PC SP

ゲストさん

NEWS

THREESOME 2ndアルバム『Whatever!』Producer’s Note

2017/08/31
ピアニストのクリヤマコト氏をはじめ、マリーン(vo)、吉田次郎(g)という布陣によるTHREESOMEの2ndアルバム『Whatever!』がついに配信開始!ネイティブDSD、しかも今作はSONOMAとPyramixの両方を用いて制作されるという、オーディオファイルにとっても前代未聞の作品となった。
杉田元一氏(Sony Music Japan International)によるプロデューサーズ・ノートを公開!
<Producer’s Note>
 マリーン(vo)、クリヤ・マコト(p)、吉田次郎(g)という稀有な3人のジャズメンによるトリオ、THREESOMEのセカンド・アルバム『Whatever!』をお届けする。
 フィリピンはマニラ出身で、長く日本の音楽シーンに君臨する歌姫マリーン、プレイヤーとしてだけではなくコンポーザー/アレンジャーとして世界を舞台に活動を繰り広げるクリヤ・マコトと吉田次郎の3人が奇跡的に出会い、結成されたスーパー・ユニットTHREESOME。3人のキャリアの長さを考えると、この3人が一堂に会するのはこのTHREESOMEというユニットが初であったというのは意外な気もするが、多忙な活動を繰り広げる彼らであればそれもやむを得ないことだったのだろう。
 そんなTHREESOMEのファースト・アルバム『Cubic Magic』は2015年11月にレコーディングされ、2016年4月にCDとスーパーオーディオCD(SA-CD)のハイブリッド・ディスクとして発売された。レコーディングにあたっては通常用いられるPro ToolsシステムによるPCM録音ではなく、より原音に忠実なDSD(Direct Stream Digital)方式をチョイスした。
 DSDという録音方式は、「音の空気感まで取り込める」というふうに表現されることもあるほど、音質面ではPCMに比べてアドバンテージがあるのだが、いっぽうで編集が困難という事実もある。実際には編集は可能なのだが、Pro Toolsシステムに比べるとその自由度ははるかに少ない。それゆえ、現代の音楽シーンにおいてはなかなか普及しにくいのである。録音、編集から果てはリスナーレベルでも再生するためにはいくつかのハードルを乗り越える必要のあるDSDだが、やはり「ハイレベルな音質」という1点のみにおいて、これを採用する価値があるのだ。
 マリーン、クリヤ・マコト、吉田次郎という、稀有の才能を持つ最高レベルの音楽家たちの一期一会が生み出すマジック。今、目の前で展開されているこのマジックを、そのままパッケージにしてリスナーに届けられたら……そんな思いからファースト・アルバム『Cubic Magic』のレコーディングは最高の設備を誇るSony Music乃木坂スタジオ(Sony Music Studios Tokyo)で、DSD録音には定評のあるDSD録音/編集システムSONOMAを用いて行われたが、実はこの録音は一切の編集プロセスを経ていない。もちろん前述したようにSONOMAシステムでDSDレコーディングしたものは編集も可能なのだが、よりピュアでハイレベルな音質を目指すために、3人のミュージシャンがアイコンタクトを交わしながら、会話をするように紡ぎだされる音楽を一切の修正をすることなくそのままパッケージにしたのである。演奏するミュージシャンも、スタジオブースで忙しくコンソールのフェーダーを操作するエンジニアをはじめとするスタッフも全員極度の集中力を要求されたが、結果は大成功。このディスクのリードトラックであるジョージ・ガーシュウィンの名曲「サマータイム」は、第23回日本プロ音楽録音賞のクラシック/ジャズ/フュージョン部門で最優秀賞を受賞するという栄誉に浴したのだった。
 そして今、ふたたびこの3人が同じスタジオに集った。

セレクトされた曲は前作同様スタンダードを中心に吉田のオリジナル作も含む全12曲。コール・ポーターの有名な「ラブ・フォー・セール」に始まり、エルヴィス・プレスリーの代表的なバラード「好きにならずにいられない」、アンデス地方のフォルクローレで、サイモン&ガーファンクルのカヴァーで有名になった「コンドルは飛んでいく」、ミュージカル映画「オズの魔法使」でジュディ・ガーランドが歌った「虹の彼方に」、カーペンターズのヒットナンバー「雨の日と月曜日は」。1936年にアイシャム・ジョーンズ楽団がシングルのB面として発表し、その後多くのミュージシャンによってカヴァーされて来たインストゥルメンタル・ナンバー「ゼア・イズ・ノー・グレーター・ラヴ」に続いては吉田のオリジナル曲「スノウ・ダンス」。これはハリウッド映画「I Remember You」(リチャード・ドレイファス、ジェニファー・アニストン主演)のテーマ曲であり、またもともとは吉田のソロ・アルバム『a pastel shade』に収録されたものだが、今回はNew York VoicesのLauren Kinhanによる歌詞をマリーンが美しく心のこもった歌唱で聴かせる。ナット・キング・コールやビング・クロスビーのヒットで知られる「ルート66」はTHREESOMEのライヴでもおなじみのナンバーである。「ザ・レディ・イズ・ア・トランプ」は、ミュージカル「青春一座」のために書かれたロレンツ・ハート/リチャード・ロジャースの曲。アルバムのコーダとして用意されたのはシャンソンの代表的な曲「枯葉」(これはクリヤと吉田のデュオ)とビートルズの「イエスタデイ」というもはや説明の要もないだろう2曲だ。そして最後にボーナストラックとして吉田のオリジナル曲「マイ・ライフ・イズ・サスペンデッド」。これはインストゥルメンタルで、吉田とクリヤに加え、ベースに納浩一、ドラムスに則竹裕之という名手が加わったカルテットによる、凄みさえ感じさせるテクニカルなナンバーだ。アルバム・タイトルは「Whatever!」。これは3人の口癖から取られたものである。

 今回の録音も前作と同じく、無編集のDSDダイレクト・レコーディングである。マイクもプリアンプもSONY乃木坂スタジオ所蔵のヴィンテージがふんだんに使われ、またこの録音のために吉田のギターシールドにはAETが新たに開発したという新製品が届けられて使用された。
 録音には、前作同様SONOMAが使われた。そして今回、乃木坂スタジオに導入されたばかりのPyramixシステムによるDSD11.2という現時点で最高音質を誇るスペックでの録音が同時に行われたことも特筆しておきたい。SONOMAシステムでは現在のところ、DSD2.8(これはSA-CD用のスペックでもある)までのスペックでしか録音できない。もちろんこれでも十分にいい音で収録ができるのだが、限界を知らないTHREESOMEは、さらなる高みを目指すためにこの最高スペックでのレコーディングを敢行したのである。  当ハイブリッド・ディスクで聴けるのは、SONOMAでレコーディングされたDSD2.8のデータをマスターとしたものである。当初はDSD11.2をハイブリッド・ディスク用にダウンコンバートしてディスクのマスターにするという考えもあったが、比較試聴の結果、ディスクのマスターとしてはSONOMAのものを使用、PyramixによるDSD11.2は、配信のみでお聞きいただくという結論に至った。SONOMAにもPyramixにもそれぞれ長所短所があり、スペックの違いがそのまま音の優劣には結びつかないのだが、それでもDSD11.2のサウンドは別次元と感じさせるものがあったことも事実である。このディスクを聴かれた方で、DSD11.2の再生環境をお持ちの方は、ぜひこちらも試していただきたいと思う。DSD2.8データの配信も行っているので、SONOMAとPyramixの音の違いも楽しんでいただけるだろう。
 スペックの話をいろいろさせていただいたのと矛盾するようだが、しかしなによりもTHREESOMEの「音楽」が第一なのは間違いない。このアルバムに収められた彼らの渾身の「音楽」は、どんなフォーマットであれ聴き手の心を揺さぶるものである。ステージの片隅で、あるいはコンソールの前で彼らの音楽を聴くとき、僕はいつも幸せな気分になる。このディスクから流れる音楽が、リスナーの皆さんの心をゆさぶってくれるであろうことを願ってやまない。

2017年7月 杉田元一(Sony Music Japan Internationalプロデューサー)