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ついに登場した芸能山城組の人気作『交響組曲 AKIRA』のハイレゾ版。新開発の“ハイパーソニック・ウルトラディープエンリッチメント”とは?

2016/07/16
衝撃のデビュー作『恐山/銅之剣舞』で知られる芸能山城組の代表作『交響組曲 AKIRA』に、いよいよハイレゾ版『交響組曲 AKIRA 2016』が登場します。この作品の作曲者である芸能山城組の組頭・山城祥二こと大橋力(おおはし・つとむ)さんが発見した“ハイパーソニック・エフェクト”を音楽に活かす音響技術の新手法“ハイパーソニック・ウルトラディープエンリッチメント”が施されているというその音源は、どのようにして現代に甦ったのでしょうか?

インタビュー・文・撮影◎山本 昇

『Symphonic Suite AKIRA 2016 ハイパーハイレゾエディション』
芸能山城組





 大友克洋氏によるSFアニメ映画の金字塔『AKIRA』。1988年に公開されたこの作品の音楽『交響組曲 AKIRA』は、大友氏たっての希望で芸能山城組に依頼され、約半年を費やして産み出された。映画同様、現在に至ってもその存在感は色あせることなく、新世代のファンも巻き込みながら、再評価の気運が高まっている。そんな中、アナウンスされたのが今回のハイレゾ版『交響組曲 AKIRA 2016』。山城祥二の名で芸能山城組を主宰する一方、脳科学者・エンジニアとしてのユニークな活動でも知られる大橋力さんにとって、今回の試みはその集大成と言えそうなプロジェクトだ。と言うのも、大橋さんらによる研究成果の一つである“ハイパーソニック・エフェクト”を、あの“AKIRA”の壮大な音楽作品に織り込んでいるというのだ。それは一体どういうことなのか。早速、大橋さんの活動拠点である「スタジオ・テラ」を訪ね、“ハイパーソニック・エフェクト”の研究を大橋さんと共に行いながら『交響組曲 AKIRA 2016』の制作にも関わった放送大学の仁科エミさん、1988年の『交響組曲 AKIRA』の制作も携わっているレコーディング・エンジニアの高田英男さんにも加わっていただき、本作の謎を解いていきたい。



■“ハイパーソニック・エフェクト”とは?

「超高周波を豊富に含む音を浴びていると、脳の基幹部が活性化して体と心にポジティブな効果がある。それが、大橋先生が発見された“ハイパーソニック・エフェクト”です」ーーー20kHzを超える周波数帯域が人に与える不思議な効果はどのようにして発見されたのか。まずは放送大学教授の仁科エミさんにご説明いただこう。
「ポジトロン断層撮像法(PET)という放射性同位元素を使用する非常に厳密な画像計測装置を使い、脳の血流を指標として、脳のどこが活性化しているのかを調べました。その結果、可聴域の音と聴こえない超高周波を同時に聴かせると、中脳(脳幹)、視床、視床下部、前頭前野など脳の中に血流が増える箇所が見つかりました。それらの部位は、私たちの健康維持に深く関わるとともに、人間が感動を覚える際に活性化する場所でもあります。同時に脳波アルファ波を測ってみるとこちらも増えることが分かったのです」
 さらに、「視床下部は自律神経の中枢でもありますので、その影響が予想される免疫活性を調べたところ、ナチュラル・キラー細胞(NK細胞)と呼ばれるガンの一時防御などに働く免疫細胞の活性化が見られ、反対にストレス・ホルモンは下がりました」と仁科さん。他にも、音をより美しく感じたり、同じ映像がより美しく見えるといった心理的効果も認められたらしい。そして、仁科さんによると、効果がよく現れる帯域は40kHz以上で、「一番効果があるのは80kHzあたり」だったという。
 興味深いのは、超高周波はヘッドフォンで聴いても効果が現れず、スピーカーから音を出した場合にのみ発現するということ。詳細なメカニズムは研究中だそうだが、超高周波は体表面で浴びることがポイントのようだ。また、超高周波であればどんな音でもこうした効果が得られるかというとそうではなく、ホワイト・ノイズなど人工的に合成した超高周波では効果は現れなかったそうだ。


〈本作のマスタリングを務めた工学博士の仁科エミさん。放送大学で教鞭を執る傍ら、芸能山城組の一員としても活動中〉




■熱帯雨林の環境音を織り交ぜるという新手法

 では、こうした超高周波はどんなものに含まれるかというと、よく知られるように、ピアノなどの西洋楽器の音の多くが20kHz手前で減衰するのに対し、例えばインドネシアの民族楽器ガムランの音に含まれる成分は100kHzを超える。また、意外にも和楽器の琵琶や尺八の響きに含まれる周波数は200kHzまで達することがあるという。そして、ハイパーソニック・エフェクトを長年研究する大橋さんや仁科さんらが注目するのが熱帯雨林の自然環境音だ。
「今回の『交響組曲 AKIRA 2016』のために開発した“ハイパーソニック・ウルトラディープエンリッチメント”という手法は、自然性の高い熱帯雨林の環境音から抽出した200kHzを超える超高周波成分を、可聴域のレベル変動と相関させて補完するものです。大橋研究室では、いろいろな場所でフィールド・ワークを行って録音をしてきましたが、今回使用したのはアジアの熱帯雨林でDSD 5.6MHzのレコーダーによって収録した音源です。24bit/96kHzでアーカイブされたサウンドトラックにこのウルトラディープ処理を施すことで、より豊富な超高周波を含んだ音源に生まれ変わらせることができました」(仁科さん)
 つまり、各楽曲のレベルの動きに応じて超高周波を付加しているそうなのだが、この熱帯雨林の“音”とは何なのだろう。大橋さんはこう説明する。
「熱帯雨林の環境音に含まれる超高周波とは、主として昆虫が発したものなんです。虫の種類ごとに固有の振動があり、特有の帯域を持っています。それは低い周波数から200kHz以上に及びます。ものすごい数の昆虫の種類があり、また個体数(量)も多いわけで、こんな音源は滅多にありません。しかも、それら生命現象として出てくる音は個々がフラクタル構造を持っていて、全体としては実に高い複雑性を有しています。それが可聴域で聴こえる楽器などの倍音のように乗っかるわけですから、その効き目にはすごいものがあります。この作品から来る、得も言われぬ感覚は、実は虫たちの恩恵によってもたらされているのです」
 熱帯雨林でのフィールド・レコーディングは1980年代なかばから行われ、2005年以降にはオリジナルのDSDレコーダーを携えて、アフリカや南米、東南アジアなど、各地を回って行われたという。興味深いのはその収録地。音源として良好だったのはアフリカやアジアの森で収録したもので、意外にもアマゾンの音は今一つだったらしい。「いろいろな熱帯雨林環境音を調べて、飛び切りいいやつをこの『交響組曲 AKIRA 2016』で使いました」と大橋さん。実際の音としては聴こえない部分にも、これだけの手間暇がかかっていることに驚かされる。

 もちろん、こうした超高周波を扱う録音機材にもそれなりの仕様が求められるのは言うまでもない。今回使われたのは、ルパート・ニーヴ氏が特別に製作したというアナログ・コンソール、そして、大橋さんらがオリジナルに開発した8チャンネル11.2MHzのDSDレコーダーなど。これらによって、なんと200kHzまでフラットな特性が得られているという。
「卓の特性がこれだけいいと、EQなどで補正する以前に出てくる音の質感がまったく違うんですね。とてもリアリティがあり、柔らかくて、それでいてクリアな音が作れます」と、ミキシング・パートナーを務めたエンジニアの高田英男さんも絶賛。大橋さんも「この卓は本当に宝物です」と眼を細める。


〈“山城祥二”の名で芸能山城組を主宰し芸術活動に携わる一方、科学者としての多彩な研究活動でも知られる大橋力さん〉




■ハイパーハイレゾ版の制作過程

 今回のハイパーハイレゾ版『交響組曲 AKIRA 2016』は、かつてDVD-Audioでリリースされたマルチ・チャンネル作品『Symphonic Suite AKIRA 2002』で使用された音源をベースとしている。大本はもちろん、1988年に製作されたアニメ映画のために作られたサウンドトラックであり、当時のマスターは曲ごとにデジタルもしくはアナログのテープで残されていたらしい。それが2002年、マルチテープまで遡って行われた4.1chバージョンの制作時に全ての楽曲が24bit/96kHzでデジタル化されたというわけだ。しかし、今回の『交響組曲 AKIRA 2016』は、そのアーカイブ音源をそのままハイレゾ化したものではない。そのあたりの制作環境や手順について、エンジニアの高田さんに解説していただこう。
「メインで使用したのはDVD-Audioの際の4.1chのマスターですが、そのほかに、本編には入っていないヘリコプターやバイクの音が収録されたCDマスターも使っています。また、〈金田〉では“CDが持つ硬質なパワー感がほしい”という大橋先生のご要望がありましたので、音作りの一環としてCDマスターの音もメインの音源に時間軸を合わせて薄くミックスしています。そうしたマルチ音源に、大橋先生が開発された“ハイパーソニック・ウルトラディープ処理”を行ってDSD 11.2MHzの8chレコーダーに入れ、このスタジオのAMEK9098i(コンソール)でミックスしました。
 このサントラでよく使われているガムランやジェゴクといった楽器には、真空管式のエフェクターがしっくりくると感じましたので、TUBE TECHの帯域コンプや真空管コンプなどを使って高域を少し上げたり、低域を補正したりしています。また、LEXICON 960Lなどで作ったリバーブも何パターンか立ち上げて、音場を作り込んでいきました。そういう作業を1曲ごとに行いましたから、ミックスに関してはゼロから作ったというイメージです。そのようにして、最終的にDSD 11.2MHzのマスターが出来上がりました」
 オリジナル音源では、ビクタースタジオのほか、昭和女子大学の人見記念講堂、尚美ミュージックカレッジ専門学校のバリオホールでも声や歌を中心とした録音が行われているが、そうしたホールの響きが豊かなリアリティをもって再現されているのも、今回のハイレゾ版の嬉しいところだろう。


〈「ビクタースタジオ」を中心に、豊富な実績を誇るエンジニアの高田英男さん。『交響組曲 AKIRA』オリジナル版も担当〉




■音作りのポイントとは?

 では、今回の『交響組曲 AKIRA 2016』の音作りのポイントはどこにあるのか。高田さんはこう語る。
「やはり、“ハイパーソニック・ウルトラディープ処理”がなされた音源を使うことで、とても柔らかくて深い、リアリティがあるんだけどキツくなくて心地いい音が作れているのが一番のポイントでしょう。そして、ミックスの方針は、使われているガムランやケチャといったバリ島の音楽を色彩感豊かに再現すること。また、山木秀夫さんのドラム、浦田恵司さんのシンセ・サウンドが持つパワー感やグルーブ感も見逃せません。そして、1988年の制作で使ったダミーヘッドのマイク録音による独特な音作りや自然な音場感、移動感も楽しんでほしいですね。あと、私が一番だと思うポイントは、この交響組曲からは音の世界の先にあるとても深い感動が得られることです。ぜひそれを聴いてくださる方たちに伝えたいという想いで作りました」
 例えば、劇中で新興宗教「ミヤコ教」の祈りのシーンに使われた「唱名」(しょうみょう)では、ダミーヘッドによって録音された声明が、スピーカーでの試聴でも体のすぐそばを通って行く様子も体感できる。膨大な数の楽器や声が、音の洪水のように押し寄せる『交響組曲 AKIRA』。この濃密な音の塊がスピード感をもってドラマチックに展開する様は、ハイレゾという器を得て、ようやく甦ることができたと言えるのかもしれない。「CDでは、そこに入りきらない部分が多かったのも事実です」と振り返りながら、大橋さんは次のように言う。 
「ハイレゾでの配信が可能になったいま、私たちはより良い音源を作っていこうと努力しおり、その中の一つ、『超絶のスーパーガムラン ヤマサリ』は2015年の日本プロ音楽録音賞ハイレゾリューション部門で審査員特別賞をいただきました。そして今回、“ハイパーソニック・エフェクト”としても究極の作品となる『交響組曲 AKIRA 2016』をe-onkyo musicで、満足できる形でリリースできることを本当に嬉しく思います」

 ところで、今回の『交響組曲 AKIRA 2016』は、DSD 11.2MHzと5.6MHz、そして24bit/192kHz(wav/flac)という3つのフォーマットでのリリースとなる。エンジニアの耳には、それぞれの聴感上の特徴はどう聴こえるのだろうか。
「やはりDSD 11.2MHzは、このスタジオでミックスした音がダイレクトに入っているという印象です。DSD 5.6MHzにも、そのニュアンスは感じられます。PCMのほうは、それとはちょっと音のニュアンスは変わるかなと思います。PCMの24bit/192kHzは、透明感などは非常にうまく表現されていますが、中低域の力強さについては少しきれいになりすぎているようにも感じます。ただ、この“AKIRA”の音楽の強さを広く一般の方たちに伝えるという意味では何ら問題なく聴いていただけると思っています」(高田さん)
 『交響組曲 AKIRA 2016』を再生するにあたり、前述の“ハイパーソニック・ウルトラディープ処理”による超高周波を浴びるには、若干の工夫と注意が必要となる。まず、最も効果が現れるという80kHzを含む帯域にプレーヤーやアンプが対応していること。そして、一番やっかいなのはスピーカーがこのようなスペックをクリアしているかどうかだろう。もし、手持ちのスピーカーがそこまでの高域をカバーしていなければ、スーパー・トゥイーターを追加することも選択肢の一つとなる。そうした“ハイパーソニック・サウンド”の再生方法については、こちらの記事もぜひ参照してほしい。


〈「スタジオ・テラ」に鎮座するアナログ・コンソールAMEK9098iはルパート・ニーヴ氏による特別仕様〉




〈TADのウーファー以外はすべてカスタム・メイドのメイン・スピーカー。ダイヤモンド・ドームのトゥイーターは100kHzまでカバーするという〉




〈“バイモルフ・セラミスクアクチュエーター”搭載のスーパー・トゥイーター(40kHz~200kHz)。指向角は全帯域で水平/上下方向とも180度という驚きの広さ〉




■『交響組曲 AKIRA』がいまに伝える音の力

 芸能山城組による“AKIRA”の音楽が生まれてから30年近くが経ち、音楽シーンを取り巻く状況は大きく変化している。今回の取材で聞けたお三方のコメントには、その端々に音楽に対する愛情や敬意が感じられ、音の一つひとつをとても大事にしている様子が窺える。そして、大橋さんの次の言葉は、音楽や音の力を信じる者にとって心強く響くはずだ。
「“AKIRA”を作った頃は、音楽とか音そのものに価値があり、それこそが尊いものなんだという動機で業界は動いていたと思います。それが全て消えてしまったわけではないけれど、音のことが分からない人がこの業界にも増えているのかもしれません。そんな危機感すら感じる中、“音がいいから聴いてほしい”と胸を張って言えるような状況を今一度つくりたいですよね。この地盤沈下を一気にひっくり返すのは容易なことではありませんが、私なりに一矢報いたいという気持ちはあるんですよ」

 では最後に、e-onkyo musicのリスナーへ向けた、お三方からのメッセージをご紹介しよう。
「“AKIRA”の音楽を最終的な音として表現できたと思います。作品としての良さを楽しむと同時に、音そのものの力から生じる感動といいますか、そういうものをリスナーの皆さんに感じていただけたら嬉しいですね」(高田さん)
「この『交響組曲 AKIRA 2016』は、ヘッドフォンではなくスピーカーで、それも、できれば超高周波が再生できるような環境で聴いてほしいですね。ご自宅ではなかなか大変かもしれませんが、イベントなども開催する予定ですので、このコンテンツが持つ潜在的な効果をぜひ体験してみてください」(仁科さん)
「私としては、こうした音源を作るだけではなく、音の出口の問題も解決したいと思っています。すでに試作段階では形になっており、なんとか皆さんにもお届けできるようにしたいと考えていますので、楽しみに待っていてください。あと、音源としては“ハイパーソニック・オルゴール”という癒しの原器になる可能性のあるものがあります。オルゴール療法が注目される中、ハイレゾ配信によって多くの人がその効果を享受できるような作品の録音を考えていますので、こちらもご期待ください」(大橋さん)






◆芸能山城組/ハイパーソニック研究所 関連作品

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『チベット密教 極彩の響き』
ナムギャル・タツァンの僧侶たち

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『ハイパーソニック・オルゴール トロイメライ』
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