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連載『厳選 太鼓判ハイレゾ音源はこれだ!』 第48回

2017/06/30
DSDを聴くならこれだ!
~ ECMレーベルのDSDシリーズは一味違う。

私がDSDを苦手な理由



本連載も、もうすぐ50回に届きそうですが、DSD音源の太鼓判が極端に少ないのにお気づきの方もおられるのでは? そう、私はちょっぴりDSD規格の音が苦手なんです。

とはいえ、DSD規格との付き合いは長く、音楽制作スタジオを運営していたころには、SACD作品をいくつか制作した経験があります。別にDSDが食わず嫌いというわけではないのです。

一番の理由は、可聴帯域外にあるノイズ。DSD規格は、超高域にディザノイズが生成されるという欠点があります。口悪く言えば、見えないところにゴミを捨てているような感じでしょうか。可聴帯域外の超高域ノイズですから、実際に聞いても全く耳では感じることができません。でも聞こえないからといって、果たして本当に音楽への影響はゼロなのでしょうか?

これって、CD規格が「人間の耳には聞こえないから、20kHzより上の超高域成分を切り捨てた」というのと、同じ過ちのような気がしてなりません。聞こえない帯域の音が無いCD規格と、聞こえないところにノイズが有るDSD規格。疑り深い私は、手放しでDSD万歳とは言えないのです。

実際にDSDサウンドを聴くと、私は独特の違和感を感じます。音楽の持つ熱というのでしょうか。それが冷めてしまったような印象。音像の前後、上下、左右の立体情報で言えば、上方向の表現が弱い印象。そして、音の手触りはシルキーなのだけれども、少しソフトフォーカスな印象。実はコレ、特殊な手法でDSDの超高域ノイズを除去してみると、見事に解決できるDSDの音癖なのです。その実験結果から推測すると、超高域ノイズの音楽への影響は、私は“有り!” に一票です。

このDSDの超高域ノイズ、困ったことに加算されていきます。例えば、DSDで3トラックの録音をすれば、ノイズの量は3倍に。そのデータをDSDで編集コピーなどしていくと、またプラス1のノイズが足し算されていくわけです。これは困った!

ですが皆さん、これを逆に考えると、DSD録音を1回しか行わなければ、超高域ノイズも × 1 なのですから、ノイズの音楽への影響は最小限に抑えられます。実はココ、ポイントです。 × 1 程度の超高域ノイズなら、あまり音楽への影響が感じられない。DSD本来の生々しいサウンドが楽しめます。

本日ご紹介のDSD音源は、その技を使ったのか、もしくは何かエポックメイキングな技術が生まれたのか、DSDが苦手な私が聴いても「参りました!」という感じ。かなり新鮮な気持ちで楽しめた、DSD音源の太鼓判をご紹介します。


美しい立体音像を形成する、ECMレーベルのDSDシリーズ

ECMレーベルのDSDシリーズは、現在6作品。全部が太鼓判ですが、個人的オススメはコレです!


『Pat Metheny Group』(DSF 2.8MHz/1bit)
/パット・メセニー・グループ



本作との出会いは、「おっ、聴きたかったアルバムじゃん。最近のDSDって、ナンボのもんじゃい。ダメだったら96kHzに変換して聴けばいいか」という感じでした。実際に聴いてみて「参りました」となったわけですが、そのくらい一般的なDSD音源と印象が異なります。大反省 & 慌ててECMのDSDシリーズ × 6作品を一気聴きしました。

まず、前述したDSD特有の音への印象がほとんど感じられない。そして何より、目の前に広がる音像が圧倒的にナチュラル。これは今月聴いた沢山のハイレゾ太鼓判候補の中で、圧勝でした。

ECMの解説によると、アナログマスターからDSD音源を作ったとのことですが、これは単なるトランスファーではないと感じました。アナログマスターを鳴らし、そのアナログ出力をDSD規格へAD変換すれば良いと想像している方も多いでしょう。ところがどっこい、それでは自然な音、マスター音源が再現したかった音楽にはなりません。

想像してみてください。皆さん、オーディオでケーブルを交換して一喜一憂しますよね。そう、アナログケーブルのたった1本で、あれだけ音楽の印象って変わってしまうんです。電源にしても同じ。アナログマスターが制作された時代の電源と、現在の電源。日本なら同じ100ボルトですが、本当に同じ音で鳴るでしょうか?

マスターテープが本来の輝きを取り戻すためには、何らかの “人の力” が必要です。マスターテープが鳴らしたっかた音楽、それが実際にデジタル化した後に再現されているかどうか。私の願いは、決して音圧アップさせろというのではなく、音楽の想いが変わってしまった分は、きちんと補正してほしいという、ただひとつです。

そんな多くの音楽好きの夢が、ECMレーベルのDSDシリーズでは叶っている。どうやったのかは取材してみたいところですが、私はDSD音源の仕上がり具合から、匠の技を感じました。それとも、ECMレーベルのマスターテープは、何もしなくてもこんな音がする? いやいや、5作品とも同じ美しい音像が展開しているので、私は匠の技だと思いますが、皆さんはいかがでしょうか?

そこで演奏しているような生々しいサウンドですので、キース・ジャレット作品は例の唸り声も生々しい・・・。そこでオススメはパット・メセニー・グループとしました。一気に6作品を聴くと、本当に微妙ながら後発の3作品のほうが印象が良かったのも理由のひとつです。久しぶりのDSD太鼓判、ぜひ聴いてみてください!



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筆者プロフィール:

西野 正和(にしの まさかず)
3冊のオーディオ関連書籍『ミュージシャンも納得!リスニングオーディオ攻略本』、『音の名匠が愛するとっておきの名盤たち』、『すぐできる!新・最高音質セッティング術』(リットーミュージック刊)の著者。オーディオ・メーカー代表。音楽制作にも深く関わり、制作側と再生側の両面より最高の音楽再現を追及する。自身のハイレゾ音源作品に『低音 played by D&B feat.EV』がある。