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バイノーラル作品『3D Binaural Sessions at Metropolis Studios』はヘッドフォン・ユーザーへの贈り物!

2016/11/11
クイーンやU2をはじめ、世界のトップ・アーティストたちがこぞって使用することで知られるイギリス最大級のスタジオ「メトロポリス(Metropolis )」。この現代の名門スタジオとe-onkyo musicのコラボレーションが実現しました。伊藤ゴロー氏や藤倉大氏、さらに海外の実力派アーティスト諸氏の参加を得て制作された『3D Binaural Sessions at Metropolis Studios』は、本作のために用意されたバラエティ豊かな楽曲をノイマンのダミーヘッドで丁寧にとらえたバイノーラル作品。ヘッドフォンやイヤフォンでの試聴により、バイノーラル録音ならではの立体的な音響をお楽しみいただけます。ここでは、担当ディレクターの黒澤拓がメトロポリス・スタジオで行われたレコーディングの様子などをご紹介します。

取材・文◎山本 昇



『3D Binaural Sessions at Metropolis Studios』
/伊藤ゴロー、藤倉大、Pierre O'Reilly、Malory Torr


■ “古くて新しい”バイノーラルという録音方式

-- まずは今回、『3D Binaural Sessions at Metropolis Studios』を制作することになった経緯をご説明ください。

 ロンドンのメトロポリス・スタジオとは、2年ほど前に当社のショールーム“Gibson Brands Showroom TOKYO”でマスタリング講座を開催するなどの交流があり、2016年の4月にメトロポリスの著名なマスタリング・エンジニア、スチュアート・ホークスさんが来日した際もショールームでイヴェントを行いました。そうしたご縁を元に、何か面白いコラボレーションができればという想いを共有し、テーマを探っていたところ、メトロポリスから出てきたのが「バイノーラル」というキーワードだったんです。いま映像の分野ではVR(仮想現実)やAR(拡張現実)といった技術が盛り上がっていますが、音響のほうでは「バイノーラル」が注目されているというのです。技術としてはすでに長い歴史を持つ録音方式ですが、BBCが放送に採り入れるなどヨーロッパではバイノーラルをもう一度見直そうという動きがあり、メトロポリスでもテスト録音を行っていたところだったそうなんですね。
 我々としましても、オンキヨーやパイオニアといったブランドで、ハイレゾに対応するポータブル・プレーヤーをはじめ、ヘッドフォンやイヤフォンといった商品をラインアップしており、そうしたユーザーの皆さんに喜んでいただけるようなオリジナル作品をe-onkyo musicからお届けしたいという想いをあたためていましたから、「ぜひ一緒にやりましょう」ということになりました。

〈ロンドンにある歴史を感じさせる「メトロポリス」の外観。元は火力発電所だったという〉

-- バイノーラル録音はヘッドフォン再生が前提となりますから、ヘッドフォンやイヤフォンをよく利用するユーザーは特に注目したくなるテーマでもあります。

 そうですね。ただ、これまでにもバイノーラル録音を採用した作品はすでにいくつかリリースされていますが、例えば自然音を録ったものなどは目につくものの、音楽作品で積極的に活用したケースは意外に少ないんですね。ハイレゾとしては、Chesky Recordsにもバイノーラル作品がありますが、その多くはマイクを固定して録音したものです。そこで我々としては、もう一歩先に進んで、バイノーラルならではの面白さをさらに追求しようと考えて、アルバム名のとおり、3D感をより強調したものを目指すことにしました。
 なお、当初はバイノーラル用のミックスだけを配信するつもりでしたが、通常のミックスといかに違いがあるかを聴き比べていただくのも面白そうだということで、通常のマイキングによる“2chミックス”も3曲ご用意しました。

〈大小4つのスタジオを備えるメトロポリスで、今回は比較的コンパクトなBスタジオを使用。後ろ姿はレコーディング・エンジニアのポール・ノリスさん〉

-- ということは、今回の作品の影の主役がバイノーラルのステレオ・マイクということになりますね。

 そうなんです。(写真を見ながら)これが今回の録音で活躍したダミーヘッドで、ノイマンのKU100というモデルです。メトロポリスには、このスタジオをよく利用したアーティストとして知られるフレディ・マーキュリーの名を冠したカフェがあるのですが、我々もこのダミーヘッドをフレディと呼んで可愛がっていました。

-- レコーディング期間はどれくらいで行ったのですか。

 日程としては、9月の6日にリハーサルを行い、7日と8日の二日間でレコーディングを行いました。

〈録音期間中、“フレディ”の愛称で親しまれたダミーヘッドはNeumann KU100〉

-- 参加アーティストについて教えてください。日本からは坂本龍一さんや細野晴臣さんなどとの共演でも知られるギタリストで作曲家の伊藤ゴローさん、そしてイギリス在住の作曲家である藤倉大さんが参加していますね。

 伊藤ゴローさんは以前から存じ上げていて、ハイレゾ関連のインタヴューをさせていただく中で、演奏家・作曲家として素晴らしいことはもちろん、プロデューサーとしての広い見識もお持ちであることから、今回のように通常とは異なる発想力が必要なプロダクトにはぜひお願いしたいと思っていました。全編バイノーラルというチャレンジングな試みを、伊藤さんなら楽しんでくれるという予感があったんです。伊藤さんにお願いしようというのは、メトロポリスのスタッフで今回のプロダクトをコーディネイトしてくださった吉岡仁さんの発案でしたが、そんなわけで私も「ぜひ!」という感じでしたね。その後、藤倉大さんには伊藤さんからお声掛けいただいたという流れでした。藤倉さんも、いちファンとして存じ上げていましたが、現代日本を代表する作曲家として、世界で最も注目されるアーティストの一人です。その藤倉さんには今回、ピアノ・ソロ「“Crossing Paths” for Piano」をご用意いただきましたが、スケジュールに余裕がなかったため、奇しくもご本人によるピアノ演奏という珍しい録音が実現することになりました。伊藤さんと共演している曲を含め、ファンの方には藤倉さんの演奏もお楽しみいただきたいですね。
 そのほか、海外勢として映画音楽などの分野で活動している作曲家のピエール・オライリーさん、女性シンガー・ソングライターのマロリー・トーさん、チェロ奏者のアリス・パートンさん、ジャズ・ミュージシャンのアリス・ザヴァツキさん(バイオリン、ヴォーカル)などが参加しています。

〈伊藤ゴローさん(左)と藤倉大さん〉

-- ギターとピアノ、チェロのアンサンブルが楽しめる曲からインプロヴィゼーションもの、トラディショナル、そしてポップなヴォーカル曲など、アルバム全体としても多彩なラインアップとなっていますね。

 参加していただいたアーティストたちには、バイノーラル録音でその魅力が活かされるような曲をそれぞれ用意していただきました。伊藤ゴローさんには2曲持ち込んでいただきましたが、特に「雨点(Uten)」はバイノーラル録音によって楽器の動きが立体的に感じられるような面白さのある曲になりました。インプロヴィゼーションに近い構成の曲ですが、雨や風の音によって時間的な流れやストーリーを表現しています。多数の珍しい楽器に加え、おもちゃやクシャクシャにしたアルミホイルが発する微細な音なども効果的に使って録音されています。そんな「雨点(Uten)」のレコーディングの様子を興味深く見ていたのが藤倉大さんで、「僕も参加したい」ということになり(笑)、急きょ録音したのが伊藤さんと藤倉さんらの即興による「脈々(myaku-myaku)」です。

■ 楽曲と連動したダミーヘッドのオペレーション

-- 今回は、すべての楽曲がダミーヘッドの2つのマイクによって録音されたということですね。

 そうです。いわばダミーヘッドによるワン・ポイント録音で、スタジオ空間の中の音をそのままお届けしようというわけです。ダミーヘッドは楽曲によって固定したり、動かしたりしていて、そうしたオペレーションは主にピエール・オライリーさんが担当しました。「“Crossing Paths” for Piano」、「The Cuckoo」、「Noches Noches」以外の曲ではダミーヘッドを固定しましたが、曲によって楽器やヴォーカリストを移動させて録ったりしています。伊藤ゴローさん書き下ろしの「庭(Niwa)」は、ギターとピアノ、チェロの配置に気を遣って各楽器の距離感を決めていきました。この曲でチェロを弾いているのは、フランス出身で現在は日本在住のロビン・デュプイさん。とても腕の立つチェリストです。
 藤倉大さんのピアノ・ソロ「“Crossing Paths” for Piano」は、ポールに取り付けたダミーヘッドをピアノの弦に近付けて、曲調に合わせて様々な動きを加えています。アリス・パートンさんとアリス・ザヴァツキさんによるトラッド・フォークの「The Cuckoo」は、ピエールがダミーヘッドを手に抱えてチェロとバイオリンに遠くから近づいて行ったりしています。また、同じくヨーロッパのトラディショナル・ソング「Noches Noches」では、ヒモで吊り下げたダミーヘッドを高速でグルグルと回転させながら録音しました。このように、ダミーヘッドは録音する曲ごとに使い方を変え、曲のイメージに合わせて連動するなどの工夫がなされています。そうした様子は、冒頭の映像でも少し紹介していますので、ぜひご覧になってみてください。

〈自らピアノを演奏する藤倉大さん〉

〈「“Crossing Paths” for Piano」でダミーヘッドの動きを細かく打ち合わせる二人。奥がダミーヘッドの操作を担当したピエール・オライリーさん〉

-- 「“Crossing Paths” for Piano」でのピアノの持続音の気持ちよさには驚きました。そして、ダミーヘッドの回転速度をランダムに変えている「Noches Noches」は“逆レズリー状態”とでも言うべきものですが(笑)、非常に新鮮な効果にはっとさせられました。また、ダミーヘッドを固定した楽曲でも、マロリー・トーさんの「Real Love」で彼女が“フレディ”の周りを移動しながら歌ったり、耳元で囁いたりしている様子も、曲調に合っていて楽しいですね。

 「Real Love」は歌とピアノだけのシンプルな編成のポップ・ソングですが、とてもキャッチーな曲に仕上がったと思います。そして、バイノーラルの効果を大いに発揮しているのがピエールの「Sounds in Binaural」でしょう。電動バリカンや緩衝材のプチプチ、ガムテープなどの動きを、固定されたダミーヘッドのマイクでとらえた、遊び心のある楽曲ですね。

〈シンガー・ソングライターのマロリー・トーさん(右)。ピアノ演奏はダニー・マクラクランさん〉

-- レコーディング時のエピソードとして覚えていることは?

 ピエールがダミーヘッドを持って動くとき、足音や着ている服の衣擦れもマイクが拾ってしまうので、そのあたりは大変そうでしたね。「雨点(Uten)」では、固定したダミーヘッドの周りをしらいしかずやさんが楽器やおもちゃの音を出しながら動き回るときも、ズボンが微かですがカサカサと音を出してしまうんです。普段あまり気にしないところでさまざまな音が出ているものですね。

-- 今回のエンジニアは?

 レコーディング・エンジニアはメトロポリス・スタジオ所属のポール・ノリスさんです。このところ頭角を現している若手の筆頭で、リアーナ、シェリル・コールなどのほか、多様なジャンルをこなしています。マスタリングのほうは、やはりメトロポリスに所属するアンディ・ボールドウィンさんが担当しました。曲により、若干のEQなどの処理は施していますが、基本的にはダミーヘッドのマイクで録ったそのままの音をお楽しみいただけます。

〈ギター、ピアノ、チェロによる「庭(Niwa)」の録音シーン〉

■ ハイレゾ専門サイトとして追求する音楽の可能性

-- マスタリングも無事に終えたいま、ディレクターとして今回の制作を振り返って、どのような感想をお持ちですか。

 そもそも、バイノーラルで音楽作品を仕上げるのはこれまであまり例のないことですから、アーティストたちにとっても初めての経験ということで非常にチャレンジングなプロダクトだったと思います。そんな中、バイノーラル録音によってどう聞こえるのかは、アーティストの皆さんも気になっていたようで、スタジオでも非常に興味深そうにイヤフォンやヘッドフォンでモニターしている姿が印象に残っています。そして、今回は必然的に一発録音になりるうえ、現場で構成を大きく変えた曲もあったのですが、よくぞ2日間で全8曲を録り切ることができたと思います。参加アーティストの皆さんはもちろん、メトロポリスの吉岡さんをはじめ、録音クルーたちの力量のおかげですね。

-- “2chミックス”ヴァージョンと聴き比べても分かるのですが、ノイマン KU100の特性がよほど我々の耳に合っているのか、今回のバイノーラル録音は音質自体がとても自然な柔らかさを伴っていて、とても聴きやすい印象でした。そしてやはり、ダミーヘッドという形状がもたらすバイノーラル効果が絶大ですね。

 そうなんですよ。“2chミックス”は各楽器がはっきりと見えるような良さがありますが、バイノーラル版では音場や空間の陰影がそのまま伝わってくるような感じで、それぞれの特徴が現れていると思います。曲中はもちろんですが、演奏前にプレイヤーが話している声なんかもとてもリアルでビックリしました。最後はみんな、すっかりフレディがお気に入りになって(笑)。音楽の作り手にもその楽しさを体験していただくことで、今後もこうした新しい手法や発想による録音が増えたりして、聴き手にとっても面白いハイレゾ作品が増えてくると嬉しいですね。

〈大活躍のフレディと!〉

-- では最後に、リスナーへ向けてのメッセージをお願いします。

 通常のステレオ音源をヘッドフォンで聴いたときに発生する「脳内定位」の問題を解消するバイノーラル録音による音作りは、先ほども言いましたように昔からある技術ではありますが、いまのヘッドフォン・ユーザーの皆さんには新しく聞こえることでしょう。その音にまずは驚き、楽しんでみてください。e-onkyo musicではハイレゾ配信の専門サイトとして、今後もハイレゾリューションであることに加えて、さらに音楽をどう上手く表現できるかを追求していきますが、この『3D Binaural Sessions at Metropolis Studios』でそうした可能性を感じていただければとても嬉しいです。

〈ロンドンの中心部からやや西に位置する「メトロポリス」は、レコーディング・スタジオに加えてマスタリング・ルームなどのほか、カフェや宿泊施設も擁するスタジオ・コンプレックスとなっている。
http://www.thisismetropolis.com/international/jp/

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