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パット・メセニーに新作「Kin (<-->)」とハイレゾについて訊いた!

2014/02/03
「『シークレット・ストーリー』(1992)の頃から20ビットでレコーディングをしてるけど、20年以上経った最近になってようやくスタジオマスターのクオリティーで聴いてもらえるようになったわけだから、それは喜ぶべきことだと思うな。それにね、実はHDtracksのCEOのデヴィッド・チェスキーは、互いに近所に住んでいるということもあって仲の良い友人なんだ」
ハイレゾ配信サイトe-onkyo musicについての説明を終えると、パット・メセニーは満面の笑顔でそう話してくれた。
クリス・ポッター(サックス)、ベン・ウィリアムス(ベース)、アントニオ・サンチェス(ドラム)、そして新加入のマルチ楽器奏者、ジュリオ・カルマッシを迎えたパット・メセニーの新作『KIN(←→)』は、数あるメセニーの作品と比較しても桁違いのスケールを持つ、突出した作品だと言って間違いない。ジョン・ゾーンの楽曲集に挑んだソロでの前作『タップ』、または『オーケストリオン』に度肝を抜かれた方でも、この新作にはきっと驚くに違いない。
というわけで、新作のプロモーションのために、東京にやってきた彼に話を聞いた。

『Kin (<-->)』 (96kHz/24bit)
/パット・メセニー・ユニティ・グループ


──まず、ジャケットのアートワークについて教えてください。これはあなたのアイデアだったんですか?

そうなんだ。僕が思いついたアイデアを、アートディレクターのスティーヴン・ドイルに伝えて出来上がったのがこのアートワークなんだ。

──そのアイデアは、アルバムタイトルの「KIN」とも関連するものなんですか?

僕は「KIN」という言葉がとても好きでね。「血縁」とか「親族」というような意味を含む単語なんだけど、誰にでも先祖との繋がりがある、というような意味を込めているんだ。そういったアイデアをスティーヴンに伝えて、素晴らしいポートレイトに仕立ててもらったんだ。

──『ユニティ・バンド』はあなたにとって久しぶりのバンドでの作品でした。新しいバンドをはじめた理由はどこにあったんでしょうか?

自分のキャリアを振り返ってみると『80/81』というアルバムは、ギター、ベース、ドラム、サックスという一般的な編成での唯一の作品だったんだ。あの作品には、デューイ・レッドマンとマイケル・ブレッカーというふたりの素晴らしいサックス奏者が参加していた。だから、たぶん僕はクリス・ポッターが現れる のを30年も待っていたんだと思うんだけど(笑)、彼のおかげで、また同じような編成でやってみようという気になったんだ。今までにもたくさんの素晴らし いサックス奏者と共演してきたけど、クリスは特別だ。彼は、曲を書く上で僕をすごくインスパイアしてくれるんだ。彼のためにアンサンブルを組み立てたいと 思わせてくれるほどにね。


──それにしても『ユニティ・バンド』と『KIN(←→)』はスケールが桁違いですよね。

『ユニティ・バンド』のレコーディングは本当に楽しかったし、グラミーも受賞したり、すごく成功もした。特にツアーが素晴らしかったんだ。ツアーを回るうちに、このグループは本当に特別だと思うようになってね。だから、ツアーが終わる頃には寂しくなってしまって、もっと一緒にやりたいと強く思ったんだ。同時に、彼らとならもっと大きなレンジの音楽を一緒にできるはずだとも思っていた。これはよく使っている表現なんだけど、『ユニティ・バンド』がモノクロのドキュメンタリー映画だとしたら、『KIN(←→)』はIMAX 3Dの映画みたいなものだと思う。それくらいレンジの大きな作品になったんだ。

──今作から、マルチ楽器奏者のジュリオ・カルマッシが加入していますね。

こ れまでにもシンセサイザーやエレクトロニクスを使ってきたし、オーケストリオンもそうなんだけど、それらを使うには少なくとももう一人はメンバーが必要だということに気がついたんだ。そんな時に、ウィル・リーが、ニューヨークにとんでもない才能のミュージシャンがいると教えてくれたんだ。

──それがジュリオだったわけですね。

そ うなんだ。それで、「彼はどんな楽器を演奏するんだい?」とウィルに聞いたら、「彼はピアニストでもあり、シンガーでもあり、トランペットもサックスも演奏できる。それに、彼の目標は君と一緒に演奏することなんだよ」と言われたんだ(笑)。それで、試しに彼の演奏を聴いてみたら、彼こそがまさしく僕が求め ていたミュージシャンだった。僕はソロや即興のためのミュージシャンはこれ以上求めていなかったんだ。必要としていたのは「良い」ミュージシャンだった。 僕が書いたアンサンブルを忠実に再現できるミュージシャンをね。彼の加入によって、僕の書いた曲の全体像をバンドが表現しているのを初めて目の当たりにす ることができた。自分の曲にこんなにスペクトラムがあるんだということを初めて知ったんだよ。それは本当に初めての体験だった。

──では、パット・メセニー・グループとの違いはどんな点にあると考えていますか?

全ては自分が作っているものだから、違いを見い出すことは難しいな。『Bright Size Life』(メセニーのデビュー作)からこのアルバムに至るまで、自分の中では全てのことが繋がっているからね。売れようが売れまいが違いはないんだ。僕の作品にも、いろんなタイプの音楽があるし、いろんな表現もあるけど、それらは自分の中ですべてつながっている。自分のディスコグラフィーをひとつの物語に例えるなら、この作品は、新しい章とでも言うべきものかな。

──とはいえ、あなたのファンはパット・メセニー・グループの今後も気になっていると思います。

レギュラーグループ(パット・メセニー・グループ)を急いで再開する必要はまだ感じていないんだ。まあ、夢にでも出てきたらやるかもしれないけどね(笑)。 だけど、ユニティ・グループは本当に特別なんだよ。だから、現時点ではこのバンドを続けないという選択肢は僕の中にはないんだ。

──なるほど。

それにね、アルバムの25周年だからとか、60歳になった記念だからとか、僕はそういうことに全く関心がないんだ。いつも次のことだけを考えている。音楽の可能性を拡げようと真剣に取り組んでいるミュージシャンたちにインスパイアされることだけが大事なんだ。それこそが僕に大きなインスピレーションを与えて くれるし、新しい作品へと駆り立ててくれる原動力なんだ。

──現時点では、あなたにとって最高のグループであるということですね。

も ちろん、レギュラーグループにも大きなキャパシティーがあるけど、このグループにはもっと広い領域をカバーできるポテンシャルがある。「KIN」や 「UNITY」という言葉を思いついた理由もそこにあるんだ。このグループには、あらゆることへの繋がりを得られるポテンシャルがある。『Bright Size Life』は当時の自分の可能性やヴァイヴレーションをひとつにレイアウトしたものだったと思うんだけど、今聴き直してみても、「ひどい作品だな」なんて思わないんだ。今でも「これはいいアイデアだったな」と思えるんだよ。過去の作品に今でも共鳴しながら、新しい作品に向かうことができるんだ。そして、それを実現できるのがこのグループというわけだね。

──今作でもオーケストリオンが使用されていますね。

そうだね。自分がはじめたことを途中で止めることはないよ。僕の道はまっすぐなんだよ。ひとつの建物を建てているとでも言えばいいかな。僕は全てを抱えなが ら自分の道を進んでいくタイプの人間なんだ。だから何も捨てない。自分自身からアイデアを取り出す上で、それがベストな方法だと思うんだ。

──それにしても、どうやってそんなにたくさんのアイデアを実現するんでしょうか?

ひとつのアイデアを実現するためには、それについてしっかりとした定義をすることが大事だと思う。僕らの住むこの世界には無限の広がりがあると言うこともできるけど、僕はまず焦点を絞るようにしている。例えば、画家だって、常に全ての色を使うわけじゃないよね。作品が示す形や深みを、僕はひたすら焦点を絞りながら作っていくんだ。

──そういえば、ノンサッチ・レーベルともずいぶん長い付き合いですね。

社長のボブ・ハーウィッツとは個人的にもすごく親しいんだ。僕がECMからアルバムを出しはじめた頃に彼もECMで働いていたから、ほぼ40年くらいの付き合いになるわけだけど、彼は僕のことを本当によく理解してくれていてね。彼は僕にハードな要求をすることで、いつも後押ししてくれるんだ。決して楽な方向には導かないし、彼はいつも正しいんだ。

──ボブ・ハーウィッツとECMのマンフレート・アイヒャーとの違いは?

全部だよ(笑)。全く別の人間だし、全く別の雰囲気をもったレコード会社だね。

──練習の鬼で知られるパットさんですが、普段、ゆっくり音楽を聴いたりする時間はあるんでしょうか?

それはなかなか難しいね(笑)。でも、周りに素晴らしいミュージシャンがたくさんいるから、彼らの作品はいつも聴いてるよ。

──オーディオへの興味はありますか?

ホームオーディオではなくて、スタジオ用のクリティカルなリスニング環境だけど、24bit/96kHzで聴けるようになっていて、それが僕の聴き慣れたサウ ンドなんだ。だから、リスナーが同じレベルのサウンドで聴けるようになるのは僕にとってもうれしいことだよ。インターネットはそういった可能性を僕らに与えてくれていると思うね。

──テクノロジーの進化については肯定的なんですか?

一般的にはね。ただし、音楽に関してはわからないな。やっぱり音楽はミュージシャンが作るものだからね。


インタビュー・文◎小林栄一