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【9月22日更新】 ハイレゾ・クラシック by e-onkyo music

2017/09/22
衛星デジタル音楽放送ミュージックバードで、2017年1月にスタートした番組「ハイレゾ・クラシック by e-onkyo music」と連動したコラム。音にこだわるオーディオ・ファン、ハイレゾに初トライしてみたいクラシック・ファンのために、「ハイレゾ女子」として活躍する音楽ライター・原典子が、e-onkyo musicから選りすぐりのタイトルをご紹介します。 文◎原典子
第10回:物語から聞こえる音楽

 秋の夜長といえば読書。しっとり落ち着いた空気のなか、涼やかな虫の音に耳を傾けながらページをめくるひとときは、このうえなく贅沢な時間だろう。クラシック・リスナーならば、音楽作品が登場する小説や、音楽家が主人公の漫画を読んだりするのも楽しい。それらは「耳で聴く」のとはまた違う音楽体験をもたらしてくれるから。というわけで10月は、「物語から聞こえる音楽」と題して、クラシック音楽が登場する小説や漫画などをご紹介していきたい。

■音楽が持つ「ドラマ性」

 今回あらためて調べたところ、クラシック音楽を題材にした小説や漫画が非常に多いことに驚かされた。全国の書店員が選ぶ「いちばん!売りたい本」をランキング形式で発表する本屋大賞では、毎年のように「音楽小説」がランクインし、ベストセラーを記録している。また、「音楽漫画」とカテゴライズされたWikipediaのページには、かの『のだめカンタービレ』以外にも膨大な数のタイトルが並んでいる。

 どう考えても世の中にクラシック・リスナーがそれほど多くいるとは思えないのに、ここまで音楽小説や漫画が多いのはなぜか。その理由のひとつに、音楽を取り巻く人々、または音楽そのものが持つ「ドラマ性」があるように思う。たとえばコンクール。直木賞と本屋大賞をダブル受賞して話題になった恩田陸の『蜜蜂と遠雷』は、ピアノ・コンクールを舞台に、4人のコンテスタントたちを主人公にした群像劇だが、天才たちがしのぎを削り、音楽に対峙する瞬間を描いたドラマは、クラシック音楽をまったく知らない人をも引き込み、魅了する。また、ショパンとともに生きた芸術家たちを描いた平野啓一郎の『葬送』や、ヴィヴァルディを取り巻く女性たちの物語である大島真寿美の『ピエタ』など、作曲家の生きた時代にタイムトリップできる歴史ものも、ロマンティックなドラマに満ちている。

■小説家ならではのセンス

 さて、クラシック音楽が登場する小説と聞いて、いちばんに村上春樹の作品を挙げる方も多いことだろう。レコード会社のクラシック担当者は、新刊が出た日に買って徹夜で読み、自社の音源が登場していないかチェックするとのこと。『1Q84』に登場したヤナーチェクの「シンフォニエッタ」、『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』のテーマ曲ともいえるリストの「巡礼の年」など、村上作品がきっかけで異例のヒットを記録するクラシック作品も多い。クラシック音楽は、「村上ワールド」を構成するのに欠かせない小道具となっており、それらは必ずしも有名曲とは限らないところが面白い。
 それもそのはず、ジャズ喫茶のマスターをしていたこともある村上は、幅広い音楽知識の持ち主としても知られる。オーディオ専門誌への連載をまとめた音楽評論集『意味がなければスイングはない』の中では、シューベルトのピアノ・ソナタ第17番D850(有名な第21番D960ではなく!)を取り上げ、さまざまなピアニストによる15種類もの録音を聴き比べながら、このソナタの本質に迫っている。客観的なデータを参照しながらも、私的な経験や直観にもとづいて音楽の「核」となるものを紐解いていく論法は、まさに小説家にしかできない評論のスタイルだと思う。

 小説家ならではの感覚といえば、立原正秋はモーツァルトのピアノ協奏曲第20番にインスピレーションを受けて『薪能』を書き、山本周五郎はラヴェルの「ダフニスとクロエ」の手法を『よじょう』に取り入れたと言われている。どちらもクラシック音楽に関係するどころか、かたや日本の伝統芸能、かたや宮本武蔵を題材にした小説である。どんな芸術にも共通する「美質」を見抜き、自作に応用する小説家の鋭敏なセンス。そのフィルターを通して文字化された音楽には、実際の音とはひと味違う魅力があり、読み手の想像力をかきたてる。皆さんもこの秋、「物語から聞こえる音楽」を味わってみてはいかがだろう。

以下、※印は小説・漫画の作者/作品名と登場曲



<ピアノの調べに乗って>
※恩田陸『蜜蜂と遠雷』

『蜜蜂と遠雷 音楽集』
ナクソスジャパン




※奥泉光『シューマンの指』~シューマン:謝肉祭

『バッハ、ショパン、ドビュッシー、リスト、シューマン:ピアノ作品集(ライヴ)』
ユーリ・エゴロフ(p)
録音:1978年/First Hand Records




※中山七里『さよならドビュッシー』~ドビュッシー:アラベスク第1番

『印象』
三浦友理枝(p)
録音:2004年/avex-CLASSICS






<作曲家をめぐる物語>
※大島真寿美『ピエタ』~ヴィヴァルディ:調和の霊感

『ヴィヴァルディ:調和の霊感』
イタリア合奏団
録音:1988年/DENON




※高原英理『不機嫌な姫とブルックナー団』~ブルックナー:交響曲第3番

『ブルックナー:交響曲第3番二短調「ワーグナー」(改訂版)』
朝比奈隆指揮大阪フィルハーモニー交響楽団
録音:1993年/CANYON CLASSICS






<人生のドラマ>
※平野啓一郎『マチネの終わりに』~J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲第3番

『シャコンヌ~J.Sバッハ作品集1~』
福田進一(g)
録音:2011年/マイスターミュージック




※藤谷治『船に乗れ!』~メンデルスゾーン:ピアノ三重奏曲第1番

『メンデルスゾーン:ピアノ三重奏曲第1番・第2番』
ユリア・フィッシャー(vn)、ジョナサン・ギラード(p)、ダニエル・ミュラー=ショット(vc)
録音:2006年/PentaTone




※篠田節子『ハルモニア』~J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲

『J.S.バッハ: 無伴奏チェロ組曲』
藤原真理(vc)
録音:2011~2013年/Imaginaire






<村上春樹と音楽>
※村上春樹『意味がなければスイングはない』~シューベルト:ピアノ・ソナタ第17番

『シューベルト:ピアノ・ソナタ第17番 D850 他』
パウル・バドゥラ=スコダ(p)
録音:2005・2014年/Genuin




※村上春樹『ねじまき鳥クロニクル』~ロッシーニ:「泥棒かささぎ」序曲

『ロッシーニ:序曲全集 第1集
クリスティアン・ベンダ指揮プラハ・シンフォニア管弦楽団 他
録音:2011年/ナクソスジャパン




※村上春樹『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』~リスト:巡礼の年

『リスト:「巡礼の年」全曲』
ラザール・ベルマン(p)
録音:1977年/Deutsche Grammophon






<日本文学とクラシック>
※立原正秋『薪能』~モーツァルト:ピアノ協奏曲第20番

『モーツァルト:ピアノ協奏曲第20番・第24番』
クララ・ハスキル(p)、イーゴル・マルケヴィチ指揮コンセール・ラムルー管弦楽団
録音:1960年/Decca




※山本周五郎『よじょう』~ラヴェル:バレエ「ダフニスとクロエ」

『ラヴェル:バレエ「ダフニスとクロエ」全曲』
小澤征爾指揮ボストン交響楽団
録音:1974年/Deutsche Grammophon




※坂口安吾『エリック・サティ』

『ストラヴィンスキーとサティ、パリは悲哀と愉悦の舞台。』
アレクセイ・リュビモフ(p)、スラヴァ・ポプルーギン(p)
録音:2015年/Alpha






<海外文学に登場するクラシック>
※トルストイ『クロイツェル・ソナタ』~ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第9番

『ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第9番「クロイツェル」他』
サイモン・ラトル指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団、ラン・ラン(p)
録音:2014年/Universal Classics & Jazz




※カズオ・イシグロ『夜想曲集』~ラフマニノフ:チェロ・ソナタ

『ラフマニノフ、ショパン:チェロ・ソナタ集』
アリサ・ワイラースタイン(vc)、イノン・バルナタン(p)
録音:2014年/Decca






<音楽漫画>
※一色まこと『ピアノの森』~ショパン:ピアノ協奏曲第1番

『チャイコフスキー&ショパン:ピアノ協奏曲第1番』
インゴルフ・ヴンダー(p)、ヴラディーミル・アシュケナージ指揮サンクトペテルブルク・フィルハーモニー交響楽団
録音:2012年/Deutsche Grammophon




※新川直司『四月は君の嘘』

『Estreno』
篠原悠那(vn
録音:2015年/Sony Music Labels Inc.




※二ノ宮知子『のだめカンタービレ』~ドヴォルザーク:交響曲第5番

『ドヴォルザーク:交響曲第5番&第9番「新世界より」』
ズデニェク・マーツァル指揮チェコ・フィルハーモニー管弦楽団
録音:2004年/EXTON






<少女漫画を彩る音楽>
※池田理代子『オルフェウスの窓』~ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番「皇帝」

『ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第4番・第5番「皇帝」』
ヴィルヘルム・バックハウス(p)ハンス・シュミット=イッセルシュテット指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
録音:1958年/Jube Classic




※吉野朔実『グールドを聴きながら』~J.S.バッハ:ゴルトベルク変奏曲

『J.S.バッハ:ゴルトベルク変奏曲』
グレン・グールド(p)
録音:1981年/Sony Classical




※山岸凉子『舞姫 テレプシコーラ』~シベリウス:トゥオネラの白鳥 

『シベリウス:組曲「レンミンカイネン」、ポヒョラの娘』
ハンヌ・リントゥ指揮フィンランド放送交響楽団
録音:2014年/Ondine







【バックナンバー】
<第1回> 違い歴然!ハイレゾで聴きたい名曲名盤
<第2回> ポスト・クラシカルが止まらない!
<第3回> 世界のこだわりレーベル探訪 その1!
<第4回> 春の声
<第5回> 確信犯的クラシック――革新的NEXT GENERATIONS
<第6回> 雨の日の音楽
<第7回> 第7回:世界のこだわりレーベル探訪 その2 ~自主レーベル篇
<第8回> 第8回:エキゾでフォークなクラシック
<第9回> 第9回:来日オーケストラ&演奏家特集2017




※ミュージックバードとは
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出演者:原典子(はら・のりこ) 音楽に関する雑誌や本の編集者・ライター。上智大学文学部新聞学科卒業。音楽之友社『レコード芸術』編集部、音楽出版社『CDジャーナル』副編集長を経て、現在はフリーランス。『intoxicate』『CDジャーナル』など音楽雑誌への執筆のほか、坂本龍一監修の音楽全集『commmons: schola』の編集を担当。鎌倉で子育てをしながら、「レゾナンス<鎌倉のひびき>コンサートシリーズ」の企画にも携わる。
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