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「安里屋ユンタ」をはじめ竹富島の伝統歌を現地でハイレゾ録音した『The Sound of Taketomi - Okinawa』が多彩なフォーマットで配信開始

2017/06/02
赤瓦の屋根に白砂の道、水牛車……。沖縄の原風景がいまも残ると言われる竹富島は、石垣島から高速船で約10分の距離にある小島ですが、そこにはあの「安里屋ユンタ」の元歌をはじめ、実に多彩な島唄がいまも受け継がれています。レコーディング・エンジニアのミック沢口さんが録音を手掛けた『The Sound of Taketomi - Okinawa』は、そんな竹富島の音楽を、自然音とともに現地でハイレゾ・レコーディングによって捉えた注目作。e-onkyo musicでは、ステレオと5.0chサラウンド(HPL-5ヴァージョンは後日リリース予定)のPCM(UNAMASレーベル)、DSD 11.2MHz(RME Premium Recordingsレーベル)をそれぞれ配信中です。

取材・文◎山本 昇



 サラウンド研究の第一人者として名高いミック沢口氏が、また一つ興味深い作品を完成させた。沢口氏と言えば、ジャズやクラシック、日本の伝統音楽など、多岐に渡るジャンルの音を、マルチ・チャンネルやフィールド・レコーディングなど独自のノウハウを駆使したエンジニアリングで鋭く切り取り、自らが主宰するUNAMASレーベルで発表していることでも知られている。そんなハイレゾ界の雄とも言うべきUNAMASがこの度、RME Premium Recordingsレーベルとタッグを組んで手掛けたのが本作『The Sound of Taketomi - Okinawa』で、フィーチャーされているのは沖縄・竹富島の伝統歌だ。八重山諸島の中でも、小さな島に過ぎないが、「安里屋ユンタ」をはじめ、多様な民謡が伝承されるなど、文化的にも注目すべき点の多い竹富島。本作は、その音楽はもちろん、静かに打ち寄せる波や木々を揺らす風の音といった自然音をも捉えた、沢口氏らしいアプローチとなっている。

プレス発表で本作『The Sound of Taketomi - Okinawa』の制作を振り返る萬木忍さん(中央)とライン・プロデューサーの山崎潤一郎さん(左)。右はシンタックス・ジャパン代表の村井清二さん

■現地の貴重な音をDSD 11.2MHzやサラウンドで

 ミュージシャンは、竹富島に古より伝わる「種子取祭」(国の重要無形民俗文化財指定)の地揺(じかた)を務める萬木忍(まき・しのぶ)。その歌と三線を引き立てるのが、フルートとオカリナを演奏したマルチインストゥルメンタル・プレイヤーの幸枝(冒頭の写真、左の女性)、島太鼓を担当し、やはり地揺として多くの舞台に出演している根原格の二人。彼らの演奏は、島内の公民館で録音されたという。
「以前、萬木さんの三線を東京のスタジオで録ったことがあるのですが、そのとき、何か足りないなと感じたんです。その後、竹富島に行って桟橋の上で生録音してみたら、三線の音が全然違うんですね。こうした楽器はやはり、その地の空気の中で録るのがいいと実感しました」
 現地でのレコーディングに固執した理由をこう説明するのは本作のライン・プロデューサー、山崎潤一郎氏(インサイドアウト)。
 萬木忍は演奏者の立場から、こう補足する。
「確かに、気持ちの入り方は違ってきますね。スタジオという環境は、私たちの生活の中にあるものではないので。竹富島では“祭事(まつりごと)”が文化を支えていて、私もそういう中で学んできましたから、やはり気持ちも入りやすい。芸能に長けたこの島の空間に、自然とシンクロしてしまうんですよ」
 胴に蛇皮を張った三線という楽器そのものが、高温多湿の地域でよく鳴るようにできていることも一因だろうが、こうしたルーツ・ミュージックは特に演奏者の心持ちが音に現れやすいのかもしれない。風土と音楽が密接に繋がっていることの証であるとも言えそうだ。

 今回は、その貴重な歌と演奏を、4chサラウンドのPCM(24bit/192kHz)とステレオのDSD(11.2MHz)という2つのシステムで同時録音。いずれにもRMEの小型ながら高性能なオーディオ・インターフェースが使用されている。なお、沢口氏によれば、DSDで録音された音源は、Pyramix(DAW)の内部でデータ量が等しいDXD(32bit/352.8 kHz)のプロジェクトとして取り込んで編集(リヴァーブの付加やレベルの調整など)し、それをDSD 11.2MHzに戻しているという。
「こうした工程を同じDAWの中で行えるのはすごくいいことだと思います。アナログに変換して編集するやり方に比べて、ほとんど劣化がないのが大きな特徴です」と、その音質的なメリットを説明する(録音機材の詳細はこちらをご参照ください)。

「月ぬ美しゃ」を披露してくれた萬木さん。2015年にはアルバム『青い海が眩しい星砂の島で民宿を営む島唄歌手が奏でる心地よい音楽』もリリースしている

■オリジナル版「安里屋ユンタ」を完全収録

 さて、本作には竹富島に伝わる古謡「命果報ぬ願い(ヌチガフヌニガイ)」や子守歌「月ぬ美しゃ(ツキヌカイシャ)」といった島唄が収録されているが、中でも出色なのが「安里屋ユンタ」だろう。聴いてみると、我々が知っているヴァージョンとは歌詞が違い、しかも23番まである。
「そもそも八重山という地域は昔から貧しい農家が多かったんです。琉球王朝が取り立てる年貢もきつい。でも、みんなで楽しくいこうという生活の中で、一番必要とされたのが歌だったんです。そんな歌は、1番、2番じゃ足りないんですよ」(萬木氏)
 気になる歌詞の内容とは?……竹富島に実在した絶世の美女で貧しい農家の娘クヤマを、この島に赴任してきた目差主(みざししゅ)という階級の役人が見初め、賄女(現地妻)となるよう迫るも、クヤマはこの申し出を断る。そこで役人は、彼女への面当てか、クヤマ以上の美女を捜し出して……という顛末が延々と語られている。こうしたオリジナルの「安里屋ユンタ」は農作業など労働の場でよく歌われたというが、本作では23番までを前後半に分けて完全録音、後半のトラックはお囃子付きで収められている。ちなみに一般的に知れ渡っている「安里屋ユンタ」は歌詞が書き換えられたもので、現地では“新「安里屋ユンタ」”と呼んで区別しているそうだが、萬木氏らも、東京などでライヴを行う際は、新ヴァージョンを歌うことが多いらしい。
「さすがにライヴで23番まで歌うと、お客さんも寝てしまうでしょうから(笑)」(萬木氏)
 耳にする機会の少ない元々のヴァージョンをハイレゾで綴った本作。自然音とともに繰り返されるこの歌を聴きながら、労働歌として親しまれた背景に想いを馳せれば、どこかブルーズにも似た心像が去来する。資料的価値も非常に高いと言えるが、本棚にしまっておくようなものでなく、いまに伝わるリアルな民謡と捉えて耳を傾けたい。伝承音楽をベースとしながら、オカリナやフルートを採り入れるなど、形式に捕らわれないアプローチが見られるのも、本作の特徴だ。
「私は竹富島で民宿と民芸喫茶を経営していますが、数年前から、うちの店にライヴをしにきてくれる音楽仲間がたくさん増えました。その中で、フィーリングがかみ合う人とは一緒にやってみたいと思っていたんです。オカリナとフルートの幸枝さんは、彼女がギタリストの平倉信行さんと作った『OKINAWA~オカリナで聴く島の唄』という作品を聴いてすごく引き込まれまして、ぜひ参加してほしいと思いました」(萬木氏)

現地での録音の様子を語るエンジニアのミック沢口さん

■竹富島の多彩な自然音をほどよくミックス

 前述のように、『The Sound of Taketomi - Okinawa』には現地でフィールド・レコーディングされた自然音が音楽にほどよくミックスされている。文字どおり、現場の雰囲気や空気感をたっぷりと運んでくれているわけだが、その録音も沢口氏の手によるものだ。
「竹富島の自然音というと、当初は波の音や風の音くらいかと思っていたんですが、沢口さんにいろんなところを探し回ってもらったら、実に豊かで様々な音があることが分かりました」(山崎氏)
 確かに、この心地よい天然のホワイト・ノイズの向こうからは、鳥の鳴き声なども微かに聞こえてくる。一方、隆起珊瑚礁でできたのどかな小島というイメージの竹富島だが、自然音のレコーディングに関してはこんなエピソードも披露された。
「“日中の録音は無理でしょう”−−−萬木さんから事前にそう聞かされていたとおり、すぐ近くの石垣島がこの辺りのハブとなっていて、高速艇やフェリーがひっきりなしに行き来してエンジンの音が入ってしまうため、確かに昼間の録音は不可能でした。フィールド・レコーディングは、だいたい午後6時過ぎから深夜もしくは早朝に行いました」
 自然音の録音は、PCM(24bit/192kHz)による4chサラウンドで行われているが、特に印象的なのはその弾けるような波の音だ。砂浜に海水がサーッと沈んでいくのが目に見えるような瞬間もある。「この辺りの砂浜は珊瑚などが細かく砕けてできたもの。非常に解像度の高い砂の音がします」と沢口氏。星砂でも知られている竹富島は、波の音も、どこか独特なものがあるのかもしれない。

 こうして出来上がった12のトラックは、〈Hamabata(浜辺)〉、〈Usukaji(そよ風)〉、〈Kaji(風)〉、〈Hikinuyu(月夜)〉という4つの大きな括りで構成され、PCM(24bit/192kHz)はステレオと5chサラウンドで、DSDは11.2MHzのステレオで提供されている。より音楽に寄った印象のDSDは、各楽器の音色変化のグラデーションも鮮やかだし、サラウンドのほうは沢口氏が長年追求しているテーマであり、“サラウンド・スケープ”の第6弾となる本作も、この立体感はやはり素晴らしい。「僕らはこうした作品をバスタブ・ミュージックと呼んでいます。リラックスして気持ちよく音に浸っていただきたいですね」と語る沢口氏によれば、音量も控えめで聴くのがいいそうだ。萬木氏も、「ここまで高い解像度で再現できるのはすごいですね。こうした作品に協力できて嬉しいです」と、手応えを語ってくれた。


 プレス発表の翌日、小岩にある「居酒や こだま」で「竹富島地唄いライブ」を観た。萬木氏を含む竹富島からやってきた5名の演者に、ゲストで石垣島出身のミュージシャン迎里計が加わったステージは賑やかで熱く、とにかく楽しい。指笛が飛び交う中で感じるのは不思議な安堵感のようなもので、八重山に伝わる音楽の懐の深さを垣間見た気がした。いつかそこに行ってみたい−−−『The Sound of Taketomi - Okinawa』を聴きながら、しみじみとそう思う。

実際の録音風景から。右の人物は根原格さん。そして、左のマイクはPCM用に使用されたSANKENのCO-100KとCUW-180(アンビエンス)

こちらはDSD録音で使われたマイク(BLUE MICROPHONES Bottle Rocket Stage One)とプリ・アンプ(BLACK LION AUDIO Auteur Mk II)

同じくDSD録音で使用されたRME ADI-2 Pro。オーディオ・インターフェース(AD/DAコンバーター)なので、録音も再生もこれ1台で可能。小さな筐体ながら、DSDは11.2MHz、PCMは768kHzというハイ・スペックを備える



5月18日に「居酒や こだま」で行われた「竹富島地唄いライブ」。満員の観客を前に歌や演奏を披露する萬木さん(左から二人目)ら、竹富島民謡の継承者たち


UNAMASレーベル 作品一覧

RME Premium Recordings 作品一覧