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穂口雄右 独占インタヴュー ~神田広美『DAYS OF YESTERDAY』の制作秘話を語る~

2017/10/05
1977年に「人見知り」でデビューして人気を博し、その後は作詞家としての才能を開花させた神田広美さんは、現在、アメリカでジャズ・シンガーとして活動中。初のジャズ・ヴォーカル作品『Hiromi in love』(2010年)に次ぐ『Days of Yesterday』(2011年)では、より進化したジャズ・ヴォーカリスト像を披露しています。この度、ハイレゾ配信が決まった『Days of Yesterday』は、ジョー・サンプルやピート・クリストリーブほかLAきってのスタジオ・ミュージシャンがキャピトル・スタジオに集結し、その音をアル・シュミットがレコーディングし、バーニー・グランドマンがマスタリングを手掛けるという豪華なアルバムです。そんな本作をプロデュースしたのが、キャンディーズの「春一番」をはじめ日本の歌謡界に数々のヒット曲を残している作曲家であり、神田広美さんのプライヴェートでのパートナーでもある穂口雄右さん。スタンダードを中心としながら、自らの楽曲も提供し、世界的なレジェンドたちと共に素晴らしいアルバムを完成させています。e-onkyo musicでは、アメリカ在住の穂口さんにメール取材を敢行。ユーモアも交え、本作の魅力や聴きどころをたっぷりとご紹介いただきました。


『DAYS OF YESTERDAY』/神田広美



【アルバムのコンセプトや楽曲について】

●日本のリスナーには、神田広美さんが現在はアメリカ(ハワイ)でジャズ・シンガーとして活動されていることを知り、嬉しく思うファンもたくさんいらっしゃるはずです。よろしければ、2010年3月に前作『Hiromi in love』をリリースすることになった経緯を教えてください。

穂口雄右(以下 穂口)  あれ、そこから来ますか!(笑)。ありがとうございます。誰も知らないと思って安心していたのですが、情報化社会は油断禁物ですね。
 経緯と言っても、なにしろロング・ストーリーなのでかいつまんで言うと、『Hiromi in love』は「趣味と人助け」です。
 まず、趣味の話は、恐縮ながらも浮世離れしていて、ともすると自慢話に聞こえがちなのと、話はどうしても20世紀の戦後高度成長期にさかのぼるので覚悟してください(笑)。
 なにを隠そう私、隠し切れないので打ちあけるまでもなく、あの、どうしようもない「団塊のど真ん中」で、ごたぶんにもれずのハワイ好き。しかもあのキャンディーズの「春一番」と「夏が来た!」を作曲だけじゃなくて、なにを間違えたか「作詞」もしちゃったくらいに「あったかいところ」が大好き。
 それで、毎年夏冬2回はノースショアの透明な海に潜ってウミガメを追いかけて、真っ白な砂浜に寝転んで青い空に浮かんだ綿雲をながめながら、大好きなアメリカン・スダンダード・ジャズ、つまりフランク・シナトラ、ナット・キング・コール、レイ・チャールズ(ジャズ・アルバムも最高です)などを聴いている内に「いつかはこの快適なハワイに別荘を!」と、夢見たいなことを考えて頑張った結果、ミレニアム、つまり2000年にめでたく新築落成と相成りました。
  その後、せっかくなのでハワイに音楽の会社でも設立して、音でも作ろうかと計画をはじめたところ、ここから人助けに突入するのです。
 さて、当たり前ですが、音楽は簡単には作れません。しかも出し物がアメリカン・スタンダード・ジャズとなるとなおさらです。なにしろ、ハワイはミュージシャンが希少! ハワイアンなら島中がミュージシャンの印象ですが、ジャズでしかもオーケストラとなるとなぜかレアメタル状態なのです。
 頼りになりそうなのは「ホノルル・シンフォニー・オーケストラ」くらいかな?と思っていたところに、どうやら、親しい知人の親友がホノルル・シンフォニー・オーケストラのコンサートマスターだと聞いてさっそくレコーディングを打診したところ、彼も乗り気で話はとんとん拍子。ハワイにはオーケストラを録音できるような広いレコーディング・スタジオがない!などの問題を多々乗り越えて『Hiromi in love』のレコーディングが完了したところ、さっそく、アメリカのワーナーミュージックのスタッフが気に入ってリリースと相成りました。
 それで、「どこが人助け?」ですよね。実は当時、オーケストラは財政難の真只中。シンフォニーのメンバーから次のような感謝の言葉をいただきました。
「『Hiromi in love』のような素晴らしいアルバムにホノルル・シンフォニー・オーケストラを採用していただいて、ありがとうございます」
 まとめると、アメリカン・スタンダード・ジャズが趣味で、ホノルル・シンフォニー・オーケストラとのレコーディングが人助けですね。
 ちなみに、その後シンフォニーは2012年にバンク・ラップ(倒産)しましたが、2014年にハワイ・シンフォニー・オーケストラとして再スタートしています。

●今作『Days of Yesterday』は、前作に続き、スタンダードを中心としたラインアップとなっています。コンセプトとして、前作と違う点があるとすれば、どんなところでしょうか。

穂口 なんと、前作との相違点とは! これも、実にきびしいところを突いてきますね(笑)。まったく、おどろくほどに、なにもかもが違います。なにしろ前作の『Hiromi in love』はハワイ録音なので、仕上がりもハワイ風。良く言うとのんびりで、悪く言うと、まあ聴いてもらえば分かりますが、いろいろのんびりしていて、ハワイはやっぱりアメリカのメインランドから遠く離れたアイランドであることがサウンドから聴こえます。もちろん「のんびり」は世界に誇るハワイの長所でもあります(笑)。
 そして『Days of Yesterday』では、まさに最高峰のサウンドを目指しました。つまり、ミュージシャンも最高、レコーディング・エンジニアも最高、レコーディング・スタジオも最高、アレンジも最高、そしてもちろんヴォーカルも最高です。コンセプトはまさに、「趣味のアメリカン・スタンダード・ジャズを、それも最高のアメリカン・スタンダード・ジャズを、最高のヴォーカルと最高のサウンドで未来に届ける」です。
 それでもコンセプトに「趣味」が入っていることは変わりがないので、商業的な下心は一切排除して、かつ予算無制限での圧倒的な仕上がりを目指しました。
 また、もうひとつ、『Days of Yesterday』では、ヴォーカルに見逃せない違いがあります。これ、英語圏の人しか気づかないとは思いますが、実は、『Days of Yesterday』はアメリカ人も納得のアメリカン・イングリッシュで歌っていて、一方、『Hiromi in love』はイギリス人が納得のブリティッシュ・イングリッシュで歌っています。
 神田広美は、もともと英会話には不自由しないのですが、歌では会話とはことなるテクニックを要求されます。つまり、メロディーに合わせてのリンキング(二つの単語をつなげて発音すること)の音楽的なスムーズさが重要なのです。しかも、英国と米国では発音が微妙に違っていて、かつ、双方ともに自分たちの発音が正しいと信じて疑わないところから、アメリカ人が満足するとイギリス人が「へそを曲げる」ややっこしさで(笑)、本格的に取り組むと、アメリカン・スタンダード・ジャズは、予想以上に発音のハードルが高いのです。
 それで、『Days of Yesterday』では、神田広美のイギリス訛りをアメリカ訛りに軌道修正するところからスタートしましたが、さらに驚いたことに、レコーディングの当日も、カリフォルニア訛りとニューヨーク訛りがテーマになって、意見が分かれた結果、なんと、「中をとってシカゴ訛りにしよう」とか言っていました。どっちにしても、私にはチンプンカンプンです。

キャピトル・スタジオの神田広美さんと穂口雄右さん(左)



●カヴァー曲の選曲はどのようになされたのでしょうか。

穂口 それはもう、ひたすら好きな曲を選びました、はい。では話が終わってしまうので、まじめに解説すると、作曲家としての見地からして、え?、あの私、一応作曲家なのですみません(笑)。作曲家からみて、これは素晴らしい、これはクヤシイ、これは後世に伝えたい、と思える作品を選びました。
   さらに具体的に解説すると、コードとメロディーの組み合わせが絶妙で、そのことで、ジャズにとって最も重要な「楽曲の自由度」が適切に表現されている作品です。話が、だんだん専門的になって恐縮ですが、見事に創作されたメロディーがあると、そこには自ずといくつものハーモニーが内在し、さらにはリズムのバリエーションを導き出して、一定の法則に従いながらも、どこまでも自由で豊かな発想を導きだす指針として機能します。つまり、名作を見分けるキーワードは「自由」です。
 なにしろ私、アレンジャーでもあるので、さらに具体的に実例をあげての解説も可能ですが、全部解説すると一冊の分厚い本になっちゃうので本日は止めときます(笑)。興味のある方は、NPO法人「ミュージックプランツ」で上級のジャズ理論をマスターされることをお勧めします。

●穂口さんご自身は、アメリカのスタンダードについて、どのような想いを持たれていますか。

穂口  アメリカン・スタンダードは宝の山です。なにしろ聴いて爽快、いつ聴いても爽快、何回聴いても爽快、いつまで聴いても爽快、しかも、半世紀聴き続けても新鮮です。小学生でグレン・ミラーを聴いて、中学生でフランク・シナトラを知って、レイ・チャールズの歌うアメリカン・スタンダードの素晴らしさに驚いて、ナット・キング・コールの安定感に感動して、その他にも、サミー・デイヴィスJr.やエラ・フィッツジェラルドやインストではデューク・エリントンも。私が言うまでもありませんが、アメリカには、素晴らしい作曲家、素晴らしい歌手、素晴らしいミュージシャンが、それこそ星の数ほどいて、しのぎを削って歴史に残る名作名演を世界に送り出しています。
 そう、アメリカン・スタンダードは「歴史に残る音楽」で溢れています。
 私は自他共に認めるアメリカ好きで、もう、まったく、GHQ--General Headquarters(連合国軍最高司令官総司令部)--による洗脳が大成功した実例ですが(笑)、音楽について言うと、アメリカン・スタンダードに洗脳されて良かったと感じています。
 それで、日本では20世紀の終わり頃からアメリカン・スタンダードが街で流れることはほぼなくなりましたが、アメリカでは今でも普通にスーパーマーケットやデパートのBGMでも流れるので、その意味でも、ジャズ好にとってアメリカ暮らしは快適です。

●今作には、「Days of Yesterday」、「Twilight Tears」、「Dreamer」という、穂口さんのペンによるオリジナル曲が3曲収録されています。よろしければ、これら3曲についての曲解説をお願いします。

穂口  先ほど力説した、尊敬のアメリカン・スタンダードと一緒に並べても、遜色なくアメリカン・スタンダードに聴こえる作品を創ろうと考えて作曲しました。
 結果、あの辛辣なアメリカのジャズ評論家にも自然に受け入れてもらえた作品になったと密かに誇りに思っています。実際、また「得意の自画自賛」ですが、あれだけのアメリカン・スタンダードと比べて遜色なく聴ける楽曲は簡単には書けません。
 「Days of Yesterday」は、どこまでもシンプルなメロディーに、最適なメロディーとコードの組み合わせを用いることで、ヴォーカリストの自由な表現を可能にしています。実際、神田広美のヴォーカルは、原曲の要素を重視しながらも、彼女自身の自由な表現でジャズ・バラード独特の心地よさを表現してくれています。また、間奏でのジョー・サンプルの絶妙なピアノ・ソロも聴きどころです。
   「Twilight Tears」では、アメリカン・スタンダード・バラードの典型的なスタイルで感傷的な世界を表現しつつ、繰り返し聴くことで作品の深みをさらに感じてもらえるよう配慮してメロディーやハーモニーを組み立てています。また、この曲のメロディーは、聴くと簡単そうながら、歌うとなかなかの難曲ですが、神田広美は見事に歌いこなしてくれました。間奏のピアノ・ソロとトロンボーン・ソロも良い感じです。ちなみに、トロンボーン・ソロはご存知アンディー・マーティン、ピアノ・ソロはクイン・ジョンソンです。
 「Dreamer」はこのアルバムの中でもっともキャッチーな作品で、ややポップが入っちゃってますね、すみません(笑)。あんまりキャッチー過ぎるので選曲から外そうかとも思いましたが、アメリカ人のスタッフもミュージシャンもみんな喜んで「この曲が好きだ」と言うので、気を良くして収録しました(笑)。たしかに、いかにもアメリカ的でアレンジも古き良きハリウッド映画に似合いそうです。神田広美もパワー全開で楽しんでいます。

●上記3曲の歌詞は、作詞家でもある神田さんが手掛けられています。英語で綴られたそれらの歌詞をご覧になった印象はいかがでしたか。

穂口  それが、さっきも言いましたが、なにしろ、まったく、チンプンカンプンです(笑)。自慢ですが私、中学2年の時に英語の先生とケンカして、それ以来さっぱり。ちなみ、誰も言ってくれないので言いますが、中1までは担任もびっくりの学年で5番。それが、中3では担任も納得のビリから2番目。どうでもいいですけど、今から56年前の出来事です。それで、60歳から勉強し直して、最近、少しは英語も分かるようになりましたが、英語の歌詞となると、もう、未だに良いのか悪いのか、意味は辞書引けばなんとかなりますが、ニュアンスとなるとさっぱりで、もっぱらサウンドとして聴いています(笑)。
 それで、歌詞の良し悪しは「広美様」が「これでよろしい」とおっしゃれば、ひたすら黙っておしいただくしかありません(大笑)。もっとも、スタッフ全員がアメリカ人で、それも相当な大人数が関わっていて、全員が良い歌詞だと言っていることと、アメリカの音楽評論家も認めているので、無責任にも安心しています。

●前作に続いて、編曲と指揮にマット・カティンガブ氏が起用されています。プロデューサーとして、その仕事ぶりをどう評価されていますか。

穂口  マット・カティンガブとはホノルル・シンフォニー・オーケストラ・プロダクションの紹介で知り合ったのですが、当時のホノルル・シンフォニー・ポップス・オーケストラの常任指揮者というだけでなく、グラミー賞も受賞しているアレンジャーなので、彼のデモを聴いてもその実力はさすがだと思いました。
 そこでマットには、このレコーディングはビジネスではないことを伝えて、どこまでも本気で音楽に取り組んでもらいたいとお願いしました。  また、その意味でも、派手さを排除して、ゆったりと時代を超えるサウンドにすること、そのためには流行を表現しがちな楽器、例えばギター・ソロやシンセなどは一切入れないこと、ただしリズム・ギターはOK、さらにレコーディングは大編成のオーケストラを全員同時にレコーディングすること、などを発注の条件としました。知っている人は知っていますが、今の時代にダビング禁止は時代錯誤もはなはだしく、言ってみれば、アレンジャーいじめのオーダーですね(笑)。
 それで、具体的な作業では、事前にネットで送ってきたマットのアレンジ・デモを聴いて、私が気になる点をメールで指摘したり、時には具体的にエディットして返信する方法で、最終的なアレンジを打ち合わせしながら進めました。
 特に、タイトル曲の「Days of Yesterday」では、マットもついつい力が入って、やや書き過ぎな感じもあったので、私から例を示してゆったりとしたアレンジに変更してもらったりもしました。それでもさすがに、アメリカの有数のアレンジャーは凄いもので、なかなかの緊張感で時代を超えるサウンドを創ってくれているので、『Days of Yesterday』では、マット・カティンガブによる、テンションの効いたリッチなアレンジをお楽しみいただけます。

【レコーディング~マスタリングについて】

●レコーディングの様子について伺います。今回も大勢のミュージシャンが素晴らしいビッグ・バンド、オーケストラ・サウンドを聴かせていますが、どのように集められた方たちなのでしょうか。

穂口  素晴らしいですよね。なにしろ、アメリカの最高のスタジオ・ミュージシャンばかりで50名を超えるオーケストラ編成ですから、制作した私もびっくりかつ大満足です。
 ところで、これだけのメンバーは簡単には参加してくれません。特に、神田広美が強く希望したジョー・サンプルの参加はハードルが高い。
 そこでまずは、神田広美のライヴをLAはビバリーグレンの有名なジャズ・グリルの「ヴァイブラート」で開催して、このライヴにアル・シュミットを招待して、神田広美の生のヴォーカルを聴いてもらったところ、アルが感動して、是非レコーディングを手掛けたいと、エンジニアとしての参加を確約してくれました。で、エンジニアがアルに決まったので、スタジオは自動的にキャピトル・スタジオ・ハリウッドに決定です。  それと、このライヴには、LAの腕利きコントラクターも招待して、そのコントラクターにピート・クリストリーブを含む最高のメンバーを集めるように依頼しました。
 さて、問題のジョー・サンプルは現地のコントラクターでもコンタクトが難しいとのことだったので、私の会社(米国法人)のアメリカ人スタッフが、まずはジョーの知り合いに連絡して、エンジニアはアルでスタジオはキャピトルであることを伝え、さらにジョーに『Hiromi in love』を送って聴いてもらいました。つまり『Hiromi in love』が『Days of Yesterday』の制作に向けての、豪華なデモCDの役割を果たしてくれたことになります。
 ちなみに、ヴァイブラートのオーナーは、あのティファナ・ブラスのハーブ・アルパート(A&Mレコードの創始者でもある)で、「ヴァイブラート」のマネージャーはベーシストのパット・セネターです。

 せっかくなので『Days of Yesterday』に参加してくれた主なミュージシャンをご紹介します。

Hiromi Kanda: vocals; Matt Catingub: conductor/arranger; Kevin Axt: bass; Chuck Bergofer: bass; Kevin Winnard: drums; Dan Higgins: woodwinds; Jeff Driskell: woodwinds; Pete Christlieb: woodwinds; Greg Huckins: woodwinds; Salvadore Lozano: woodwinds; Wayne Bergeron: trumpet; Bob Summers: trumpet; Dan Fornero: trumpet; Rick Baptist: trumpet; Andy Martin: trombone; Alex Isles: trombone; Craig Gosnell: trombone;Quin Johnson: piano; Joe Sample: piano; Larry Koonse: guitars; Jo Ann Turovsky: harp; Violins: Sid Page, Eun-Mee Ahn, Armen Anassian, Ishani Bhoola, Darrius Campo, Bruce Dukov, Nina Evtuhov, Juli Ann Gigante, Alan Grunfeld, Amy Hershberger, Maia Jasper, Aimee Kreston, Ana Landauer, Songa Lee, Marina Manukian, Serena McKiney, Helen Nightengale, Alyssa Park, Sare Parkins, Katia Popov, Anatoly Rosinsky, Neil Samples, Simeon Simeonov, Teresa Stanislaw, Josefina Vergara, Irena Voloshina, Miwako Watanabe.

PV撮影のワン・シーン



●そのアンサンブルについてはどうお感じになりましたか。

穂口 素晴らしいですね。もう、リハーサルから一糸乱れぬ演奏で文句なしです。パワーも凄い。実際、ブラス・セクション&ホーン・セクションはみんな大男。しかもみんな優しい。そんな大男たちが『Days of Yesterday』の名曲ぞろいの選曲に大喜びして「こんなレコーディングを毎月やりたい」と言っていましたが、毎月でなくても、生涯に一度でもおおごとです(笑)。
 それで、リハ録から最高で、こっちはすでに満足しているのですが、リハのプレーバックを聴きながら、大男たちが集まって、「このグリス・ダウンはもう少し長くしよう」とか「ここのスタッカートは短く」など、さらに繊細にアーティキュレーションの打ち合わせをしている姿が印象的でした。
 いずれにしても、全員もの凄い実力で、かつ腕力もありながら余裕の思いやり。そのアンサンブルからは世界最高峰のミュージシャンの誇りと音楽への情熱と深い愛情が聞こえます。

●特に、ジョー・サンプルのピアノ、ピート・クリストリーブのテナーはいかがでしたか。

穂口  言うまでもなくジョーは天才ですね。そんな天才が真剣にフレーズを吟味しながらピアノを弾く姿に感動しました。どんな感じかと言うと、簡単には弾かないんです。簡単に弾こうとすればジョーにとっては簡単な楽譜なのに、楽譜を超えるプレイを心がける姿には、なんと言うか、偉大な人物を間近にした畏怖の念を感じました。
 それと、ジョーは16ビートでのシャープなプレイも有名ですが、私は昔から、ジョーのバラードも素晴らしいと感じていたので、『Days of Yesterday』ではバラードのソロをお願いしましたが、結果はやっぱり、繊細な表現が素晴らしく、聴くたびに素晴らしさが深くなります。
 ピートのテナーも、聴いてもらえば分かる通り、もうそれはそれは暖かい。暖かい音色と、ゆったりとしたフレーズでありながら何回でも聴きたくなるソロには純粋な作品への思いやりを感じました。実際にピートに会うと驚きますよ。なにしろデカイ(笑)。いえ、音もですが身体も。その大男がセッションが終わるとニコニコと優しいんです。つまり、ハートもデカイ。私もお爺さんですが、3つ年上のピートは、もう近所のお爺さんといった感じで、この自然体が本当の超一流のあり方なんだよね、って嬉しくなりました。ちなみにピート・クリストリーブは、あのスティーリー・ダンの「彩(エイジャ)」や「FM(No Static At All)」のテナー・サックス・ソロでも有名ですね。
 余談ですが、『Days of Yesterday』のマスタリングのときに、あの物静かなバーニー・グランドマンが「It Had to Be You」のサックス・ソロを聴いてすぐに、「Oh! Pete」と言って喜んだ時の嬉しそうな笑顔が印象的でした。

ピアニストのジョー・サンプルさんと



●録音は何日くらいで行われたのでしょうか。

穂口  オーケストラの録音はフォー・セッションで行いました。セッションとは3時間単位なので、全部で12時間を4日間に分けて録りました。『Days of Yesterday』には12曲を収録していますから、1曲1時間だと思いきや、実は全部で16曲録ってます。後の4曲は後のお楽しみ(笑)。つまり、あのクォリティーで1曲あたり45分。一流のミュージシャンとエンジニアが揃っているからできる神業ですね。それで「な~んだ、たった4日か・・・!」と思ったらそれは甘いのです(笑)。もちろん、その他に、ヴォーカル・レーディング、ミックス、マスタリングなどなど。12曲となると、どうしても2週間は必要ですね。

●録音現場のキャピトル・スタジオは、音響的にどんな特徴があるとお感じになりましたか。

穂口  キャピトル・スタジオの音響的な特徴は私にはわかりません。キャピトルのエンジニアに聞いてください(笑)。ただただもう、ここでフランク・シナトラやナット・キング・コールがレコーディングをしてたのかと、もうただのファン状態で(笑)。
 とても古いスタジオですが、それだけに地下には伝説のエコー・ルームがあって、そのエコーの感じはマシンでは出せないようです。また、コンソールはニーヴですが、ニーヴそのままではなく、プリ・アンプはカスタマイズされているとのこと。モニター・スピーカーもアル・シュミット専用に作られたスペシャル・ハンドメイド。その他にも、市販されていない特注のコンプなどもあり、キャピトル・スタジオだけのクォリティーを提供していることが、世界中の一流ミュージシャンからも高く評価されている理由だと感じました。
 ちなみに『Days of Yesterday』のヴォーカルをレコーディングの時、隣のスタジオBではダフト・パンクがレコーディングをしていて、それで『Days of Yesterday』の後のアル・シュミットのスケジュールはポール・マカートニーのレコーディングだと聞きましたが、これもすでにリリースされていますね。

キャピトル・スタジオのコンソール・ルーム。右端には大御所アル・シュミットさんの姿も



●アメリカの音楽制作の在り方は、日本でのそれとどう違うと思われますか。

穂口  それも、すみません、わからないんです(笑)。なにを隠そう私、もう今から38年前に作曲をやめて、当然アレンジも38年前にやめたので、つまり現在の日本の音楽制作の現場をまったくと言っていいほど知りません。ただ、いろいろと聞いた感じでは、日本の音楽制作は利益優先で、ひたすら売上を追求しているように思えます。もっとも、売上追求はアメリカも同じで、特にメジャー・レーベルでは、率先して“Trash music”の制作を推し進める傾向もあるようです。トラッシュ、つまりゴミですね。ヒットした直後に忘れられる音楽の方がビジネス的には好都合というわけです。
 それで『Days of Yesterday』の制作では、現在の音楽制作の潮流の正反対を実践しました。つまり売上を考えない音楽制作です。そんなことをして何の意味があるか?という声も聞こえますが、前述のとおり遠い未来に向けた重要な意味があります。制作に費やした費用を私が生きている内に回収することは多分無理ですが、『Days of Yesterday』を創って良かったと思える日が、著作隣接権有効期間内にはやってくると予想しています。著作隣接権有効期間内って、つまり公表後50年、なので目標2061年、そのとき自分は113歳、おっ、まだいけるかも(笑)。

●スタンダードに歌手の個性を反映させることは、やり甲斐のある作業である一方で難しい面もあるかと思いますが、本作では神田さんがとても自然に楽曲の世界に入っているように感じました。プロデューサーとして、神田さんのヴォーカリストとしての魅力をどう引き出そうと思われたのでしょうか。

穂口  おかげさまで、神田広美のヴォーカルは本場のアメリカで高い評価を受けています。全米をネットするニューヨークのラジオ・ステーションをはじめとして、多数のステーションで、あたかもアメリカのジャズ・ヴォーカリストであるかのように自然にオンエアされ、また、あの審査が厳格な「Pandora」でもストリーミングされています。それにしても、最近になってPandoraの経営が苦しくなっている一因が、あの「厳格な審査」なのかもしれません。
 それはともかく、アメリカのジャズ・シーンでもっとも重要視される魅力はオリジナリティーです。つまり人マネは評価されません。一方、日本ではモノマネでも売れますから、この辺りはアメリカと日本では大違いですね(笑)。
 つまり、例えばエラ・フィッツジェラルドを正確にコピーしてもダメなのです。またジャズであるからには「自由」が大切です。楽譜をそのまま正確に歌っただけではジャズにはなりません。メロディーにしてもリズムにしても、また微妙なピッチにしてもアーティキュレーションにしても、そのすべてに神田広美のオリジナリティーが必要なのです。
 したがって『Days of Yesterday』でも、自由なヴォーカル表現を引き出す環境作りを心がけました。その環境の中にはサウンドそのものに内在する環境も含まれます。
 専門的になりますが、和声には拘束的に機能する和声や進行もある一方で、非拘束的に機能する和声や進行もあります。また拘束的にオーケストラを組み立てることもできますが、非拘束的に組み立てることもできます。  非拘束的とは言い換えると自由度を高めることで、ジャズ・ヴォーカルでは、自由度を高めたアレンジ、つまりサウンドを構築することで、ヴォーカリストが自由な発想で表現できる環境を用意することが重要なのです。
 具体例をあげると、例えばフランク・シナトラのアレンジで有名なネルソン・リドルは、ヴォーカリストの自由な表現を助けるアレンジが実に上手い。あくまでもヴォーカルを引き立てるためのサウンドなので、ヴォーカルがなくなると中心がなくなる印象になりますが、その分、ヴォーカリストは自由にオリジナリティー溢れる表現をすることができます。
 残念ながらネルソン・リドルはもういないので、マットにはネルソン・リドルのようにヴォーカルを大切にするアレンジをお願いしました。もちろん、ここでも、アメリカはモノマネを嫌いますから、自由度に配慮しながらもオリジナリティーに溢れるアレンジをお願いしたのです。
 その上で、神田広美にはおもいっきり自由に、神田広美の思い通りに歌ってもらいました。
 神田広美のファンの皆さまの中には、どちらかと言うとポップス派で、もしかすると、ジャズをあまり聴いたことがない方もいらっしゃると思います。そしてその場合、ややリズムがずれている、と感じることもあるとは思いますが、実は、あの微妙な変化がジャズ・ヴォーカルの醍醐味なので、繰り返し聴いて慣れてくると、今度はあの微妙なタイミングとピッチ感にハマって抜けられなくなるのでご注意ください(笑)。



●ヴォーカルは別録りと推察しますが、歌のレコーディングで、特に心がけたことはありましたか。

穂口  先程お話した通り、もっとも心がけたことは「自由」ですが、もうひとつの重要なテーマとして「発音」がありました。しかしこれは、これも前述のとおり、私では判断不能なので、もっぱら神田広美本人とアメリカ人スタッフとで取り組んでいました。
 実際、6月にヴォーカル・レコーディングを完了して、仮ミックスを終えたところで、神田広美本人から、発音の問題で数曲歌い直したいとのリクエストがあり、9月に再度キャピトル・スタジオとアル・シュミットのスケジュールを押さえて録り直しました。
 それと、もう一つは、なにしろ目標は、最高のサウンド、最高のヴォーカルなので、あらゆる環境を最高にする目的で、LAでの滞在先をあのシャトー・マーモントにしたことも見逃せないポイントです。キッチンもついてエアコンもセフルコントロールなので声帯の維持は万全ですが、その分、お財布の維持は大変です(笑)。それで、大変ついでにもう一つご報告すると、ジャケットのフォトグラファーはニューヨークのブリジッタ・ラコンブ。これって、知ってる人はひっくり返るレベルです。(笑)。もちろん撮影もNY。レコーディングの前にNYで撮影してからLAに飛びました。

●今回の制作全般を振り返って、想い出深いエピソードがございましたら、ご披露ください。

穂口  エピソードが有りすぎて困りますが、まずは「趣味」の音楽制作についてです。それと言うのも、アル・シュミットにミキシングを依頼するに当たって、私が「このアルバムは自分たちの趣味なので、大きな売り上げは期待できません」と伝えたところ、アルは即座に「それは素晴らしい、音楽は趣味であるべきだ」と言ってくれました。そしてさらに「我々は生涯の友だ」とも。
 それと、レコーディングが終わってからジョー・サンプルとイタリアン・レストランで食事をしましたが、ジョーはやっぱり音楽の話になると真剣で、彼の言った「すべての人には全員にそれぞれの音楽があるんだ」との言葉が忘れられません。世界中をまわってたくさんの音楽に触れて、そのどれもがそれぞれに素晴らしいと……。また、「ピアノは手首で弾け」と力説していました。それも手首を上にあげるスピード、つまり鍵盤から手を離すスピードが大切で、そのために手首の運動を欠かさないとも。これ、ジョーが言ってるだけに、すごい企業秘密ですね。
 それと、もう一つ、あの、お世辞とは無縁のジョーが「良い曲だ」と褒めてくれたことも忘れられません。もちろん『Days of Yesterday』ことです。さすが、ジョー・サンプル。わかってるな~!と思いました(笑)。

●プロデューサーの目線で、今作最大の聴きどころは何でしょうか。

穂口  もちろん、神田広美がアメリカン・スタンダードを、オリジナティー溢れるヴォーカルで、しかも完璧なアメリカの発音で歌っているところを聴いて欲しいのですが、残念ながら、私も含めたほとんどの日本人には、英語の発音の微妙な違いはわからなくて当然なので、発音もサウンドの一つとして、『Days of Yesterday』の圧倒的なアコースティック・サウンドをお楽しみいただきたいと思います。
 特にブラス&ホーン・セクションや、それぞれの曲のソロも圧巻です。
 また、アル・シュミットのレコーディング&ミックスと、バーニー・グランドマンのマスタリングも聴きどころで、完成されたサウンドがこのアルバムの時間軸を遠い未来に伸ばしています。

●レコーディング/ミキシング・エンジニアを務めたアル・シュミット氏を起用した狙いは何でしょう。また、シュミット氏のスタジオ・ワークは、音楽にどのような良い結果をもたらすとお考えですか。そして、出来上がった音を聴いた印象はいかがでしたか。

穂口  アル・シュミットを起用した狙いは本物のサウンドを創るためです。実は私は昔から、エンジニアの選択に異常にうるさく、そのことで日本の何人かのプロデューサーに嫌われたことを自慢にしています(笑)。例えば、キャンディーズも郷ひろみも、私がアレンジをするときのエンジニアは吉野金次ですが、吉野さんが日本中の一流ミュージシャンやエンジニアから尊敬されているように、アル・シュミットは世界中の一流ミュージシャンやエンジニアから尊敬されています。
 アル・シュミットは、エンジニアとして20回、プロデューサーとしての受賞も含めると23回もグラミー賞を受賞していますが、アルのサウンドの素晴らしさはグラミーの受賞歴を超えます。スティーリー・ダン、マイケル・フランクス、フランク・シナトラ、レイ・チャールズ、バーバラ・ストライザンド、ジョージ・ベンソン、ダイアナ・クラール、神田広美の『Days of Yesterday』の後では、ポール・マッカートニーのレコーディングも手掛けています。そして、それらのサウンドのすべてが納得のサウンドで、実際、『Days of Yesterday』のレコーディングでも、完璧なマイク・セッティングで、リハーサルの1回目からナチュラルで完成されたバランスのサウンドを聴かせてくれました。  そして、ミックスが完成した時、アルは私に、自分のチェアーに座って最終確認をするように求めました。もちろん、アルのミックスを確認する必要もないのですが、せっかくの機会なので、アルの定位置に座って『Days of Yesterday』を聴きました。
 仕上がったばっかり渾身のサウンドをなんと表現すれば良いのか?私が選んだ言葉は「とても美しい景色ですね」。アルもわが意を得たりの笑顔で「ありがとう」と言いました。
 また、『Days of Yesterday』のレコーディングでは、レコーディングとミックスを自ら手掛けただけでなく、バーニー・グランドマンのマスタリングにも立ち会ってくれました。忙しい中、アルは最後まで責任を果たしてくれたのです。
 アルのエピソードをもう一つご紹介すると、スタジオの近所のレストランでランチを共にした後、ハリウッドのメイン・ストリートの交差点でストリート・ミュージシャンのライヴに遭遇しました。さほど良いパフォーマンスではなく、普通の演奏です。すると、アルはストリート・ミュージシャンの方に歩み寄って、道端に置かれた楽器ケースに、さりげなくドル紙幣を置いてから、また、なにごともなかったように私と並んでスタジオに向かいながら「すべてのミュージシャンを尊敬する」と……。残念ながら紙幣の数字は見逃しましたが、私の想像の範囲では「いくらアルでも100はナイ」と睨んでいます(笑)。
 ことほどさように、いえ、さようはまだまだありますが、アル・シュミットはサウンドも紳士ですが人間も紳士で、かつ年齢を感じさせない若々しさで、それで奥さんも超美人で、もう存在自体がパーフェクト。自分にとってはひたすら尊敬の対象です。

●同じく、マスタリングをバーニー・グランドマン氏に依頼された理由は何でしょう。

穂口  もちろん、バーニー・グランドマンは世界一のマスタリング・エンジニアですから、当然、このプロジェクトには欠かせません。最初に会った時の印象は、どこかの大学教授かと思いました。仕事ぶりも淡々と、不要な周波数を削り、必要な周波数を持ち上げて、気になっていたサウンドの歪みが消えて、すっきりとした落ち着いたサウントに仕上がって行きます。もっともこれはハワイで録音した『Hiromi in love』の時のことで、『Days of Yesterday』のマスタリングの時には、バーニーが「アルのミックスに自分のやることは何もない」と言っていました。
   それでも、アルと相談しながら、微妙に周波数を調整して仕上げる姿はまさにマスタリングの達人といった風格でした。それで肝心のサウンドですが、バーニーの言う通り、アルのミックスの段階でサウンドは完成しているので、バーニーがどこを調整したのかは私にはわからないくらいでした。それでも、オンエアされる時や、アナログ・レコードの制作時に影響する微妙な周波数を調整しているとのことで、なにしろ世界一ですから、私ごときはただただ信じるしかありません。
 それで、バーニーの印象的なエピソードですが、彼が沢山あるスタジオの中の一番奥のスタジオから顔をだして私に手招きをするので、なんだろうと思いながらそのスタジオに入ったら、そこはなんとバーニーがアナログ・レコードの原盤を自らカッティングするスタジオで、いつになく嬉しそうにマシンの使い方を教えてくれました。もちろん一度では何にも覚えられないのですが、バーニー・グランドマンがアナログ・レコードの原盤を創りながら、子供のように楽しんでいる姿にふれて感動したことを覚えています。

ハリウッドの「バーニー・グランドマン・マスタリング」にて。左から穂口雄右さん、アル・シュミットさん、バーニー・グランドマンさん、神田広美さん、スティーヴ・ジェネウィックさん



【今後の予定など】

●2001年には岸田采子さんの名義で「帰る日」をリリースしている神田さんですが、今後の展開として、再びポップスのフィールドへ戻られることはあるのでしょうか。

穂口  なにか、すべて調査済み。かつ見抜かれているようで嬉しくも怖いですね(笑)。で、答えは「はい、あります」です。
 それでも、ポップス=流行り物=ヒット=みんなが知っている、という観点からすると、今の日本ではポップス・フィールドの存在自体に、はなはだ心許ないものがありますが、見方を変えると、ポップスをジャンルとして捉えるのでなく、結果として捉えれば、あらゆる形式の音楽にポップス化、つまり流行の可能性があると考えても良いでしょう。
 実際、アメリカでは、フランク・シナトラもレイ・チャールズも、スティーリー・ダンでさえ、広義ではポップに分類されてきました。つまり、ヒットするもの、言い換えると流行る音楽、または流行ったことのある音楽はすべてポップ・ミュージックというわけですが、考えてみたら当たり前ですね。
 さて、世界中が混沌とした21世紀の音楽状況の中で本来のポップスを、しかも、自分が1970年代に挑戦したときと同じように、時間軸を大切にしながら、新たな21世紀のポップスを創る……。なかなかの難題ですが、今まさに流行っている音楽とは、あらゆる点で大胆に一線を画するポップ・ミュージックへの挑戦は、人生の最終稿に向かって、とてもやりがいのあるテーマだと感じています。

●穂口さんの今後のご活動について、何かご予定がございましたらお聞かせください。

穂口  私自身の今後のご予定は……。はい、「男100まで元気で長生き」です(笑)。「何と言っても今の日本、いえ、太古の昔から、長生きは究極の理由なき抵抗、つまり長生きこそROCKですね!」(笑)。これ、冗談抜きで、嫌がられながらも挑戦する予定です。
 それで、実はいろいろと予定が目白押しで、そのどれもが楽しみな企画なのですが、それだけに、そのどれもが秘密事項で、喉元まできていますが、すみせん、話せません(笑)。
 ひとつだけ、これからもう一度、10年間ほどピアノの練習をして、80歳になったら15歳の時の憧れを目指そうと計画しています。そうです、80歳になったら、爺さんはジャズ・ピアニストになります。夢は文句爺さんで! ←これ、わかった人はジャズ通ですね(笑)。分からなかった人はこちらでどうぞ。

●ハイレゾ専門サイトe-onkyo musicのリスナーへ向けて、メッセージがございましたらぜひお願いいたします。

穂口  e-onkyo musicのリスナーの皆さまは、当然のように、音楽への愛情と意識が高いからこそe-onkyo musicのリスナーであると断言して間違いないでしょう。したがって、私ごときはただただ感謝を申し上げることしかないのですが、ひとたびうしろを振り向くと、そこには音楽への愛情とはほど遠い状況が大手を振って歩いています。その、聴かれもしないCDを大量に売りさばいている姿からは音楽への愛情の「あ」の字も見えません。商人の「あ」の字は見えますが(笑)。
 それはともかくとして、皆さまはとっくにご承知のとおり、ハイレゾはサンプリング・レートが大きい、つまり密度の高い良い音です。そして、良い音楽を良い音で聴くことが大切なことは当然です。しかしながら、1980代からCDがはじまり、その後mp3の時代になって、人類の耳は劣化の一途を辿っています。ファスト・フードが子供たちの味覚を奪ったように、CDなどのローレゾ音源が人間の聴覚を破壊してきたと言っても過言ではないでしょう。
 私は、僭越で恐縮ながら、e-onkyo musicのリスナーの皆さまにお願いしたいと思っています。つまり、子供たちに伝えて欲しいのです。「CDやmp3で音楽を長い時間聴くのは止めること」「音楽の鑑賞はアナログかハイレゾにすること」「イヤフォンで大きな音を長時間聴き続けないこと」「ピコピコ音楽を聴いたら、それ以上にアコースティックなサウンドを聴く時間を増やす」などなどを……。
 音楽はできる限り、アナログ・レコードか、またはハイレゾ・データで聴くことの大切さを、多くの皆さまにお伝えいただきたく希望しています。
 あ、それと、『Days of Yesterday』を何卒よろしくお願い致します。あぶなく忘れるところでした(笑)。
 最後になりましたが、e-onkyo musicのリスナーの皆さまの音楽への愛情とご理解に厚く感謝を申し上げます。

●ご協力、ありがとうございました。

穂口 こちらこそありがとうございました。
2017年7月7日
作曲家 穂口雄右 69歳


穂口雄右氏 近影