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ペンギン・カフェの最新作『The Imperfect Sea』がハイレゾで登場! アーサー・ジェフスらが語る“ペンギン・カフェ”の原点と個性

2017/07/20
あのペンギン・カフェ・オーケストラを父・サイモン・ジェフスから引き継いだアーサー・ジェフスが展開する新生“ペンギン・カフェ”。その待望のニュー・アルバム『The Imperfect Sea』がハイレゾで登場します。ここにお送りするのはアーサー・ジェフスとダレン・ベリーへのインタヴュー。3年ぶりとなる新作はどのような心境で制作され、また、その聴きどころとは? そして、いまのペンギン・カフェの個性とは? 音楽評論家の小野島大さんが鋭くその実像に迫ります。

文・取材◎小野島 大 撮影◎山本 昇 衣装◎Herr von Eden


『The Imperfect Sea~デラックス・エディション (PCM 96kHz/24bit)』
ペンギン・カフェ



 70年代から90年代にかけ、ユニークで斬新なミニマル・アンビエント音楽として、洒脱で気の利いたチル・アウト・ミュージックとして人気を集めた英国のペンギン・カフェ・オーケストラ。リーダーのサイモン・ジェフスの死去で活動を停止していたが、2009年に息子のアーサーが跡を継ぎ、「ペンギン・カフェ」として再スタートした。その3年ぶり3作目にあたるニュー・アルバムが『The Imperfect Sea』だ。ペンギン・カフェの名にふさわしいソフィスティケイトされたアコースティック・ミニマル・アンビエント/ポスト・クラシカルでありながら、これまで以上にエモーショナルで濃厚な音楽性が聴ける。ハイファイでクリアな録音も抜群で、ハイレゾで聴く価値があると思わせる傑作だ。プロモーションで来日したアーサーと、バンド・メンバーのダレン・ベリーに話を訊くことができた。

■父サイモンが残した言葉をタイトルに

 「今までの2枚に比べると制作にすごく時間をかけている。僕のエディティングの作業だけで2ヵ月ぐらいかかった。マスタリング前の最終段階でビョークを手がけているマンデイ・パーネルに、マスタリング・エンジニアの耳で聴いてもらって、ミックスを最終確認した上でマスタリングできたので、完璧なバランスにもっていけた」(アーサー)
 アルバム・タイトルの「不完全な海」とは、父サイモンの言葉からヒントを得ているという。
 「アルバムのタイトルだけは最初に決まっていた。その意味は最初は漠然としていたけど、作業を進めるにつれ、それがはっきりしていったんだ。ウチの父親がよく言ってた。“完璧な解決策などない海を、人間はかき分けて生きていくんだ”と。生きていく中で妥協は必ず必要だ。求めていたものが得られなくてもそれを受け入れながら生きていく。それは人生で避けようのない真実だと思う。でもどんな酷い状況でも、それが悲劇として終わるとは限らない。こちらのとらえ方次第で、それを受け入れ解放されるし、自由を得ることができる。そんなことが徐々にアルバムのテーマとして見えてきた」(アーサー)
 「完璧な解決策なんてないというのは音楽制作でも同じだ。芸術作品って、どこかで手放さなきゃいけない。自分の思い描いた完璧な形にならなくても、どこかで作業を止めなきゃいけないんだ。でもそれは次を作ろうという動機付けにもなる」(ダレン)
 「彫刻家の母が言ってたんだけど、ひとつの作品にあまりに長時間こだわるのは、次に自分が作ろうとしている作品への侮辱だって」(アーサー)
 前作『The Red Book』の楽曲がギターやクアトロ(ラテン・アメリカの弦楽器)など多彩な楽器で作っていくことが多かったのに対して、今回はピアノがモチーフになった楽曲が多かったという。
 「前作は民俗音楽的な部分を発想の元にして、世界のいろんな地方を巡るような、遠くを訪ねていくような、そんなアルバムだったけど、今回は逆のアプローチで作ってみた。たとえば「Perpetuum Mobile」(ペンギン・カフェ・オーケストラの1987年作品『Signs of Life』に収録)みたいなペンギン・カフェの原点に戻ってきたのかもしれない。ああいうミニマリスティックな世界にね。その2つの世界は、僕にとってはクアトロで書く曲とピアノで書く曲の違いなんだ」(アーサー)
 つまり、今作は内面的、内省的になったという言い方もできるだろうか。
 「確かにそうだね。前回が外に出かけていったアルバムなら、今回はペンギンの世界の内側を探訪したとも言える。その結果エレクトロニックだったりアンビエントだったりといったサウンドが前面に出てきたけど、ロンドンはそういう音楽が盛んだから、そういう意味でも内向きだったかも」(アーサー)
 日本盤アルバムはクラフトワークやシミアン・モバイル・ディスコといったエレクトロニックな音楽のユニークなカヴァーを含む9曲に、コーネリアスがリミックスを手がけたヴァージョンや、コーネリアスのカヴァーなどボーナス・トラック4曲を含む内容だ。コーネリアスの音楽にはどんなところに惹かれるのだろうか。
 「一番魅力を感じるのは彼の折衷主義みたいなところ。なんでもアリって感じで、ジャンルの間を飛び回るような姿勢だね。それでいて常に一貫性があって、筋が通っている。ジェントルなパンク精神っていうか。音楽性というよりも、人と同じことをやりたくない、常に違うやり方を探して、繰り返しはいやだというような、ね」(アーサー)

■新生ペンギン・カフェの個性

 ペンギン・カフェ結成まで、音楽とは別の仕事をしていたというアーサーにとって、父の確立したペンギン・カフェという名前を引き継いでやっていくという決意の裏にはさまざまな葛藤があったに違いないが、父とは違うアーサーの音楽の個性とはどこにあるのだろうか。
 「父が残してきた足跡を汚したくはないという思いが根底にある。僕は父が閉めたペンギン・カフェというカフェを再開することを決めたわけで、再開するにあたっては父が紡いでいたストーリーを引き継ぎ自分なりに展開していこうと思った。それにあたっての注意事項というのが、今僕らの作っている音楽の底にある。やっていいことといけないことの明確なラインが見えているんだ。父が作ってきたものの価値を壊すわけにはいかないからね。自分が音楽を作ろうとする時に、これをやっていいのかな、とか様々な問いかけを自分にしなければいけない。その問いかけの基準がそのまま自分たちの個性になってるんじゃないかな」(アーサー)
 その「やっていいことといけないことの注意事項」とはなんだろうか?
 「明らかに基準はある。でも具体的にそれが何かっていうには、僕にも言葉にするのが難しい。本能的に察するものというかね。なにかあった時にこれはOKこれはダメとか、はっきり言えるんだけど、それが何なのか言葉にするのは難しいね」
 偉大すぎる父の称号をあえて背負う覚悟をしてから8年。ようやくアーサーは父とは違う自分だけの個性を見つけた感がある。細い絵筆で丹念に、繊細に、淡く優雅な音楽を綴っていった父サイモンに対して、アーサーの作る音楽は、太い筆で書いたように力強く濃厚でシネマティックだ。『The Imperfect Sea』は、そんな作品である。

ペンギン・カフェのリーダー、アーサー・ジェフスさん(ピアノ・クアトロ)



メンバーのダレン・ベリーさん(ヴァイオリン)はトロージャンズでも活動中



◎ライヴ情報
「ペンギン・カフェ来日公演2017」
10月5日(木)●渋谷クラブクアトロ
10月7日(土)●すみだトリフォニーホール 大ホール
スペシャル・ゲスト:やくしまるえつこ/永井聖一/山口元輝
10月9日(月・祝)●まつもと市民芸術館 主ホール
スペシャル・ゲスト:大貫妙子
10月10日(火)●梅田クラブクアトロ
*来日公演の詳細はこちらをご確認ください



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【インタヴュー】音楽に選ばれし男、アーサー・ジェフスによるペンギン・カフェ