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連載『厳選 太鼓判ハイレゾ音源はこれだ!』第24回

2015/07/10
現在配信中のハイレゾ音源から、選りすぐりをご紹介する当連載。第24回はベーシスト櫻井哲夫さんの最新作「Nothin' but the Bass」!!
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【バックナンバー】
<第1回>『メモリーズ・オブ・ビル・エヴァンス』 ~アナログマスターの音が、いよいよ我が家にやってきた!~
<第2回>『アイシテルの言葉/中嶋ユキノwith向谷倶楽部』 ~レコーディングの時間的制約がもたらした鮮度の高いサウンド~
<第3回>『ベートーヴェン:交響曲第9番「合唱付き」(1986)』 NHK交響楽団, 朝比奈隆 ~ハイレゾのタイムマシーンに乗って、アナログマスターが記憶する音楽の旅へ~
<第4回>『<COLEZO!>麻丘 めぐみ』 麻丘 めぐみ ~2013年度 太鼓判ハイレゾ音源の大賞はこれだ!~
<第5回>『ハンガリアン・ラプソディー』 ガボール・ザボ ~CTIレーベルのハイレゾ音源は、宝の山~
<第6回> 『Crossover The World』神保 彰 ~44.1kHz/24bitもハイレゾだ!~
<第7回>『そして太陽の光を』 笹川美和 ~アナログ一発録音&海外マスタリングによる心地よい質感~  スペシャル・インタビュー前編
<第8回>『そして太陽の光を』 笹川美和 ~アナログ一発録音&海外マスタリングによる心地よい質感~  スペシャル・インタビュー後編
<第9回>『MOVE』 上原ひろみ ザ・トリオ・プロジェクト ~圧倒的ダイナミクスで記録された音楽エネルギー~
<第10回>『機動戦士ガンダムUC オリジナルサウンドトラック』 3作品 ~巨大モビルスーツを感じさせる、重厚ハイレゾサウンド~
<第12回>【前編】『LISTEN』 DSD trio, 井上鑑, 山木秀夫, 三沢またろう ~DSD音源の最高音質作品がついに誕生~
<第13回>【後編】『LISTEN』 DSD trio, 井上鑑, 山木秀夫, 三沢またろう ~DSD音源の最高音質作品がついに誕生~
<第14回>『ALFA MUSICレーベル』 ~ジャズのハイレゾなら、まずコレから。レーベルまるごと太鼓判!~
<第15回>『リー・リトナー・イン・リオ』 ~血沸き肉躍る、大御所たちの若き日のプレイ~
<第16回>『This Is Chris』ほか、一挙6タイトル ~音展イベントで鳴らした新選・太鼓判ハイレゾ音源~
<第17回>『yours ; Gift』 溝口肇 ~チェロが目の前に出現するような、リスナーとの絶妙な距離感~
<第18回>『天使のハープ』 西山まりえ ~音のひとつひとつが美しく磨き抜かれた匠の技に脱帽~
<第19回>『Groove Of Life』 神保彰 ~ロサンゼルス制作ハイレゾが再現する、神業ドラムのグルーヴ~
<第20回>『Carmen-Fantasie』 アンネ=ゾフィー・ムター ~女王ムターの妖艶なバイオリンの歌声に酔う~
<第21回>『アフロディジア』 マーカス・ミラー ~グルーヴと低音のチェックに最適な新リファレンス~
<第22回>『19 -Road to AMAZING WORLD-』 EXILE ~1dBを奥行再現に割いたマスタリングの成果~
<第23回>『マブイウタ』 宮良牧子 ~音楽の神様が微笑んだ、ミックスマスターそのものを聴く~
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『Nothin' but the Bass』櫻井哲夫
~低音好き必聴!最小楽器編成が生む究極のリアル・ハイレゾ~


■ デジタル録音における最小楽器編成の音質の優位性

現代の音楽制作は、その大多数がコンピュータを使用したデジタル録音で行われています。アナログテープを使用した録音や、DSD録音時の専用機レコーディングを除けば、ほとんどの音楽制作がデジタル・オーディオ・ワークステーション(=DAW)のみで完結しているのではないでしょうか。

よく耳にするのは、「DAWのデジタル録音になってから、ミックスしても音楽が上手く混ざらない」というアーティストやミックス・エンジニアの声です。私は音楽制作に携わる際、直接は録音やミックス作業を行うわけではありませんので、なかなかその感覚の真意までは分かりません。ですが仕上がった音を聴いて想像するならば、なるほどアナログレコーディング時代は、より渾然一体となって音楽が押し寄せてくるイメージがあります。

エンジニアはデジタル録音時代のその“音が混ざらない”という現象に対し、アナログミキサー卓に各トラックを立ち上げミックスダウンしたり、DAWから各トラックをアナログ出力してバッファーアンプを挿入したりと、様々な工夫をしてきたようです。ですが、最近ではDAWの性能が上がってきたのか、更に音楽制作の予算が削られたのか、DAW内でミックスまで完結させる現場が多いように感じます。

そんなデジタル録音ですが、マルチレコーディングの各パートを単一トラックのみ再生してみると、もの凄くリアルなサウンドで驚いた経験があります。ミックスしてみるとその恩恵は減少傾向となり、デジタル録音特有の“音の解像度は高いけれど、薄味になりがち”という結果に落ち着きます。アナログ録音の、あの各楽器が溶けて混ざるようなミックス感覚は、確かにデジタル録音では得難いサウンドなのかもしれません。エンジニアの皆さんが嘆くのも、なんとなく分かる気がします。

「音が混ざらないなら、逆に単一楽器のみならば、デジタル録音の優位性を出せるのではないか」というコンセプトで、私の著書ではバイオリンやピアノ、チェロ、ドラム、ベースといった単一楽器のソロ演奏を収録しました。これは大成功で、まるで目の前で演奏しているような臨場感を、CD規格44.1kHz/16bitからでも得ることができています。

単一楽器でのデジタル録音は、確かに音質面では優位性があるように感じています。ですがその反面、演奏のアラが目立つという欠点は避けられません。逃げも隠れもできない広大でクリアなデジタル録音空間ですので、より高度な演奏技術が要求されるのです。デジタル録音の補正技術を駆使すれば、演奏の技術不足やミステイクは、お化粧して隠すことができるでしょう。ですが、それでは本末転倒。なんのために小編成で高音質を狙ったのか分からなくなってしまいます。デジタル録音時代に最小楽器編成で勝負するには、デジタル補正技術に頼ることのない、真摯かつ高い志を持って挑む必要があるのではないでしょうか。

本日ご紹介する太鼓判ハイレゾ音源は、そんな条件が全てプラス方向へと働いた名盤です。

■ まるで目の前で演奏しているような理想の低音に興奮!

特筆すべきは、本作の楽器編成。全曲がベースのみ、またはベース+ボーカル、ベース+アコースティックギターのみで構成されています。打ち込み音源が入る曲もありますが、それらはメトロノーム的なビートボックスという意味合いであり、あくまで主役は櫻井氏のベースとゲストミュージシャン。最大で二人までの演奏というのが本作の特長です。その小編成が好結果を生み、まるで目の前で演奏しているような、歌ってくれているような、息づかいまで感じられる生々しい臨場感を生むハイレゾ音源となっています。

『Nothin' but the Bass』 (96kHz/24bit)
/櫻井哲夫


私はフェンダージャズベースという楽器のマニアで、一時期はコレクターのように収集していたときもあります。理想のベースサウンドはジャズベースの音であることに揺らぎはないのですが、「櫻井哲夫のベースとは?」と聞かれると少々違うのです。もっと鋭く歯切れの良い音と言えばよいのでしょうか。ミュージックマン・スティングレイとも違うし・・・。まぁ、私の心には、確固たる理想の櫻井サウンドのイメージがあるのです。

本作の冒頭で飛び出すスラップベースで、「ああ!これぞ櫻井サウンドだ!」と感じたファンの方も多かったのではないでしょうか。私もその一人。アルバムでは曲によって4弦ベースから6弦ベースまで、5本のベースが使用されています。ですが、どの楽器を手にしても、揺るがない櫻井サウンド。中でも1曲目で炸裂する、櫻井氏が新しく手にした5弦ベース“ワーウィック インフィニティ5”が特に素晴らしい。このインフィニティ5はワーウィックが櫻井氏のために製作したカスタムモデルで、私のイメージにある理想の櫻井サウンドとベストマッチングでした。

あの亀田誠治氏のプロデュースというのも大成功の大きな要因でしょう。櫻井氏のコメント(http://www.kingrecords.co.jp/cs/g/gKICJ-694/)にある、亀田氏との選曲会議のやりとりが、何とも面白いです。櫻井ファンとしては、確かに亀田氏案のほうが圧倒的に「聴いてみたい!」と感じるから不思議。亀田マジックの正体は、櫻井氏の弾くベースへの愛であることは間違いありません。

亀田氏プロデュースは、楽曲アレンジにも大きく影響したようです。『ベース・マガジン2015年6月号』(http://www.rittor-music.co.jp/magazine/bm/15118006.html)のインタビュー記事によれば、2曲目「JUST THE TWO OF US」は、デモ段階では6/8拍子の複雑アレンジだったのこと。亀田氏の提案で、原曲に近い16ビートのアレンジで完成させたそうです。実際に聴いてみると、馴染みある「JUST THE TWO OF US」のイントロが、なんともゾクゾクするではありませんか。亀田マジックに脱帽です。

生々しいベース、ボーカル、アコースティックギターが楽しめるだけではなく、カバーアルバムのためお馴染みの曲が多いというのも魅力。原曲キーのまま演奏されているので、非常に心地よい仕上がりです。ベースという楽器自体は、メロディーを演奏するのには不向きなので、原曲キーから変更したほうが演奏しやすい曲もあったことでしょう。それでも原曲のイメージ通りのアレンジとすることで、ベースの演奏がより際立っているように感じます。

■ 『Nothin' but the Bass』 ハイレゾ vs CD盤

『Nothin' but the Bass』のハイレゾ版とCD盤を、実際に比較試聴してみました。

ハイレゾのほうが、低域の沈み込みが圧巻です。ベースという楽器が放つサウンドの“底”が、ハイレゾ版のみで認識できます。CD盤の低音は、良い意味で上手くまとまっている感触があり、楽器が定位する位置もハイレゾ版と微妙に異なるのが興味深いところ。CD盤は音楽全体がスピーカーの高さ付近に定位しているのに対し、ハイレゾ版は低域成分をより感じるので音楽の枠が広がった印象があります。楽器の音の芯がある定位は変わらないものの、余韻などを含めるとよりスピーカー位置よりも低いところまで音の存在があるのです。

低音はスピーカーなど再生システムの再現性により差があるでしょうが、2曲目の沖氏のフラメンコ・ギターの音色が全く異なる印象なのは、CDとハイレゾの違いとして分かりやすいポイントです。アコースティックギターの生々しさは、誰が聴いてもハイレゾ版に軍配を上げると思います。

音量感については、CDもハイレゾも同じように感じました。マスタリングでの音作りも共通でしょう。マスタリング・エンジニアは辻裕行氏。辻氏のマスタリングは、低域の処理が素晴らしく、音楽の抑揚が伝わる仕上がりが特徴だと私は感じています。

全体の印象として、やはりハイレゾとCD盤の違いは、よく言われる“音楽という景色を見渡す窓の大きさ”にあると言えます。

現状では、モノとしての所有満足感はCD盤が優れていますが、音質のみで比較するとハイレゾ版が圧倒的に優位ですので、櫻井氏のファンにはハイレゾでも本作を聴いてほしいところです。

■ 低音ハイレゾの決定版

櫻井氏とは、前作『IT’S A JACO TIME!』のときに対談させていただきました。そのとき、「パワフルとは?」というテーマでインタビューしたのですが、最近のベーシストで最もパワフルな一人として櫻井氏が挙げていたのがKenKenさん。『Nothin' but the Bass』のオープニングを飾るマイケル・ジャクソンのカバー作「OFF THE WALL」では、櫻井 vs KenKenのパワフル・ベースバトルが繰り広げられているのですから、その興奮たるや!

ハイレゾ版『Nothin' but the Bass』あまりに素晴らしいので、既に私はオーディオ・チェック音源として活用し始めました。やはりよく聴くのは、1曲目と2曲目。先日はお客様宅へクリニックに行き、完成試聴で本作を爆音で鳴らしました。なんという生々しいサウンド、なんという名演!お客様も「誰のアルバムですか?」と驚いた様子。オーディオの低音チェック音源に、またひとつ新しいリファレンスが誕生しました。ぜひ挑戦してみてください。

櫻井氏の他のハイレゾ作品『TALKING BASS』、『IT’S A JACO TIME!』は、ともに太鼓判ハイレゾ音源ですので、そちらも合わせてお薦めします。

『TALKING BASS』
/櫻井哲夫

『IT'S A JACO TIME!』
/櫻井哲夫JACOトリビュート・バンド



ハイレゾ版『TALKING BASS』、『IT’S A JACO TIME!』の情報は、昨年のインタビュー記事満載ですので、ぜひ合わせてお読みください。

●ベース大好き!第3回:櫻井哲夫インタビュー(前編)〜解像度が増すと、低域の説得力がものすごく出る
http://rittor-music.jp/bass/column/ilovebass/545

●ベース大好き!第4回:櫻井哲夫インタビュー(後編)〜ベースの音質は、オーディオ的な周波数を計算するだけではダメです
http://rittor-music.jp/bass/column/ilovebass/622

●ベース大好き!第5回:『IT’S A JACO TIME!』徹底研究〜CD、ハイレゾともほぼ同じ音圧感になるようにマスタリング
http://rittor-music.jp/bass/column/ilovebass/642

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筆者プロフィール:

西野 正和(にしの まさかず)
3冊のオーディオ関連書籍『ミュージシャンも納得!リスニングオーディオ攻略本』、『音の名匠が愛するとっておきの名盤たち』、『すぐできる!新・最高音質セッティング術』(リットーミュージック刊)の著者。オーディオ・メーカー代表。音楽制作にも深く関わり、制作側と再生側の両面より最高の音楽再現を追及する。自身のハイレゾ音源作品に『低音 played by D&B feat.EV』がある。音楽専門衛星デジタルラジオ“ミュージックバード”にて『西野正和のいい音って何だろう?』が放送中。