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復帰後初! ギタリスト村治佳織の最新オリジナル・アルバム『ラプソディー・ジャパン』が旧作6タイトルと共にハイレゾで登場

2016/10/26
2013年の休養宣言を経て、人気ギタリストの村治佳織さんがニュー・アルバムを発表しました。オリジナル・アルバムとしては前作『プレリュード』から5年ぶりとなる最新作『ラプソディー・ジャパン』には、復帰を果たした村治さんのどんな想いが詰まっているのでしょうか。松本の「ザ・ハーモニーホール」で行われたレコーディングの様子なども交え、存分に語っていただいた最新インタヴューをお届けします。

取材・文◎小池千尋 撮影◎山本 昇

『ラプソディー・ジャパン』
/村治佳織


 1993年、15歳でデビューCD『エスプレッシーヴォ』を発表。その後、パリ、ロンドン、マドリッドで生活しながら活躍していた村治佳織さんが、故郷・日本に拠点を戻して新作『ラプソディー・ジャパン』を発表した。オーディオ・マニアにもファンの多い彼女だが、2013年の休養宣言後、初めてのアルバム・リリースとしても注目を集める今作について、お話をうかがった。

■ アルバムのベースとなったチャリティ・コンサート

—— 5年ぶりとなる待望の新録音ですが、今作はどのように生まれたのでしょうか。

 今までは新しくアルバムを出すとなると、まずコンセプトを決めて、その後選曲して……という方法で作ってきたんです。でも今回は、今年の4月末に紀尾井ホールで行った「3.11被災者のためのチャリティ・コンサート」で弾いた曲が元になっています。
 このコンサートを行うときには、レコーディングのことは全く考えていなかったんです。まずは、良いコンサートにすることに集中していました。その結果、コンサートでは私も心から感動したんです。お客様も温かい雰囲気で迎えてくれましたし、天皇皇后両陛下もご臨席いただくという、私のなかでも特に思い出に残る公演になりました。
 すでに去年の秋頃から、所属レーベルのデッカやユニバーサルに「良いタイミングでレコーディングを始めませんか?」というお話をいただいていて、ありがたいなとは思っていたんですが、でも復帰はじっくりと、焦らずにいきたいなという気持ちが強くて、待っていていただいたんですよ。でも、このコンサートができたことで、今のタイミングだったらできるかなと思いました。そこで、新しいコンセプトを今から考えるのではなく、このコンサートをそのままアルバムにも活かしたいとお願いしたら、それを受け入れてくださったので、8月にレコーディングをすることになったんです。

—— 収録されている曲のほとんどが、「3.11被災者のためのチャリティ・コンサート」で演奏された曲ですね。

 はい。コンサートのプログラムを考えているときから、とても楽しかったんです。まずは、「コユンババ」を久しぶりに弾きたいなと思っていました。この曲は2011年に初めてレコーディングをして、その後2012年5月に約1ヵ月間「シダの群れ 純情巡礼編」という演劇とのコラボレーションで、この曲を毎日ずっと弾いていたので、それだけ自分の体のなかに入っている曲なんです。とても異国情緒のある曲で、“旅をする”という感覚を抱くので、これを核にして、この数年間で書き溜めた4曲を付け足しました。その他、コンサートでは弾いていなかったけれどアルバム用に付け足した曲が「花は咲く」、「カヴァティーナ」の2曲です。
 アルバム1曲目の「ラプソディー・ジャパン」は、父が「デュオでいい曲があるよ」と教えてくれたんです。「日本の歌がメドレーになっていて、最後は“ふるさと”で終わる」と聞いて、これは今回の「日本をおもう」とか「ふるさとをおもう」というテーマにふさわしいなと思いました。それで、すぐに音源と楽譜を取り寄せたら、初見で弾いてみただけで胸がジーンとなってしまう温かみのあるアレンジだったので、この曲を弟と演奏することにしました。
 コンサートではこの「ラプソディー・ジャパン」を最後に弾きました。アフリカとか、長崎の五島列島とか、イスタンブールとかいろいろな旅をした後に、最後は日本で終わる、ということにしたんです。でも、コンサートと何回も繰り返して聴いていただきたいアルバムとは違うものなので、ここでは違った曲順にしています。

■ “ふるさと”を裏テーマとした選曲

—— 弟の村治奏一さんとは冒頭の「ラプソディー・ジャパン」と最後の「カヴァティーナ」を一緒に録音されていますね。

 このアルバムの裏テーマは“ふるさと”で、私にとってステージに復帰することも、これまで何度もやってきたレコーディングをすることも“ふるさと”に帰ることなんです。そんなテーマのこのアルバムで、デュオの相手は本当の“ふるさと”も一緒であり、ずっと近くで多くの時間を共有してきた弟以外には考えられなかったんです。
 また、「コユンババ」には私のデビューアルバム『エスプレッシーヴォ』の時に弾いていた、ポール・ジェイコブソンというアメリカの作家が1992年に作ったギターをもう一度使いました。それも“原点に帰る”という意味を込めて。そして、「コユンババ」以外は別のギターを使っています。こちらは、スペインのホセ・ルイス・ロマニリョスが作ってくれたものです。
 二つのギターは音量も違うし、表面板が一方は杉で、もう一方は松なので、音質も違います。異なるギターが同じアルバムに入るのは心配でもあったのですが、どうしてもそれぞれ弾く曲に合っているギターを使いたかったのです。実際に弾いてみたら、どちらのギターもホールの響きにとても良くなじんでいましたし、エンジニアのジョナサン・ストークスも難なくその二つの楽器の違いを出していて、マイク・セッティングにも全く苦労している様子はありませんでしたね。

—— 詩集『子どもの時間』のために村治さんが書き下ろした曲も2曲収録されています。

 津田塾大学教授の早川敦子先生から、アメリカの女性詩人グロッショルツさんの作品を日本に紹介したいので、私の演奏ともなにかコラボレーションができないかというお話をいただいたんです。今の自分なら作曲もするので書かせていただきました。
 この2曲に関しては、詩の言葉をそのまま音楽に置き換えています。「一輪のスノードロップ」では、“静けさ”だとか“凛と咲く”という言葉のイメージから、あまり音の数は多くないなと思いました。さらに、雪が積もってシーンとした様子を音で表すとしたら、ハーモニーの美しさで表現したいと思ったんです。また、「雨を見つける」では男の子が庭を走り回る光景から、スピード感のある曲にしました。

—— 「島の記憶〜五島列島にて」もご自身で作曲されていますね。

 あの曲は、五島列島を訪れたときに書いたものですね。五島列島は自然も豊かですし、教会が50くらい残っていて、キリスト教の影響を強く受けているので、西洋のルネサンス音楽をなんとなくイメージしました。そして、海を見ながら、教会を見ながら、出てくる音楽を書き取って形にした曲です。信仰を持って、迫害を受けながらも凛として強く生きた人たちの雰囲気を出せないかなと思いましたね。


■ 松本で行われたレコーディングの様子

—— 今作は、松本市音楽文化ホール(ザ・ハーモニーホール)でのセッション録音ですね。

 プロデューサーのドミニク・ファイフと、エンジニアのジョナサン・ストークスは、小澤征爾さんのセイジ・オザワ松本フェスティバル(旧・サイトウ・キネン・フェスティバル松本)のレコーディングをしていて、毎年日本に来るんですよ。今年も8月に2週間日本に滞在していて、その期間に使える松本市内のギターにふさわしいホールということでここを選びました。
 ハーモニーホールは、この2人も「この響きはイギリスのホールにもなかなか無い」と言って、とても気に入っていました。

—— 録音は何日くらい行ったのですか。

 4日間です。いままでのアルバムも大体いつも4日間ということがほとんどですね。
 今回は初めて弾くホールなので、ぜひ自分で事前に下見をしておきたいと思っていました。そこで、レコーディングは8月末だったんですが、8月初旬に松本に行って30分くらい見学させていただきました。ギターを持って行って、響きを確かめたんです。録音の時に初めての場所に行ってすぐに演奏、というよりも一度弾かせていただくと、その後家に帰って練習するときも体験した空間や響きを想像しながら準備ができるので、よりリラックスして臨めるんですよね。今まではそういう時間を持ちたくても、忙しくて持てなかったんですけど、とてもいい時間でした。その旅には、一緒に渡辺香津美さんも行ってくださって、ホールの響きも聴いていただけたし。
 香津美さんもクラシック・ギターを持っていて、実際ライヴで弾かれることがありますよね。ジャンルの壁を越えて好きなものを弾くという姿勢をお持ちで、それは私が今後進んでいく上で憧れの姿勢なんです。私はクラシックを小さな頃からやっていて、自然と軸になっていますから、そこを離れるわけではなく、その上にいろいろなジャンルというか、いいと思ったものは素直に取り入れたいなと思いますね。

—— 今回のレコーディングで苦労したこと、印象に残っているエピソードはありますか。

 「バガモヨ」は、オリジナルでは三つの構成に分かれていたんです。最初、そのパターンで録音してみたら、プロデューサーのドミニクがしばらく考え込んで「今回は真ん中の部分は抜き取って、最後に弾いてた部分を最初に持ってきて、最初に弾いていたゆっくりの部分を最後に置くっていうのはどうかな?」と言い出して。それを受け入れて、その場で生まれたのが今回の構成の「バガモヨ」です。ドミニクはギターを弾かないので、演奏の技術的なことがわからない分、より音楽だけに集中して良い意見を言ってくださるので、私も納得して受け入れることができるんです。
 レコーディングでは、もちろん自分の名前が冠となるものの、いろいろな人と影響しあいながらアルバムが生まれていくところが楽しいなと思っています。「バガモヨ」はこのアルバムならではのヴァージョンができたなと思いますね。
 あと、印象的だったのは「コユンババ」の第3部のところで、これはもうちょっと早いテンポで準備していたんですが、楽譜にアッチェルランド(だんだん速く)とは書いてないから、もっと抑えたテンポでやってみたらどうかと言われたんです。抑制の効いたテンポで弾くって、けっこう大変なんですよね。気分が乗ってそのままの勢いで前に行く方が弾きやすかったりするんです。でも、ライヴではなく、繰り返し聴いてもらうアルバムでは、確かに抑えられたテンポで弾くというのもいいかなと思いました。それでも、急にテンポは変えられなかったので、翌日に録音を延ばして、朝、松本城を散歩しながら新しいテンポ感を入れて(笑)、もう一度、録音しました。
 その時に、練習の時には思いつかなかった機織りの光景が浮かんできたんです。最近、京都に住んでいらっしゃる染色家の志村ふくみ先生と実際にお会いして、その時の様子が浮かんできたので機織りの歌でもあるのかなという新しい視点が生まれたのが印象に残っています。佳織の“織”でもあるので自分への歌でもあるかなというふうに、今回は思わせてもらいました(笑)。

—— 演奏者として、ライヴとレコーディングというのは違うものなのですね。

 表現として同じところはありますけれども、細かいところはけっこう違う部分もありますね。ライヴは、より多くの人に伝えるために空間に音を届かせていくっていう感じですけど、レコーディングは目の前にマイク=聴いてくれる人がいるという感じで、非常に近い距離で音楽を届けられます。ピアニッシモの音も、ライヴでは出さないようなピアニッシモを使ったりしますね。

■ 「ハイレゾは自分が弾いている時の感覚に近づく感じ」

—— ミックスやマスタリングには立ち会われたのですか。

 ミックスとマスタリングは全部ヨーロッパで作業をしているんです。今までは私も現地に滞在していたので立ち会っていたんですけれども、今回は立ち会うことができなくて……。音源データのやり取りで確認をしました。送られてきた音源を聴いて、響きに関しては満足できたので、変えてもらうことはなかったです。

—— 10月26日の『ラプソディー・ジャパン』リリースと同時に、これまでデッカレーベルからリリースされている旧譜6タイトルもハイレゾで配信されますね。

 新しいイメージで再デビューできる気分ですね(笑)。その中でも特に、今回の作品は本当にハイレゾにふさわしいと思います。音の良さだけではなくて、演奏した“空間”が感じていただけると思うんです。大きな音量で聴いていただきたいですね。ライヴでは、お客さんと自分が同じ時間を一緒に楽しめるという、レコーディングにないものがありますが、レコーディングでは演奏を真空パックする感じです。いつでもいい状態で取り出して聴けて、しかもそのクオリティが良いっていうのは、やっぱりハイレゾならでは、ですよね。

—— ハイレゾを聴いてみた印象はいかがですか。

 これまでにもビクターレーベルに録音した自分の昔の作品を聴き比べたりして、CDとは全然違うんだなと思っていました。ハイレゾは、音のふくらみが違うなと思います。低音も高音も、ぐっと広がって、自分が弾いている時の感覚に近づく感じがありますね。自分が弾いている音と比べて、完全に一致はしないけれども、より自然に聴こえました。

—— 今作はご自身にとって休養からの復帰作となるわけですが、特別な思いはあるのでしょうか。

 そうですね、休養した時、自暴自棄にもならずに、常にいい流れを感じて歩いて来られたのも、自分一人では無理なことでした。近くにいる人たちのパワーを受けとったことで、いい時間を過ごして来られたという思いがあるので、感謝しています。それを言葉だけではなくて、音楽でも表現したいですし……。
 アルバムも、一つひとつに違う思い入れがありますけれども、ずっとこのようにレコーディングができているということに感謝しています。

—— このアルバムを皆さんに聴いていただくのが楽しみですね。

 どんな感想をいただけるか、ワクワクしています。



 12月には坂本龍一さん、吉永小百合さんによる詩の朗読と音楽のチャリティ・コンサート「平和のために~詩と音楽と花と」にゲスト参加する予定とのこと。休養を経て、ますます深みを増したその活動に今後も注目していきたい。

■ 旧作も一挙リリーススタート!

『トランスフォーメーション』/村治佳織

『Viva ! Rodrigo』/村治佳織



『村治佳織 プレイズ・バッハ』/村治佳織

『ポートレイツ』/村治佳織



『ソレイユ ~ポートレイツ2~』/村治佳織

『リュミエール』/村治佳織