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「Jazz Loves Chopin」Michal Sobkowiak 独占インタビュー

2017/03/01
2014 年の発売以来、e-onkyo music でロングセールスを記録している「Piano Ballads」シリーズをはじめとする良質なピアノ作品を生み出してきたS2S が、「ショパンmeets ジャズ」をコンセプトに、ショパンの母国、ポーランド出身の気鋭のピアニスト、Michal Sobkowiak(以下、ミハウ)を迎えて制作した「Jazz Loves Chopin」。
3/1 のショパン生誕日にあわせてリリースされた本作のピアニスト・ミハウ氏に、ご自身のことと「Jazz Loves Chopin」込めた思いについて多いに語って頂いた。

『Jazz Loves Chopin』/Michal Sobkowiak




--ミハウさんがピアニストを志したきっかけを教えていただけますか?

ミハウ・ソブコヴィアク(以下、ミハウ):私は父がピアニスト、母が画家という芸術一家に生まれました。その影響で、3歳からピアノを始めましたが、父がミュージシャン達と練習をしている風景も日常的に見ていて、テレビに出ていた有名ミュージシャンがいま目の前にいる、といった経験が何度もあって、子どもながらに父親のすごさを感じていたと記憶しています。また父は仕事で海外に行く機会も多く、彼の話す外国の情報や買ってくるおみやげなど、どれもとても新鮮で、そんな父の生き方を非常に魅力的に感じていました。
父を通じてピアニストの人生というものを目の当たりにしながら育ちましたので、私自身も自然と音楽の世界にのめり込んでいったのだと思います。

10歳のときに、私は子ども向け音楽番組のホストとしてTVデビューを果たしました。その番組は、子どもたちに人気の映画の音楽を手掛けている方々を招いて、子どもの目線で質問を投げかけるという内容の番組で、私は司会役を務めながら、番組内でピアノを弾く機会も多くありました。
それが私の音楽人生のスタートでした。

--ワルシャワ・ショパン音楽院(現・ショパン音楽大学)を卒業、フレデリック・ショパン協会より奨学金を得られ、ショパン国際コンクール in ASIAの審査員をつとめられたと聞いておりますが、ミハウさんの音楽家キャリアの中で、長く「ショパン」に関わってこられているようですね。ミハウさんにとってショパンとはどのような存在ですか?

ミハウ:私はショパンと同じポーランド生まれですので、彼の音楽は私にとって極めて自然なものです。彼の音楽はポーランドに古くからある民謡をベースにしている所があって、私も同様にそうした民謡を聴いて育ってきました。ですから、彼のつくる音楽の世界感がポーランドの伝統をいかに美しくとらえていたかについては、考える必要がないほど自然に理解できます。

私は学校を卒業後、世界の様々な場所を訪れ、最終的に東京にたどり着きました。海外に住むポーランド人の視点から、私は”ホームシック”がどういうものなのか想像できます。ショパンの場合、当時の政治情勢の影響で国外へ追い出されたという経緯がありますから、彼の音楽に込められた「郷愁」(ノスタルジー)にはすごく共感します。

そして、ショパンは作曲時にピアノに重きを置いていました。ですので、ベートーベンのように「オーケストラ全体」を考える作曲家の作品よりも、ショパン作品は実にピアニスト向きと言えます。私はピアノサウンドが大好きですし、ショパンはそのピアノサウンドを最大限に活用する方法論を知っていたのだと思います。

ですので、私にとってショパンは、母国やピアノへの思いをより強く結びつけてくれる存在であると言えます。




--ショパン以外に音楽家として強く影響を受けた作曲家やアーティストがいれば教えてください。

ミハウ:何と言ってもバッハです。
3世紀も前に作曲された音楽が、いまだに世界中で人気があるということが信じられません。彼は音階の幅広さ、楽器の残像、情熱…それらを「バッハ」という一言に包括しました。彼の多声音楽に関する感覚は圧倒的に素晴らしく、最新のソフトやアプリケーションをもってしても到底かなわないと思います。

ほかに影響を受けたのは、モーツァルトやシューベルトのメロディの美しさ、ブラームスのコード進行の奥深さ、ラフマニノフのフレーズの幅広さ、スクリャービンのハーモニー(ジャズっぽいとよく言われますが、実際は彼の台頭後にジャズに持ち込まれたもの)です。あと、シマノフスキも追加しておきましょう。もしショパンが存在していなかったら、彼がポーランドで一番の音楽家になっていたでしょうね。彼の音楽へのアプローチはショパンと似ていて、彼も伝統的な民謡から影響を受けています。しかし、彼はショパンが活動していた時期より後…19世紀後半から20世紀前半に活動していたので、現代的なハーモニーにもつながっています。

クラシック以外ではキース・ジャレットがお気に入りです。彼は素晴らしい音色で演奏しますし、即興のアイディアは凄くメロディアスです。オスカー・ピーターソンの驚くべき技術と創造性、クインシー・ジョーンズの編曲力もいいですね。パット・メセニーの即興も抒情的な味わいを醸し出しています。もうひとり、バーブラ・ストライサンドの表現力の深さも加えておきます。

最後に忘れてはならないのがマイケル・ジャクソンです。私の音楽には直接的に影響はしていませんが、ショー・ビズのアイコンとして活躍していたことに敬意を表します。




--クラシックピアニストとしては、ヤシンスキ氏(現ショパン国際ピアノコンクール審査委員長)に師事されてきたそうですが、彼と出会った経緯や学んだことなどあれば教えてください。

ミハウ:私は、1989年にワルシャワにあるフレデリックショパン協会を通じて彼に会いました。彼に出会えたことは私の人生にとって本当に光栄なことでした。彼は世界中で知名度の高いポーランド出身のピアニスト”クリスティアン・ツィマーマン”(7歳からヤシンスキ氏に師事し、1975年ショパン国際ピアノコンクールで史上最年少(18歳)優勝)の先生でもありましたから、私は以前から彼のことを知っていました。彼の弟子になったときには、まるで”星に触れたような”気持ちでした。

私たちは10年ほど一緒に仕事をしました。彼が学生たちに”ノート”ではなく彼らの背景にある”感情”を通して会話をしていたことは賞賛したいことのひとつです。彼は私に、“音楽の中にあるそのような感情”を読み取る方法論を教えてくれました。

私はピアニストとして、師匠として、人間として、そして何より”友人”として彼の影響を受けられる立場にいることができたことに感謝しています。

--今回のアルバム制作の経緯について教えてください。

ミハウ:世の人たちは音楽をよくジャンル分けしたがるので、多くの人々は私の音楽はクラシックとジャズの中間にある音楽だと分類します。少し昔にはなりますが、実際に私はそのようなスタイルのアルバムを何枚かリリースしたことがあります。
ただ、それ以降、特に東京に来てから私は実に多くのジャズ演奏の経験を積みました。特に本場のアメリカ人ジャズプレーヤー達と多くのセッションを重ね、濃密な時間を過ごせたことは私にとってとても大きな財産となりました。

昨年末のあるライブの際に、私は偶然にも、この業界で素晴らしく強烈な個性を持った会社(S2S)に出会いました。彼らは私に著名なショパン作品をジャズテイストにアレンジしてみてはどうかと提案してくれました。以前にそのようなアルバムレコーディングをしてからはずいぶんと時間が経っていて、またさきほども触れましたが、その間に私も実にたくさんのジャズ経験を積んでいましたので、このタイミングであればもっと良いものが作れるのではないかと考え、その場でいろいろとディスカッションをしていくうちに、私たちはすっかり意気投合し、喜んでこのオファーを受けることにしました。

--「Jazz Loves Chopin」にこめられた思いについて教えてください。

ミハウ:先程の回答でも触れていますが、私たちはショパン作品の中でもより著名なものを日本のリスナーに届けたいと思い、私はプロデューサーと念入りに選曲しました。それから私は演奏を始めました。最初のメロディはショパンの作品を使い、最終的には自分の音楽の世界の中で彼のハーモニーと結びつけ、ジャズの言葉に置き換えていきます。今回、多くの曲でどこまでがショパンのオリジナル部分で、どのポイントからが”私の音楽”なのか、聴いて頂くとお分かり頂けるかと思います。

2010年、ショパン生誕200周年記念の年には、多くのCDがリリースされました。ジャズピアニストがアレンジしたものの多くは“とても”ジャズ的なスタイルのものです。今回の作品では、私は自分のルーツを追求しました。自分自身は、現代的なハーモニーとジャズにも通じるリズムを通して彼の感情を表現する、クラシカルな訓練を積んだピアニストだと考えていますので、そうした世界観を楽しんで頂けるとうれしく思います。




--アレンジをする上で特に気をつけていたことなどあれば教えてください。

ミハウ:編曲中に、私はジャズとクラシックのミュージシャンたちがこの作品を聴いて、それぞれどう思うかを慎重に考えていました。私は皆を満足させることと、いまなお分断されたままの二つの世界の懸け橋になることができればうれしいです。

もちろん、私はこんな有名人と比較される立場にはありませんが、ジョージ・ガーシュウィンが同じようなことを考えていたのかなと思うことがあります。私は彼の足跡を追いかけたいと思っています。

--今後もピアニストとしてご活躍されることと思いますが、ピアニストとしてのポリシーや大切にしていることなどあれば教えてください。

ミハウ:私が人生で追求していること、それはピアニストである前に人間であるということです。本を読み、映画を見て、歴史的なつながりを学び、広く知識を吸収し、旅をする。スイスにいた時は、山道をサイクリングしたりもしました。音楽においてもピアノだけでなく、様々な楽器に触れるようにしています。そうした多くの経験が私を人間として大きく成長させてくれます。そして最後の最後で、ピアニストであればよいと思っています。

--最後にリスナーに向けてメッセージをお願いします。

ミハウ:私の作品に興味を持っていただきありがとうございます。何か少しでも感想をいただけると本当に嬉しいですし、そうしたフィードバックをもとに近い将来もっと喜んでもらえる作品をつくることができると思います。私の長いインタビューを読んでくれたことに感謝します。

--ありがとうございました。




ミハウ・ソブコヴィアク プロフィール

Michal Sobkowiak (ミハウ・ソブコヴィアク)
ポーランドの音楽家の家庭に生まれる。10歳でテレビ番組に出演しピアニストとしてデビュー。その後、ポーランド国立フィルハーモニー・ホール等多くのコンサート・ホールで演奏し、海外の国際音楽祭にも多数参加する。作曲家、ジャズ・ピアニストとしても活躍。ワルシャワ・ショパン音楽院(現・ショパン音楽大学)ピアノ科卒業後、アンジェイ・ヤシンスキ、テレサ・マナステルスカの各氏に師事。
1995年 フランツ・リスト国際ピアノコンクール(ポーランド)入賞。
1997年 ヨーロッパ・ピアノフォーラム(ベルリン)に出演。
2002年 第36回モントルー・ジャズ・フェスティバル(スイス)に参加。




◆エンジニアによるコメント

今回使用したマイクはNEUMANN U87Aix2、AKG C141B XLⅡx2、BRAUNER VM-1x1の計5本です。

ハンマー近くにオンマイクで87を2本セッティングし、きらびやかなハッキリとした輪郭を、ピアノの縁に垂直に414を2本立て、木のふくよかさと合わさったステレオ感を、その2つのつなぎの役割として天板と弦のちょうど中間あたりにVM-1を無指向でセッティングしました。



その5本のマイクのブレンドで1つのピアノの音像を作り、ミハウさんの男性的な力強さが色濃く出る部分と、繊細で柔らかい部分の両面のダイナミクスを損なわないように意識しました。

ミックスでは各曲でマイクのブレンド量は変えています。具体的には、タッチの強い部分が多い曲はオンマイクの量を減らし、逆に柔らかいタッチの曲はオンマイクを相対的に多くして全10曲のバランスを取っています。

収録数日後、試しに数曲ミックスしたものをミハウさんに確認してもらったのですが、当初もっとリバーブが掛かっていたものに対し「人工的に感じるのでリバーブは減らしたい」とのリクエストを貰ったので今回は割りとドライな印象になっていると思います。

結果的にミハウさんの生々しい演奏が感じられるハイレゾ映えする仕上がりになったと思います。

レコーディング・ミックス・マスタリングエンジニア
三好 達也







◆ピアノ調律師によるコメント

スタインウェイピアノを表現する言葉に″ザ・イニミタブルトーン″―比類なき音色―という、ピアノの王に君臨し続ける楽器に相応しい呼び名があります。他の追随を許さないスタインウェイピアノだけに与えられた全く的を得た言葉だと思います。

今回、紀尾井町サロンホール(東京)で行われたミハウ氏の高音質レコーディングにおいて、氏がひと弾きするや否や一瞬で恋に落ちたピアノこそスタインウェイフルコンサートグランドピアノD‐274(1988年ハンブルグ工場製)、現在に至るまで多く聴衆を魅了してきた名器と呼ばれる一台です。まさに先に述べた呼び名に相応しいピアノであり、敢えて自分の言葉で表現させて頂くならば、「無限の音色パレットを持つピアノ」といったところでしょうか。



ただし、スタインウェイピアノとて全てが名器に成長する訳ではありません。
名器と言われるピアノの影には、それに関わる三者の存在が不可欠です。三者とは、ピアノオーナーとピアノ技術者、そしてピアニスト、これら三者のピアノに対する深い愛情が三位一体となってこそ、楽器は名器に生まれ変わります。ピアノにとって目に見えない本当に大切なことを三者が真剣かつ愛情をもって追い求め続けているからこそ紀尾井町サロンホールのピアノは名器と呼ばれ、これからも成長し続けるでしょう。
今回の高音質録音がこの比類なき音色を余すことなく再現してくれることを確信しています。



ショパンと祖国を同じくするミハウ氏の最新作は、ショパンとジャズのマリアージュ、とでも言える氏の洗練されたアレンジや奏法が随所に散りばめられた演奏が聴ける作品だと感じます。私のような素人からするとジャズは自由奔放に演奏するものと勝手に決めつけていましたが、 ジャズこそテンポやリズム、ビート感が重要だ!とミハウ氏は言います。

今回、長い時間レコーディングセッションにも立ち会わせて頂きましたが、氏の常に陽気で快活な人柄の裏に、妥協を許さぬ完璧な演奏と音楽に対する真摯さと情愛の姿を垣間見た、私にとっては非常に貴重な機会となりました。

ピアノ調律師
大友 豊輝 (株式会社サンフォニックス ピアノ総合事業部)