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DSD11.2MHzに見合う名演にして名録音の登場! ヴァイオリニスト寺井尚子の最新作『Piazzollamor』はピアソラへのオマージュ

2017/03/29
ジャズ・ヴァイオリニストの寺井尚子さんが「自分にとって重要な作曲家の一人」と語るのが、アルゼンチンの偉大な音楽家であるアストル・ピアソラ。その没後25年となる今年、寺井尚子さんが放つニュー・アルバムこそ、ピアソラに捧げた『Piazzollamor』です。そんな寺井尚子さんへのインタヴューからは、音楽に対する深い想いと、録音にかける強い意志が伝わってくるようです。本作はもちろん、寺井さんの作品を多数手がけるレコーディング/ミキシング・エンジニアの鈴木智雄さんへのメール・インタヴューと併せてお楽しみください。

インタヴュー・文◎鈴木 裕 撮影◎山本 昇
◆e-onkyo music独占 DSD11.2MHzバージョン!


『Piazzollamor』 寺井尚子



 もしジャズ・ヴァイオリニスト寺井尚子のピアソラを聴いたことがなかったら、それは人生の大きな損失だと思う。そこには迸るような情熱があり、深い憂愁がある。そして、その素晴らしい最新作『Piazzollamor』の音楽をDSD11.2MHzという高いクォリティの再生音で楽しめるようになったことを素直に喜びたい。編集が利かず、なおかつ細部まですべてが聴けてしまうようなクォリティのフォーマットゆえ、それに見合うような演奏を収録することが難しかったのだ。その決定的な名演奏で名録音がここに登場した。
 神奈川県出身で4歳よりヴァイオリンを始め、1988年、ジャズ・ヴァイオリニストとしてプロ・デビュー。以来、たくさんのアルバムを作ってきた。今回はピアソラ没後25年ということで、ピアソラに捧げる オマージュ・アルバムだ。今までも、1999年のアルバム『PURE MOMENT』での「アディオス・ノニーノ」や2001年の『All For You』、2011年のライヴ盤『LIBERTANGO IN TOKYO』、2015年の『HOT JAZZ』でも「リベルタンゴ」を取り上げてきた。あるいは前作にあたるスタジオ・アルバム『Twilight』での「ブエノスアイレスの冬」の名演奏も記憶に新しいところだ。

■強いメロディを持つピアソラで“どうジャズるか”

――今回はピアソラへのオマージュなんですね。

 今までもピアソラには深いを思いを持ってきました。昨年、ピアソラのバンドでピアニストを務めたパブロ・シーグレスさんとの共演がありました。そのあたりから次はピアソラかなというのがぼんやりと見えてきました。また、2017年がピアソラの没後25年ということで、今しかないと思いました。

――ピアソラの魅力をどんなところに感じていますか。

 私の場合は、これまでもオリジナルのジャンルは問わないというスタンスでレコーディングしてきました。ジャンルは問わず、“どうジャズるか”が一番のテーマだと考えています。ピアソラの曲というのは何と言ってもメロディが強いんです。一回聴いたら忘れない、人を惹きつける力があります。コンチェルトが凝縮されたような構成になっている。そのあたりの魅力をあらためて感じつつ、今回のプロジェクトを進めてきました。

――アルバム・タイトル『Piazzollamor』の意味を教えてください。

 ピアソラの曲をアレンジしてリハーサルをし、また手直ししたり、という繰り返しを2ヵ月くらいずっとやっていたのですが、ピアソラと出会えて良かったという思いやピアソラの曲の構成の素晴らしさをあらためて感じました。そんな折、自分の中にすーっと降りてきたのが「ピアソラモール」のメロディです。ピアソラと出会えての私の音楽人生――いや、人生そのものと言ってもいいからしれませんが――本当に良かったなぁ、ありがとうございますという気持ち、尊敬と感謝を込めてこの曲を作りました。言葉自体、ピアソラ+アモール、という造語で、愛を込めて、ということなんです。それをアルバム・タイトルにもしました。

――全曲をピアソラだけの構成にしませんでしたね。

 ピアニストで作曲家の北島さんに、ピアソラに触発されての曲を書いてもらえないか、とお願いして出てきたのが「まだ見ぬブエノスアイレス」です。佐山さんもオリジナルの「イン・マイ・スロート」や「キャラバンの到着」のアレンジを書き上げてきて、これらの素晴らしい曲との出会いによってすべてをピアソラにするのではなく、ピアソラによって触発された曲も入れた2本立てにしようというアルバム全体の構想がまとまりました。

気さくにインタヴューに応じてくれた寺井尚子さん。レコーディングの様子について尋ねると、
「バンドとしてのリハーサルは十分に時間をかけて入念に行ってからスタジオに臨むのですが、
レコーディングでは常に緊張感を保っています。何度もやり直すような録り方はしていません。
基本は“テイク1でOK”を目指しています」ときっぱり。


■いい音に浸れることが何よりもの喜び

――ここから録音自体の素晴らしさについて伺っていきます。レコーディングエンジニアは2003年のアルバム『Anthem』からずっと鈴木智雄さんですね。

 智雄さんとのお付き合いも15年になりますが、毎年、1枚のペースでアルバムを作ってきました。毎回、レコーディングが終わるとお互いに課題が出てくるわけです。それを1年間かけて切磋琢磨し、1年後に会えた時に、お互いがその成果を出し合うという感じでやってきました。私自身、智雄さんはそこをそうしてきたかという部分もあるし、智雄さんとしても自分に対して同じように感じているのだろうと思います。智雄さんの常によりよい音を追求する真摯な姿勢は素晴らしく、毎年再会するのが楽しみなすごくいいパートナーですね。

――お互いを高め合っている関係に感じます。ところで愚問かもしれませんが、どうしてこんなに音がいいんですか。

 録った音がいいんですよ。基本ですね。ミュージシャンたちの出している音自体がいいとおっしゃっていただけましたが、ミックスダウン、マスタリングする以前の、録ったままの状態の音がまずいいんです。だから、その後での行程で音が良くなっていくのは当然という言い方もできます。

――ひとつ前のアルバム『トワイライト』ではDSDの5.6MHz。今回の11.2MHzといったフォーマットの再生音についてどう感じていますか。

 臨場感があって、そこで弾いているかのような再生音ですね。ヴァイオリンはステージでマイクを付ける時もスタジオで収録する時も音を録ることが難しい楽器で、私もずいぶん悔しい思いをしてきましたから、録音とかPAとかオーディオについても勉強しました。自分が聴く時も、聴いてもらう側としても、いい音に浸れることが何よりも喜びなんですよ。そこに命をかけていると言っても過言ではないです。

■追求してきたのはヴァイオリンの中低音の魅力

――ヴァイオリンの高音、E線のリニアリティも高いと感じますが、G線やD線といった中低域の魅力も素晴らしいですね。

 ヴァイオリンというと一般的には高音の美しさが象徴的な楽器のイメージがあると思いますが、私はずっとヴァイオリンの中低音の魅力を追求してきました。その臨場感を充分に味わっていただけること、それにプラスして高音の余韻なども美しい。とにかくクォリティがいいっていうのは、私は好きです。目指しているのはそこなので、それがスタジオではなくて、リスナーのオーディオ・ルームやヘッドフォン再生で日常的に聴けるのがいいですね。多くの方にその音で聴いてほしいです。あと、“太い音”と私は言っていますが、それは豊かな音という意味で、密度が違うのではないかと思っています。

――今年はデビューから29年目となりますが、寺井さんの音楽に対するモチベーションを高く維持するその姿勢に、いつも圧倒されています。音楽活動を続ける上で、気持ちを高めるために心がけていることは何ですか。

 私は日常がステージを作ると考えているので、ごくごくあたり前のことを一番大切にしています。よく訊かれるのですが、刺激的なことをやっているわけではありません。どこかに移動するとか旅行に行って、という高め方ではなくて、日頃の本当に地味なことを大事にしています。結局、ミュージシャンは体力勝負なので健康でいることがまず重要で、そのためにどうするか。食事や運動、ストレッチをしたり整体に通ったりといったカラダのメンテナンスが大切ですね。他にはあまりないんです(笑)。見た目とは裏腹かもしれないですが(笑)。ひたすらステージに向かって生活しています。私の思うクォリティ以上のことを、一回も欠けることなくできたらいいですね。

――e-onkyo musicで寺井さんの音楽に接するリスナーに向けて、メッセージをお願いします。

 ハイレゾもいいけど、ライヴも観に来なきゃダメですよっ!(笑)。生のステージということもあるし、ヴィジュアルや動きが入るとまたぜんぜん違いますから! それに、アルバムに収録した曲たちも既に成長しています。音を使って即興で会話をするのがジャズの醍醐味ですが、どうなるかわからない未知の世界というのが私たちも楽しみなんです。そして、それをひとつの完成形として、いい音で楽しめるのがDSD11.2MHzといったハイレゾ再生でしょうね。ライヴにもぜひお越しください(笑)。

「クォリティの高い音で聴いていただけることを、とても嬉しく思います。
このバンドならではの間合いや呼吸、そしてスピード感をハイレゾなら
よりいっそう深く味わっていただけると思いますので、ぜひお楽しみください」



◆Email Interview
レコーディング・エンジニア鈴木智雄さんに聞く『Piazzollamor』の聴きどころ
「変幻自在なヴァイオリンをはじめ、生音のエネルギー感や細かなニュアンスをお楽しみください」


――今回の寺井尚子さんの新作のレコーディングについて、まずは主な使用機材など、録音システムの概要をお教えください。

 スタジオコンソールのマイクアンプは使わず、外付けで主にNEVE、ピアノとヴァイオリンはAVALON DESIGNのM-5(プリアンプ)を使いました。録音機材はPro Toolsですが、DIGI LINK CABLEやキャノン―Dsubはスタジオ常設からACOUSTIC RE-VIVEに交換しました。また電源ケーブルやマイクケーブル、ラインケーブルもACOUSTIC REVIVE製品を多用しています。ミックスダウンはPro Tools内では行わず、スタジオコンソールSSL 9000Jを使用、EQやコンプレッサーは外付けのAVALONを使っています。オリジナルマスターはDSF 11.2MHz/1bitで録音しました。

――今回の録音とミックスの各段階で、それぞれに心がけたポイントは何でしょうか。特に、今作の各楽器間のバランスは、どのような方向性で決めていかれたのでしょうか。

 録音では演奏者の“音”を変えることなく、生音に近づける努力をしました。ミックスはバランスを整理する程度で、演奏のニュアンスを残すことに心がけました。ソロパートではスポットライトが当たるような雰囲気でピックアップしています。

――ヴァイオリンという楽器を録音することの面白さ、あるいは難しさとは何でしょうか。そして、鈴木様にとって、寺井さんのヴァイオリンに感じる魅力とは、どんなところにありますか。

 録音はどれも難しいのですが、ヴァイオリンはマイクの高さ・向き・ケーブル・マイクアンプでの変化幅がとても大きい楽器です。寺井尚子さんの録音は毎回、より生音に近くなるようにと録音方法を改善しています。今年はPC-TripleC 1.4x1.8mmの極太マイクケーブルを使い、エネルギー感を大切に録音しました。
 寺井さんのヴァイオリンの魅力は変幻自在の音色と抑揚で、1音1音に魂が宿っているのが魅力です。

――ヴァイオリンとその他の楽器を含めて、寺井さんの音楽を録音する際に、鈴木さんが特に大事にしてらっしゃることは何でしょうか。

 録音からエンジニアとして自分の姿を消し、録音を感じることなく音楽に没頭していただくことが私の願いです。

――今作のDSD11.2MHzを含めたハイレゾ版の聴きどころは何でしょうか。また、DSD11.2MHzというスペックには、今後を含めてどのような可能性があるとお考えでしょうか。

 一元的に言えば「巨大な音場空間」と「自然な音質」と思います。そして、迫力ある大音量と微細な音が同居しています。録音から使えれば、より音楽家の思いが“音”で伝わると思います。

――最後に、ハイレゾ専門サイト「e-onkyo music」のリスナーへ向けたメッセージがございましたら、お願いいたします。

 新譜を出す度にあらゆる意味で前作を越えるように全員が一生懸命頑張っています。録音もより高みを目指して多くの改善を致しました。寺井尚子さんの新譜『Piazzollamor』をお楽しみいただければ幸いです。



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