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『レコーディング日記』~初のDSD5.6MHz音楽制作に寄せて

2013/11/28
先日、DSD5.6MHzで最新作「Cello Bouquet」をリリースしたチェリスト、溝口肇さんから、レコーディング当日の『レコーディング日記』が届きました。溝口肇さんと言えば、27年以上も続く人気番組のテーマ曲「世界の車窓から」の作曲者、演奏者として知られる一方で、タバコのCM「ピースライト」などに出演するなど、多くの人々にその姿、音楽を印象づけてきた国内でも稀有なチェロ奏者として知られますが、音楽制作やその“音”に対しても非常にこだわりを持ったアーティストでもあります。この『レコーディング日記』は、そんな溝口肇さんの音楽に対する姿勢を知る上での貴重なドキュメントとなっています。
『レコーディング日記』 ~text by 溝口肇

『Cello Bouquet(チェロブーケ)』 (DSD5.6MHz、他)
/ 溝口肇



初めての自社レーベルでのレコーディングをDSDで行えたのは、とてもラッキーなことでした。制作費が少ないところからのスタートでしたが、コルグから発売されているMR-2000SというDSDレコーダーを使えば高品質なレコーディングが出来ると、色々な方からの話も聞いていました。下世話な話ですが市場価格20万円以下でDSD5.6Mでのレコーディングが可能ということは、いちミュージシャンにとっても非常に魅力的です。今回のレコーディングはDSD 5.6MHz/1bitで、ホールライブレコーディングを行いました。


私がデビューした1986年はCDが開発され発売されてからわずか1年目であり、CD、LP、カセットテープと3種類のメディアを同時にリリースしていました。録音スタジオにはスチューダーのアナログ24chマルチレコーダーに変わり、SONY3324というデジタルマルチレコーダーが入り、その後48chの3348と進化していきます。

私はクラシック楽器であるチェロを演奏していますが、基本的な音楽はポップス、ジャズ系でドラムやギター、ピアノ、シンセサイザーなど一緒に演奏をします。ホールなどの演奏録音ではなく、スタジオでマルチレコーディングをします。デビュー当時はアナログからデジタルへの過渡期でもありましたが、デジタルレコーダーに録音された音が好きではありませんでした。何とも言えない違和感を覚えるのです。

私達音楽家は死ぬまで自分の音をお客さん側から聴くことが出来ません。演奏時は楽器の裏側にいることとなり、楽器の正面から自分の音を聴くことが出来ないのです。ですから、こんな音で奏でたいというイメージを強く持って演奏をするわけですが、今までのスタジオでのデジタルマルチトラックで録音されたチェロの音は、自分のイメージとは少し違うものでした。

当時、デジタル化は日本が中心となって進んでいきました。海外ではまだアナログが主流で、ニューヨークでの海外レコーディングでは自分の音が好きでしたが、それがアナログだったからという理由がわかるには、随分時間がかかりました。しかし、今回のDSDレコーディングで聴いた自分のチェロの音は、自分が目指している音にとても近い(完璧はあり得ませんが…)もので、久しぶりに「あぁ、自分は間違っていなかったかな」と安心したものです。


1bitという方式は私には詳しいことはわかりません。ただ、限りなくアナログに近い音の良いもの、ということは理解しています。そしてその音の良さは、数値では表せないほどのものと思っています。例えばレコーディングは東京にある白寿ホールを借り切って行いましたが、たった10cmのマイクの高さ、チェロからの距離を聞き分けることが出来る精細さを持っています。テレビがアナログからデジタルに変わったときにその精細さに大変驚きましたが、私はそれよりも大きなものと感じています。

それだけ高精細なレコーディングが出来る録音方法となると、演奏家はもちろんエンジニアのスキルも相当なものを要求されます。こだわりがそのまま音に出る…、まさにプロのためのものかもしれません。もちろん私が使った機材は値段はコンシューマーでも十分手が届くものですから、気軽に高音質レコーディングを楽しむことが出来ると思います。

ただ、今回一番危惧をしたのは、DSDの状態のままで編集が出来ないということです。DSDはその方式によりPCMでは簡単に出来ている編集、イコライジングなどの音質調整が生データ上では出来ません。編集ポイント、イコライジングをかける場所等々は、どうしてもPCMデータに変換した後に処理をし、その後再びDSDに戻すという作業をしています。せっかく良い音で録音したものをまた嫌いな(笑)PCMに戻すのか…、という思いは消えませんでした。

コルグのご協力を頂き、まだ試作段階である「クラリティ」という編集ソフトを使わせていただきました。これがあったからこそ、DSDレコーディングに踏み切れたと言っても過言ではありません。もちろんクラリティでも編集ポイントはDSDでは出来ませんが、同じ周波数の5.6MHzで動かしているところが、素晴らしいかと思います。操作などまだまだな部分はありますが、基本的な編集、イコライジング(今回は使っていません)などは、クラリティ上で可能です。


参加してくださったチェリスト達は素晴らしいミュージシャンですが、やはり編集が出来るかどうかは大きなポイントとなります。クラシックの録音を含めレコーディングは基本「直せる」ということを第一条件に皆さん演奏をしています。直せるという安心感があるからこそ、自分の想いを音楽に思いっきり込めることが出来る、と言えるかもしれません。手軽に、そして音が良いまま編集が出来る、ということがDSDを広める今後の課題かもしれませんね。

エンジニアのスキルが必要になると書きましたが、レコーディングエンジニアにはデビュー当時からのお付き合いがある、日本を代表するエンジニア、鈴木智雄氏を迎えています。使用機材はKORG MR-2000Sをバックアップを含め2台使用し、マイクは無指向性でDPA4003x2、バックアップはNEUMANN M269x2です。たった2本だけの録音です。CD並びにDSDファイルの配信はDPAマイクでの録音を使っています。Neumannの音源編集はまだ出来ていないのですが、マイクによる音の違いもいつか聴いていただきたいと思っています。


録音時のケーブルはアコースティックリヴァイヴ。通称アコリバです。
http://www.acoustic-revive.com/

SACD(スーパーオーディオCD)の製造も考えましたが、製造面でのコスト等とても難しいものがありましたが、今回e-onkyo musicで配信が出来ること、大変嬉しく思っています。DSDの音を是非楽しんでいただきたいと思っています。

DSF 5.6MHz/1bitファイルは編集を数カ所したのみで、マスタリング作業はしておりません。音的にはステージの中で聴いている音というイメージに近いかもしれません。演奏ノイズもたくさん入っていますが、それもライブ演奏として楽しんでいただければと思います。リバーブやEQなど一切入れていない生のオーディオデータです。

PCMファイルはWAV 96kHz/24bitがマスタリングのMaster音源です。192kHzも試してみたのですが、昔からProToolsのレコーディング等でもチェロには192kHzが合いません。何故か好きでない音なのです。今回も却下となりました。

DSDから96kHz/24bitでのマスタリングを行い、その後音は良いけれど時間のかかるリアルタイムでの、48kHz/24bitダウンコンバートをしています。CDの44.1kHz/16bitに関しても同じ作業をしています。

マスタリング後のファイルはどちらかというと、聴き手側を意識した音作りになっています。バランス、聴きやすさはマスタリングをしたからこそ、である音になっています。マスタリングエンジニアはStudio Dede 吉川昭仁氏です。

最近ではDSD 11MHz/1bitのマルチレコーダーも製品化されました。ますますDSDの世界が楽しみになって来て、私もワクワクしています。

溝口肇 profile

チェリスト・作曲家。東京生まれ。 指揮者カラヤンをテレビで見て3歳からピアノを、11歳からチェロを始める。東京芸術大学音楽学部器楽科チェロ専攻卒業。学生時代からアーティストのサポートメンバーを務め、大学卒業後スタジオミュージシャンとして7年ほど様々なレコーディングに携わる。24歳の時に自動車事故によってムチウチ症となり、その苦しみから逃れるため「眠るための音楽」を作曲し始める。1986年「ハーフインチデザート」でソニーからデビュー。クラシック、ポップス、ロックなど幅広いジャンルで演奏・制作活動を展開。作品には映画やテレビ番組の音楽も数多く、27年以上続いている「世界の車窓から」のテーマ曲はあまりにも有名。日本たばこのCM「ピースライト」にも出演し、多くの人々にその姿と音楽を印象づけることになった。
溝口のベーシックは作曲とチェロ演奏。 自身の音楽を「心の覚醒」と位置付け、自分自身はもちろん聴く人にとっての感動のきっかけであることを目指す。彼の奏でるチェロの美しさ、そのホスピタリティあふれるサウンドは、ジャンルを越えて多くの人を魅了し続け、ミュージックシーンに独自のスタンスを確立している。

オフィシャルホームページ:http://www.archcello.com
オフィシャルブログ:thttp://ameblo.jp/hajime-mizoguchi/

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