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復帰後初録音となる新曲も収録! カウンターテナー、米良美一の最新ベスト・アルバム『無言歌』がハイレゾで登場

2017/04/12
国内外の幅広い層から支持され続けるカウンターテナー歌手の米良美一さん。くも膜下出血による長期休養を経て、2015年にはステージに復帰してファンを安堵させた米良さんの最新ベスト・アルバム『無言歌』が届けられました。宮崎駿監督のアニメ映画『もののけ姫』で聴かせた衝撃の歌声から20年の軌跡を綴った全37曲の中には、復帰後初録音となる新曲「無言歌」も収録。e-onkyo musicではそのすべてをハイレゾで提供します。ここでは、ご本人にご登場いただき、現在の心境や今後へ向けた展望などについて語っていただきました。

インタヴュー・文◎美馬亜貴子 撮影(取材時)◎山本 昇

米良美一 『無言歌』



 アニメ映画『もののけ姫』の主題歌をきっかけに注目を浴び、近年はその個性的なキャラクターでテレビのバラエティ番組などでもおなじみの米良美一。2014年、くも膜下出血で倒れ長期休養に入っていた彼が、復帰後初となる作品『無言歌 ベスト・オブ・米良美一』をリリースする。折しもメジャー・デビュー20周年の記念の年に、これまでの歩みを総括したベスト盤は、「天上の声」と称された美しい歌声を余すところなく味わえる2枚組だ。ハイレゾによって鮮やかに再現されるヴォーカルの微妙なニュアンスや質感、そしてクラシックからポップス、歌謡曲までを網羅した多様なスタイルの楽曲も耳に愉しい。米良が本当に希有な才能を持った、唯一無二の歌い手であることを再確認できる内容だ。
 復帰明け、再び精力的に活動を始めた彼に現在の心境を聞いた。

■ありのままの自分を自然に眺める

――現在の体調はいかがですか?

 病み上がりは体力も落ちていたのですが、おかげさまでマヒとかもまったくなく、ぼちぼちですけどこうしてお仕事に復帰させていただいています。

――命そのものが危ぶまれるような状態だったのに、元気になられて本当によかったです。ご自身でも運が強いというか、「持ってる」と思われましたか?

 いえいえ、若い頃はそう思ったこともありましたけど、今回はそんな余裕もなかったです。謙虚になりましたよ(笑)。

――あら。

 病気がきっかけではあったんですけど、その前から様々な人との出会いの中でお仕事をさせていただいて、色々なことを考えてました。ここ10年くらい、若い頃からの自分の歩みとか、自分がしまった行動とかを思い返す機会が多かったのです。そんな折に2014年、くも膜下出血になって……。くも膜下には段階があって、「グレード5」は深昏睡など重篤な状態なんですけど、僕はそのひとつ前の「グレード4」の状態だったの。まあ、僕は元々ハンディがあるんですけど、今回のことで言語障害が残ったり、歌も歌えなくなるかもしれないってことが危惧されていました。でもね、言い方はアレですけど、しぶとく(笑)、こうしてまたみなさんとお仕事させていただけるようになるところまで回復しました。

――これまでは、「歌によって生かされていた部分が大きかった」そうですが、その歌が歌えなくなるかも、と思ったときはやはり恐怖でしたか?

 みなさんそういうふうにおっしゃるんですけど、そういうことを考える余裕もなくて、日々、粛々と病気と向き合うという感じでしたね。むしろ周りの人たちの方が、心配したり絶望的な気持ちになったりしていたと思います。当の本人は意外に静かで。じたばたしたところで受け入れるしかないわけですし、「なんとかなる」とも思ってましたしね。

――それは元々の性格なんでしょうかね。

 そうなんでしょうね。ご覧の通り、私は生まれたときからみなさんとは違う見た目ですし、難病も持ってますから。若いときは全部を受け入れることはできなかったんですが、でも、最終的には「自分が自分を救うしかない」ということに気がついたんですね。それで今は、すべてとは言わないものの、ありのままの自分を自然に眺めることができるようになりました。以前はギラギラ、メラメラしてたけど。

■音楽を通して自分を深く見つめてきた20年

――今回ハイレゾ配信されるのは、CDデビュー20周年を記念するベスト盤ですね。

 その前にインディーズで出してるんですけれど、キングレコードさんで作らせていただいたアルバムから20年ということで。闘病中はそんなに欲張った考えはなかったんです。早く復帰したいとか、そんなことを思える余裕もなかったし。入院していて手術を二度ほど受けたので、歌の練習ができる環境でもなかったですからね。元々の性格はメラメラしてるんですけど、今後についてはちょっと冷静にならざるを得ない状況だったんです。そんなわけでぼちぼちやっていけばいいやと思ってたところ、ありがたいことに1枚目のアルバムを担当してくださったプロデューサーさんが、「ご自分のために一回総まとめをしてリセットしてみたら」と言ってくださったんです。
 キングレコードさんとは正直なところ、一度は離婚したような関係だったんです。「あんたなんかともう仕事しない!」みたいな(笑)。でも、そのプロデューサーさんがご好意で、「もう一度作品作りましょうよ」と言ってくださって。その中に1曲だけ「“今の米良美一”を示す新曲を入れよう」ということで「無言歌」を録音しました。

―米良さんにとって、歌手として生きてきた20年とはどのようなものでしたか?

 いやあ、いろんなことがあり過ぎましたね。もう歌手としては活動できないなと思うこと……声が出なくなってしまったこともありましたし、精神も病みましたし。僕は幼少期から人に隠すような闇をいっぱい抱えてましたから、自分のような人間がスポットライトを浴びてはいけないと、自己否定する気持ちがずっとあったんです。やはり身体的特徴を言いはやされるような、いじめに似たことも経験があったので、先に自己防衛をして構えて、人と距離を取ってしまう部分があって。それなのに一方では「有名になりたい」という気持ちもある。よく言えば「歌で人を喜ばせたい」ってことなんですけど。地元の敬老会で歌ったりすると、それまで偏見を持って見ていた人も凄いと褒めてくださいましたので、歌さえちゃんと歌えたら“生きづらさ”が少しラクになると思ったんですよね。
 僕の母は精神的にあまり強くない人だったこともあって、親子関係は複雑だったんです。それでも僕はいつも母に愛されたいと願っていた。そしてそれが歌によって叶えられると感じていたんですね。歌を歌って褒められたときは母も喜んでいましたので。そういう意味でも、常に音楽を通して自分を深く見つめてきた、そんな歳月だったとも思います。

自らの音楽に対する想いやこれまでの人生について、率直に語ってくれた米良美一さん


■新曲「無言歌」に込めた想い

――「歌は人なり」とよく言いますけど、たとえばマリア・カラスとかエディット・ピアフなど、過酷な人生を送った人の歌が心に染みてしょうがないってことがありますよね。一人の人間の人生として、幸せだったかどうかはわからないけど、それを聴く人たちは最高のものを享受できるわけで、そうなると優れた歌い手とは、神様が選んだ芸術の生け贄なんじゃないかという気がするんですよ。

 いやいや、それはね、迷信! もう21世紀だからね、そうじゃないあり方を目指さないと。実は僕も、前はそういうふうに思っていたんです。波瀾万丈じゃないと歌えないと。本当にマリア・カラスやエディット・ピアフみたいになりたかったですし。でもね、やっぱり人はみんなと手を取り合って……別に宗教的な意味ではないんですけれど、そうすることによって平和が実現すると思うんです。涙を流すのは心の掃除のためならいいですよ。でも、わざわざ暗い気持ちになるために音楽をやるのは悲し過ぎる。私自身、今までずっとそれが芸術なんだと思ってたのでよくわかります。
 アーティストだから、芸能人だからという理由で酒に溺れて、クスリに手を出して、何億も借金を作って、なんて必要はないわけです。誰にも頼まれてないもの。でも、そうしなきゃいけないという気持ちになったり、魅力を感じて同調してしまうというのは、自分の中に原因があるんです。僕はこの数年、そこと向き合ってやってきて、自分も幸せになりたいし、出会った人も幸せにしたいという結論に至りました。私が乱れきってしまうとみんなを悲しい気持ちにして動揺させてしまう。生きてるだけで公害みたいになっちゃう。もちろん、まだいろんな課題はありますし、完璧ではないですけど、不幸願望みたいなものはもう捨てようと。まったく違う境地に行きたいなって思ってます。

――その新境地が今回、新曲として収録されている「無言歌」なんですね。

 20年前からキングレコードでお世話になっているプロデューサーさんが持ってきてくれた曲です。私が生死をさまよう大病をして、久しぶりに彼から連絡があって、これからもう一度「新しい気持ちで仕事をご一緒しませんか」って言ってくださって。ベスト盤というと、どうしても“過去の作品集”というイメージがありますけど、そうではなくて、新しい一歩を踏み出すための総まとめなんですよね。ここで一旦、区切りをつけ、俯瞰的に自分が歩いてきた道を見て、「ここから未来に向けて何ができるのかということを考えよう」と、「無言歌」はそのための作品なんです。

――本当に素晴らしい声です。ハイレゾだと、なおのこと引き立ちますね。

 でも自信はないんですよ。猜疑心のかたまりなんです。人のことも信用しない代わりに、自分のことも信じてない部分があって(笑)。

――こんな声を持っていて、そんなことを言うのが信じられない(笑)。

 まあ、それは欲張りだからなんでしょうね。これで身長が180センチあってイケメンだったらなぁと思うもん(笑)。僕、もの凄く煩悩があるんですよ。108つあるらしいですけど、ほとんど持ってますから(笑)。でも、その煩悩の苦しみがあるからこそ、それに囚われないように自分をどう改めていけばいいかと考えることもできるわけでね。

■人間が生み出すものには人間が反映される

――今の米良さんにとって「良い歌い手であろう」というのは「良い人間であろう」ということと同義なんですね。

 その通り。良い人間になりたいです。もうね、来世があるとしたらもうひどい状態では生まれてきたくないの。できるだけ健康で、そしてみんながため息を吐くくらいの美しさを持って、そして知恵も謙虚さも備えて(笑)。みんなに愛されて、子供を慈しんで。

――フフフ、欲張りですね(笑)

 でしょ??(笑) 不憫な要素を持ってるとね、ひねくれやすいんですよ。臆病にもなりますし。僕もそうだから、できるだけそうならないような状態で生まれたいです。でも、そういうコンプレックスや陰の感情が反映されやすいのが音楽だったり絵だったりするんですよね。芸術に限らず、人間が生み出すものには人間が反映される。そこに怖さがあるんですけど。

――「3オクターブ半」という音域のことが何かと取り沙汰されますけど、実は米良さんの歌の良さって、そこが重要なんじゃないんですよね。

 そう! 凄い! そうなんですよ、ありがとうございます。それは重要じゃないの。ひとつの売りではあったから仕方ないんですけどね。「もののけ姫」は20年近く前のことなんですけど、その頃は森山直太朗さんも平井堅さんもいなかったから、裏声で歌うのはマヒナスターズくらいで(笑)、珍しい存在だったんです。

――あの歌を初めて聴いた時はもう、「誰が歌ってるんだ!?」って。声で心がざわつくってあんまりないことですよ。

 ハハハ。いろんな意味でざわついたんじゃないですか? 祟り神みたいに思われて(笑)。宮崎駿監督ご自身も、僕の歌声をラジオで聞いて声をかけてくださったんですね。その時はどこの国の人かもわからなかったし、子供か大人かも、男か女かもわからなかったとおっしゃってました(笑)。でもありがたいことですよね。みなさんが歌を通して僕のキャラを決めてくださるのは。そうやって人から見えてる自分が一番光り輝いてるのかな、と今は思いますから。昔はイメージを決められるのが嫌でしたけど。

――年月を経て到達できた境地ですね。

 そう、年月を経ないとそうはならないですよ。だってナルシストだもん、僕。だからいくら褒められても自分で納得しないと満足できなかったし。

――このベスト盤は2枚組37曲というヴォリュームですが、「ゴンドラの歌」や「月がとっても青いから」、「蘇州夜曲」など、昔から日本人に歌い継がれてきた名曲が多く収録されていますね。米良さんは過去にはバッハなどクラシック歌曲の録音も多く残していますが、今は日本の曲に力を入れたいということですか?

 いえ、そんなことはないですよ。先日は全部英語で、ハリウッド映画の『終戦のエンペラー』の主題歌を歌ったりもしました。お声がかかればどんな曲でも歌います。あと、私が最初に注目された『もののけ姫』がアニメーションでしたので、またアニメからの引き合いがあったり、いろんなジャンルのオファーをいただいてるので、ぜひ今後を楽しみになさってください。まあ、愉しくやっていきますよ。

「この度、素敵なベスト・アルバムをキングレコードさんから出させていだきました。2014年に生死を彷徨う大病を患い、将来がどうなるのかと不安だったのですが、またこうして音楽のお仕事をさせていただけるようになりました。これも祈ってくださった皆さんのおかげだと思っています。20年前に初めてキングレコードからCDを出して以来、何枚も作品を作りました。その中から選りすぐりの美しい曲をベスト・アルバムとしてまとめました。そのうち1曲は新曲で、グルジア(現ジョージア)出身の世界的な作曲家ヴァージャ・アザラシヴィリさんによる哀愁があって温かい曲を歌わせていただいています。ぜひ皆さんに、このベスト・アルバムを聴いていだけたら嬉しいです。ありがとうございました」


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