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連載『厳選 太鼓判ハイレゾ音源はこれだ!』 第45回

2017/03/24
神保彰氏の新作ハイレゾ × 2作品は、異なる海外マスタリングに注目!
~ 公開取材イベントのご報告


良い音から生まれた、良いイベント

先日開催しましたイベント『「厳選 太鼓判ハイレゾ音源」を聴く! 試聴イベント フィーチャリング神保彰』は、超満員のお客様で大成功でした。ご参加いただいた皆様、本当にありがとうございます。とっても楽しかったです!

スピーカーから1曲目が鳴り終えてすぐ、スペシャルゲストのドラマー神保彰氏から「ドラムの音がイイですね~(笑)。ドラムの音というのは、ゴムマリが弾ける感じというか、柔らかいものがポーンと弾けるような音が自分にとっては理想なんですけど、今日はその理想的な音で鳴っています!」と、絶賛のコメントを頂戴しました。

お客様からのご感想も、「オーディオを聴くというより、生の音の聴くという感じが、非常に楽しかったです」、「音のハリ、パンチ! いい感じでした」と、私が今回のイベントでのパフォーマンス・テーマとして掲げた “音楽エネルギーの再現” を、しっかりと体感していただけたようです。

アンケート結果でも “サウンドへの満足度” は、ほとんど全員の方が5段階で最高評価の星5つでした(ちなみに、他は星4つ×2で、星1つ~星3つはゼロ)。イベント会場でのリスニングですので、席によっては音に不満のある方が居て当然。音量だけ考えても、最前列は大きすぎて、最後尾は聴こえにくいものです。この高評価は、従来イベントに無い嬉しい結果でした。

そして、なんといっても、お客様の笑顔、笑顔、笑顔! 私はイベントを毎週開催していた時期がありますので、今まで数百回はオーディオイベントを経験したことになりますが、その中でも3本指に入るくらい楽しく、印象深いイベントとなりました。




こんなに違う?! 2作品のレベル差の秘密とは

イベントで鳴らした神保彰氏の新しい2作品。あの日のサウンドが何よりの証拠、弾ける音楽エネルギーと圧倒的クオリティーの高さで太鼓判です!



公開取材イベントということで、必ず神保彰氏に確認しようと思っていたのが、今回の2作品のレベル差について。下記の波形を見てください。上の波形が、『21』のオープニングを飾る1曲目「テイク・イット・イージー」。下の波形が、『BROMBO Ⅲ !!!』では派手めなホーンセクション入りの5曲目「ロリー・ロウリー、プライヴェート・アイ」です。




波形より、2作品のレベル差は明らかです。『21』のレベルが高いというより、『BROMBO Ⅲ !!!』のレベルが低いという感じでしょうか。実際に聴くと、4dBくらいの差に感じます。『BROMBO Ⅲ !!!』を聴く時は、かなりグイッとアンプのボリュームが上げる必要があります。

さて、なぜこのようなレベル差が発生したのか? もしかすると『BROMBO Ⅲ !!!』はマスタリング無しで、ミックスダウンデータそのままなのか? 同時にロスで制作された2作品ですから、謎は深まるばかりです。このレベル差について、神保彰氏に直撃質問してみました。



神保: 『21』は、例年通りジーン・グリマルディという、レディーガガも手掛けるロスのファーストコールのマスタリング・エンジニアにやってもらいました。JBプロジェクトの『BROMBO Ⅲ !!!』は、レコーディング・エンジニアのトム・マッカーリーが「マスタリングもやりたい。自分にやらせてくれ」と。それで波形を並べると一目瞭然、『21』に比べると『BROMBO Ⅲ !!!』は、レベルがかなり低いんです。

レベルが高いことの利点はありますが、目一杯レベルを入れてしまうことで失われてしまう音も確実にあるんです。トムのマスタリングによる波形を見ると、ダイナミックレンジの広さをレコーディングした状態のまま保ちたいという意図が、すごく伝わってきます。レベルを持ち上げると、確かにガツンとくるんですけども、やはりダイナミクスが落ちたときに、その繊細感というのはどうしても失われますよね。

『BROMBO Ⅲ !!!』は、「こんな感じのマスタリングなんだけど」と最初に聴いたとき、レベルが低いなとは思いました。『21』と比べると歴然としていますから。「うーん、どうなんだろうな?」と思って何回か聴いてみると、確かに音楽優先のマスタリングの仕方なのかなと、トムの意図するところが見えてきました。ですから、あえて「レベルをもっと入れてくれ」とは言わなかったです。



これって、なかなか勇気がいるんですよね。やっぱりレベルが入っていた方が、他の曲と並べて聴くときに有利ですから。聴く側でボリューム操作をすればいいだけのことなのですが、音楽制作側からすると「音圧が低く迫力がない」とならないか不安になります。でも、ハイレゾを聴く人なら、音圧よりもダイナミクス優位を取るでしょう。このレベル、大歓迎ですよね。

実際にこの2作品を聴き比べてみましょう。『21』は理想的なレベルと言えます。さすがロスのファーストコールのマスタリング・エンジニア、素晴らしい仕事っぷりです。音圧が高く迫力があるのに、耳に痛いところはなく、ダイナミクスも十分に感じられる。日本のマスタリング界が学ばなければならないところがたくさんある、見事な仕上がりだと思います。

一方『BROMBO Ⅲ !!!』は、確かにそのままのボリューム位置では音が小さく、せっかくブライアン・ブロンバーグの分厚い低音を期待したのに、最初は肩透かしを食らったよう。でもご安心を。グイッとボリュームを上げてみてください。5曲目が最初から勢い全開の曲なので、音量を合わせやすいかと思います。

オーディオ好きなら『BROMBO Ⅲ !!!』を高く評価するのではないでしょうか。マスタリングでレベルを上げなかった大英断は、音楽のダイナミクスをリアルに感じられるという、確実にプラスの結果につながっています。ウッドベースの、そしてドラムの、細やかな音の余韻までを失うことなく記録している。オーディオのリファレンス的ハイレゾ音源として、必ずチェックしていただきたい『BROMBO Ⅲ !!!』です。

『BROMBO Ⅲ !!!』のハイレゾ特典とは


『BROMBO Ⅲ !!!』のCD盤は10曲入りで、ハイレゾ版は11曲入り。あれ? 1曲多いぞ!

そうなんです、嬉しいことに『BROMBO Ⅲ !!!』にはハイレゾ版のみのボーナストラックが存在します。大々的に宣伝文句が無いので、私も見逃すところでした。

ハイレゾ版のボーナストラックは11曲目「ストラタス(special version for Hi-Rez)」。同じ曲名のトラック2との違いは?

トラック2「ストラタス」は、ウッドベースとエレキベースの競演。ブライアン・ブロンバーグのオーバーダビングにより、あたかも二人のベーシストがバトルするようにスリリングなベースソロを聴かせてくれます。エレキとウッドという、2種類の低音楽器が楽しめる要チェック曲です。

一方、トラック11の「ストラタス(special version for Hi-Rez)」は、ウッドベースのみの演奏です。ドラムなどの演奏はトラック2と共通とのこと。いわゆる、エレキベースをダビングする前の、ネイキッドな「ストラタス」がハイレゾのみ聴けるのです。まさにボーナス!

私はエレキベース好きですからトラック2も大好物ですが、おそらくオーディオ好きの皆さんならネイキッドな「ストラタス」は垂涎もの間違いなし。ぜひ聴き比べてみてください。

イベントで鳴らした『21』と『BROMBO Ⅲ !!!』の楽曲たち

『21』からは1曲目「テイク・イット・イージー」と3曲目「トウキョウ・スカイライン」を鳴らしました。どちらも、これ以上そぎ落とすことのできないほどシンプルなメロディー。ジーン・グリマルディのマスタリングが光ます。神保氏が理想とする「ゴムマリの弾ける感じ」のドラムが再現できるかどうかがポイントです。

『BROMBO Ⅲ !!!』からは、1曲目「アクチュアル・プルーフ」からスタートし、2曲目と11曲目で「ストラタス」の聴き比べ、そしてドラムとウッドベースのデュオの9曲目「ブロンブルー」を鳴らしました。この「ブロンブルー」も必聴。楽器の数が少なくなるということは、それだけハイレゾという記録の器を独占できるということ。イベントでは会場いっぱいにウッドベースとドラムが広がりました。圧巻の演奏、そしてハイレゾならではの豪快なサウンドが堪能できるトラックです!

なぜ海外へ行って音楽制作するのか? その質問に神保氏は明確に答えてくれました。何と素敵なメッセージではないですか!



神保: 今は本当に便利な時代で、ファイルを交換するだけで世界中どこに居ても音楽の共同制作ができる環境です。やっぱり古い言葉ですけど「合奏する」というのが非常に大事で、一緒にその場に居て演奏すると、人間同士ですから必ず予測不可能な何かが起こるんですよね。それが足し算ではなく、化学反応が起きて掛け算になる。その掛け算の効果を僕はいつも楽しみに、海外へ出掛けていきます。実際、今回は凄いですよ! 何とかの何乗ってありますけど、今回は10乗くらいの掛け算が起きたような気がします。



今年も『21』と『BROMBO Ⅲ !!!』という素晴らしいハイレゾ音源が届きました。私が神保彰氏のファンということを抜きにしても、文句無しの太鼓判ハイレゾ音源です。

そしてまた来年、新作でご縁があれば、今回お集まりいただいた皆さんと、そして新しくご参加いただく皆さんと一緒に、神保彰氏をハイレゾイベントにお呼びしたいものですね!



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筆者プロフィール:

西野 正和(にしの まさかず)
3冊のオーディオ関連書籍『ミュージシャンも納得!リスニングオーディオ攻略本』、『音の名匠が愛するとっておきの名盤たち』、『すぐできる!新・最高音質セッティング術』(リットーミュージック刊)の著者。オーディオ・メーカー代表。音楽制作にも深く関わり、制作側と再生側の両面より最高の音楽再現を追及する。自身のハイレゾ音源作品に『低音 played by D&B feat.EV』がある。