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3人の個性派アーティストが展開する極上のインプロヴィゼーション・ミュージック。カフカ鼾(ジム・オルーク、石橋英子、山本達久)の初スタジオ作品が完成!

2016/10/06
シンガー・ソングライター、セッション・プレイヤー、プロデューサーなど多岐に渡るアプローチからの活動で知られる石橋英子。即興演奏を軸に各国のアーティストたちとの共演を精力的に行っているドラム/パーカッション・プレイヤーの山本達久。そして、現在は日本を拠点に独自のアヴァンギャルドな作品を生み出し続けるミュージシャンでありエンジニアリングもこなす才人ジム・オルーク。世界を舞台に活動する名うての3人による新ユニット「カフカ鼾(いびき)」が放つ初のスタジオ・アルバム『nemutte(ネムッテ)』がハイレゾで登場します。全1曲、39分という本作はどのように誕生したのでしょうか。Gibson Brands Showroom TOKYOでのイヴェントに集まったお三方へのインタヴューをお届けします。

取材・文◎武田昭彦 撮影◎山本 昇

『nemutte』
/カフカ鼾(ジム・オルーク、石橋英子、山本達久)


 ジム・オルークのシンセサイザー、石橋英子のピアノ&キーボード、そして山本達久のドラム。この3人が自由な演奏を繰り広げ、まるで呼吸し合っているような音楽が眼前に広がるのがカフカ鼾の音楽だ。10月5日、3人の個性派アーティストがインプロヴィゼーション・ミュージックを展開するカフカ鼾待望の初スタジオ・アルバム『nemutte』がリリースされた。ここではトリオ・ユニット誕生の経緯から、最新作における制作の舞台裏などをたずねた。

■ ライヴ・シーンで注目された3人の即興演奏

−− カフカ鼾はいつ結成されたのですか。

山本 結成は2012年です。ジムさんのバンドも、英子さんのバンドもメンバーが結構被っているんです。でも、3人で一緒に即興演奏をする機会はありませんでした。所沢のMOJOっていうライヴハウスで初めて一緒にプレイしたのが始まりです。当初はまだカフカ鼾というユニット名も付いていませんでした。  

−− このユニット名はどこから付けられたのですか。

山本 ぼくらがよくレコーディングで使っているスタジオが山梨の小淵沢にあるんです。「星と虹レコーディング・スタジオ」っていいます。ある日、そこでレコーディングをしていたところ、スタジオ・オーナーのカフカ先生がピアノの真下の階下で大きなイビキをかきながら熟睡していて(笑)。ジムさんがその様子を見て、「カフカ鼾じゃないか」とつぶやいたのが、ユニット名の由来です(笑)。

ジム うん、そう……。記憶にないけど、正しいでしょう(笑)。

石橋 いま話に出てきたスタジオのオーナーであるカフカさんは、歯医者さんでもあるんです。カフカさんというのはステージ・ネームで、バンド活動もやっています。ジムさんと私はそのスタジオをよく使っているのですが、レコーディングの合間に3人で即興演奏をしていたのが、カフカ鼾の原点です。

山本 カフカ鼾という名前が付いてから、初めて東京・下北沢のLady Janeでライヴをしたんです。そのとき、CD-Rを100枚限定で販売したのですが、思いのほか売れ行きがよくて。それなら、Bandcamp(注:アーティストが自らの楽曲を公開・販売できるアメリカの音楽配信サイト)でもセールスしようよ、ということになったんです。アカウントを登録したのはジムさんです。

ジム そのことは覚えています(笑)。その後にもCD-Rを5タイトルほど作って、ライヴで販売したんです。一番数が少ないものは、16枚限定でした。

〈山本達久さん〉

 ちなみにBandcampで公開されている音源は、先の「星と虹レコーディング・スタジオ」で収録されたもので、メンバーが日本酒を呑みヘベレケの状態でプレイされたものだとか。その後、カフカ鼾は精力的なライヴ活動の傍ら、2014年1月にファースト・アルバム『okite』をCDリリース(felicity PECF-1086)。そのアルバムは2013年に六本木SuperDeluxeで行われたライヴを収録した、1曲37分のアルバムだ。

−− これまで皆さんは多くのアーティストと共演されてきましたが、3人がカフカ鼾として集まったのは必然だったのでしょうか。

山本 息が合っていることだけは間違いないかも知れません。

 先の石橋英子のコメント通り、カフカ鼾はレコーディングの合間に即興演奏をしてきたのが活動の始まりなので、定型パターンや法則など決まりごとはいっさい介在しない。3人の間には他人にはとうてい理解できない、阿吽の呼吸があるのだろう。

〈石橋英子さん〉

■ ハイレゾで際立つグルーヴとミックス

−− 新作『nemutte』の制作はいつ頃から開始されたのですか。

ジム 3年前です。まず3人で「星と虹レコーディング・スタジオ」で演奏した即興を3時間録音したんです。その素材を私がスタジオで編集し、1年後にプレイバックしながら、もう一度3人でプレイし直しました。その素材を後日、自分のスタジオでミックスし直して、39分に凝縮し、完成したのが今回の「nemutte」です。

石橋 ジムさんは最初の素材を編集しているので内容を把握していたと思いますが、1年前の演奏を私はさすがに覚えていないので初めて聴いたようなものです。自分の演奏ではないようなものを聴きながら、新たな演奏を加えていくという作業は、これまでありそうでなかった試みといえます。

ジム 最初の収録のとき、英子さんはフェンダー・ローズを、私はギターをプレイしています。二度目の収録で英子さんはアコースティック・ピアノを、私はベースをそれぞれ弾いているんです。新しい何かが生まれると考え、あえて楽器を変えてそうしました。

−− 石橋さんと山本さんは最終的に出来上がった作品を聴いて、どんな印象を抱きましたか。

石橋 カフカ鼾のライヴ音源は、山本さんのクルマのカーオーディオで聴くことが多いのですが、いつも「これ誰の演奏なの?」って思うことが多いんです。

山本 ジムさんのミックスが仕上がった完成形を聴いたときは、英子さんと同様の印象を抱きました。今回のアルバムではライヴ音源以上にそれを強く感じたんです。

石橋 私にとってカフカ鼾の音楽は、常にそんな感じです。自分が分かっていない演奏ができるということは、可能性がまだまだあるということだと考えています。自身の演奏がすべて分かってしまったら、先行きが見えてしまって、それはどうかと思うんです。

ジム ミックス作業の内、初めの4~5ヵ月間は、楽器ごとのトラックをバラバラにモニターして、ミックス作業の方向性を探っていました。後で聴き返して納得いかないと、初めからミックスを再構築していったんです。

 ジム・オルークはDAW(デジタル・オーディオ・ワークステーション)のPro Tools、英国のB&W製スピーカーを使いながら、2回プレイされた3人によるインプロヴィゼーションを素材に未知なる音楽を生み出した。ときに音は2チャンネル・ステレオの枠を飛び越え、左右の耳の後方にまで回って聞こえてくる。

ジム 素材はあくまで素材であり、2人が聴いたことのないような印象を共に抱いたということは、結果的に成功したのだと思います。私の狙いもそこにあったので、ミックスにはそれなりの時間が必要でした。

〈ジム・オルーク(Jim O'Rourke)さん〉

 B&Wのスピーカーは、あのスティーヴ・アルビニのスタジオで音を聴いて以来、愛用しているという。また、本作のマスタリングはバーディー・ハウス所属のヴェテラン・エンジニア、原田光晴氏が担当した。

ジム 複数の曲が混在するアルバムとは違い、今回の『nemutte』は収録曲が1曲です。だから、原田さんにはトラックダウン・マスターの持ち味を活かした、マスタリングをお願いしました。

 CDでも本作の音楽的な魅力はきちんと伝わってくるが、24bit/48kHzのハイレゾ・ファイルではヒタヒタと忍び寄るようなグルーヴと綿密に練り上げられたミックスの妙味が聴取できる。耳を澄ますと、随所にさまざまな楽器の音が散りばめられているのが分かる。ここまでハイファイ志向のインプロヴィゼーション・ミュージックが日本の土壌から誕生し、しかもハイレゾ配信されたことは快挙に等しいと強く感じる。

−− 最後にリスナーへメッセージをお願いします。

山本 『nemutte』をぜひ静かな環境で、大きな音で聴いてみてください。

石橋 私はヘッドホンではなく、『nemutte』をスピーカーで聞いて欲しいですね。

ジム 私はお酒を呑みながら、聞いて欲しいと思います。

−− 本日はありがとうございました。

Gibson Brands Showroom TOKYOでのイヴェントでは楽しいトークを披露してくれました。司会は武田昭彦さん〉

〈イヴェントの試聴で使用した機材。ラック上段の真空管アンプは、高級車ジャガーから着想を得たというイギリス製のEAR V12

◎ライヴ情報
カフカ鼾 “nemutte”release live
日程:2016年12月1日(木) 開場19:00/開演19:30
会場:VENUE 六本木SuperDeluxe
TICKET WEB予約 https://www.super-deluxe.com/room/4194/