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GREAT3片寄明人の「ハイレゾ・コラム」 第15回 Elvis Costello (前編)

2015/12/22
95年のデビュー以来、普遍と革新を併せ持ったサウンドで、ミュージックシーンのみならず、カルチャーシーンからも大きな支持を得てきたバンド=GREAT3。その中心人物であり、業界屈指の音楽マニア、そしてアナログ・コレクターとして知られる片寄明人をセレクターに迎え「ハイレゾでこそ楽しみたい!」という作品はもちろん「隠れた名盤」や「思い入れのある作品」など、e-onkyo musicの豊富なカタログの中より片寄明人が面白いと思う作品をセレクトする、「ミュージシャン視点」のハイレゾ・コラムです。

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【バックナンバー】
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<第3回>「チェット・ベイカー『枯葉』」
<第2回>「GREAT3『愛の関係』 」
<第1回>「はじめまして、GREAT3の片寄明人です。」



連載 GREAT3片寄明人の「ハイレゾ・コラム」第15回
Elvis Costello(前編)


『My Aim Is True』/Elvis Costello



e-onkyoサイトをチェックしていて、ここ最近で一番興奮したのは、なんと言っても初期のエルヴィス・コステロ名作群が192kHz/24bitのハイレゾ配信されているのを発見したときでした。

伝説のスティッフ・レコーズから出した1977年作、1st「My Aim Is True」に始まり、その後レーダー・レコード~Fビート~デーモンとレーベルを渡り歩きながらリリースした86年作「Blood and Chocolate」までの11枚、そしてレア曲を集めた名コンピレーション「Taking Liberties」を含む、全12枚が配信されたのです。

いまだに現役第一線で素晴らしい新作を出し続けているコステロですが、ワーナー移籍前までの初期10年間の輝きはやはり特別。いまなお色褪せることのない名作がゴロゴロしています。ファンのかたはもちろん、未聴の人にもぜひ聴いてみていただきたく、思い入れ深い何枚かを、立て続けに紹介したいと思います。まずはデビューアルバム「My Aim Is True」から行きましょう。

2000年以降、特に「She」などのバラード・ヒットでエルヴィス・コステロを知った人の中には、彼がイギリスのパンク・シーンから出てきたことを知らない人もいるかもしれません。しかし前述の通り、彼がデビューした1977年という年はまさにセックス・ピストルズがデビューアルバム「勝手にしやがれ」をリリースした年、ロンドン~イギリス中にパンクの嵐が巻き起こった最中だったのです。

初期のエルヴィス・コステロ作品にプロデューサーとして深く関わったニック・ロウと同じく、パンク前夜のコステロはパブ・ロック・シーンでライブを続けるミュージシャンのひとりとして、D.P.コステロという名で地味に活動していました。当時ニック・ロウが在籍していたパブ・ロックを代表する名バンド、ブリンズレー・シュワルツの大ファンでもあり、ザ・バンドやランディ・ニューマンといったアメリカの音楽に影響を受け、若くして渋く複雑な音楽性を磨いていたのがアマチュア時代のコステロでした。

そしてニック・ロウが1975年のブリンズレー・シュワルツ解散後、長髪を短く刈り揃えてヒッピー色を払拭、新たなイメージでスティッフからソロとして再デビュー。さらにプロデューサーとして1976年、ロンドン・パンク初のシングルとなったザ・ダムド「New Rose」を出すなど、パブ・ロックからパンクへの移行期に重要な役割を果たし、ロンドン音楽シーンに大きな影響を与えはじめます。

そんなニックを追従するかのように同じスティッフ・レコーズの門を叩き、見事デビューを決めたコステロ。スティッフ設立者にして、その後もコステロと歩みをともにする策士、ジェイク・リヴィエラの手によってニック同様、音楽的にもビジュアル的にも時代に添ったイメージチェンジを施され、エルヴィス・コステロという冗談のような芸名を付けられます。そしてニック・ロウのプロデュースによって生まれたのが、この1st「My Aim Is True」。パブ・ロックからパンクへの端境期に生まれた名作といえるでしょう。

まだ昼間は働いていたコステロのため、夜に1日4時間×6日間=計24時間の突貫作業でレコーディングされたこのアルバム。歌詞の面では怒り、皮肉に満ちたエモーションこそパンキッシュに炸裂しているものの、音楽面ではやはりパブロック風味が強く、いまの耳で聴くとまったくパンクには聞こえないであろう、コステロのキャリアの中でも代表作のひとつでありながら異色作です。

というのも、このアルバムでコステロをバックアップしたミュージシャンはパンクとは何の関係もないアメリカ人たち。数年後、80年代に入って数多くの全米大ヒットを飛ばすことになるヒューイ・ルイス&ザ・ニュースの前身バンド、クローヴァーによるものだったことが、結果的に今作の色を決定づける大きな要因となりました。

当時クローヴァーはアメリカで芽が出ず、パブ・ロック・シーンに希望を託し渡英、シン・リジィの前座などをしつつ、ニック・ロウとの親交を深めていたことから今作に参加したのでした。

いつの時代、誰に聴かせても十中八九「いい曲だ」と言わしめるであろうコステロの代表的バラード「Alison」。この曲のアレンジも後のコステロ・サウンドとは大きく異なるものです。クローヴァー解散後、ザ・ドゥービー・ブラザーズに加入し、矢沢永吉バンドなどでも活躍したギタリスト、ジョン・マクフィーによる、歌にからみつくようなオブリガートしかり、その後のコステロ自身によるギターではけっして聴くことのできない技巧的プレイでしょう。ベーシックに流れ続けるムーディーなエレピなども後の作品ではあり得ないプレイかもしれません。

この「My Aim Is True」はそのジョン・マクフィーによるギターを中心にアレンジメントされている点が、スティーヴ・ナイーヴの鍵盤に主軸を置いた後のコステロ作品との大きな違いです。ザ・バーズを彷彿とさせる名曲「(The Angel Wanna Wear My) Red Shoes」を筆頭に、米国経由のブリティッシュ・パブ・ロックな匂いが残る、シンプルで気の効いたアレンジで魅せると同時に、「Welcome To The Working Week」、「I’m Not Angry」といったパンク的疾走感を持つ曲では、カントリーロックにルーツを持つ米国人メンバーが多少野暮ったさを残しながらも、パワーポップ的な演奏と西海岸を思わせるハーモニー・コーラスで受けて立ったかのようなサウンドを聴かせてくれます。

パンクか否か、というのは今となってはどうでも良いこと。それよりも1stアルバムでここまで素晴らしいメロディーを書いた、ソングライターとしてのコステロに感嘆させられ、またそれをバックアップしたクローヴァーの非凡さにも注目してしまうデビュー作なのです。

今作発表後、レコーディング・メンバーによるライブを一度も行わなかったコステロ。当時はこのサウンドに悔いが残っていたようで、発売直後に2nd以降のパーマネント・バンドとなるジ・アトラクションズとアルバムを再録音した(結局は未発表)なんて話も残っています。

しかしこの「My Aim Is True」が持つ伝統的な米ロックンロールとパンクの融合ともいえるサウンドは、60’sポップ、70’s初期アメリカン・ロックにルーツを持ちながら、どう新しい時代にアプローチしていくかという点で、重要なマイルストーンとなり、ジョン・ハイアット、マーシャル・クレンショウ、ガーランド・ジェフリーズなど、特にアメリカのミュージシャン、そして続くパワーポップ勢に多くのヒントを与えたように感じます。

それから30年経った2007年、コステロがクローヴァーのメンバーはじめ、当時のレコーディング参加者を召集し、サンフランシスコで「My Aim Is True」再現コンサートを開催したこともちょっとした話題となりました。

僕はこのアルバムを当時の英オリジナル・アナログ盤、日本盤、そして再発CD数種と何枚も買い継いできました。スカスカでありながら、独特な生々しい質感を持つこの音は、やはり英オリジナル・アナログ盤で聴くのが一番しっくりと来ていましたし、正直ハイレゾで聴く意味がある音なのか!?疑問があったのも事実。特にこういったサウンドの場合、192kHz/24bitよりも96kHz/24bitのヴァージョンのほうがガッツが感じられて好みだったりすることも多い自分なので、恐る恐る再生してみると…これが実に良い仕上がり。嬉しい驚きでした。

  英オリジナル・アナログ盤で聴ける質感そのままに、音の額縁がグッとひとまわり大きくなったような表現といえば良いでしょうか。もうこのアルバムのCDは聴かないな…と思ってしまうほどに好みな音でした。ロックンロール感を損なうことなく高解像度になったサウンドにより、クローヴァーの面々による手練れな演奏にあらためて耳が惹かれ、聴き慣れたこのアルバムをまた新鮮に楽しませてくれたのです。

最後に触れたいのが、今回の配信で最後に収録されている「Watching The Derectives」。英国オリジナル盤には未収で、イギリスでは1st発売後にシングルでリリース。同時期にデビューしたザ・ポリス同様にレゲエの影響を色濃く受けたこの曲は、クローヴァーでなく、グラハム・パーカーと活動していたザ・ルーモアのリズム隊と共に録音されました。

技巧よりもエモーショナルと言わんばかりのコステロ自身による荒々しく、緊張感のあるギタープレイ、そしてこれが初参加となった後の盟友ジ・アトラクションズの鍵盤奏者スティーヴ・ナイーヴによる印象的なコンボ・オルガン。その後の10年間に渡るElvis Costello & The Attractionsの肝となるサウンドが発芽した1曲として見逃せない大名曲です。ぜひアルバム本編のクローヴァーによるサウンドと聴き比べてみてください。そしてここから僕も大好きな2nd「This Year’s Model」へと繋がっていくのですが、それについてはまた次回!



片寄明人 プロフィール

1968年5月23日 B型 東京都出身
1990年、ロッテンハッツ(片寄明人、木暮晋也、高桑圭、白根賢一、真城めぐみ、中森泰弘 )結成、 3枚のアルバムを残し、94年に解散。
1995年、GREAT3のボーカル&ギターとしてデビュー。
現在までに9枚のアルバムをリリース。高い音楽性と個性で、日本のミュージックシーンに 確固たる地位を築いている。最新作は2014年リリース「愛の関係」(ユニバーサル-EMI)。
2000年には単身渡米。Tortoise、The Sea & Cake、Wilcoのメンバーらと、 初のソロアルバム "Hey Mister Girl!"を制作。
2005年、妻のショコラとChocolat & Akito結成。
現在までに3枚のアルバムをリリース。最新作は「Duet」(Rallye Label) 。
明と暗、清濁併せ呑んだ詞世界を美しい旋律で綴り、一糸乱れぬハーモニーで歌うライブは必見。
近年は新進気鋭のプロデューサーとしても活躍。
Czecho No Republic、フジファブリック、SISTER JET、GO!GO!7188、メレンゲ、などを手がけている。
また作詞作曲、CMナレーション、DJ、各種選曲、ラジオDJなどの活動でも活躍中。

◆GREAT3 オフィシャルサイト

『愛の関係』(96kHz/24bit)
/GREAT3





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