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連載『厳選 太鼓判ハイレゾ音源はこれだ!』 第47回

2017/06/02
一糸乱れぬグルーヴを聴くならこれだ!
~ 名匠アンソニー・ジャクソン氏のベースを、歴史的名盤で


久しぶりに聴きごたえのあるCD盤に出会う

先日、軽井沢のご近所さん宅で、一緒に音楽を聴きました。天井高4メートルの広々としたリビングで、ハイエンド系の大型スピーカーが心地よく鳴っています。せっかくお伺いしたので、新製品オーディオ・アクセサリーで、更なる音質向上チューニングに挑戦。さすがハイエンド・スピーカー、眠っているポテンシャルが高く、びっくりするくらい音質向上できました。こんなに気持ち良く鳴っているオーディオは、音楽を仕事にしていても、なかなか巡り会うことはできないものです。チューニング大成功!

試聴音源は、定番のダイアナ・クラールやホテル・カリフォルニアから、クラシック系まで様々。中でも私が驚いたのは、ジャズボーカル系の1枚。なんとも生々しく、新型アクセサリーでチューニング後は、ウッドベースが弾むようにグイグイ迫ってきます。

家に帰ってからも、あの弾けるグルーヴが耳に残り忘れられません。アルバムタイトルを教えていただき、私も早速CD盤を購入。「これこれ、この弾むベース!」と、自分の試聴システムでも同じ音が飛び出し、なんともご機嫌なアルバムです。

困ったのは、そのCD盤の素直なサウンドを聴いてしまうと、コンプで音圧アップされた昨今の音源が聴けなくなってしまうこと。実は今回の連載用にいくつか太鼓判音源候補を準備していたのですが、このCD盤に圧倒されてしまいました。

これはハイレゾ規格の音が良くないという意味ではなく、完全に音作りの問題です。このところの旧譜リマスターは不自然に音圧アップされ、音楽が平面的だと感じてしまいました。最新録音音源は、DAWによる音作りの影響か、音楽世界が小さく聴こえます。例えるなら、森が見たいのに、リアルな森の模型を見せられているような感じ。

音源の選出こそが、この連載の命です。何の商業的策略にも影響されずに、10年後20年後にも通用する高音質なハイレゾの音源のご紹介。この精神を貫くには、CD盤に聴き劣りするようなハイレゾ音源でどうする! 原稿締め切りに若干の猶予を頂戴し、太鼓判の再選出に挑みました。

といっても、そう簡単に良い音源は見つかりません。他のレビューを参考にしたり、ハイレゾ売り上げTOP 100 Albumをチェックしたりしましたが、どうにもグッとくる出会いがなく、太鼓判選出は暗礁に・・・。

運命の楽器との再会が導く、名盤との出会い

突破口は、アーティスト検索にありました。e-onkyoの検索は、なかなか優秀。メインのアーティストだけでなく、参加ミュージシャン名でも作品が抽出できます。検索ワードは『アンソニー・ジャクソン』。嬉しいことに、この名盤と出会うことができました!

 


『フレンチ・トースト』(96kHz/24bit)
/フレンチ・トースト




「とんでもない代物ベースが入荷しました。アンソニー・ジャクソン本人放出のPresentation #10です!」

5月末に飛び込んできた、そのビッグニュース。アンソニー・ジャクソン氏の楽器用ケーブルを製作している関係者ということで、私にも連絡が入ったのでした。このPresentation #10、私にとっても運命的な楽器です。早速、会いに行ってきました。その模様は、こちらに私のコメント付きで詳細がありますので、ぜひ。

それにしても、数々の名盤で活躍した、あのPresentation #10を、こうして構えているなんて信じられません。アンソニー氏のケーブルは製作していますが、楽器には触らせてもらったことは今まで一度もありませんから。



とまあ、こんなエピソードもあり、検索ワード『アンソニー・ジャクソン』となったわけです。

出会えた本作『フレンチ・トースト』は1984年録音ですから、アンソニー氏が引いているのはPresentation #10ではありません。Presentation #10が登場したのは、おそらく2000年くらいだったと思います。ちなみに、私がアンソニー氏にケーブル提供を開始したのは2007年。

Presentation #10のサウンドが堪能したいのなら、上原ひろみ ザ・トリオ・プロジェクトがオススメ。ハイレゾでは『MOVE』『Alive』がPresentation #10です。『Spark』からは、アンソニー氏はフルホロウ・ボディーの新型楽器 Presentation II を弾いています。上原ひろみ ザ・トリオ・プロジェクトは、どれも太鼓判ハイレゾ音源でオススメです。お待ちの方は、アルバムクレジットの “ Anthony Jackson plays Cables by Reqst ” も合わせてチェックしてみてくださいね。

さて本作『フレンチ・トースト』、文句無しの高音質です。どこにも誇張された帯域がなく、音像も前後左右上下と圧倒的に広い。音色は常に自然であり、鮮度も高い。ハイレゾならではの、マスター音源そのものを聴いているかのような器の大きさ。何より、音圧アップにる耳の痛さが無いのが嬉しいです。

実は、アナログマスターテープを単純にハイレゾ化しただけでは、こういうサウンドにはならないもの。レコード時代の音作りがそうさせるのか、アナログマスターテープをそのままデジタルアーカイブすると、高域が強調されたような音質になってしまいがちです。本作『フレンチ・トースト』には、匠の技によるマスタリングが、誰にも分からぬよう自然に施された結果がもたらす、このサウンドだと感じました。

必聴は1曲目の「ホワイ・ノット」。数々の名演が記録されている名曲ですが、本作が初収録とのことです。アンソニー・ジャクソン氏の圧倒的グルーヴ、超人的に正確なリズムを体験するなら、この「ホワイ・ノット」が最適。楽器経験がある人なら、「いったい、どうやって弾くんだ~」と悩んでしまうほどの超難曲を、スイスイと楽しんで演奏する名プレーヤーたち。そのエネルギーを全身で受け止められる魅力が、このハイレゾにあります。

コンピューター録音を使えば、確かにリズムを正確にすることは簡単です。しかし、この一糸乱れぬ魅力は出せません。例えるなら、特撮でCGの無い時代に、どうやって撮ったかわからないが、特殊技術には間違いない映像の魅力と言いましょうか。演奏者が一人一人コンピューターに合わせてパート毎に演奏するのではなく、息を合わせて同時録音で音楽にノッていく様子が、その音から伝わってくるのです。

そして、いよいよ今回の目玉である最終音質チェック。冒頭のJAZZボーカルCD盤と、本作『フレンチ・トースト』を交互に聴いてみたした。「うん、これだ!」 音楽ジャンルも違いますので、どちらが優れているという優劣の問題ではありません。ですが、間違いなくハイレゾらしさを『フレンチ・トースト』から感じることができる。

音圧アップの耳の痛さもなく、音像は広大。そして何より、グッとくる音楽、聴き続けていたくなる世界が記録されています。これでこそ、太鼓判ハイレゾ音源!



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筆者プロフィール:

西野 正和(にしの まさかず)
3冊のオーディオ関連書籍『ミュージシャンも納得!リスニングオーディオ攻略本』、『音の名匠が愛するとっておきの名盤たち』、『すぐできる!新・最高音質セッティング術』(リットーミュージック刊)の著者。オーディオ・メーカー代表。音楽制作にも深く関わり、制作側と再生側の両面より最高の音楽再現を追及する。自身のハイレゾ音源作品に『低音 played by D&B feat.EV』がある。