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連載『厳選 太鼓判ハイレゾ音源はこれだ!』 第44回

2017/02/03
グラミー賞常連のアメリカ歌姫、その先行シングルにメロメロ
~ 待望のアリソン・クラウスがハイレゾで登場!



音楽エネルギーの豊かさと音圧アップは違います


ここ数回の連載で音楽エネルギーについて解説してきましたが、まだ音圧の高さと混同されている方が多いようです。コンプレッサーなどのエフェクトによる音圧アップは、いわば疑似音楽エネルギー増幅。音楽エネルギーの少ない歌や演奏の場合、音圧アップすることで聴き手を少しは騙すことができます。でも、あくまで擬似エネルギーなんです。

そういえば私もベースを始めたころ、リミッターで演奏タッチのバラつきを平坦化して音圧アップしたら、まるで数段階は演奏技術が向上したように思えて、その魔力に酔ったものです。でも、やっぱり下手は下手でした~。

このコンプレッサーなどの疑似音楽エネルギー増幅と、演奏家が発する高い音楽エネルギーは、全くの似て非なるもの。電気エネルギーでは、音楽エネルギーを模倣することも増幅することも残念ながらできません。

できないのですから重要なのは、いかに音楽エネルギーを減少させずに伝搬していくかということです。音楽記録の器が大きいという意味で、ハイレゾは音楽エネルギーを上手く伝えられる可能性がある。私はハイレゾの超高域特性の良さなどには、ちっとも魅力を感じていません。音楽エネルギーをいかに大盛りで届けてくれるかに着目し、太鼓判ハイレゾ音源を選んでいるんです。

高い音圧の楽曲と音楽エネルギーの違いを再確認すべく、今回は静かめの音楽を太鼓判に選んでみました。


音質向上にどこまでも応えてくれる、アリソン・クラウス作品
アリソン・クラウスさんのアルバム『Forget About It』に出会ったのは、1999年のこと。私がオーディオ界で仕事を始めたのが1998年末ですから、ほぼプロになって同じ年月を重ねているCD盤です。20年近い歳月を経ても、まだ聴き続けている数少ない音源のひとつ。なぜなら、システムのグレードアップに追従して限りなく音のベールを脱ぎ去り、常にこちらの高音質化技術向上に音で応えてくれる音源だからです。数々のオーディオ・アクセサリーやケーブル、スピーカー、DAコンバーターが、アリソン・クラウスさんの祝福の声とともに誕生したものです。

私が書いた本『音の名匠が愛するとっておきの名盤たち』でも、アリソン・クラウス作品は登場しました。この本は、著者のCD棚を覗き見る一般のディスクガイド本とは一味違い、尊敬できる大好きなミュージシャンたち名匠に名盤を紹介してもらう旅の記録と言いましょうか。その中で、日本最高峰ギタリストの今剛さんが、アリソン・クラウス作品を挙げてくれました。インタビューで「アリソンは群を抜いてイイ音だ」と言われていたのを思い出します。

私がミュージックバードでMCを一年間やった『西野正和のいい音って何だろう?』でも、比較試聴音源としてアリソン・クラウス『Forget About It』をたくさん再生しましたね~。『Forget About It』のレコード盤とCD盤の対決もやったっけ。

『Forget About It』では、1曲目の「Stay」と5曲目の「Empty Hearts」が私の試聴定番。低音再生がしっかりしていないと「Stay」のキックドラムが上手く鳴らず、音楽としてスッカスカの腰砕けになってしまう。音像の立体再現に成功すると「Empty Hearts」のバックに薄く録音されている波の音が認識でき、そりゃもうビーチで聴いているかのようにトリップできます。

そんな私の音楽人生とも深く関わるアリソン・クラウス作品。ついにハイレゾで新作が登場します。


ハイレゾでアリソン新譜が聴ける幸せ
本来ならば近日発売予定のアルバム『Windy City』を取り上げるところなのですが、待ちきれなかったので先行シングルをご紹介しますね。

『Losing You』(96kHz/24bit)
/アリソン・クラウス




アリソン・クラウスさんはグラミー賞受賞数で歴代トップクラス。アメリカでは超がつくほどの有名歌手ですが、なぜか日本では大ブレイクを獲得できていないように思います。音楽ジャンルが、日本では馴染みの薄いブルーグラス/カントリーということもあるでしょう。確かに、私も長くアリソンさんのファンですが、カントリー曲調よりはポップス傾向作品に惹かれます。

その点、新作『Windy City』は期待大。先行シングルの本作『Losing You』はもちろん、同じく先行シングル曲『Windy City』も、日本人でも親しみやすい曲調で、アリソンさんの唯一無二の神がかった歌声が堪能できます。

機会があれば、アリソンさんの歌う姿をネット動画などでチェックしてみてください。いわゆるエンジン全開の馬力タイプ歌唱ではありません。軽~く歌っているのに、あの美声が出る。ライブでも、スタジオ録音作品と同じクオリティーの歌が聴けるんですよ。デジタル技術による歌の修正が蔓延する現代、こういった本物の歌手にはなかなか出会えなくなりました。アリソンさんはピッチやリズムにズレが全く無いんですから、最初から修正する必要がありません。

楽器演奏者に比べると、ボーカリストの絶頂期は年齢の早い時期に訪れます。「やっぱ、20代の頃が一番良かったなー」と思える歌姫は多数。その点、アリソンさんの歌声は、新作でますます魅力を増している感じです。


オーディオ開発の比較音源に採用中
早速『Losing You』を仕事で比較試聴に使っています。音圧は、ほと良いくらい。最近は波形はチェックせず試聴していますが、ふと波形データを見ると歌が聴こえてくるような美しさ。真っ黒波形を見慣れていると、なんとも新鮮ですね~。

バックに流れるストリングスも素敵。プライベートなスタジオで作る少人数レコーディングを否定はしませんが、こうやって昔ながらの手法で作られている豪華な音源を聴くと、なんだか嬉しくなってきます。

私がオーディオ製品開発チェックにこの音源を使用する場合、イントロからサビ前くらいの約45秒間を聴きます。注目しているのはイントロを奏でる楽器の生々しさと、音のタメといった抑揚の部分。歌が始まれば、声がデジタルっぽい薄味になっていないか。音が発されたとき、平面でなく球形に広がっていくか。特に音像が立体的かどうかは、歌の位置と、ストリングス、ドラム、ピアノあたりに着目します。

そしてAB比較試聴で最大のコツは、音の細かい違いにだけ気を取られないこと。音楽の間違い探しをしていると、意外と重要なことを見落とします。まずA対象を聴くときに、A全体の印象を心にキープします。写真で例えるなら、細部のカットを複数枚撮影するのではなく、引きの全体像を広角レンズで撮る感じ。そしてB対象と照らし合わせ比較します。その用途に、本作『Losing You』は最適で分かりやすい。最近は『Losing You』を聴き慣れてきたので、ノートパソコンの内臓スピーカーでも簡単な音質チェックならできる気がしてきました。

音圧グリグリでアクセル全開だけが音楽エネルギーの高さではないと、このハイレゾ音源を聞けばきっと伝わるはず。アリソンさんご本人の歌やバイオリンはもちろん、バックを固めるミュージシャンも高い音楽エネルギーを発しています。アリソン作品が高音質の宝庫である秘密は、この音楽エネルギーであること間違いなし。音楽エネルギーが高ければ、マイクの性能やセッティング、ケーブルのクオリティーに関係なく、良い音が録れちゃうんですよ。もちろん本作ではレコーディングやミックス、マスタリングも優秀なのですが、それ以前のポテンシャルが圧倒的に高い。こうしてハイレゾの音質結果として、きちんと記録されているのは素晴らしいですね。

ハイレゾで聴くアリソンさんの新譜、ハイレゾ版でここまで音が良いと、コレクションとしてのCD盤を買うかどうかファンの私でも悩みます。それにしても、久しぶりに発売日が待ち遠しい新譜。先行シングルにドキドキしたのなんて、何年振りでしょうか。まんまとヤラレてしまいました。太鼓判です。



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筆者プロフィール:

西野 正和(にしの まさかず)
3冊のオーディオ関連書籍『ミュージシャンも納得!リスニングオーディオ攻略本』、『音の名匠が愛するとっておきの名盤たち』、『すぐできる!新・最高音質セッティング術』(リットーミュージック刊)の著者。オーディオ・メーカー代表。音楽制作にも深く関わり、制作側と再生側の両面より最高の音楽再現を追及する。自身のハイレゾ音源作品に『低音 played by D&B feat.EV』がある。