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『ギター・イズ・ビューティフル』で11人のギタリストと共演した 渡辺香津美さんが語る「新作の録音とハイレゾの魅力」

2016/04/28
今年で“ギター生活45年”を迎える渡辺香津美さんが、2年ぶりのニュー・アルバム『ギター・イズ・ビューティフル』をリリースしました。ハイレゾ配信もスタートしているこの作品では、70年代からの盟友であるリー・リトナーやマイク・スターン、そしてChar、押尾コータロー、沖仁、伊藤ゴロー、高田漣ら、日本のベテランから次世代を担うアーティストたちとのデュオが繰り広げられています。4月14日にはGibson Brands Showroom Tokyoでハイレゾ試聴会とトーク・ショー、そしてミニ・ライブを披露してくれた渡辺香津美さんに、新作のレコーディングやハイレゾの魅力についてお話しを伺いました。

取材・文◎大山哲司 撮影◎山本 昇

『ギター・イズ・ビューティフル』
/渡辺香津美


■ 楽器を通じて感じられる相手のパーソナリティ

 デビュー45周年を迎えたギタリスト渡辺香津美が11人のギタリストを迎えたアルバム『ギター・イズ・ビューティフル』をリリースした。20歳代のジャズ・ギタリスト井上銘からほぼ同年代のCHARまで、「自分より若いこと」を唯一の条件として、さまざまなジャンルのギター・デュオ演奏を展開している。

 ギターという共通項だけで共演者を選んでいきました。ここ数年、アルバム・タイトルと同じ名前を冠したライブを何度かやっていて、そういう場で出会った若いギタリストたちと何かを作りたいと思って。初めて一緒にやるギタリストもいました。渡辺香津美がジャズ・ギタリストとしてすごく面白い、気になってると言ってくれている人もいて、それなら一緒にやろうよということでね。
 あとはリー・リトナーとマイク・スターン。西海岸と東海岸のキー・パーソンというべきギタリストなんですが、リーとは70年代後半に1回レコーディングしただけでそれ以来1回もやっていないし、マイク・スターンにいたってはプライベート・セッションで一緒にやっただけで、レコーディングしたことがなかったんです。
 選曲は、まず人ありきでした。この人となら何をやろうか? 有り物じゃなくてオリジナルを作っちゃおうかとか、だいたいは僕の方でフレームを作って投げかけるという感じでしたね。ほとんどのレコーディングは僕のプライベート・スタジオで行いました。演奏にはあまり縛りをかけなかった。“せーの”で二人一緒に演奏して録ったので、アコースティック・ギターなら当然二人の音がかぶるわけです。だから間違えたからといって一人だけ差し替えるわけにはいかない。いい感じの緊張感がありましたね。
 デュオの醍醐味は、ギターという楽器を通じてその人のパーソナリティが出てくるころです。生々しくて面白いと思います。でも途中で休めないところが難しい(笑)。ギター・サウンドのバランスをとるのは録音後にもできるんですが、ハーモニーをきれいに響かせるには、お互いの心の波長が合わないとダメなんです。そうしないとなかなか上手くアンサンブルしない。そのへんもデュオの難しさですね。
 使用したギターは曲ごとに全部異なります。45周年ということもあるので、昔使っていたけれど今は使っていないというギターを持ち出して使ったりもしました。1曲目の「ザ・カーブ・オブ・ライフ」は二人ともスティール弦のアコースティック・ギターを使っているんですが、僕が70年代後半から使っていたOvationのAdamasというギターが曲調に合うかもしれないと思って、レコーディング当日に楽器倉庫から持ち出してきて、弦を取り替えて何とかいけそうだということになった。そんなハプニング的な楽器選びもありましたね。レコーディングでは使いたくても使えなかったギターもあるので、それはコンサートの方で乞うご期待という感じですね。
 ギターは今、80本ぐらい持っているんですが、「1本増えたら2本出す」というのが掟なんです(笑)。どうしても気になるギターは出てくるので、現状では1本増えたら1本出すという感じですかね。だから、なるべく楽器屋さんには近づかないようにしています(笑)。

 アルバムの最後には全員が参加した「アイランド・ホップ」という曲が収録されている。それぞれのデュオ演奏を録音した後に、16小節、30秒ぐらいで演奏してもらい、継ぎ足していって完成させたそうだ。

「ソロでもいいし、歌っちゃってもかまわないから何か入れて」という乱暴なリクエストでしたね。パーカッション奏者のミノ・シネルが東京JAZZで来日した際に、僕のスタジオに来てもらって2時間ぐらいセッションした。その時にベーシックなリズム・トラックを作ったんです。別にCDにしようといった意図はなかったんですが、後々何か御利益があるんじゃないかとは思っていた(笑)。この時はリズム・ギターだけ弾くようにして、メロもソロも出てこないんですが、それが「アイランド・ポップ」のベーシックになっています。

〈ハイレゾを含む最新技術では、例えば古いギターが持っている味というものを鮮やかに切り取れたらいいなと思いますね〉

■ ハイレゾに合うのは「空間」が感じられる音楽

 渡辺は2003年のアルバム『Guitar Renaissance』を制作した頃からDSDや24bit/96kHz(PCM)のハイクオリティで録音するようになったという。それ以来、良い音で残したいという気持ちも強くなってきたそうだ。MDは特有のコンプレッション感や何か足りない印象に馴染めず、CDもダウン・コンバートされてしまう点が気になり、SA-CDなどを試したりしていたという。

 やはり、いい音で残したいという気持ちはありますね。ただ、192kHzで自分のギターを録って聴く機会があって、これはキツいなと思ったんですよ(笑)。あまりにリアルすぎて弦の錆まで見えちゃうような感覚。「そこまで必要かな?」と疑問に思ったんです。でも、同じハイレゾでも96kHzだと非常にゴージャスな音が楽しめて、なおかつ行き過ぎ感もない。
 家でアナログ・レコードを聴いていると、ノイズはあるにしてもすごく身体に馴染んで入ってくる、いい感じがあるんですよね。適度なハイレゾは、ちょっとニュアンス的にそれに近いと思います。アナログ盤のいいフリーケンシーも感じられて、でもそれ以上の怖い感じにはならない。
 バンドもののように音が詰まった音楽よりも、ギター・デュオのように空間が感じられる音楽の方がハイレゾに合っていると思います。ギターの余韻や、リバーブの質感……壁の材質がクロスなのか木なのかまで感じられます。このへんはエフェクトでもある程度作れるんですが、ハイレゾだとよりリアルに感じられる気がします。今回はマイクの選定やセッティングも自分でやったんですが、マイクの特性や距離感の違いも感じられて、苦労した甲斐があったと思いますね。二人の個性もより際立って聞こえるんじゃないでしょうか。
 ギターが醸し出す個性的な雰囲気を、自分流にねじ伏せて弾いてやろうというのではなく、そのまんまの素直な音を生かして録れたらいいなとも思うんですよ。古いギターにはそれぞれ味というものがありますからね。そういう意味で、究極のテクノロジーはアコースティック・サウンドをより際立たせてくれるんじゃないかという気がしています。それがハイレゾの未来の可能性じゃないかなと思います。

 5月20日にはBunkamuraオーチャードホールにおいて「渡辺香津美ギター生活45周年祭」と銘打ったコンサートが催される。レコーディングで共演したギタリストに加え、村治佳織らも参加する予定だ。今回共演が実現しなかったものの、魅力を感じるギタリストもまだまだたくさんいるという。旅が好きという渡辺は、世界中を旅して、現地のギタリストと共演して録音したいという夢も持っているそうだ。50周年という大きな節目に向けて、ますます大きなギター愛を表現してくれるだろう彼の音楽活動からは目が離せそうにない。



〈今年は、ご縁のある海外のミュージシャンとのコラボレーションもいくつか予定していますので、お楽しみに!〉