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人気のピアソラをストリングスとオーボエでサラウンド録音! UNAMASレーベルの新作『A.Piazzolla by Strings and Oboe』が登場

2016/12/28
サラウンドを基調としたハイレゾ録音と優れた音楽性でリスナーを魅了するUNAMASレーベルに、待望の新作『A.Piazzolla by Strings and Oboe』が登場しました。e-onkyo musicではその録音現場を取材。レーベルの主宰者である“ミック沢口”こと沢口真生さんをはじめ、制作スタッフやアーティストのコメントとともに、その聴きどころをご紹介します。

取材・文◎原 典子 写真・キャプション◎山本 昇

『A.Piazzolla by Strings and Oboe』
UNAMAS Piazzolla Septet



ミュージシャン:田尻 順(Vn1)、竹田詩織(リード & Vn2)、大角 彩(Va on ③④⑤⑥)
荒木奏美(Ob on ①②⑦)、西谷牧人(Vc1)、小畠幸法(Vc2)、北村一平(Cb)


 『The ART of FUGUE BWV-1080(J.S.バッハ:フーガの技法)』『Franz Schubert No-14 in D minor Death and the Maiden(シューベルト:弦楽四重奏曲第14番「死と乙女」)』が日本プロ音楽録音賞のサラウンド部門で優秀賞を受賞、サラウンド録音によるハイレゾ作品で高い評価を誇るUNAMASレーベルのクラシック・シリーズに新作『A.Piazzolla by Strings and Oboe』が登場した。今回のテーマはピアソラ、しかもストリングスとオーボエという斬新なアレンジによる録音である。演奏は東京交響楽団を中心とした精鋭メンバー、とくに1993年生まれの首席オーボエ奏者、荒木奏美の参加は大きな話題になることだろう。  高い音楽性と技術に裏打ちされた演奏と、テクノロジーの粋を極めた録音から生み出される「録音芸術」とは−−−。レコーディング現場と試聴会の様子を交えながらご紹介していこう。


 レコーディングが行われたのは、千葉にある日本音響エンジニアリングのサウンド・ラボ(AGS studio)。夏の陽射しが照りつける7月半ばにスタジオを訪れると、すでにセッションが始まっていた。その合間を縫って、プロデューサー/エンジニアでありUNAMASレーベルの代表、ミック沢口氏(以下敬称略)に話を伺うことができた。

沢口「ピアソラはタンゴの異端児として有名ですが、そのリズムにはジャズ的なセンスがあって、もともと好きだったんです。ちょうど今年(2016年)が生誕95周年にあたるというので、ぜひ録音しようということになりました。このスタジオは響きがタイトに出る空間なので、タンゴの持つ勢いがバシッと決まるんですよね。だからここで録音したらいいんじゃないかなと思って、弦楽セクションとオーボエという編成を考えました。ヴァイオリンがリードをとる曲が4曲、オーボエがリードをとる曲が3曲、そこまで考えて、アレンジは土屋(洋一)君に“あとはよろしく”と(笑)」

 スタジオでは演奏者が円陣を組むように座り、それぞれに1本ずつのマイクが設置されている。9.1chのサラウンド録音というと、マイキングの仕方にも複雑そうなイメージがあるが、じつはきわめてシンプルな考えにもとづいているのだという。

沢口「最終的には9.1chのサラウンドになるわけですが、再生するときのスピーカーの配置と、録音するときの演奏者の配置はまったく同じにしてあります。メインとなる5人の演奏者にひとり1本ずつマイクを配置し、あとは高い位置から響きを録るハイト・チャンネルに2本のステレオ・マイクを立てていますが、マイクの回線数が、そのままチャンネルの数になります。なにも難しいことはないですよね」

 つまり、9.1chの再生環境で聴けば、アンサンブルの中心に座って演奏を聴いている感覚が味わえるというわけだ。実際のコンサートなどではあり得ないシチュエーションである。

沢口「僕らのレーベルのコンセプトは、“収録”ではなく“録音芸術”です。ただ単にコンサートをライヴ録音するだけでは、そこに制作者の意図は入っていません。やっぱりコンサートでは絶対に聴けないような、新しい体験をリスナーの方々に提供しなくてはと思うんです」

録音に臨む“UNAMAS Piazzolla Septet”の皆さん。
右はレコーディング・ディレクターを務めた入交英雄さん



 今回のレコーディングに使われた日本音響エンジニアリングのサウンド・ラボは、柱状拡散体(AGS)と呼ばれる、木でできた棒状のディフューザーが全面に配置された特徴的なスタジオである。沢口は深町純の『黎明』もこのスタジオで録音しているが、音響的にどんな効果があるのだろう?

沢口「AGSを壁面などに配置すると、素直で“マイク乗り”のいい音が録れます。反射音が濁らず、きれいにマイクに入ってくるんですね。それによって厚みのある音もクリアに、弦の音色はリアルになります。演奏者の方々も、とても演奏しやすいみたいですよ」

 そのあたりを、今回がレコーディング・デビューとなるオーボエ奏者の荒木奏美に聞いてみた。

荒木「ここは、とても演奏しやすいスタジオですね。残響もあるし、かといってヘンに響きすぎないので、吹いていて気持ちがよかったです。ホールで演奏するときは、戻ってくる音の響きを聴きながら音量や音色を調節したりするのですが、このぐらいの狭さのスタジオでは、そういうことは普通は出来ないですよね。けれどここではそれが出来たので、ホールで演奏しているときに近い感覚でした」

 レコーディングでは、テイクを重ねるごとに生気がみなぎり、熱を帯びていった荒木の演奏が印象的だった。バンドネオンのパートをオーボエで演奏するのは至難の技だったのでは?

荒木「最初は一体どうやって吹いたらいいのかと途方に暮れました(笑)。〈Oblivion〉はわりと違和感なく自然に吹けたのですが、〈Adios Nonino〉は練習していてどうしてもしっくりこない部分があったりして。けれどアンサンブルの先輩方と“こういう編成でやるからには、この編成で出来るような表現にしよう。バンドネオンとオーボエは違う楽器なんだから、オーボエのよさを活かしつつやっていこう”という話をして、一気に不安が消えました」

 通常のクラシック作品とは異なり、レコーディングの最中に、実際の音を聴きながら楽譜が書き替えられていくことも。アレンジを担当した土屋洋一は、これまでにも『フーガの技法』や『死と乙女』のアレンジなどを手がけており、ロックやポップス的な感覚も持ち合わせたメリハリのあるサウンドが、クラシック・リスナーのみならず多くの音楽ファンの心を掴んでいる。今回ピアソラをアレンジするにあたり、心がけたポイントを聞いた。

土屋「ピアソラのアレンジって、巷にすごくたくさんあって、原曲からかけ離れたようなものも多いですよね。けれど、もうすぐ生誕100年にもなるんだから、ピアソラ本来の姿に近づけたいと思ったんです。たしかにバンドネオンのパートをオーボエやヴァイオリンで演奏するのですから、アレンジするうえで大変な部分もありますが、それでも可能な限り原曲に近づけようという意図をもって作業しました。もっとも、僕の中ではバンドネオンとオーボエの音色は、なんとなく近い部分があると感じていたので、すんなり入っていくことが出来ました」


 さて、そんなふうに録音された音源が、果たしてどんなアルバムに仕上がっているのか。約半年を経た12月末に開催された試聴会で、その素晴らしい成果を聴くことが叶った。会場では、ひとつの曲を2chと9.1chの両方で試聴(*e-onkyoで今回配信されるのは2chと5.1ch)。その違いは明らかだった。

 1曲目の「Oblivion」は哀愁を帯びたオーボエの歌を堪能できる曲だが、この楽器特有の音圧が、ときにトーンのキツさとして感じられることもある2chに対し、9.1chの方は自然な空間でのびのびと響きわたっている。弦の響きもふくよかで、アンサンブルの中心で聴いているような感覚は、なんとも贅沢だ。

 2曲目の「Adios Nonino」は冒頭からエッジのきいた弦の刻みがインパクト大。2chだと音がゴツゴツとした塊になって聞こえてくるので、ロックのようなノリを求める方には2chがおすすめかもしれない。一方の9.1chの方はなめらかな響きで、表現に幅が出ている。

 そして誰もが知る有名曲の「Liber Tango」。9.1chはやはり空間に余裕のある響きがして、すぐそばで演奏しているような臨場感に満ちている。ソリッドな弦の刻みの中を、昇り龍が如く駆け抜けてゆくソロ・ヴァイオリンが最高にカッコいい。この澄み切ってまっすぐな音は、余計なノイズが一切入っていないからこそ実現したものだろう。

 このように、9.1chで聴くと、音楽がより自然に響き、細かい表情や、演奏者のテンションの高まりを感じ取ることができる。UNAMASレーベルが目指す「ART」「Technology」「Engineering」の融合が高次元で達成された新作を、ぜひサラウンドでお楽しみいただきたい。

メインで使用するマイクの数が演奏者(楽器)の数とほぼ一致するマイク・アレンジも
ウナマス作品の特徴。「マイクをたくさん使うと、どうしてもミックス時に音が濁ってしまうので、
そこは極力シンプルにしたいと考えています」(沢口さん)




メイン・マイクは5本のNEUMANN KM-133D(デジタル・マイク)。
アナログ回路を最小限に留めることで、非常にクリアな音質が得られるという



スタジオの響きを狙った2本のステレオ・マイクSANKEN CUW-180は、
トップ・レイヤーつまりハイト・スピーカー用のチャンネルに振り分けられる




コントラバスはリードやヴァイオリンの後方に配置し、メイン・マイクに加えて
写真のコンデンサー・マイクAUDIX SXC-25でも収録。このチャンネルは、
サラウンドのLFEにも活かされる




マイク・プリアンプはアナログ・マイク用にRME Micstasy M(下)、
デジタル・マイク用にRME DMC-842 Mを使用。その出力は、光ファイバー・ケーブルで
デジタル伝送システムMADIによって隣室のコントロール・ルームへ送られる




コントロール・ルームに陣取る沢口さん(左)とアレンジャーの土屋洋一さん




スタジオから送られた各マイクの音声は、沢口さんの前にあるMERGING TECHNOLOGIES Pyramix(DAW)に24bit/192kHzでマルチ録音された。ノート・パソコンの左にあるのは
オーディオ・インターフェースのRME MADIface XT。
左のノート・パソコンはバックアップ用のMAGIX Sequoia(セコイア)による録音システム




コントロール・ルームでプレイバックを聴く演奏者ら




別室にはELIIY POWERの蓄電システムが用意されるなど、
今回の録音現場でも徹底したノイズ対策が施されていた




サウンド・ラボの壁面や天井には、ルーム・チューニングのための吸音拡散体
AGS(Acoustic Grove System)がふんだんに採り入れられている。
今回は、アクリル板による調整も行われた