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最新作『モノクローム』でジャズ・スタンダードを披露した、注目のSSW、エミ・マイヤーが語る“ジャズ”への想い

2015/09/02
京都生まれのシアトル育ちという異色のプロフィールを待ち、ジャズを中心としながらも様々な音楽への奔放なアプローチを展開。その歌声はトヨタ自動車「プリウス」など多くのCMにも起用されて注目されるシンガー・ソングライターのエミ・マイヤーさん。そんな彼女のパリで録音された最新アルバム『モノクローム』のハイレゾ配信がスタートします。ジャズ・スタンダード集の趣となった本作のレコーディングの様子や自身の“ジャズ”との距離感、そしてスタンダードを歌うことに対する想い、さらにはハイレゾ試聴の印象を自由に語っていただきました。
インタビュー・文◎原 典子

『モノクローム』
/エミ・マイヤー


 聴く者をふわっと包み込む天性のスモーキー・ヴォイス。CMなどでその歌声を聴いて印象に残っている方も多いことだろう。日米を拠点に活動するシンガー・ソングライター、エミ・マイヤーはこれまでに4枚のオリジナル・アルバムを発表する一方、永井聖一、大橋トリオ、冨田ラボをはじめ、気鋭のアーティストとのコラボレーションを通して幅広い層に支持されてきた。
 そんな彼女のニュー・アルバムは、『モノクローム』と題されたジャズ・スタンダード集。ジャズ界の最前線を走るピアニスト、エリック・レニーニ率いるバンドとともにパリで録音された。彼女にとって初の挑戦となるスタンダード集は、自身の音楽的ルーツに向き合った「里帰りアルバム」であると同時に、ジャズ・シンガーへの第一歩を踏み出すアルバムであるという。今回はオンキヨーのリスニング・ルームでハイレゾ音源を聴きながら話を伺った。

■ ジャズ・ピアニストからシンガー・ソングライターへ

——エミさんの音楽は、ポップな曲の中にもどこかにジャズのテイストが入っているので、今回がスタンダードへの初挑戦だったというのは意外でした。もともとジャズ・ピアノを演奏されていたそうですね。

 子どもの頃からクラシック・ピアノは習っていたのですが、はじめてジャズに触れたのは中学生のとき。学校のジャズ・バンドに「エミはピアノが弾けるから」と頼まれて入ったのがきっかけです。とても小さな学校だったので、リラックスした環境で自由にジャズの世界を探ることができました。それからジャズ・ピアノのレッスンにも通うように。クラシック・ピアノと違っていろんな人と一緒に演奏できるのが楽しかったですね。大学時代は友だちとバンドを組んで、学校のイベントや街中のカフェで演奏していました。ちょっとでもアルバイト料がもらえるのが嬉しかったな(笑)。

——ジャズ・バンドではずっとピアニストだったのですね。歌おうと思ったことは?

 まったくありませんでした。ある日、ギタリストの友だちとジャム・セッションをしているとき、「歌ってみない?」と言われて歌ったのが最初。大学に入る少し前のことだったかな。それから少しずつ歌うようになったのですが、はじめの頃はどれもバランスよくやろうとしていましたね。1時間はクラシック・ピアノ、1時間はジャズ・ピアノ、1時間はヴォーカルと決めて練習したり。でも、そのうち歌っているときは時間の感覚がなくなるほど楽しくなってきて……自分で作ったメロディに、自分の言葉を乗せて表現することが、私にいちばん合っていると感じるようになりました。

——そうしてシンガー・ソングライターへの道を歩みはじめたのですね。

 でもデビュー当時は“ジャズ・シンガー”とカテゴライズされることが多くて、それに反抗する気持ちがありました。たしかに私はジャズ・ピアノを通して作曲を学んできたので、作る曲の中にはジャズのテイストが入っていますが、私自身はジャズについてそれほど詳しいわけではないし“ジャズ・シンガー”と呼ばれることに違和感があって……。それから数年は、あえてジャズから遠ざかってポップなサウンドを求めて音楽作りをしていました。

■ ジャズに回帰した最新作『モノクローム』

——ずっと避けてきたジャズ・スタンダードに今、あらためて取り組んでみようと思ったきっかけは?

 去年、永井聖一さんとのコラボレーションで日本語のアルバムを出して、今年、何をやろうかなと考えたとき、他の人が作った曲を歌ってみようと思い付いたんです。私はこれまでカヴァー曲をあまり歌ってこなかったので、他の人の言葉、他の人のメロディに、どこまで自分を入れられるか、チャレンジしてみたいと思いました。

——今回のアルバムを聴かせていただいて、歌い方がこれまでのエミさんとはちょっと違うなと感じました。とくに歌詞の発声や発音がよりハッキリしていましたが、ご自身では意識していましたか?

「それは意識しましたね。自分の曲と違ってスタンダードはすでにメロディが決められている。だからこそ、歌詞に気持ちを込めたい、ちゃんと伝えたいと思いました。ほんとうに言葉一つひとつを大事に歌いました。

——ジャズ・スタンダードという枠の中で、エミさんらしく自由に歌っている曲がとても印象的でした。たとえば「ムーン・リバー」や「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」などは、今という時代に生きるシンガー・ソングライターが、普通の女の子の日常や気持ちを歌っているように聞こえます。

「ムーン・リバー」はエリック・クラプトンが歌っているヴァージョンが好きなんですよ。けっこう素朴に歌っていて、決して自分の個性を強く押し出しているわけではないのに、すぐに“クラプトンだ!”って分かる。そういうオリジナリティに憧れますね。

——その一方で、「スマイル」や「ムーンライト・セレナーデ」といった曲では、自分らしい節回しを抑えて、あくまでメロディに忠実に言葉を乗せていく姿勢が感じられました。

 このアルバムでは無理に自己流に崩して歌ったりはしたくなかったんです。たとえば、今は“この歌い方がいい”と思っても、半年後には全然違う歌い方がいいと思うかもしれないでしょ?即興は、これからライヴでたくさん歌っていく中で、いろいろ試していきたいですね。

〈日本人を母に、アメリカ人を父に持つエミ・マイヤーさん。とても流暢に、きれいな日本語で、ご自身の音楽や新作などについて話してくれました〉

■ 唯一のオリジナル曲の存在

——そうしたアルバムの中に、1曲だけ入っているエミさんのオリジナル曲「イフ・アイ・シンク・オブ・ユー」、これは素晴らしい曲ですね! 指の間からこぼれ落ちてゆくようなメロディが切なくて……本当に超名曲だと思いました。

 ありがとう、とても嬉しいです。じつはこの曲を作ったのは何年も前なのですが、なかなか録音する機会がなくて眠っていたんです。それを今回のアルバムを作るときに思い出して、エリックさんに弾いてもらったらとても綺麗だったので、入れることにしました。エリックさんのアレンジや、彼のバンド・メンバーとの録音がなければ、ここまでうまくは仕上がらなかったと思います。

——まさにこのアルバムのために待っていたかのようですね。ところで、そのエリック・レニーニさんとはどういった経緯で録音することになったのですか? エリックさんは本作で共同プロデュースも務めていますね。

 以前、エリックさんからの依頼で彼のアルバムに1曲参加して、バンド・メンバーと一緒にツアーも回りました。そのとき“いつか彼らと一緒にアルバムを作ることができたら夢みたいだな”と思っていたんです。そして今回、ジャズ・スタンダード集を作ることになり、いちばんにエリックさんの顔が浮かびました。確固たる個性を持っていて、尊敬できるミュージシャンと一緒に録音したいと思ったんです。

■ いちばんリラックスできる場所としてのジャズ

——パリでのレコーディング・セッションはいかがでした?

 エリックさんもバンドのメンバーも、スタンダードに対して“こうじゃなきゃいけない!”という保守的な姿勢ではなかったので、とてもリラックスできました。彼らはリリカルなヨーロピアン・ジャズからヒップホップ、アフロビートまで、すごく幅広い音楽性を持っているので、感覚がとても柔軟なんです。

——リリース資料の中で、エミさんは「このアルバムは私がアーティストとしてどこまで来たかを示す絶好の物差しです」と書いていらっしゃいましたが、測定の結果は出たのでしょうか?

 うん、いろんなことが分かりましたね。まずアメリカで育って、小さな頃からジャズに囲まれてきた私にとって、結局はジャズがいちばん身近でリラックスできる場所だということに気付きました。ずっと避けてきたのにね(笑)。たとえばJ-POPをまったく聴いてこなかった私にとって、ステージに立ってJ-POPを歌うことは、ものすごくエネルギーが必要なことです。けれどジャズは、すでに自分の中にツールがあるような感じがするんですよね。とはいえ“自分が何者であるか”を掴めていなかった5〜6年前にジャズ・スタンダード集を作ってと言われたら、きっとコントロールできなかったと思うんです。
 スタンダードというスタイルを尊重しつつ、どこまで自分のキャラクターを出して、いかに自分の作りたいものを作るか。そのバランスを見極められるようになった今だからこそ、作ることができたアルバムだと思います。ちょっとは成長したのかな。

〈ハイレゾ試聴中。「CDもちゃんとした装置で聴くといい音なので、ハイレゾではどう聞こえるのか楽しみでしたが、全然違いました。『モノクローム』で表現した濃淡の、細やかなグレーの部分がしっかりと聞こえます。すごいですね」〉

——さて、最後になりましたが、今日はこのアルバムのハイレゾ音源を聴きながらインタヴューをさせていただきました。ハイレゾをお聴きになって、いかがでしたか?

 いやあ、全然違いますね! こんなに違うとは思いませんでした。一つひとつの音が輝いていて、次元が違う。まさに2Dから3Dになった感じです。シンガーのまわりにミュージシャンが立っていて、演奏しながら左右にちょっと頭を振っているのが見えるよう。

——このアルバムは、スタジオで全員が一緒に演奏したのを録ったんですよね。ハイレゾで聴くと、楽器の音同士がやわらかく溶け合っていて、セッションの感じがよく分かります。

 そうですね。私は『モノクローム』というアルバム・タイトルに、ふわっとあたたかく包み込むような、やわらかいイメージを与えたかったのですが、その通りの音だと思いました。白と黒の間にはグレーがある。そのグレーが聞こえるような音ですね。

——本日は楽しいお話をありがとうございました。

〈12月には、東・名・大でのツアーが決定!〉

「モノクローム」ジャズ・スタンダードのひと時
◎12/15(火)梅田クラブクアトロ
◎12/16(水)名古屋クラブクアトロ
◎12/17(木)渋谷クラブクアトロ
各会場とも開場18:30/開演19:30 *詳細はこちらをご覧ください。