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Jazztronikニュー・アルバム『Private Edits』のハイレゾ配信がスタート。 プロジェクトを主宰する野崎良太にインタヴュー!

2017/03/10
ミュージシャンはもとより、サウンド・プロデューサー、リミキサーなど多方面にわたる活躍を続ける野崎良太さんによる音楽プロジェクト“Jazztronik”。その最新作となる『Private Edits』のハイレゾ音源が好評配信中です。e-onkyo musicでは、野崎さんを試聴室にお招きし、音作りや音楽に対する考え方などを伺い、また、ハイレゾ試聴の印象についても語っていただきました。

インタヴュー・文◎美馬亜貴子 撮影(取材時)◎山本 昇



『PRIVATE EDITS』/Jazztronik






 自由で多様な嗜好を映し出した豊かな音楽性で、国内外において高い評価を得ている野崎良太のプロジェクト=Jazztronik。そのポニーキャニオン時代を総括するアルバム『Private Edits』のハイレゾ配信が始まった。 ずっと第一線を走っている大立物でありながら、その発言には、まるで音楽を始めたばかりの生徒のような謙虚さと情熱が感じられる。プレイヤーとしての高い技術力、そしてアーティストとしての飽くなき探究心があるから、Jazztronikの音楽は、いつも音の愉悦だけでなく、 刺激と発見ももたらしてくれるのだ。「すべて自己満足」と野崎は言うけれど、そのレベルが異常に高い。彼の佇まいや音楽に滲む圧倒的な「信用」の理由がわかる取材だった。

■更新されていくダンス・ミュージックのイメージ

--「Private Edits」は、過去の作品にリミックス、リアレンジを加えた作品ですが、リメイクにあたって目指したこと、心がけたことは何でしたか。

 特にはないんです。単純に、すごく乱暴な言い方をしてしまうと、結局自分のためなんですよ(笑)。DJをするときは、その都度その都度異なったヴァージョン---この曲、自分の曲だけど、こんな雰囲気でアレンジされてたらいいな、というのを作ってるんですが、それを今回はたまたま公表することになったというか。音楽、特にダンス・ミュージックの流行は一年後とかには変わってしまってたりするので、本来、その都度抱いてるイメージにどんどん更新されていくのが理想なんです。今はネット配信を使えばそれが可能ですけどね。これを作ったのは去年の夏なので、その夏の雰囲気で作ったという感じ。そういう意味では『Private Edits』というのは今年も来年も、個人的には続いて行くものです。

--流行に合わせて形を変えていくというのはダンス・ミュージックの宿命ですね。「この曲のこの部分が好き」というのもありますけど。

 僕、そういうのも凄くわかるんですよね。高校のとき葉加瀬太郎さんのやっていたKRYZLER & KOMPANYというバンドが大好きで、初めて自分でチケットを取ってコンサートに行ったんです。初めて大きい音でコンサートを聴くという体験で、そこではCDと同じことが行われると思ってたんですけど、良くも悪くも全然違ってて(笑)。僕はそこで、CDと同じものが聴きたいなと思いつつも、でも、これもおもしろいなって思ったんですよね。CDとナマって全然違うものなんだなというのは、そうした体験からあります。だからDJとかの音源に関しても、変えたくなっちゃうんですよ。

--選曲も野崎さんご自身によるものですが、派手目の曲が多い印象ですね。単なるベスト盤的な選び方とは違う印象を受けました。

 そうですね。DJでかけることを大前提にしてたので、自然とフロアが賑やかになるものが多くなりました。大きな音で聴いて愉しいものっていう。曲を聴くときって2chじゃないですか。でも欲を言うとホントは4chくらい欲しいんですよね。今はDJの音源も“ステム売り”っていうのが出て来てて、外国のサイトとかだと「ドラム」「ベース」「コード」「リード」って曲のパーツごとに販売されてるんです。DJは2曲の素材、合計8chを扱う。今までは「出来上がった曲同士を混ぜる」というのがDJだったわけですけど、ステム対応の曲を混ぜるとなると、DJと言っていいのか(笑)。ホントはそれぐらいまでやれて、リスナーの人が遊べるとより楽しいですけどね。

--クラブ・ミュージックの音楽制作というのは他ジャンルよりも流行に敏感というか、「今」を切り取る作業という意識になると思うのですが、時代性を反映した音楽の醍醐味というのはどこにあるでしょうか。おもしろさ、難しさも含めて。

 醍醐味……結構“自己満足”っていう部分が強いかも。僕は特に欲張りなんで、常に新しいものは気になるし、自分で想像つかないようなものも世の中にはどんどん出てきますし。そこに対しては「ついていきたい」というよりは「その制作方法はわかっていたい」という気持ちが強くて。音楽、特にダンス・ミュージックって、機材の発展と共にあるような部分も大きいので。時折、斬新なサウンドが外国から出てきますけど、やっぱりそういう人たちって新しい機材を使ってるんですよ。裏技的な使い方をしていたりもしてね。で、僕はそういうのの使い方を知ることが楽しい。そしてそれを自分の作品に投影できたとき、凄く達成感があるんですけど、それはあんまり人にはわからない部分で(笑)。
 音楽って料理に喩えるとわかりやすいんですけど、ずっと頑に同じ味を守り続けてる人がいる一方で、新しいものを取り入れながら「伝統的な料理を新たな形にしていこうよ」と提示する人もいる。僕は後者のタイプで、人が編み出したものや借りてきた知識だけで済ませるのは、自己満足度が高くないので嫌なんですよね(笑)。

■レコードのアーカイヴでハイレゾの良さを実感

--ハイレゾはアコースティックな音の再現に強いとも言われますが、電子音楽をハイレゾで再現することの意義についてはどうお考えですか?

 そういう意味では、去年ワーナーから出したアルバム『Keystone』、もっと言えば、自分のレーベルから出した『Cinematic』って架空のサントラがあるんですけど、音的にはそれが一番ハイレゾに合うかもしれないですね。

--例えば今回の「Fasion」とか「Sweet Rain」、「Walk on」「Love Tribe」など、厚いストリングスが入ってる曲は迫力が一層増して映えるんですよ。

 話はちょっと逸れてしまうかもしれませんけど……家のレコードの数が凄いんですね。1万枚近くあるので、どうにも収納しきれない。で、心を鬼にして仕分けして、処分するやつはデータにして残そうと思って。で、32bit/96kHzで落とし始めたんです。今までは24bit/48kHzだったんですけど、それだと立体感が減っちゃって、レコードの音とは違うんです。変に丸くなっちゃって。でも32bit/96kHzだと“レコードそのもの”の音なんですよ。それを最近実感して、凄く感動してね。24bit/48kHzと32bit/96kHzの差は凄いんです。まったく違うと言ってもいいくらい。でも、それまではあんまり信用してなかった(笑)。よくスタジオで仕事してる人の中でも「電源変えると違うよ」って言う人がいて、それは10年前くらいにいろいろ試した結果、その電源の特徴が出るということは実感したんですけど……ハイレゾの音質に関しては「新しいビジネス始まったんだな」としか思ってなかったんですよね(笑)。
 だから今、ハイレゾって言われてるものも、例えばCD(16bit/44.1kHz)とは違うのかなとは思います。それが果たしてキロヘルツ(サンプリング周波数)の違いなのか、それとも(量子化)ビット数の違いなのか、そこから先は僕にはわからない。

--良い音響が音楽のスタイルそのものに影響することはあり得るでしょうか。

 DJのプレイヤーに関してはあると思います。『Private Edits』もそうですけど、最新のダンス・ミュージックって音がデカいんです。音圧があるというか。バスドラとかも“ドーンドーン”って感じで。で、僕は70年代とかのディスコもかけたいんですけど、一緒にかけるとどうしてもレンジと迫力の違いが出て来ちゃう。ヴォリューム上げても迫力が出ないので、僕はレコードの音源の音量を上げるソフトをかまして、一回ぐっと上げて落としてるんです。そうすると70年代のディスコとかファンクと最新音源が並んでも違和感なく聴けるようになるわけです。

音楽に対する真摯な姿勢が伝わってくるような語り口の野崎良太さん


■ネットの時代でも常に自分の音楽を磨いていたい

--機材の発展による変化がある一方で、今、従来のシステムの瓦解によって、音楽そのもののあり方が過渡期を迎えていますけど、野崎さんにとって、音楽を取り巻く現状はどのように映っていますか?

 今は「音楽しかできない」「音楽をやって生きていきたい」と思う人は、頭を使って考えないとダメな時代かなとは思いますね。でもそれは僕にはわりとどうでもいいことで。僕はDJもしますけど、演奏家としての側面もあるので、今でも毎日3時間ピアノを練習してます。自分の技術を向上させることの方が重要です。もし今、僕が20代だったら、「どうやったら自分の音楽をもっと沢山の人に聴いてもらえるのかな」とか考えたと思うんですよね。アイデアもいろいろあるだろうし、YouTubeとか、自分たちで発信の方法を考えないといけない時代なので。でも僕にはそういう感覚が欠落しているから、そういうことはレコード会社とかスタッフの人とかが提案してくれたらありがたい。
 僕は「この後10年、20年、作曲をちゃんとして、クラシックや現代音楽、ジャズといった音楽と最新のダンス・ミュージックをどうやって合体させて新しいスタイルを築けるかな」っていう方に考えがいっちゃうので。で、結局は「考えるより練習しよう」ってなっちゃうんですよね(笑)。

--(笑)ちょっと意外です。野崎さんは「ただいい曲を作っていれば届く時代じゃない」って言うタイプだと思ってましたから。

 いい曲作ったってね、届かないですよ、それは(笑)。こんな沢山音楽があるんだから。ただ、基本的に僕は、プロであるかどうかに拘わらず、たとえば音楽の先生とかやりながらでも自分の技術を磨きたいというタイプなので、他人にどう捉えられようとそれはいいんです。まあ、しかし……いい曲を作っていればたまには届くんですよ(笑)。で、届くと「届いたよ!」っていう人の声が大きいからそれがクローズ・アップされることになるわけですが、そんなラッキーなことはそうそう起こらない(笑)。
 僕、もっとホント、みんながみんな技術を磨いた方がいいと思いますね。そもそも自分の技術も満足に身に付いてない人たちが、何をそんなに心配してるんだろうと(笑)。自分の技術が、前時代の、みんなが憧れるようなミュージシャンの域に達してなかったら、彼らのような存在になることなんて、できるわけないじゃんって思っちゃう。たとえば、僕はクラウス・オガーマンって人に影響を受けてるんですけど、彼が書いた曲や、彼が手掛けたアレンジ---特にアントニオ・カルロス・ジョビンへのアレンジなんか、今聴いても凄すぎて意味不明なくらいなんです。僕はそういうアレンジが自分の中に浮かばないことの方が悔しい。
 それから、僕のライヴには沢山お客さんが来てくれるんですけど、そのときに「去年の方が巧かったね」とか「野崎さん、20代の時の方が沢山ピアノ弾いてたよね」とか言われるのもとにかく悔しいんで(笑)、そうならないように日々、頑張ってるというわけです。

--その飽くなき向上心の原動力になっているのは、何なんでしょう。

 いや、だって、僕に多大な影響を与えてくれた葉加瀬太郎さんなんて、あんなに忙しいのに、いまだにヴァイオリンの練習をしてます。太郎さんの放つエネルギー、人を惹き付ける力、常に動いてる行動力は本当に凄い。で、あれだけ忙しい太郎さんだってやってるんだから、僕はそれ以上にやらないとって思うんですよね。

--この春からは野崎さん主導の「Musilogue(ムジログ)」というプロジェクトも始動するそうですが、どのようなものなんですか?

 これは、用途に合わせた音楽を、必要としている人に提供するという“ストック・フォト”的なものの音楽版ですね。たくさんのミュージシャンが参加することになっていて、今、準備を進めてるとこです。一見レーベルのような見え方になるとは思うんですが、それとはちょっと違って、良いミュージシャンの活躍の場を増やす目的があります。たとえばギタリストでも、良いプレイヤーはいっぱいいますが、一人だけでは音楽を完成させられない。だからプロジェクトに参加するミュージシャンたちが時間があるときに集まって、その人の作品を仕上げる。で、実はその参加したミュージシャンたちは個々人でもそれぞれの音楽をやっていて、それぞれ凄い能力を持っている人たちなんだということをわかってもらう試みです。どんなにいい演奏でも音楽というのは記録しておかないと残らないので、その機会を増やすプロジェクトですね。

--一流の人たちが集まる流動的なプロジェクトというのは、なんだかおもしろそうですね。期待しています。

試聴コーナーでは、野崎さんのリクエストで新作『Private Edits』をCDとハイレゾとで聴き比べ。
「なるほど、確かにハイレゾは全然違う。立体感がすごいですね。このアルバムの印象で言えば、
打ち込み系のサウンドでもCDとはかなりの差を感じました」と楽しんでいただけたご様子。
そして、「今後は32bit化にも期待したいですね」と、これからの音楽再生への想いも語ってくれた。