PC SP

ゲストさん

NEWS

上原ひろみ最新リーダー作が日本先行発売!「ハイレゾでは“本来の音”をぜひ聴いてください」

2016/02/04
ピアノとNord Lead(シンセ)の圧倒的なパフォーマンスで世界の音楽ファンをノックアウトし続けるジャズ・ピアニストの上原ひろみさんのニューアルバムがハイレゾで登場! 通算10作目となるこのリーダー作に込めた想いやレコーディングの様子などについて、じっくりと語っていただきました。

取材・文◎e-onkyo編集部 撮影◎山本 昇
祝☆全米ビルボード・ジャズ・チャート初登場1位 !
2016/4/23週付


『Spark』
/Hiromi


 世界を舞台に活躍するジャズ・ピアニスト上原ひろみ。初のリーダーアルバム『アナザー・マインド』(2003年)で世界デビューを果たしてから、すでに13年が経つ。その間にピアノ・トリオとしての作品はもとより、ピアノソロ・アルバム、チック・コリアや矢野顕子との共演作など、その活動は常に華やかな話題を振りまいてきた。近年では2011年に『スタンリー・クラーク・バンド・フィーチャリング・上原ひろみ』でグラミー賞「ベスト・コンテンポラリー・アルバム」を受賞。2013年、ついにアメリカのジャズ専門誌『ダウンビート』の表紙を飾る。そして2015年、日本人として初めてニューヨーク・ブルーノートでの11年連続公演の快挙を成し遂げた。
 躍進を続ける彼女が、アンソニー・ジャクソン(contrabass guitar)、サイモン・フィリップス(drums)と組んだザ・トリオ・プロジェクトとして4作目となる『SPARK』を発売。今回、世界を舞台に活躍する彼女が来日した貴重な瞬間に、インタビューする機会を得た。その音楽への想い、そして多忙な毎日のなかでの音楽ライフとは……。

■ 音の細部までをしっかりとらえたスタジオ録音

−−ニューアルバム『SPARK』(スパーク)のテーマについて教えてください。

 人が何かに衝撃を受けて心が躍る瞬間、ドキドキする瞬間、そこから物語が始まっていく……といった意味を“SPARK”というタイトルに込めてテーマにしました。

−−このアルバムを作る過程はいかがでしたか。

 レコーディングに入る前に3週間、ツアーをしていました。だから、その間に新曲をライヴでどんどん演奏して、それがどんどん体に入っていって……。だからもう、レコーディングに入るときには曲が“体に入った”状態だったので、すごくよかったです。

−−『SPARK』はリーダーアルバムとして10作目、デビュー作を発表した2003年から13年が経つわけですが、この期間を振り返ってみていかがですか?

 この期間を通じて変わったのは、ピアノとの距離感ですね。弾けば弾くほどどんどん近づいてくる。そういう意味ではピアノへの理解は毎年深まっていると思います。逆にずっと変わらないのは、ライヴに対する思いですね。初めて舞台に立った時から、その気持ちは何も変わってなくて。いつもすごい“期待”と“興奮”、ドキドキした気持ちがあります。次のライヴがいつも楽しみで(笑)。

−−演奏者として、「ライヴ」と「録音」には違いがあるのでしょうか。

 基本的には、ライヴの、その瞬間のサウンドを録りたいなと思っているんですけれど、ライヴの環境では聴こえてこない音もたくさんあるので……。スタジオ録音では、アンソニーとサイモンが出す音の細部まで、本当にきめ細かく聴こえることが、彼らのファンとして純粋に嬉しいです。

−−今回はアンソニー・ジャクソンさん、サイモン・フィリップスさんと組んだザ・トリオ・プロジェクトとして4作目ですね。いつもさまざまなかたと一緒に演奏をされていらっしゃいますが、上原さんにとって、このトリオでの演奏はどんな意味をもっているのでしょうか?

 4作目であり、ザ・トリオ・プロジェクトを始めて5年が経ったのですが、やればやるほど彼らとの音楽的な関係性が深まってきていますし、 “あ・うん”の呼吸もどんどん増えています。「次どういう風に出てくるかな」っていう予想を、あえて覆して驚かせたいと思うお互いの気持ちもあるし。本当にいいチームだなと思いますね。

−−録音エンジニアは、デビュー作『アナザー・マインド』以来ずっとマイケル・ビショップさんが務めていますね。マイケルさんと一緒にアルバムをつくる理由はどんなところにあるのでしょうか。

 まず、彼の録音技術の素晴らしさは、ピアノの音を録ることにも現れます。ピアノは木で作られているアコースティックスの楽器であることがちゃんと伝わる録音をしてくれる。その温かみとか柔らかさ、音の抑揚とかダイナミクスが本当によく伝わる。素晴らしいエンジニアだと思います。

−−上原さんはミックスにも立ち会われるそうですが、レコーディングを含めた現場では、音についてのリクエストを出されたりしますか?

 そうですねぇ……。でも、最近は同じプロジェクトがずっと続いていますし、マイケルも私がどういう音を求めているかが大体分かっていますから。よく10年も付き合ってくれたなと思っています(笑)。この『SPARK』でいうと、最初のイントロとか、そういう特別なところ以外は特に口を出すことはありませんでした。

−−アンソニーさん、サイモンさんもそれぞれ音にこだわりがあるようですが、音作りについてメンバーの意見がぶつかったりすることはないのでしょうか。

 特にサイモンはエンジニアとしても活動しています。エンジニアにはそれぞれ趣味がありますから、サイモンがこのアルバムを録ったら……というのと、マイケルがこのアルバムを録ったら……というのは、もちろん違ってくるとは思うんです。サイモン、アンソニーも音に関してはマイケルと個々で話すことが多く、もう4作もやっているので、みんなが納得のいく形で録れていますね。
 ただ、全員が“こだわり”を持っているので、音作りにはものすごく時間がかかります。ちょっとでもチューニングが合わなくなってくるとヘッドを張り替えたりとか。スネアドラムも、どれが一番合うかを確かめるために、全部録音してみたりとか。マイケルも、ピアノを置く位置も含めて、マイクを1センチ単位で動かしてくるので、それについては一任しています。「今の音とさっきの音どっちがいい?」と質問をされれば、「こっちの方がいいね」みたいな話はしますけど。とにかく、すごくいろんなことを、みんなでフル回転でやっている感じです。

■ “いい音”で聴くと音楽の持つ厚みと深みが伝わる

−−録音はDSDで行われていますね。これはなぜでしょうか。

 マイケルの意思もありますが、もともと1作目の『アナザー・マインド』からずっとDSDで録ってきました。DSDのレコーディングシステム“ソノマ”を作ったガス・スキナスが、これまでも何作か録音に参加しています。システムを作った人と一緒にレコーディングができることはなかなかない体験です。例えば、今ほとんどの現場ではPro Tools(DAW)が使われることが多いと思いますけど、これを作った人と一緒にスタジオに入れることはなかなかないと思うんですよね。
 今回、久しぶりにガスと一緒に仕事をしたんですけど、当たり前ですが、作った人であるだけにシステムのことがよくわかっているので、楽しかったです。彼もとても喜んでいました。

−−上原さんにとって、DSDの音の魅力はどんなところにありますか?

 音のふくよかさがすごく違うというか……。“ふくよか”という言葉が一番合うと思います。“厚み”というよりは“ふくよか”。お米の持つ水分量のような感じですかね。あの“もっちり”とした感じ。目の前で音が鳴って、それが耳に届く。それを忠実に近く再現していると思います。

−−ご自宅で音楽を聴くことはありますか。その時はどんな再生方法で聴いているのでしょうか。

 旅が多いので、私はiPodで聴くことが多くなってしまうんですけど……。
 でも、サイモンは本当に音にこだわるので。パソコンにハイレゾを再生するためのプレーヤーソフトを入れて「ハイレゾ音源を買ったから聴こう」とか言ってました。ヘッドフォンで聴いて、喜んでいましたよ(笑)。

−−上原さんも“ハイレゾ”や“高音質”には興味がありますか?

 そうですね、やっぱりMP3で聴くのとは音がまったく違うので。“いい音で聴く”と音楽の厚みが違いますし、その音楽の持っている深みがちゃんと伝わってきます。発信者としては、できればそういう環境で聴いてほしい気持ちはあるんです。がやがやした電車での移動中に音楽を聴く人はとても多い。でも、移動中に低音質で聴くなら聴かないほうがいいかといえば、そんなことはない。それでも聴いてもらえれば……と思う気持ちも一方ではあるんですよ。
 ただ、音の良さは体験すれば分かることだと思います。ハイレゾと他の音を聴き比べる機会はなかなかないかもしれませんが、聴きさえすれば、特に音楽に精通していなくても誰でもわかることなので、一度体感してほしいなと思いますね。本来はこういう音だったんだな、というのを。

−−あえて、ご自身の作品以外で“名盤”だと思う作品はありますか?

 いっぱいありますね(笑)。例えばフランク・ザッパの『Roxy by Proxy』……。

−−ジャズ以外の音楽も積極的に聴かれていらっしゃるんですね。

 はい。もともと“ジャズ”とか、ジャンルで聴いていないので。ジャズを聴きたいからハービー・ハンコックを聴くのではなく、ハービーを聴きたいからハービーを聴く。セロニアス・モンクを聴きたいからモンクを聴く。ジェフ・ベックを聴きたいからジェフ・ベックを聴く。一日に聴く音楽は、モンクからレッド・ホット・チリ・ペッパーズ、メタリカまで、なんでも。かっこよければ聴くというか、そのバンドやミュージシャンにしかないもの、存在意義を強く感じるものを聴きます。映画のサントラもよく聴きます。単純に音楽ファンなので、いろいろ聴いています。
 『スター・ウォーズ』のサントラ、(e-onkyo musicのサイトを見て)ここにもありますね。買わなきゃなと思っていて(笑)。映画館ってスピーカーの音がいいじゃないですか。だから、サントラとかすぐ欲しくなっちゃって。音楽は映画を見ていても気になります。敵が出てきた時の不協和音とかすごく気になって。「いいコードだな~」とか思いながら観てるんですよ(笑)。

−−ご自宅にホームシアターがあったら楽しそうですね。

 ホームシアターと蓄音機、この2つがほしいです(笑)。最初は友達の家に蓄音機があったのを聴いて「うわー」って思ったんです。それでハマってしまって、蓄音機を聴かせてくれるお店とかにも行ったりしているんですよ(笑)。

〈質問に対して終始、小気味よいテンポで答えを返してくれた上原ひろみさん。公式ホームページhttp://www.hiromiuehara.com/