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GREAT3片寄明人の「ハイレゾ・コラム」 第14回 James Taylor (後編)

2015/10/08
95年のデビュー以来、普遍と革新を併せ持ったサウンドで、ミュージックシーンのみならず、カルチャーシーンからも大きな支持を得てきたバンド=GREAT3。その中心人物であり、業界屈指の音楽マニア、そしてアナログ・コレクターとして知られる片寄明人をセレクターに迎え「ハイレゾでこそ楽しみたい!」という作品はもちろん「隠れた名盤」や「思い入れのある作品」など、e-onkyo musicの豊富なカタログの中より片寄明人が面白いと思う作品をセレクトする、「ミュージシャン視点」のハイレゾ・コラムです。

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【バックナンバー】
<第13回>「James Taylor (前編)」
<第12回>「The Beach Boys & Brian Wilson (後編)」
<第11回>「The Beach Boys & Brian Wilson (前編)」
<第10回>「特別対談 with jan」
<第9回>「Deodato (後編)」
<第8回>「Deodato (前編)」
<第7回>「The Velvet Underground(後編)」
<第6回>「The Velvet Underground(前編)」
<第5回>「The Who『四重人格』(後編)」
<第4回>「The Who『四重人格』(前編)」
<第3回>「チェット・ベイカー『枯葉』」
<第2回>「GREAT3『愛の関係』 」
<第1回>「はじめまして、GREAT3の片寄明人です。」



連載 GREAT3片寄明人の「ハイレゾ・コラム」第14回
James Taylor(後編)


『Gorilla』
/James Taylor

『In The Pocket』
/James Taylor



前回紹介したジェームス・テイラー(以下 JT)13年振りの新作となる「Before This World」。僕の周りでも愛聴している人が数多いこのアルバムはリリースされるとすぐにビルボード全米アルバム・チャートで見事1位を獲得しました。

実は1971年にキャロル・キングの「You’ve Got A Friend」(君の友達)をカヴァーしたシングルが全米シングル・チャート1位になったことこそあるものの、JTにとってアルバム・チャートでの首位は初めて。47年におよぶキャリアで初の快挙だったのです。これはデビューからNo.1アルバムを出すまでに最も長くかかった記録としてトニー・ベネットの54年に続く第2位となる稀有な事例なのだそうです。

まるで痛みを包むこんでくれるようなJTの優しい歌声。それを求めた人が、いまこの時代、世界中にこんなにもたくさんいたということなのでしょう。もちろん僕もそのひとりです。

さて前回、彼の音楽には単にフォーキーなシンガーソングライターとして形容しきれない、様々な音楽要素が内包されているところが一番の魅力だと紹介しました。

今回取り上げる2枚のアルバムはその長きに渡るキャリアの中で、JTが持つR&B~ソウル・ミュージックの要素を最も強く押し出した時期の作品だと言えるかもしれません。

1975年にリリースされた6thアルバム「Gorilla」、そしてそれに続く76年にリリースされた7thアルバム「In The Pocket」がその2枚です。

新作「Before This World」ではちょっと影を潜めていたJTのメロウでファンキーな側面に光を当て、アルバムへと昇華したこの中期2作品。

「In The Pocket」のジャケットでスーツの上着を広げてみせる後ろ姿のJT。裏ジャケットではその上着の下に前作「Gorilla」のジャケット写真がプリントされたTシャツを着ていることでも分かるように、この2枚は地続きで連作のような雰囲気を持ったアルバムです。

1970年の2nd「Sweet Baby James」で一躍時代を象徴するシンガーソングライターとして、メインストリームに躍り出たJT。その初期作品では後に単独作もリリースする、ダニー・クーチ(ギター)、クレイグ・ダーギー(キーボード)、ラス・カンケル(ドラム)、リー・スカラー(ベース)からなるザ・セクションというバックバンドと共に、いなたさと洗練さを併せ持ったその独特なサウンドを創り出しました。

ジェームス・テイラー・サウンドのトレードマークと言うと、ピックガードが外されたアコースティック・ギターの名機 Gibson J-50 がすぐに頭に浮かびますが、実はJ-50をメインで使っていたのは、このザ・セクションとがっつり組んで制作した1972年の4th「One Man Dog」の頃までだと思われます。

One Man Dog」のレコーディングにゲスト参加したジャズ・ギタリスト、ジョン・マクラフランが弾いていたMark Whitebookのアコースティク・ギターに魅せられたJTは、当時の妻であったカーリー・サイモンと共に1台ずつオーダー、以後、J-50に代わってWhitebookをメイン・ギターとして使い始めます。

彼自身が確かな関連性を名言しているわけではないのですが、僕が思うにJTはメインで使うアコギを変えるたびに、その音楽性が微妙に変化してきたように感じてなりません。実際に次作となる5枚目のアルバムでは更なる音楽的冒険に踏み出します。

1974年の5th「Walking Man」の制作にあたり、一心同体かと思われたザ・セクションのメンバーとの西海岸レコーディングから一旦離れ、当時ジョン・レノンのアルバムに参加するなど話題を集めていたニューヨークのギタリスト、デヴィッド・スピノザにプロデュースを依頼。彼の指揮の下、NYの精鋭スタジオ・ミュージシャンが勢揃いしたこのアルバムは、それまでのフォーク、カントリー色が後退し、より洗練された都会的要素が強調された作品となりました。

その音楽的変化を踏まえた上で次に放たれたのが、今回紹介する「Gorilla」と「In The Pocket」の2枚です。NYから再度LA録音へと戻ってきたJTが、この2作のために迎えたプロデューサーは「バーバンク・サウンド」の立役者として有名な、レニー・ワーロンカーとラス・タイトルマンでした。

ザ・セクションのメンバーがレコーディングに復帰するとともに、ジム・ケルトナー、ニック・デカロ、ワディ・ワクテルなど、LA~バーバンク・サウンドの担い手となるミュージシャン、アンディ・ニューマーク、ウィリー・ウィークスなど凄腕の名手も多数参加して、NYで得た都会的要素を、さらにLAで華開かせたのがこの2枚のアルバムです。

そのサウンドはとことんなめらか。より洒脱なコード・ワークが多用された楽曲が揃い、都会の夜に聴いても、リゾート地で聴いてもピッタリな、極上の肌触りを持ったアルバムに仕上がっています。

JT唯一の全米No.1シングルが、キャロル・キングのカヴァー「君の友達」であるということを前述しましたが、シンガーソングライターの代表格として知られる彼は、意外にもカヴァーの名手としても知られています。

デル・シャノン「Handy Man」、バディ・ホリー「Everyday」といった50’sナンバーを洒落たアレンジでカヴァーするセンスなどが最高なのですが、今回紹介する2作ではマーヴィン・ゲイの「How Sweet It Is (To Be Loved By You)」(「Gorilla」収録)、ボビー・ウォーマックの「Woman’s Gotta Have It」(「In The Pocket」収録)というソウル・ミュージックのカヴァーに挑戦しているところが注目点。

マーヴィン・ゲイの「How Sweet It Is (To Be Loved By You)」は、その多幸感あふれるアレンジも相まって、JTのステージでその後も頻繁に演奏される定番曲となり、ベスト盤にも収録されるほどの人気ですが、自分が好きなのは、それよりもボビー・ウォーマック「Woman’s Gotta Have It」のカヴァーです。

「女にはあれが必要なんだよ」と様々な事柄を挙げながら歌うセクシャルなムードを持ったウォーマックの世界を、見事なまでに、とろけるようなブルーアイド・ソウルへと仕上げたこの曲は、まさにこの時期R&Bに傾倒していたJTを象徴する名カヴァーと言えるでしょう。

オリジナル曲でも70’sのスウィート・ソウル・グループのカヴァーだと言われたら信じてしまいそうなほど、甘く妖艶で、やるせないムードに満ちたYou Make It Easy」(「Gorilla」収録)なども同じくメロウ・ソウル路線の素晴らしいナンバーです。

この当時、盟友キャロル・キングもニュー・ソウルの旗手といわれたダニー・ハザウェイに心酔し、73年にソウル色の強いアルバム「Fantasy」をリリースするなど、当時最先端の黒人音楽に影響を受けたロックミュージシャンは数多く、そこから派生して後にAORなどの音楽も生まれました。

その一方で、ダニー・ハザウェイもまたキャロル・キング「君の友達」をカヴァーしたり、アイズレー・ブラザーズはJTの初期名曲「Fire and Rain」や「Don’t Let Me Be Lonely Tonight」をカヴァー、JTのようにアコギを抱え、白人シンガーソングライターのスタイルに影響を受けたソウルを歌う、ビル・ウィザーズやラビ・シフリ、テリー・キャリアーといった黒人シンガーソングライターも少なくなく、お互いに影響し合っては素晴らしい音楽を産み出した時代だったのでしょう。

もちろんこの「Gorilla」、「In The Pocket」はそのR&B路線だけでなく、様々なJTの音楽要素がレニー・ワーロンカーとラス・タイトルマンの手によってまろやかに仕上げられています。

初期JTサウンドを、より繊細に洗練させた「Music」、「I Was A Fool To Care」(どちらも「Gorilla」収録)、「Shower The People」(「In The Pocket」収録)などは、アコギ1本で弾き語りしても、そのメロウな音楽性が伝わるであろう名曲ですし、スティーヴィー・ワンダーがハーモニカで参加した「Don’t Be Sad ‘Cause your Sun Is Down」(「In The Pocket」収録)のように初期から変わらぬ素朴さと暖かさを持った名曲にも、この2枚は事欠きません。

JTはこの後、ワーナーからコロンビアへとレーベル移籍、初期作のプロデューサーであるピーター・アッシャーと再度タッグを組み、「Gorilla」「In The Pocket」の路線を、よりAOR的なアプローチへと発展させた名作 8th「JT」、続く9th「Flag」をリリース。

さらにメインのアコギをWhitebookからYAMAHAに持ち替え、モダンなサウンドの中で普遍的な暖かみを追求したような2作「Dad Loves His Work」「That’s Why I’m Here」を制作します。

そして現在に至るまでのメインギターである、James Olsonと出会い、その端正で甘く煌びやかな音色をサウンドの中心に据えた1988年の「Never Die Young」以降~最新作「Before This World」まで、いつの時代も変わらぬ「テイラーメイド」と呼ばれ、彼にしか創れない音楽をファンに届け続けたJT。

こうして振り返ると、基本的なイメージこそ変わらないものの、その時々、時代に合わせてサウンドの肌合いを微妙に変えながら、常に一定のクオリティで創作を続けてきた結果が、47年におよぶキャリアにしていまだ色褪せない新鮮さ、唯一無二といえる存在感をもたらす秘密なのかもしれませんね。

e-onkyoのサイトをチェックしたら、以前は「Gorilla」と「In The Pocket」の2枚しかハイレゾ配信されていなかったJTの旧譜カタログに、3rd「Mud Slid Slim and The Blue Horizon」、4th「One Man Dog」、5th「Walking Man」がいつの間にか加わっていたことを発見しました。

特にはっぴいえんど時代の細野晴臣氏に大きな影響を与えたことでも知られる4th「One Man Dog」は、JT流のサイケデリック・アルバムとでも呼びたい、名盤にして奇盤の1枚。いつかこのコラムでも取り上げてみたい作品です。

ハイレゾで聴くと、アコースティック・ギターの音色がより生々しく、リアルに感じられるのも魅力。ぜひ中期コロンビア時代のハイレゾ作品も入手して、JTの47年に渡る変遷を追ってみたい気持ちになりました。



片寄明人 プロフィール

1968年5月23日 B型 東京都出身
1990年、ロッテンハッツ(片寄明人、木暮晋也、高桑圭、白根賢一、真城めぐみ、中森泰弘 )結成、 3枚のアルバムを残し、94年に解散。
1995年、GREAT3のボーカル&ギターとしてデビュー。
現在までに9枚のアルバムをリリース。高い音楽性と個性で、日本のミュージックシーンに 確固たる地位を築いている。最新作は2014年リリース「愛の関係」(ユニバーサル-EMI)。
2000年には単身渡米。Tortoise、The Sea & Cake、Wilcoのメンバーらと、 初のソロアルバム "Hey Mister Girl!"を制作。
2005年、妻のショコラとChocolat & Akito結成。
現在までに3枚のアルバムをリリース。最新作は「Duet」(Rallye Label) 。
明と暗、清濁併せ呑んだ詞世界を美しい旋律で綴り、一糸乱れぬハーモニーで歌うライブは必見。
近年は新進気鋭のプロデューサーとしても活躍。
Czecho No Republic、フジファブリック、SISTER JET、GO!GO!7188、メレンゲ、などを手がけている。
また作詞作曲、CMナレーション、DJ、各種選曲、ラジオDJなどの活動でも活躍中。

◆GREAT3 オフィシャルサイト

『愛の関係』(96kHz/24bit)
/GREAT3





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