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連載『厳選 太鼓判ハイレゾ音源はこれだ!』 第46回

2017/04/28
生々しいピアノを聴くならこれだ!
~ 大御所スティーヴ・ガッド & ウィル・リーの名サポートも必聴


ハイレゾはCD枠を超えるべき!

先日、本連載のために、多くのハイレゾ音源をまとめて聴いていたときのこと。「ふむふむ、これはアナログレコード盤みたいな音だな」「こっちはマスターテープを聴いているみたい」「残念、CD盤と変わらない音か」・・・あれ? ふと我に返って考えてみると、いったい自分は何の規格を聴いているのか分からなくなりました。

聴いているサウンドに 、一種の “枠” があることに気づいたのです。レコードの枠、CDの枠といったような。それが、見事にそのままハイレゾに記録されている。

ある意味、これはハイレゾ規格の成功と言えます。ハイレゾに、それらの枠を記録するだけの器があるということ。仮にハイレゾの音癖といった枠があるとしても、きっとレコード枠やCD枠よりハイレゾの器が大きいのでしょう。面白いように、レコード枠やCD枠といった枠の中のサウンドが、ハイレゾから聴こえてくるのでした。

CD規格時代は、そうではなかったのを思い出してください。聴こえてきたのは、CD規格自体の枠というか、あの独特な “硬くて、冷たくて、聴き疲れするCDの音癖” でしたから。
では、この音楽にはめ込まれた枠とは、いったいどこで生まれたのでしょう?
私が考えるに、それはもう “人間の意識” としか言いようがない。アナログレコード盤の時代は、レコードという完成形(カセットテープもありましたが)を目指して音楽を製作していました。その時代のアナログマスターテープの音は、まさにレコード盤サウンドの原型というような音質を感じます。意識的にせよ無意識にせよ、レコード盤という音の枠が自然と生まれたのでしょう。

そして時代は、CD盤のデジタル音楽世界へ。CD期の初期は、アナログレコード盤のノウハウそのままに突入したのですが、それではどうにも音質的にレコードと同じ結果にならない。そこでCD制作は音圧競争という独自の道を歩むのでした。CD規格という枠に適したのは、ぎゅうぎゅう詰めにした音楽だという悲しい認識の時代です。レコードの音からCDの音へと変わるのに、10年くらいかけて、20年くらい経ったあたりで完成したと感じます。

ではハイレゾ時代はどうなるのか? 今のところ、レコード枠とCD枠は、そのままだとハイレゾ音楽制作に通用しない。レコード時代のアナログマスターテープをそのままハイレゾへアーカイブしただけでは、なんとなくアッサリした音になりますし、かといってCD時代の音圧詰め込みサウンドだと、なんとハイレゾとCD盤とが同じ音になってしまう。これが「CDとハイレゾを聴き比べても、あんまり違いが分からない」の正体です。そりゃそうですよね、CD規格と同じ枠に音楽を閉じ込めたら、大きな器のハイレゾは、そのCD枠を再現するだけですから。

「それじゃあ、CD枠を取っ払って、ハイレゾの器いっぱいに音楽を記録したら良いではないか」と思いますよね? 実はこれ、超難しいのです。私も挑戦しました。自分のプロデュースした作品をハイレゾ・リマスターして、「はい、これこそがハイレゾの音ですよ」と皆さんにお聞かせしようとしたのですが、見事に撃沈。あまりCD盤と変わらない音のハイレゾが出来上がってしまったのでした。残念ですが、そのハイレゾ・リマスター音源は、発売せずにお蔵入りにしました。

音楽の枠は、きっと人間の意識が作り出しているはず。これを取っ払うには、レコード期からCD期へ移行したときのように、10年とは言わないものの、少し時間が必要です。人間は、きっと賢い生き物のはず。レコードからCDの時に一度経験したフォーマットの変化ですから、今回のハイレゾ期への移行はもっとスマートに、そして高みへと登りたいものです。

私の本業はケーブルや機材、オーディオアクセサリーの開発ですから、その段階でもCD枠を取り払っていきます。そしてこれからのハイレゾ音楽制作では、演奏するミュージシャンはもちろん、レコーディング、ミックスダウン、マスタリングでもCD枠を超えていく必要があります。これだけ魅力あるハイレゾという規格なのですから、CD枠を超えて解き放たれる日は遠くない。そう私は信じているんです。


ピアノが圧倒的なリアルサウンドで楽しめるハイレゾ

では全てのハイレゾ作品がCD枠を超えられていないかというと、既に未来を先取りしたサウンドは存在します。本連載の太鼓判ハイレゾ音源たちがそうですし、今月も驚くほどご機嫌なハイレゾ音源を発見しました!

『Somehow, Someday, Somewhere』(96kHz/24bit)/
Ai Kuwabara with Steve Gadd & Will Lee


1曲目、ピアノの音が飛び込んできます。“ガーン!” と鳴る重厚な低音弦のリアルさに、ただ事ではない音楽がスタートする鼓動を感じます。大きさといい重さといい、実物大のグランドピアノが目の前に出現しました。これはCD時代には困難だったこと。ハイレゾ時代、万歳!

私は、ピアノの音に並々ならぬ思い入れがあります。オーディオ好きの皆さんなら、きっと同じ想いの人も多いのでは? コンサートでもいいですし、音楽の授業を思い出してもいい。生のピアノを聴く、あの快感を思い出してください。そこにCD枠を感じますか? なぜCDで聴くと、ピアノはあんなに小さな器の音になってしまうの?

黒くて重たい、あのピアノの楽器としての巨大さ。片手で持てるギターやバイオリンとは比較にならず、ドラムだってあんなヘビー級楽器ではありません。その複雑な木製の塊の低音鍵盤が “ガーン!” と鳴る。複雑な倍音成分から成る、魅力的な重低音。これこれ、この “ガーン!” が本作では楽しめます。そんなにハードタッチな演奏でもないのに、ピアノの快感が本作では冒頭から感じられるのです。

演奏が良いのか、楽器が良いのか、エンジニアの録りが良いのか。おそらく全部でしょう。それにしても桑原あいさん、ピアノの神様に祝福されている演奏家のお一人だと思います。ピアノが面白いように、鳴りに鳴っている。世界最高峰のドラムとベースを従え、堂々たるピアノを聴かせてくれますよ!


名匠たちの強烈なサポートも魅力的

私は、桑原あいさんの作品を聴くのは本作が初体験。多くの方がそうであるように、私も “with Steve Gadd & Will Lee” にやられた一人。もう説明不要なくらいの大御所ミュージシャンであるスティーヴ・ガッドとウィル・リーのお二人が参加しているハイレゾなのですから、聴き逃すわけにはいきません。
両氏のファンで、白熱のバトル演奏や超絶技巧を期待していると、肩透かしを食らうでしょう。本作で聴けるのは、例えるなら王女を護る騎士のような演奏。これが粋というか、ニクいプレイというか、そりゃもう聖人の域の助演が楽しめます。もちろん、ドラムやベースのソロはある。でも、あくまで主役であるピアノを盛り立てるための援護射撃であり、俺が俺がと自分勝手に前に出るプレイではないのです。日本人ミュージシャンには、なかなか真似のできない演奏ですよね、これ!

もちろん、ドラムのブラシやシンバルワークといった、スティーヴ・ガッドだから鳴らせる極上のサウンドがハイレゾで記録されているのはもちろん、ウィル・リーの黒っぽいグルーヴと変幻自在のベースサウンドが高音質で楽しめます。

そしてもう一人の騎士は、エンジニアのジェイ・メッシーナ氏。キャリアからすると、レコード時代とCD時代の両方を生き抜いてきた名匠なのに、ハイレゾである本作からは全くそれらの枠を感じない。おそらく、ジェイ・メッシーナ氏に聴こえている、いや見えている音楽世界は、枠のない無限に広がるものに違いない。それを記録した結果が、本作の生々しいサウンド。ハイレゾは、こうでなくっちゃ!

本作は上質な演奏はもちろん、その高音質ぶりも大いなる魅力のひとつだと思います。本当に実力のあるミュージシャンたちの優雅なプレイを、世界的名匠エンジニアによるリアルな音質で味わう。ハイレゾの理想形かもしれません。さあ、これぞハイレゾ音源という太鼓判をご紹介しましたので、ぜひその再現に挑戦してみてください。私も頑張って鳴らしますよ~!



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筆者プロフィール:

西野 正和(にしの まさかず)
3冊のオーディオ関連書籍『ミュージシャンも納得!リスニングオーディオ攻略本』、『音の名匠が愛するとっておきの名盤たち』、『すぐできる!新・最高音質セッティング術』(リットーミュージック刊)の著者。オーディオ・メーカー代表。音楽制作にも深く関わり、制作側と再生側の両面より最高の音楽再現を追及する。自身のハイレゾ音源作品に『低音 played by D&B feat.EV』がある。