PC SP

ゲストさん

NEWS

現代の巨匠、ルドヴィコ・エイナウディが語る自らの音楽と最新作『エレメンツ』

2017/04/05
クラシックをベースにしながら、ロックやフォーク、民族音楽、エレクトロニカといったフィールドにも自由に行き来するイタリアの人気作曲家にしてピアニストのルドヴィコ・エイナウディ。4月16日(日)には「すみだトリフォニーホール」での来日公演を控える彼に、自らの音楽について、そして、e-onkyo musicでも好評配信中の最新作『エレメンツ』の曲作りなどについて語っていただきました。

インタヴュー・文◎原 典子 撮影◎山本 昇

ルドヴィコ・エイナウディ『エレメンツ』



 ルドヴィコ・エイナウディは、ヨーロッパをはじめ世界中で絶大な人気を誇るコンポーザー・ピアニスト。アルバムをリリースするたびにクラシック・チャートで1位を記録し、コンサートでは大きなホールがどこも満席、映画音楽の分野でも数々の賞を受賞……こう紹介するとロック・スターのようだが、その音楽はどこまでも静謐で美しく、聴く者の心にすっと入ってくる優しさに満ちたインストゥルメンタル・ミュージックである。新作アルバム『エレメンツ』を引っさげてのアジア・ツアーを前に、日本を訪れた巨匠に話を聞いた。

■「間」の重要さと意味を教えてくれた日本文化

――たいへんな日本通でいらっしゃるそうですが、日本を訪れる際に楽しみにしていることはありますか?

 ツアー中はなかなか時間がとれないのですが、見知らぬ街をひとりで散歩するのが好きなので、写真を撮りながら東京の街をじっくり見て回りたいですね。実際に自分の足で歩くことでさまざまな発見がありますし、今まで思いもよらなかったことを思いつくこともある。どこに行くあてもなく歩いて、路地に迷い込んだら、それもまた楽しいのです。

――「西洋音楽は音符が多すぎる。80年代に“禅”と出会い、音楽の“余白”の大切さにはじめて気付いた」と語っていらっしゃいますが、新作『エレメンツ』には、そういったエイナウディさんの志向がより強く反映されているように感じました。極限までそぎ落とされ、必要な音だけがそこにあるという。

 たとえばヨーロッパの街や家は、それまでの長い歴史を感じさせる「もの」であふれかえっています。隅々に至るまで隙間なく埋め尽くされ、あらゆる時代の記憶が層のように積み重なっている。そういった空間に身を置くと、呼吸が苦しくなってくるように感じることがあります。あいだに「間(ま)」がないからですね。けれど、私たちは「間」があってはじめて、ひとつひとつの「もの」の価値を味わうことができるのではないでしょうか。私がそのことに気付いたのは、日本の文化に出会ってから。かねてから日本の写真を見たり、禅についての本を読んだりしていましたが、はじめて日本を訪れたとき、この「間」という概念の重要さと意味を、「ああ、こういうことなのか」と、よりはっきり理解しました。それは音楽でも同じことが言えると思います。音楽のなかに「間=静けさ」があることによってミステリアスな感じが出ますし、聴く人たちが、その「間」をそれぞれの解釈で味わうことができる。それがいろいろなイマジネーションや考えにつながっていくことが、とても興味深いと感じています。

とても穏やかにインタヴューに応じてくれたルドヴィコ・エイナウディさん


■切り取られた断片が自分と会話をし始める

――今作のライナーノーツに、「『エレメンツ』は心機一転、今までとは違った“意識の小径”を歩んでみたいという欲望から生まれた」とありますが、これまでの作品とは意識のうえでどう違ったのでしょう?

 新しいアルバムを作る際には、毎回必ず自分をリセットし、新しく生まれ変わったような気持ちで臨むようにしています。今まで培った知識や経験を一度すべてゼロに戻して、子どものような目線で、あらゆるものに新鮮な驚きを感じる。そうやっていつも新しいものに挑んでいます。『エレメンツ』というアルバムもまた、「音楽とは何か」「この世がどこから来て、どこに行くのか」といった根源的なことを、もう一度ゼロから考え直していくなかで生まれました。古代の哲学、科学、幾何学、芸術……さまざまな分野の書物を読み、古代の人々がこのような問いに対してどう考えていたのかを学んだり、あるときは数学の様式からインスピレーションを得たり。石のしんとした佇まいや、木のあたたかな手触りなど、自然界からもたくさんのインスピレーションをもらいました。

――たとえば「ひとつがふたつに(原題:Twice)」という曲では、3つの音がシグナルのように繰り返されるのが印象的でした。これも、何かからインスピレーションを受けて作られたのでしょうか?

 この3つの音をとくに意識して作ったわけではありません。というのも、私は作曲をする過程で、よく自分が弾いた音を録音するのですが、それを聴き直しながら、一部分だけを抽出することがあります。「ここを切り取ろう」と決めて抽出することもあれば、かなりランダムに切り取ることもある。そうすると、切り取られた断片が、これまでとは違った意味や言葉を持ちだして、自分と会話をしはじめるのです。その会話のなかでひとつのメロディ、ひとつの音楽が出来上がっていく……今回の「ひとつがふたつに」でも、そのような現象が起こりました。

――『エレメンツ』収録曲のライヴ映像を観ましたが、CDとはアレンジも違いますし、ライヴならではのグルーヴ感もすごいですね。やはりツアーで何度もライヴを重ねるうちに変化していくものなのでしょうか?

 まさしくその通りです。昨年は120~130回のコンサートを行なったのですが、音楽というものは本当に毎日毎晩、同じではいられないものなんですね。その日によって、同じ曲でも速かったり、凝縮されていたり、楽しい気分になったり、ちょっと寂しい雰囲気だったり、さまざまな色合いに変化していきます。また、時間が経つことによって、音楽が自分のものになって、その可能性をすべて理解できるようになることもあると思います。ですので、「これはちょっと変えたほうがいいな」と思ったら実際にやってみて、「やっぱり元の方がよかったな」と思ったらまた変えて……という具合に、つねに変化を怖れずに演奏しています。だからこそ、毎晩のコンサートを新しい気持ちで迎えられるのでしょう。

■素晴らしい環境で音楽を聴いてもらえるのが嬉しい

――ハイレゾで『エレメンツ』を聴くと、静かな部分にもひそかにいろいろな音が入っているのがよく聞こえます。まさに「余白が聞こえる」というか。エイナウディさんの音楽を、もしサラウンドで聴けたら素晴らしいのではないかと思うのですが、そういった音響にご興味はお持ちですか?

サラウンドは、音に囲まれてより奥深くその世界を感じることができますし、コンサートのような音響を味わうことも可能です。また、音の根源というか、その音がどこから来たのかも分かりますし、さまざまな響きを楽しめる。そういった意味では、とても興味深いのですが、今の状況では、サラウンドという環境で音楽を聴ける人というのは、きわめて少ないのでは、とも思います。街を歩いていると、本当に小さなイヤフォンで音楽を聴いている人をたくさん見かけます。あらゆる音があふれ返る雑踏の中で音楽を聴いていたりとか、もう今は、ものすごい状況ですよね。そういう光景を目の当たりにすると、自分が日々追求している音は、一体どこへ行ってしまうのだろう? と考えてしまうこともあるのですが、e-onkyo musicのユーザーの皆さんのように、素晴らしい環境で音楽を聴いている方々が日本にはたくさんいらっしゃると伺って、とても嬉しく思います。

――現在は、音大でクラシックを専門に勉強した若者が、ロックやエレクトロニカのグループで活躍したり、両方のフィールドを自由に行き来するアーティストも増えてきていますね。クラシックの道に進み、ルチアーノ・ベリオに師事しながら、ロックやポップス、民俗音楽、エレクトロニカなど、あらゆる音楽を取り込んでボーダーレスに活動されてきたエイナウディさんから見て、「ポストクラシカル」「ネオクラシック」と呼ばれるような新たなムーヴメントをどうお感じになりますか?

 いろいろな世界が交差して、互いにコネクションを持ち、混じり合うことによって生まれる「スパークル(輝き)」があると思います。人間ははるか昔から、旅をすることによって民族同士が交じり合い、いろいろな文化が生まれてきましたね。殻の中に閉じこもらず、オープンにいろいろな出会いを経験することで、新しいステージが拓けることもあります。音楽に関しても同じで、クラシック音楽と呼ばれるものが、新しい考え方、新しい目線で作曲されたり、演奏されたりすることは、とても良いことだとポジティヴに考えています。

――興味深いお話をありがとうございました。



◆コンサート情報
「ルドヴィコ・エイナウディ日本公演2017」
日時■4月16日(日)開場16:30/開演17:00
場所■すみだトリフォニーホール(大ホール)
*詳細はこちらをご覧ください

来日メンバー
Ludovico Einaudi:piano
Federico Mecozzi:violin, guitar and keyboards
Redi Hasa:cello
Francesco Arcuri:guitar, waterphone, percussion
Riccardo Lagana:frame drum, percussion, vibraphone
Alberto Fabris:live electronics, electric bass


【関連作品】

ルドヴィコ・エイナウディ『北極に捧げるエレジー』