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GREAT3片寄明人の「ハイレゾ・コラム」 第13回 James Taylor (前編)

2015/09/18
95年のデビュー以来、普遍と革新を併せ持ったサウンドで、ミュージックシーンのみならず、カルチャーシーンからも大きな支持を得てきたバンド=GREAT3。その中心人物であり、業界屈指の音楽マニア、そしてアナログ・コレクターとして知られる片寄明人をセレクターに迎え「ハイレゾでこそ楽しみたい!」という作品はもちろん「隠れた名盤」や「思い入れのある作品」など、e-onkyo musicの豊富なカタログの中より片寄明人が面白いと思う作品をセレクトする、「ミュージシャン視点」のハイレゾ・コラムです。

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【バックナンバー】
<第12回>「The Beach Boys & Brian Wilson (後編)」
<第11回>「The Beach Boys & Brian Wilson (前編)」
<第10回>「特別対談 with jan」
<第9回>「Deodato (後編)」
<第8回>「Deodato (前編)」
<第7回>「The Velvet Underground(後編)」
<第6回>「The Velvet Underground(前編)」
<第5回>「The Who『四重人格』(後編)」
<第4回>「The Who『四重人格』(前編)」
<第3回>「チェット・ベイカー『枯葉』」
<第2回>「GREAT3『愛の関係』 」
<第1回>「はじめまして、GREAT3の片寄明人です。」



連載 GREAT3片寄明人の「ハイレゾ・コラム」第13回
The Beach Boys & Brian Wilson


『Before This World』
/James Taylor



しばらく更新が途絶えてしまい申し訳ありません。振り返ると、この夏は人生で最も多くの楽曲をレコーディングした日々でした。Chocolat & Akitoの新曲、プロデュース楽曲、合わせて20曲もの作品を仕上げ、合間にGREAT3としてフェスやイベントへの出演もありました。生来の怠け者である自分にとって、こんなに精力的に頑張ったのは初めてだったかもしれません。

おかげさまでとても充実した夏となりましたが、ただひとつ悔やまれることは、ゆっくり腰を落ち着けて、仕事以外の音を楽しむ時間がほとんど取れなかったこと。でもそんな慌ただしい日々もようやく小休止、たまりにたまった聴きたい音楽とやっと向き合えるようにもなりました。

いちリスナーに戻り、耳と心とのリハビリを兼ねて、まずは何を聴こうか…と熟考の末に選んだのが、今回紹介するジェームス・テイラー(James Taylor)久しぶりのニュー・アルバム「Before This World」。クリスマス・アルバムやライブ盤などのリリースこそあったものの、純粋なオリジナル・アルバムとしては2002年の「October Road」以来、13年振りとなる新作です。

なにを隠そう、ジェームス・テイラーは自分にとってとても重要なミュージシャン。僕はロッテンハッツというバンドの一員として、90年代初頭にCDデビューしたのですが、そのバンドを組むきっかけとなり、初期のステージでも必ずカバーしていたのが彼の「Carolina in My Mind」という曲だったのです。

ロッテンハッツは当初、僕と木暮晋也(Hicksville)のアコースティック・デュオとしてスタートしました。このバンドで僕は初めてオリジナル曲を書くようになるのですが、それまでにリスナーとして、60's~80'sのロック、ポップス、ソウル、ジャズ、ブラジル音楽など多岐に渡る音楽を愛好していた僕は、自分の折衷度の高い音楽性をアコースティック・デュオというシンプルな形態でいかに表現するかで悩んでいました。

いまでこそ洒脱なアコースティック・スタイルで歌うミュージシャンも珍しくないですが、その当時、特に自分がいたバンド・ブーム全盛のライブ・ハウス・シーンでは、アコギ=ボブ・ディラン~フォーク・スタイルの無骨、シンプルな音楽というのが定番。まだまだ音楽的知識にも乏しかった僕は、そういったスタイルでは自分のやりたい音楽が表現できずに、試行錯誤していたのです。そんな時に大きなヒントとなったのが、僕も木暮くんも当時夢中になっていたジェームス・テイラーの音楽でした。

シンガー・ソングライターと呼ばれ、アコースティック・ギターを抱えて歌うミュージシャンは数多くいましたが、ジェームス・テイラーの音楽だけは本当に独特、そしてとことん洒落た音楽に聴こえたのです。つねにアコギをサウンドの中核に置き、頑ななまでにピックを使わないフィンガー・ピッキングにこだわり、分数コードやディミニッシュ、maj7、minor9 など、普通のフォーク・シンガーはあまり使うことがないであろうコードを多用した彼の楽曲の中に、僕はカントリー、ソウル、ジャズ、ブラジル…etc、様々な音楽要素を感じ取ることができました。

これだ!と思った僕は渋谷のYAMAHA地下にあった輸入楽譜コーナーでジェームス・テイラーのソングブックを見つけ、そのコードを勉強することで自分の音楽性を固めていきました。以降、シンプルなアコギ1本の弾き語りでも、フォークに寄りすぎることなく、ソウルなどの持つメロウな要素も醸し出すことができるようになったのはその成果です。ロッテンハッツ時代はもちろん、いまに至るまで僕が多用するコード感の多くはジェームス・テイラーに教えてもらったものといっても過言ではありません。

そんな師匠とも言えるジェームス・テイラーの新作「Before This World」。本国アメリカでは洋服にひっかけて「テイラー・メイド」と呼ばれ、その安定した、いつの時代も変わることのない音楽性が長年愛されていますが、もちろん今作でもその「テイラー・メイド」な世界は健在です。

「癒やし」を音楽に求める人は多いですが、ジェームス・テイラーの声は、まさに自分にとっての「ヒーリング・ボイス」。実はその裏で複雑な精神性を抱えていることが彼の魅力であったりもするのですが、音の上ではあくまでも穏やか。フラットで平熱感ある歌声が、ハード・ワークで疲弊した心の奧にそっと届き、ゆっくりとほぐされる快楽に久しぶりに浸ることができました。

フッとしたとき唐突に訪れる、何とも言えない安心感に、思わず涙してしまう。そんなことが人にはあるものですが、2曲目の「You And I Again」を初めて聴いた自分の気持ちがそれでした。「あぁ、これこれ。僕が大好きだったジェームス・テイラーだ」と、冒頭のコード展開に嬉しくなったのもつかの間、そこから先はあっという間に、雲の上に乗っているような、羊水に漂っているような、穏やかな心地良さに包まれ、言いようのない懐かしさ、その暖かさに涙がこぼれました。

この曲でチェロを弾いているのはヨーヨーマ。寡聞にして彼の音楽をきちんと聴いたことがなかった自分ですが、曲を引き立てる静謐で美しいプレイに耳が惹かれました。他にはスティングもゲスト・ボーカルとして参加、またアルバム全体を支えるミュージシャンも、スティーヴ・ガッド、マイケル・ランドウ、ジミー・ジョンソンなど、名手が揃い踏みです。

プロデュースとミックスは、ジョン・メイヤーやボズ・スキャッグスの近作なども手がけたエンジニア、デイヴ・オドネル(Dave O'Donell)によるもの。そのクリアで芳醇な音像は、名手たちによる絶妙な演奏の絡み、美しい楽器の音色が存分に堪能できる、まさにハイレゾで聴くにふさわしい音です。

しとしとと秋の長雨が続くなか、「Before This World」をTEAC HA-P90SDに放りこみ、傘をさして近所の池を久々にゆっくりと散歩した至福の時間は忘れられません。張り詰めた日々から、ようやく身体中のネジをゆるめ、大きな深呼吸とともに、この上質な肌触りを持つ音楽を心の底から楽しむことができました。

このコラムは思い入れある音源を取り上げることも多く、ついついディープになりがち…更新にも時間がかかってしまうので、今後はもっと気軽に、さらっとおすすめの音源を紹介していけたらいいな、なんて考えていましたが、今回もそれなりの長さになってしまいましたね。愛する音楽はそう簡単に語り尽くせないから難しい!

次回はe-onkyoで現在配信中の、僕が大好きなジェームス・テイラー70年代の名盤2枚を取り上げながら、彼の魅力をさらに掘り下げてみたいと思います。どうぞお楽しみに。



片寄明人 プロフィール

1968年5月23日 B型 東京都出身
1990年、ロッテンハッツ(片寄明人、木暮晋也、高桑圭、白根賢一、真城めぐみ、中森泰弘 )結成、 3枚のアルバムを残し、94年に解散。
1995年、GREAT3のボーカル&ギターとしてデビュー。
現在までに9枚のアルバムをリリース。高い音楽性と個性で、日本のミュージックシーンに 確固たる地位を築いている。最新作は2014年リリース「愛の関係」(ユニバーサル-EMI)。
2000年には単身渡米。Tortoise、The Sea & Cake、Wilcoのメンバーらと、 初のソロアルバム "Hey Mister Girl!"を制作。
2005年、妻のショコラとChocolat & Akito結成。
現在までに3枚のアルバムをリリース。最新作は「Duet」(Rallye Label) 。
明と暗、清濁併せ呑んだ詞世界を美しい旋律で綴り、一糸乱れぬハーモニーで歌うライブは必見。
近年は新進気鋭のプロデューサーとしても活躍。
Czecho No Republic、フジファブリック、SISTER JET、GO!GO!7188、メレンゲ、などを手がけている。
また作詞作曲、CMナレーション、DJ、各種選曲、ラジオDJなどの活動でも活躍中。

◆GREAT3 オフィシャルサイト

『愛の関係』(96kHz/24bit)
/GREAT3





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「ハイレゾ・コラム」 ではTEAC製USBデュアルモノーラル・D/Aコンバーター「UD-501」を使用してハイレゾ音源の視聴を行っています。