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連載『厳選 太鼓判ハイレゾ音源はこれだ!』 第35回

2016/04/28
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【バックナンバー】
<第1回>『メモリーズ・オブ・ビル・エヴァンス』 ~アナログマスターの音が、いよいよ我が家にやってきた!~
<第2回>『アイシテルの言葉/中嶋ユキノwith向谷倶楽部』 ~レコーディングの時間的制約がもたらした鮮度の高いサウンド~
<第3回>『ベートーヴェン:交響曲第9番「合唱付き」(1986)』 NHK交響楽団, 朝比奈隆 ~ハイレゾのタイムマシーンに乗って、アナログマスターが記憶する音楽の旅へ~
<第4回>『<COLEZO!>麻丘 めぐみ』 麻丘 めぐみ ~2013年度 太鼓判ハイレゾ音源の大賞はこれだ!~
<第5回>『ハンガリアン・ラプソディー』 ガボール・ザボ ~CTIレーベルのハイレゾ音源は、宝の山~
<第6回> 『Crossover The World』神保 彰 ~44.1kHz/24bitもハイレゾだ!~
<第7回>『そして太陽の光を』 笹川美和 ~アナログ一発録音&海外マスタリングによる心地よい質感~  スペシャル・インタビュー前編
<第8回>『そして太陽の光を』 笹川美和 ~アナログ一発録音&海外マスタリングによる心地よい質感~  スペシャル・インタビュー後編
<第9回>『MOVE』 上原ひろみ ザ・トリオ・プロジェクト ~圧倒的ダイナミクスで記録された音楽エネルギー~
<第10回>『機動戦士ガンダムUC オリジナルサウンドトラック』 3作品 ~巨大モビルスーツを感じさせる、重厚ハイレゾサウンド~
<第12回>【前編】『LISTEN』 DSD trio, 井上鑑, 山木秀夫, 三沢またろう ~DSD音源の最高音質作品がついに誕生~
<第13回>【後編】『LISTEN』 DSD trio, 井上鑑, 山木秀夫, 三沢またろう ~DSD音源の最高音質作品がついに誕生~
<第14回>『ALFA MUSICレーベル』 ~ジャズのハイレゾなら、まずコレから。レーベルまるごと太鼓判!~
<第15回>『リー・リトナー・イン・リオ』 ~血沸き肉躍る、大御所たちの若き日のプレイ~
<第16回>『This Is Chris』ほか、一挙6タイトル ~音展イベントで鳴らした新選・太鼓判ハイレゾ音源~
<第17回>『yours ; Gift』 溝口肇 ~チェロが目の前に出現するような、リスナーとの絶妙な距離感~
<第18回>『天使のハープ』 西山まりえ ~音のひとつひとつが美しく磨き抜かれた匠の技に脱帽~
<第19回>『Groove Of Life』 神保彰 ~ロサンゼルス制作ハイレゾが再現する、神業ドラムのグルーヴ~
<第20回>『Carmen-Fantasie』 アンネ=ゾフィー・ムター ~女王ムターの妖艶なバイオリンの歌声に酔う~
<第21回>『アフロディジア』 マーカス・ミラー ~グルーヴと低音のチェックに最適な新リファレンス~
<第22回>『19 -Road to AMAZING WORLD-』 EXILE ~1dBを奥行再現に割いたマスタリングの成果~
<第23回>『マブイウタ』 宮良牧子 ~音楽の神様が微笑んだ、ミックスマスターそのものを聴く~
<第24回>『Nothin' but the Bass』櫻井哲夫 ~低音好き必聴!最小楽器編成が生む究極のリアル・ハイレゾ~
<第25回>『はじめてのやのあきこ』矢野顕子 ~名匠・吉野金次氏によるピアノ弾き語り一発録りをハイレゾで聴く!~
<第26回>『リスト/反田恭平』、『We Get Requests』ほか、一挙5タイトル ~イイ音のハイレゾ音源が、今月は大漁ですよ!~
<第27回>『岩崎宏美、全53シングル ハイレゾ化』 ~ビクターの本気が、音となって届いたハイレゾ音源!~
<第28回>『A Twist Of Rit/Lee Ritenour』 ~これを超えるハイレゾがあったら教えてほしい、超高音質音源!~
<第29回>『ジム・ホール・イン・ベルリン』、『Return To Chicago』ほか、一挙5タイトル ~多ジャンルから太鼓判続出の豊作月なんです!~
<第30回>『Munity』、『JIMBO DE JIMBO 80's』 神保彰 ~喜びと楽しさに満ちたLA生まれのハイレゾ・サウンド!~
<第31回>『SPARK』 上原ひろみ ザ・トリオ・プロジェクト ~ハイレゾで記録されるべき、3人の超人が奏でるメロディー~
<第32回>『究極のオーディオチェックCD2016~ハイレゾバージョン~』 Stereo ~付録CD用音源と侮れない、本物のハイレゾ!~
<第33回>『パンドラの小箱』ほか、岩崎宏美アルバム全22作品ハイレゾ化(前編) ~史上初?! アナログマスターテープ vs ハイレゾをネット動画で比較試聴!~
<第34回>『パンドラの小箱』ほか、岩崎宏美アルバム全22作品ハイレゾ化(後編) ~アナログマスターテープの良いところ、ハイレゾの良いところ~
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『エラ・フィッツジェラルドに捧ぐ』 ジェーン・モンハイト
~オーディオ好き御用達の歌姫は、やっぱりハイレゾでも凄かった!~


■ 秋葉原でのハイレゾ・イベントご報告

先日、秋葉原でイベント『イヤホン・ヘッドホンとマスタリングとハイレゾと』を開催しました。イベントは、前半が店舗試聴で、後半がセミナーというスタイル。店舗試聴では、マスタリング・スタジオでリファレンス機として活躍中のDAコンバーターを持ち込み、そのヘッドホン出力を使って、この連載でご紹介した太鼓判ハイレゾ音源の試聴や、マスタリングのビフォーアフター比較などを聴いてもらいました。

イヤホンやヘッドホンならば、営業中の騒がしい店舗内でも本格的な試聴ができるのは、なかなか目から鱗でした。従来のスピーカーを使ったイベントでは、やはり静かな環境が必須であり、参加人数に応じてそれなりの音量も出さなければなりません。そうすると、外部への音漏れ苦情も気にしないといけないですし、スピーカーセッティングやルームチューニングも大切です。イヤホン/ヘッドホンのイベントに、大きな可能性を感じた一日でした。


私がセミナーでお伝えしたかったのは、“大きな音楽エネルギーが存在する”ということ。このエネルギーは音楽制作時に特に感じることで、超一流ミュージシャンの熱い演奏を体感すると、その全てが「こりゃCD規格の44.1kHz/16bitでは収まりきらないな~」と感じてしまうのは当然なのです。この“大きな音楽エネルギー”が、必ず音楽制作現場に出現するかというと、そうでもないのが難しいところ。ですから、気付いていないミュージシャンやエンジニアも、現在では多く存在するのかもしれません。

では、音楽リスナー側がそのエネルギーを知らないかというと、いやいやどうして。簡単なところですと、コンサートやライブで震えるような音楽に出会ったことが皆さんもあるはず。正にアレのことですよ!

その大きな音楽エネルギーを家に持ち帰りたくなる、いつでも好きな時間に楽しみたくなるのは、音楽好きとして当然の欲求です。過去にはレコード盤やカセットテープしか、その手段が無かったのでした。そしてCD盤が登場し、時代はハイレゾ音源の登場を迎えるのです。大きな音楽エネルギーの器としては、現存する手段としてはハイレゾが一番である可能性が高い。そのことをセミナーではお伝えしたかったのです。

ハイレゾを取り巻く現状としては、商売としてのワード“ハイレゾ対応”が先行しているように私は感じています。とはいえ、やっぱり嬉しいことなんですよ、ハイレゾ界が盛り上がってくれることは!

上手くその大きな器を使いこなせる時代が来るよう、音楽制作側もリスナー側も、もっともっと意見交換していきたいです。ポイントは、あの“大きな音楽エネルギー”を、プライベート環境で再現すること。私は、ハイレゾの存在意義はそこにあると考えます。

■ 良い歌と良い演奏が、高音質への最短コース

今月聴いたハイレゾ音源は、音質の良いものが多かったように思います。5作品くらい一気にご紹介しようとも思ったのですが、明らかに一作品だけ群を抜いていた。同列には考えられなかったので、イチオシの太鼓判ハイレゾ音源としてお薦めさせてください。

『エラ・フィッツジェラルドに捧ぐ』(96kHz/24bit)
/ジェーン・モンハイト


ジェーン・モンハイトさんのアルバムといえば、『Come Dream With Me』(2001)や『Taking a Chance on Love』(2004)が、高音質CD盤としてオーディオファン御用達です。私も著書『音の名匠が愛するとっておきの名盤たち』の“甘い歌声に酔いたい”というコーナーで、ジェーン・モンハイトさんの『In the Sun』(2002)を取り上げました。音質が良いのはもちろん、なんといっても歌がめっぽう上手いのがジェーン・モンハイトさんの魅力です。

そのジェーン・モンハイトさんの新作。私が聴いていた名盤たちからは15年くらい経ってしまったので、「歌声が劣化していたら悲しいな~」と恐る恐る聴いたのですが・・・申し訳ない、甘い歌声は健在です!

それもそのはず、ジェーン・モンハイトさんは1977年生まれなのですから、まだ30代後半。ということは、私が聴いていたCD盤の艶っぽい歌声のころは、20代前半のお嬢さんだったとは。ジェーン・モンハイトさん、まだまだ全盛期真っ直中ですね!

ボーカルの好みは人それぞれ色々あるとしても、歌声のコントロールではジェーン・モンハイトさんが世界最高峰レベルであるということに皆さんも異論無しでしょう。声は最高の楽器である。この名言を思い出さずにはおれません。ビブラートの制御、音程感、リズムのグルーブなど、ここまでの表現力はピアノにもギターにもサックスにもありません。デジタル録音のボーカル修正では決して得られない、「歌声って、神様からの贈り物なんだな~」としみじみ感じました。

ハイレゾ音源ならではの、広いサウンドステージも魅力です。スピーカーで聴くと、左右のスピーカー間隔よりも外へ外へと大きくはみ出すように、そして上下に突き抜けるように音場が広がります。今回の太鼓判ハイレゾ音源選定からは、私もイヤホン/ヘッドホンの良いリスニング環境を手に入れましたので、ヘッドホンを試聴に加えました。ヘッドホンでも十分に音場の広さを感じることができますし、各楽器の細やかな音、そしてリアルさに魅力を感じるハイレゾ音源です。

音質で唯一気になったのは、バックグラウンドに常に流れるホワイトノイズの多さ。デジタル全盛期の現代録音では、あまりお目にかかることのないサーッというノイズです。レコーディングの詳細が分からなかったので、マイク・プリのノイズか、それともアナログテープ録音でも行ったのか、私では確認できませんでした。ノイズが気になるそんな時は、私はジャズ・プロデューサーさんから教わった大切な言葉を思い出すようにしています。「ノイズなんて、お友達と思えば良いんです。」ん~、名言ですね!

本作は、デジタル的修正の感じがしないのが、なんだか70年代っぽくて好きなポイントです。全員がせーのでレコーディングした、一発録りが多いのではないでしょうか?歌と伴奏の歯車が、しっかりと噛み合っているこの感じ、歌だけ後で録り直していると出ないと思うのですが、いかがでしょう。

もうひとつ面白いポイントに気付きました。曲の冒頭に仕掛けのある曲が多いということ。いわゆる“ワン、ツー、スリー、ドーン!”みたいにカウント後に全員が演奏を始める曲は、全13曲中でたったの2曲。あとは歌だけ、ドラムだけ、ベースだけ、ピアノだけといったように、導入にちょっとした遊び心があります。これがもう、オーディオ的なチェックには最適。オーディオマニアと意識したというか、オーディオイベント向きというか、なかなか美味しいところを提供してくれています。この単楽器たちの再現、なかなか強敵ですぞ!

本作の成功は、レコーディングやマスタリングが良かったというだけでは決してありません。高音質の最短コースは、超高級マイクを使うことでも、もちろん超フォーマット録音でも無い。良い歌と良い演奏。これに尽きますね!今月聴いたハイレゾ音源の中で、本作が飛び抜けていたポイントは、正にそこ。ぜひ聴いてみてください。

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筆者プロフィール:

西野 正和(にしの まさかず)
3冊のオーディオ関連書籍『ミュージシャンも納得!リスニングオーディオ攻略本』、『音の名匠が愛するとっておきの名盤たち』、『すぐできる!新・最高音質セッティング術』(リットーミュージック刊)の著者。オーディオ・メーカー代表。音楽制作にも深く関わり、制作側と再生側の両面より最高の音楽再現を追及する。自身のハイレゾ音源作品に『低音 played by D&B feat.EV』がある。