですが、緊張すると更に頭の回転が速くなります。
それによって色々なことを敏感に感じられるようになる、すなわち感受性が高まるのです。

演奏中に会場の雰囲気やお客様の反応を感じながら試行錯誤していくことで、一期一会の音楽が生まれるのではないでしょうか。
要するに、緊張を克服する必要なんてないのです。
「緊張の方向性は間違えないで。テクニックの失敗を恐れる緊張ではなくて、音楽が伝わらない事を恐れる緊張をするように」

ところで、コンサートとレコーディングでは緊張感の種類が異なります。
コンサートでは会場の広さや音響、そしてお客さんとの対話や空気を感じることで、演奏が変わっていきますが、レコーディングではひたすら自分と音楽との対話に集中します。どんな小さな音もマイクが拾いますから、その空間に音楽の小宇宙を作ることに集中するのです。

(次回は今作のCDとレコーディングについてお話しします。)



















◆今回紹介された作品





◎コンサート予定

2017年10月15日(日)
サンデーブランチクラシック
イープラスカフェ
*詳細はこちらをご参照ください。

2017年10月22日(日)
社会福祉法人福田会 さくらホールTOKYO
*詳細はこちらをご参照ください。

今後のコンサート情報


鈴木舞 プロフィール

神奈川県出身。2005年大阪国際コンクールグランプリ、2006年日本音楽コンクール第二位、2007年チャイコフスキー国際コンクール最年少セミファイナリスト。
2013年ヴァツラフ・フムル国際ヴァイオリンコンクール(クロアチア)で第一位、オーケストラ賞。オルフェウス室内楽コンクール(スイス)第一位。2016年スピヴァコフ国際ヴァイオリンコンクール(ロシア)第二位。
東京芸術大学附属高校から同大学に進んだのち、ローザンヌとザルツブルクでピエール・アモイヤル氏に師事。在学中より内外でリサイタルやコンサートに出演し、小林研一郎、円光寺雅彦、飯森範親、金聖響、ニコラス・ミルトン、ヨルマ・パヌラ、イヴァン・レプシックらの指揮で、読売日響、東響、日本フィル、東京シティフィル、山形響、日本センチュリー響、名古屋フィル、広島交響楽団、神奈川フィル、ホーフ響、クロアチア放送響、ザグレブ・ゾリステン、ドブロブニク響等と共演し、バッハ、ベートーヴェン、パガニーニ、ラロ、シベリウスなどの協奏曲を演奏している。

最近ではフィンランド・クオピオ交響楽団と共演したショスタコーヴィチ第1番、チェコ・モラヴィアフィルとのモーツァルト第5番、クロアチア・ザグレブフィルとのメンデルスゾーン、スイス・ローザンヌ室内管とのプロコフィエフ第2番などが好評を得ている。
東京交響楽団と録音したベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲?第3楽章、マスネ:タイスの瞑想曲が日経ミュージックセレクションCD「モーニング・イン・クラシックス」に収録されたほか、山形交響楽団とのモーツァルト第4番は、e-onkyo musicのネット配信で聴く事ができる。
将来を嘱望される新世代のヴァイオリニストとして、2012年度シャネル・ピグマリオン・デイズ・アーティストに選ばれた。
2012年、2013年度、文化庁芸術家在外派遣研修員。2015年度、公益財団法人 ローム ミュージック ファンデーション奨学生。
使用楽器は1683年製のニコロ・アマティ。
ミュンヘン在住。

公式ホームページ

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