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【連載】世界の高音質レーベル詳解 「Yarlung Records ヤーラン・レコーズ」

2016/04/01
Yarlung Recordsは、アメリカ・ロサンゼルスを本拠地とするレーベルだ。主にクラシック系音楽のレコーディング、プロデュースにおいて非常に高い評価を受けており、2013年にはラロ・シフリンによる描き下ろし楽曲も収録したチェリスト、アントニオ・リジーの「Antonio Lysy at the Broad Music from Argentina」が第11回ラテン・グラミー賞を獲得している。
今回Yalung Recordsの主催を務める、プロデューサー&レコーディングエンジニアのボブ・アティエー氏(Bob Attiyeh)にその特徴や目指す音楽性、レコーディング機材、そしておすすめの作品などについてメール・インタビューを行った。
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【バックナンバー】
<第1回>世界の高音質レーベル詳解『Linn Records リン・レコーズ』
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〈Bob Attiyeh(ボブ・アティエー)Yarlung Recordsのプロデューサー&レコーディング・エンジニア〉

——— Yarlung Recordsの作品の特徴や、大切にしているポリシーなどを教えていただけますか?

Yarlung Records(ヤーランレコード)はミニマリスティックなレコーディング・アプローチをする、ブティック・オーディオファイル・レーベルです。つまり、モノ・マイクロフォン2つ、あるいはステレオ・マイクロフォン1つのみでほとんどのレコーディングを行っています。そうすることで、ミキサーを使用せず、高解像度のままデジタルで、あるいはマイクアンプから直接アナログテープにレコーディングすることが出来ます。2チャンネルのみでレコーディングするのはポリシーというよりは、私共の好みですね。まさに捉えた音をそのままをお届けしたいということです。
私共の作品の中には、世界的に知られたミュージシャンの作品もありますが、一方で世界的なコンサートキャリアをまさにスタートしたばかりの若いミュージシャンの作品もあります。Petteri Iivonen(ペッテリ・イーヴォネン)とは彼のデビューアルバムを数年前に制作しました。ペッテリは2015年11月、フィンランド・ラハティ交響楽団と共にシベリウスのヴァイオリン協奏曲を松本市音楽文化ホール、東京オペラシティで演奏し、非常に良いレビューを獲得したところです。それまでペッテリはそれまで日本ではあまり知られていない存在でしたが、彼の素晴らしいレコーディング作品があり、また日本の皆様の支えのお陰でコンサートツアーは大成功でした。
ペッテリのように最終的にはコンサートで各ミュージシャンが成功を収めること、そして作品制作を通じてそのサポートをすることが、Yarlung Recordsのミッションであると考えています。

『Petteri Iivonen Art of the Violin』
/ペッテリ・イーヴォネン


——— 録音やミックス、マスタリングはどなたが手掛けられているのですか?

私(ボブ・アティエー)が録音を手掛けています。マスタリングはSteve Hoffman(スティーヴ・ホフマン)、LPレコードのマスタリングはBernie Grundman(バーニー・グランドマン)が手掛けています。私共の作品は基本的に2トラック録音ですから、ミキシングは行っていません。ただ、今年9月にリリース予定のEsa-Pekka Salonen(エサ=ペッカ・サロネン)とシカゴ交響楽団の最新録音においては、Sonorus Audio(http://www.sonorusaudio.com/)のオランダ人のエンジニア、Arian Jansen(アリアン・ヤンセン)と私でマルチチャンネルから2チャンネルへのミキシングを行いました。

——— 録音にはどんな機材を使っていますか?

主にAKGとNeumannのマイクで、ハイレゾリューションのデジタルレコーダーと、アナログテープ・レコーダーのSonorus ATR-12に録音しています。ハイレゾリューション・デジタルレコーダーに収録されたものはそのままハイレゾ配信へ、アナログテープ・レコーダーで収録されたものは180グラムの重量盤レコードになります。前述のエサ=ペッカ・サロネンとシカゴ響によるJames Matheson(ジェームズ・マチソン)のヴァイオリン協奏曲のミックス、マスタリングにおいては、Sonorus Holographic Imaging Processer(ソノラス・ホログラフィック・イメージング・プロセッサ)を使用しました。

——— どのようなスペックで録音を行っていますか?

デジタル録音の場合は176.4kHz/24bit、アナログ録音の場合はCCIRカーブを38センチ/秒で、Agfa formula468テープを使用します。

——— 素晴らしいレコーディングをするための秘訣というものはありますか?

特に秘密にしていることはありません。世界中でYalung Recordsを取り扱ってくださるディストリビューターさん等のご協力のお陰もあり、私共は作品のリリース前に十分な推敲の時間を持つことが出来ています。時にその時間を十分に取るためにリリースを遅らせることもあります。レコードの場合は満足できるものが出来上がるまでに、何度もラッカー盤を作ることもあります。最もスムーズに進んだものでもバーニー・グランドマンと私が納得できる音に仕上がるまで、ラッカー盤を5回作ったこともありましたね。

更に、我々は非常に恵まれた環境にあります。レコードレーベルとして生き残ろうと悪戦苦闘している我々を、世界で最も優れたエンジニアがサポートしてくれています。バーニー・グランドマン、スティーヴ・ホフマン、アリアン・ヤンセン、エリオット・ミッドウッドなどはこの業界における巨匠ですが、考えうる最高の仕事をするため、私共と仕事をしてくれています。

私共が使用しているドイツのレコードプレス工場はアメリカやその他の国のプレス工場より高値ですが、非常にクオリティが高く、私共のような小さなレーベルであれベストを尽くしてくれます。こういった我々より大きな企業に助けられ、我々はお聴きくださるリスナーの皆さまへより良い作品をお届けできるのです。

私共が使用する機材の一部はヴィンテージですが(1950~70年代のマイクなど)、最新の機材も使用します。真空管のATR-12 Sonorusアナログテープ・レコーダーは私共の注文にあわせてアリアン・ヤンセンがデザインし、組み上げたものです。エリオット・ミッドウッドは私共の特注で真空管のマイク・プリアンプをデザインしてくれました。スイス・Merging TechnologiesのA/Dコンバーターも所有しています。ミニマリスティックなレコーディングをするにあたって、世界トップの機材を使用することでその他余分な機材を使用しなくて済むので非常に助かっています。最高の音を得る為には機材は少ないほど良いのです。インターコネクト・ケーブル類は私共でデザインしています。電源ケーブルはAural SymphonicsとGenesis Advanced Technologiesを使用しています。(日本でも良く知られていますね)

録音は主にコンサートホールで行います。レコーディングスタジオではありません。コンサートホールで録音することで自然な音色やホールの空気感を捉えることが出来、ポストプロダクションで手を掛けずに済むようになります。ミュージシャンも、全楽章の録音を1度のテイクで済ませられるよう入念に準備してきます。こうすることで、私がエンジニアとして録音後にあれこれといじることなく、ミュージシャンが意図するところをそのまま作品に反映することが出来るのです。Yarlung Recordsはここにおいて無色透明であろうとしています。美しい景観を磨き抜かれた窓を通して見るように、演奏者の生々しい息づかいをリビングルームで聴いて欲しいのです。聴いている時にはYarlung Recordsというものは消え去り、ミュージシャンとあなたのみが残る、、、これが私共の作品作りのゴールです。

——— 特にお勧めの作品をいくつか挙げていただけますか?

昨年の日本公演を成功裏に終えたペッテリ・イーヴォネンのセカンドアルバム「Art of the Sonata」を挙げましょう。日本で人気があるのは「Smoke & Mirrors:Vanish」(武満徹のパーカッションソナタ収録)、ジャナキ弦楽三重奏団「debut」、そしてデイヴィッド・フン&エリノー・フレイ「Dialoghi」(黛敏郎の文楽収録)ですね。

『Art of the Sonata』
/ペッテリ・イーヴォネン


『Smoke and Mirrors: Vanish』
/Smoke and Mirrors Percussion Ensemble


『Debut』
/ジャナキ弦楽三重奏団


『Dialoghi』
/デイヴィッド・フン&エリノー・フレイ


——— 日本のオーディオファン、音楽ファンへメッセージをお願いします。

日本におけるレコーディング技術の高さを我々アメリカのエンジニアは非常に尊敬しています。全音楽ジャンルを通じて、世界で最も偉大なレコーディング作品は日本人のエンジニアが手掛けたものが非常に多く存在します。例えばサラ・ヴォーンの1973年のライブアルバム「Live in Japan」、エリーヌ・グリモーのDenonレーベルのデビューアルバム、オスカー・ピーターソンが日本で残した数々のレコーディング、忘れてならないのは田口晃さんによるXRCD、そして世界で最もクオリティの高いレコードプレス工場。

昨年のヴァイオリニスト、ペッテリ・イーヴォネンのように、Yarlung Recordsのミュージシャン達が今後も日本で温かく迎えていただけたらと願います。そして録音芸術、そしてコンサートの熱心なファンでいてくださって有難うございます。Yarlung Recordsのアドバイザー、Michala Petriは、かつて両親が大阪・夙川に住んでいた時に日本を訪れ、サントリーホールでHermann Preyによるシューベルト「冬の旅」を聴きましたが、その時、多くの観客が冬の旅をドイツ語で暗記していることに驚いたと言います。ドイツ本国においてさえなかなか無いことです。とても忘れられない、印象的なコンサートになったと言います。クラシック音楽を全力で支えてくださって有難うございます。