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連載『厳選 太鼓判ハイレゾ音源はこれだ!』 第49回

2017/08/04
ライブ盤を聴くならこれだ!
~ 凄腕ミュージシャンとの一発録音で蘇る、あの名曲たち。


歌は才能と訓練の先にある芸術


久しぶりにライブへ行ってきました。といっても、半分はお仕事。サウンドチェックから会場入りして、アーティストと新ケーブルを導入するかどうかの入念なテスト。その後にリハーサル、そして本場という流れでした。

ライブ本番は別格ですね。音楽とお客さんのエネルギーが呼応して大きな渦になっていくのが、まるで見えるようでした。音楽を生で聴くのは、オーディオにとって大きな経験値アップとなります。特に私たちオーディオ開発側の人間は、機器ばかりを前にしていてはダメで、ライブやコンサート会場で生演奏を体感し、更に時には海や山といった大自然に触れ、心のアンテナを磨き直す必要があると感じています。

ライブ会場で聴く音楽は、まさに生きています。音楽エネルギーに満ちています。ではオーディオはどうでしょう?

私は、昨今のレコーディングで使用される、補正技術が苦手です。少々のミステイクを差し替える、編集程度の直しはOK。たったひとつのミステイクで名演奏がボツになるなら、デジタル技術の恩恵はどんどん活用すべきです。でも、歌に追従して自動的に音程やリズムを修正していく機能は、個人的に超苦手なサウンド。もはや歌ではなく、声が鍵盤楽器のように感じてしまいます。「あの名ボーカルが?」と驚くような歌手まで、歌全体にオート補正をかけているのは本当に残念でなりません。

歌は、ある意味で特殊能力の芸術だと思っています。(上手い下手という意味ではなく、)類い稀なる歌の才能を持った人が、その能力に訓練を重ねて披露する芸術の世界。楽器でも同じですよね。血の滲むようなトレーニングの先に、プロの演奏家としての道が開ける。歌だけは、最近この“修行”的なポイントが欠けているような気がします。「後で自動補正かけておいてね~」的な風潮。私には、例えるならボディーペインティングで書かれた腹筋を見せられている気分です。「ね、腹筋、割れているでしょ」と言われてもね~、それ絵だし・・・。


超豪華ミュージシャンのグルーヴを一発録音

私は古くからの杏里ファン。ですから断言できます。このライブ盤は、杏里復活だと!


『FUNTIME』(48kHz/24bit)
/杏里



名盤が生まれるストーリーは、全てが好循環しているもの。まずは、2017年3月からのライブハウス・ツアーの成功。その豪華ミュージシャンで、そのライブのセットリストそのままを一発録音。つまり、観客こそいないものの、ライブ会場でのレコーディングと変わらない、生々しい演奏が本作『FUNTIME』で楽しめます。

この“ライブのセットリストをそのままを一発録音”というのが、実は大成功のポイント。ライブツアーで演奏が熟しているので、いわゆるスタジオでの楽譜初見演奏とは異なる、バンド的なグルーヴが生まれています。しかも一発録音なので、音楽が活き活きしています。「LIVEのノリとグルーヴが、そのまま真空パックされた極上のアルバム!」のキャッチコピーに偽りなしです。

ミュージシャンは超がつくほど豪華。キーボードは、杏里サウンドのブレーンというべき小倉泰治氏。未だに杏里 & 小倉コンビが健在とは、往年のファンにとっては感激もの。

そして何よりリズム隊が強烈。何と、斉藤ノヴ(Percussion)、Kenny Mosley(Dr)、小松秀行(Bass)ですよ!

私が一番大好きな在日黒人ドラマーが、Kenny Mosley氏。いわゆるパワフル系ドラマーで、もし私が次の音源制作をする機会があるなら、「ぜひKenny Mosley氏にオファーしたいな~」と考えていたほど。そのガツンとくるグルーヴを日本で叩き出せる、数少ないドラマーのひとりがKenny Mosley氏です。
小松秀行氏は、確かベースマガジンの誌上オーディションでオリジナルラブに加入してプロになったと記憶しています。そのころ熱烈なベーマガ読者だったので、やはり未だに応援してしまう名ベーシスト。どちらかというとクール系なプレイなので、ワイルドなKenny Mosley氏のドラムとのコンビネーションが面白いです。

そして、超大御所の斉藤ノヴ氏。初めて斉藤ノヴさんのプレイを見たとき、コンガを叩き始めた瞬間から海の景色が見えるように会場へ音が広がりました。こんな体験は、未だに斉藤ノヴさんだけですね~。私はパーカッションが好きというより、斉藤ノヴさんのプレイが好きなのだと、本作を聴いて再認識しました。

このリズム隊が、杏里の名曲たちのグルーヴを叩き出すのですから、そりゃもう聴きたくなって当然です。


復活の歌声

バックの演奏は完璧なのはもちろんなので、実は一番心配していたのは、杏里さん自身のパフォーマンスでした。最近、テレビで「悲しみがとまらない」を歌っているのを見て、ちょっと残念に感じていたためです。

本作『FUNTIME』を聴いて確信しました。杏里さんの歌声が復活しているということ。

私が杏里さんを聴いていたのは1983年から1991年くらいと、約30年も前の話ですから、もちろん年齢的にも声が同じというわけにはいきません。ですが本作『FUNTIME』で聴けるのは、あの頃と同じ輝いた声。コンピューターの自動補正の声ではありません。逆に補正していなくてヒヤヒヤする場面もあるのですが、そこはライブ盤。勢いで乗り越えていく強引さも、音楽には時に必要です。

声は、筋トレと同じ。歌っていない筋肉は、すぐに聴き手に伝わってしまいます。ライブで再起した歌の筋肉なのか、それともボイトレを徹底したのか。何にせよ、私のような昔のファンが聴いても、納得の歌声です。自分の好きなアーティストは、このように年齢を重ねていってほしいという理想像のひとつを感じました。

ハイレゾで、この生きた音を感じてほしい!

ハイレゾでの聴きどころは、何といってもそのライブ感。野獣的なグルーヴとクールさを両立した杏里バンドの演奏は、まるでビルボード・ライブの会場にタイムスリップしたかのよう。そして杏里姉さんの変わらぬ歌声。アレンジもキーも昔のまま。「CAT'S EYE」はアニメで使われたバージョンではなく、アルバム『Timely!!』の角松敏生アレンジ版というのも泣かせます。

一発録音の鮮度感と、スタジオ録音のきっちりとした音の作り込みが両立し、美しい音像が広がります。48kHz/24bitという規格に「192kHzじゃなくても大丈夫?」と心配されるかもしれませんが、全く問題なし。ちゃんとハイレゾの音だと、太鼓判を押させていただきます。

良いライブが名盤を生み、そして本作を聴いた昔のファンが、またライブ会場に足を運ぶ。そしてまた、新作がレコーディングされる。もっとこんな好循環が生まれてくれれば、音楽好きとして嬉しい限りです!



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筆者プロフィール:

西野 正和(にしの まさかず)
3冊のオーディオ関連書籍『ミュージシャンも納得!リスニングオーディオ攻略本』、『音の名匠が愛するとっておきの名盤たち』、『すぐできる!新・最高音質セッティング術』(リットーミュージック刊)の著者。オーディオ・メーカー代表。音楽制作にも深く関わり、制作側と再生側の両面より最高の音楽再現を追及する。自身のハイレゾ音源作品に『低音 played by D&B feat.EV』がある。