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連載『厳選 太鼓判ハイレゾ音源はこれだ!』 第43回

2016/12/28
桁違いの制作費から生まれた超豪華名盤が、ハイレゾで更に輝きを増す。
~ 小室サウンドのハイレゾ決定版!



音楽エネルギーをキャッチするためには


前回(第42回)で音楽エネルギーについて解説しました。音圧とも違う、電気出力とも違う、強く楽器を弾くのとも違う、そんな音楽エネルギーの存在に、なんとなく気付いていただけたなら嬉しいです。

当然、次に浮かぶのは「音楽エネルギーって、ハイレゾに関係あるの?」という疑問。ハイ、関係ありますよ、もちろん。私も伝えることが学びになりますので、全力で解説してみますね。

まずは、音楽エネルギーをオーディオでキャッチするための条件を考えてみましょう。

 1. 音楽エネルギーを記録した音源
 2. 音楽エネルギーを再現できるシステム
 3. 音楽エネルギーをキャッチする能力

この3つが必要です。それぞれのバランスが良いパターンもアリですけど、どれかひとつが突出していても音楽エネルギーがキャッチしやすくなります。

まず1番の音源ですが、これはこの連載でご紹介している太鼓判ハイレゾ音源なら間違いなし。音楽エネルギーがきちんと記録できているハイレゾ音源を高く評価し選出しているのが、なんといってもこの連載ですから。

ただし、 音楽エネルギーを記録した音源は、必ずしもハイレゾである必要はありません。CD規格でもMP3でもネット動画でも、音楽エネルギーを記録することは可能です。

次に2番のシステムですが、これは再生できるデジタル規格で決まるものではありません。なぜなら、DSDや192kHz再生が絶対条件ではないということが、1番の音源の条件がハイレゾ限定ではないことから分かるためです。

3番の能力ですが、これは別に超能力という意味ではありません。オーディオ歴の長さ、年齢も関係ないかな。音楽エネルギーに触れた経験値の方が重要だと思います。例えば、ミュージシャンはこの能力に長けた人が多いのは、そのためです。


音楽エネルギーとハイレゾを、絶景と画像から考えてみる

音楽エネルギーとハイレゾの関係は、絶景と画像の関係を想像すると理解しやすいかもしれません。

あなたが絶景を目にしたとします。富士山でもなんでもいいです。家族や友人にその素晴らしさを伝えようと、やっぱり写真を撮りますよね。すごく良いカメラを使って、できるだけ大きな画像サイズで保存したいのは人情です。

その絶景の画像データ。自慢のPCモニターで見ると、我ながら惚れ惚れする画像として撮れたとします。それを家族や友人に見せるとき、例えば450×450ピクセルの数キロバイトにデータ圧縮しなければいけないとなると、がっかりしませんか? 「そんな小さい画像だと、あの日見た絶景の良さが伝わらないよー」と、嘆くと思います。

音楽エネルギーって、この絶景の感覚に良く似ているんです。絶景を知っている人には、その良さが画像に写っているか一目見れば分かるし、富士山に興味の無い人は、どんな大きな写真を見ても「ふーん」で終わるでしょう。

「絶景をできるだけ大きな画像データで見せたい」という欲求が、まさに音楽制作側の「ハイレゾで音楽を伝えたい」という気持ちと同じ。画像テータを小さく圧縮するよりも、やっぱり記録する器が大きいほど、その絶景の魅力が伝わりやすい“可能性が高くなる”もの。伝えられる可能性の高さがハイレゾにはあると、私もそう感じているというわけです。

音楽エネルギーをオーディオでキャッチする方法の2番、『音楽エネルギーを再現できるシステム』というのは、例えば絶景画像を映し出すモニターを想像してみてください。解像度や画面インチ数、販売価格、メーカーだけでは語れない、モニターの画像表現力ってありますよね。どんな画像を見ても大して変わらないモニターなら、プロの写真エディターでも絶景の美しさを感じ取ることはできません。音楽エネルギーを再現するには、やはり道具も重要ということです。

キャッチする能力も同じことで、富士山の絶景写真を評価するなら、やっぱり生で富士山を見ておかないと。感じる心、感動できる素直さを、自然との触れ合いで磨いておけば、経験値上昇とともに音楽エネルギーをより深くキャッチできるようになります。これは人間に普通に備わった基本性能であり、特殊能力でもオカルトでも何でもありません。キャッチするアンテナ磨きにコンサートやライブに出かけるも良し、海や山で美味しい空気を満喫するも良し。お金をかけずとも、アイデア次第でこの能力を伸ばすことは可能です。

あの超豪華名作がハイレゾで?
スピーカーやDAC、オーディオアクセサリーの開発時に、CD盤の時代からウチのチームが実際に使用している名盤です。ハイレゾで聴けるのは、やっぱり幸せ。

『CAROL -A DAY IN A GIRL'S LIFE 1991-』(96kHz/24bit)
/TM NETWORK




TM NETWORKの名曲といえば、大ヒット曲「Get Wild」をはじめ、「1974」、「Self Control (方舟に曳かれて)」など挙げるとキリがありません。「Come on Let's Dance」は青山純氏のパワフルなドラムと渡辺美里さんのコーラスがカッコいい。個人的には、櫻井哲夫氏のスラップベースが炸裂する『humansystem』1曲目「CHILDREN OF THE NEW CENTURY」が好きです。

ではTM NETWORKの名曲ではなく名盤といえば、やはり『CAROL』が真っ先に挙がるでしょう。現代のCD盤制作では考えられないくらいの、時間とお金と天才の才能を使い生み出されたアルバム。そして実際、ミリオンヒットという成功もゲットしている作品です。

アルバム制作のためにロンドンに住み、それから長期録音って、今では信じられないですね。でも、当時はニューヨークなど海外に移り住んで音楽創造するなど、珍しいことではありませんでした。ロス、ハワイなども人気でしたね。TM NETWORK時代の小室哲哉氏が選んだのが、ロンドンでの音楽制作でした。
ミュージシャンは海外勢が素晴らしいパフォーマンスをしているのはもちろん、日本から参加したギタリストも頑張っています。今ではB’zはもちろん、グラミー賞まで獲った松本孝弘氏のギタープレイが『CAROL』で聴けるんです。

そして『CAROL』サウンドの魅力として、ミックスのスティーブ・ナイ氏の手腕もポイントです。『CAROL』のドラムの音作りは、個人的にはベスト3に選びたいくらい好きです。香ばしいというか、歯切れの良いスネアは、今でもシビレます。またスティーブ・ナイ氏のミックスの特徴は、音数がとってもシンプルに感じられるというところ。弦セクションなど、きっとロンドンでお金をかけたであろうトラックが、もう聴こえるか聴こえないかくらいのギリギリの小音量でミックスされています。この攻めのミックスは、なかなか日本人では真似できません。

おそらくハイレゾ版『CAROL』は、マスタリングの個性を排除しているのではないかと思います。1988年の発売当初の音源は、ミックスのスティーブ・ナイ氏本人によるマスタリング。今回のハイレゾは、おそらく日本でのマスタリングでしょう。(ちなみに、2007年の紙ジャッケトCD版リマスターは、ソニー鈴江真智子氏のマスタリングでした。今回のハイレゾ版は未確認です。)

ハイレゾ版『CAROL』、実際に聴いてみると、非常に毒のないというかトゲのないマスタリングで、スティーブ・ナイ氏のミックスそのままを現代に伝えてくれているかのよう。1988年版音源ともイメージが異なることなく、当時のサウンドのまま窓の曇りが晴れたようなサウンドです。音圧アップも、そんなに積極的ではありません。ですが、音楽エネルギーはビシビシ伝わってきます。

音質チェックに使う場合の聴きどころは、ドラムの高域が破綻しないこと。シャリシャリと耳に痛い成分が感じられたら、高域強調しすぎというサイン。金属系アクセサリーの使いすぎに注意しましょう。ボーカルの位置が、濃く中央に定位するかどうかもポイント。スピーカーセッティングの指標になります。歌が薄くなるようなら、ルームチューニングでの吸音や拡散のしすぎに着目します。

絶頂期だった小室哲哉氏率いるTM NETWORK、ブレイク直前のB'z 松本孝弘氏のギター、華やかだった日本の音楽制作時代、そしてロンドンの空気。そんな1988年のサウンドは、今聴いても色褪せることなく、逆に現代の時短で便利で低予算の音楽制作に警鐘を鳴らしているかのようです。

『CAROL』・・・こんな贅沢な音楽が、20世紀終盤は新譜として買えたのですね。凄い時代でした。ハイレゾになっても、もちろん太鼓判です。



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筆者プロフィール:

西野 正和(にしの まさかず)
3冊のオーディオ関連書籍『ミュージシャンも納得!リスニングオーディオ攻略本』、『音の名匠が愛するとっておきの名盤たち』、『すぐできる!新・最高音質セッティング術』(リットーミュージック刊)の著者。オーディオ・メーカー代表。音楽制作にも深く関わり、制作側と再生側の両面より最高の音楽再現を追及する。自身のハイレゾ音源作品に『低音 played by D&B feat.EV』がある。