PC SP

ゲストさん

NEWS

連載『厳選 太鼓判ハイレゾ音源はこれだ!』第21回

2015/04/10
現在配信中のハイレゾ音源から、選りすぐりをご紹介する当連載。第21回はマーカス・ミラーの最新作『アフロディジア』!
------------------------------------------------------------------------------------------
【バックナンバー】
<第1回>『メモリーズ・オブ・ビル・エヴァンス』 ~アナログマスターの音が、いよいよ我が家にやってきた!~
<第2回>『アイシテルの言葉/中嶋ユキノwith向谷倶楽部』 ~レコーディングの時間的制約がもたらした鮮度の高いサウンド~
<第3回>『ベートーヴェン:交響曲第9番「合唱付き」(1986)』 NHK交響楽団, 朝比奈隆 ~ハイレゾのタイムマシーンに乗って、アナログマスターが記憶する音楽の旅へ~
<第4回>『<COLEZO!>麻丘 めぐみ』 麻丘 めぐみ ~2013年度 太鼓判ハイレゾ音源の大賞はこれだ!~
<第5回>『ハンガリアン・ラプソディー』 ガボール・ザボ ~CTIレーベルのハイレゾ音源は、宝の山~
<第6回> 『Crossover The World』神保 彰 ~44.1kHz/24bitもハイレゾだ!~
<第7回>『そして太陽の光を』 笹川美和 ~アナログ一発録音&海外マスタリングによる心地よい質感~  スペシャル・インタビュー前編
<第8回>『そして太陽の光を』 笹川美和 ~アナログ一発録音&海外マスタリングによる心地よい質感~  スペシャル・インタビュー後編
<第9回>『MOVE』 上原ひろみ ザ・トリオ・プロジェクト ~圧倒的ダイナミクスで記録された音楽エネルギー~
<第10回>『機動戦士ガンダムUC オリジナルサウンドトラック』 3作品 ~巨大モビルスーツを感じさせる、重厚ハイレゾサウンド~
<第12回>【前編】『LISTEN』 DSD trio, 井上鑑, 山木秀夫, 三沢またろう ~DSD音源の最高音質作品がついに誕生~
<第13回>【後編】『LISTEN』 DSD trio, 井上鑑, 山木秀夫, 三沢またろう ~DSD音源の最高音質作品がついに誕生~
<第14回>『ALFA MUSICレーベル』 ~ジャズのハイレゾなら、まずコレから。レーベルまるごと太鼓判!~
<第15回>『リー・リトナー・イン・リオ』 ~血沸き肉躍る、大御所たちの若き日のプレイ~
<第16回>『This Is Chris』ほか、一挙6タイトル ~音展イベントで鳴らした新選・太鼓判ハイレゾ音源~
<第17回>『yours ; Gift』 溝口肇 ~チェロが目の前に出現するような、リスナーとの絶妙な距離感~
<第18回>『天使のハープ』 西山まりえ ~音のひとつひとつが美しく磨き抜かれた匠の技に脱帽~
<第19回>『Groove Of Life』 神保彰 ~ロサンゼルス制作ハイレゾが再現する、神業ドラムのグルーヴ~
<第20回>『Carmen-Fantasie』 アンネ=ゾフィー・ムター ~女王ムターの妖艶なバイオリンの歌声に酔う~
------------------------------------------------------------------------------------------

『アフロディジア』 マーカス・ミラー
~グルーヴと低音のチェックに最適な新リファレンス~


■ CD、レコード、ハイレゾ。一番音が良いのは?

CD盤、アナログレコード盤といった円盤を再生していた時代が懐かしく感じられるほど、私の音楽再生はデータ再生ばかりになってしまいました。CD盤の新譜を購入したとしても、円盤のまま聴くのは最初の数回程度。気に入ってヘビーローテーション突入の音源はCD盤からデータを取り出し、更に高音質で聴けるUSBメモリ型プレーヤーで再生しています。その他のプレーヤーとしてはパソコンを使ってのデータ再生なのですから、ここ数年で円盤再生の機会がこんなに減ってしまうとは、自分自身でも驚きの変化です。

円盤時代の良かった点は、円盤の段階で明確なスタートラインが存在したこと。CD盤やアナログレコード盤は、プレス次期や生産国の違いはあれども、販売されているものはプロもアマもなく、入手できるものは皆が共通音質の音源を使用していたことになります。実は音質のスタートラインが揃っているというのは素晴らしいことです。オーディオという伝言ゲームがそこから出発するのですから、再生する音質を左右するのは、円盤より後に原因があるということ。プレーヤーやアンプ、スピーカーといった機器の性能だったり、スピーカーセッティングやルームチューニングなどの技術だったり、ケーブルやアクセサリーなどの使いこなしであったりと、再生音質の差異を明確にするためには円盤という基準があったのは良い時代であったと思います。

ハイレゾ音源時代になり、円盤という基準は無くなりました。基準という意味では更にさかのぼり、デジタルデータということになるのでしょう。ハイレゾ音源のデジタルデータが共通だったら同じ音質かどうかは、かなり難しい問題です。異論があるかももしれませんが、私自身は音楽制作現場で何度も共通デジタルデータなのに音質が変化してしまうという問題に悩まされました。デジタルデータは再生するまでの条件が複雑すぎて、果たして全員が同じ音質で聴いているのかは謎です。パソコンがデスクトップとノートではどうか、バッテリーなのかAC電源なのか、WindowsなのかMacなのか、HDDなのかSSDなのかなどなど・・・。円盤時代のようにスタート地点が皆同じというわけにはいきません。ですので、デジタルデータのスタートラインを私は信じていないというか、現状ではあまり気にしないようにしています。

このところ、ご質問として多くいただくのは、「レコードとCDとハイレゾ、一番音の良いのはどれ?」というもの。オーディオ関係者の中でも、よく話題に上ります。個人的に応援したいのは、やはりCD盤です。所有する音楽資産としての量は圧倒的に多く、私の仕事である日々の製品開発の軸にあるのは「CD盤をより良い音で聴きたい!」という願望であるのは間違いありません。音楽というのは限界知らずで、その夢は成果として年々の音質向上として叶ってきました。それでも、ハイレゾ音源を聴いてしまうと、圧倒的なデータ量の多さという魅力は認めざるを得ません。仮に“現在で最高のCD盤再生”と、“現在で最高のハイレゾ音源再生”という夢の対決が実現したとするならば、ハイレゾ音源の完全勝利という結果になるでしょう。

勝敗の行方が難しいのは、レコード盤とハイレゾ音源の対決。これには持論があり、1980年代ごろまでに生産されたレコード盤ならば、ハイレゾ音源とはいえ勝利が難しくなってくるでしょう。レコード盤全盛期のころは、超がつくほどの技術を持つ職人さんが現役で活躍されていたころ。盤のカッティング技術はもちろんのこと、感覚的な技がものをいう世界で、匠の存在は重要です。それだけでなく、当時のノイズの少ない電力、今よりも汚れていない空気、携帯やWi-Fiといった電波が飛んでいない世界は、果たしでどんな音が鳴っていたのでしょう。現代とはまるで別世界のようです。そんな時代に生産されたものが、現存し音楽を奏でる。レコード盤は、ある意味で過去からの挑戦状のようにも思えます。

当時のレコード盤と同じ音源をハイレゾ化する場合、確かにアナログマスターテープは同じものを使用することが可能かもしれません。ですが、果たして過去と現代で同じ音質で鳴っているのでしょうか。心して挑まないと、過去からの挑戦状であるアナログレコード盤は、強敵であるのは確かです。

現代で生産されたレコード盤はどうでしょう。これは、レコード盤を生産するマスター音源がハイレゾ配信されているそのものというケースがほとんどではないでしょうか。アナログ盤とハイレゾで個別にマスタリングを行うのは、制作コストから考えても難しいところです。ですので、レコード盤再生とハイレゾ音源再生を比較試聴すれば、ハイレゾ音源が勝って当然という結果になるはず。しかし実際は、そんなに上手くはいきません。それは。アナログレコード再生とハイレゾ再生の経験値の差。伝言ゲームの例で考察すれば理解しやすく、○△語という慣れていない外国語を日本語通訳するとき、英語を介したほうが分かりやすいというケースもあるでしょう。慣れていない○△語がハイレゾで、慣れ親しんだ英語がレコード盤という例を想像してみました。

結論から言えば、私が個人的に応援したいのはCD盤だけれども、ハイレゾ音源には物量という魅力があるのは確か。レコード盤には生産年度によっては優位性があるものの、現代オーディオ人として負けを認めるわけにもいきませんので、やはりハイレゾ音源で勝利したいという心意気はあります。というわけで、「レコードとCDとハイレゾ、一番音の良いのはどれ?」というご質問をいただくと、私は「ハイレゾが一番」と答えています。チャンピオンになれる素質はハイレゾ音源が十分にありますし、そう願ってこの連載を続けています。「ハイレゾって、CDとそんなに音質が変わらないな~」というケースも、中には存在するのも事実。ですが、ご紹介してきた太鼓判ハイレゾ音源ならばその心配は無用。しっかりとしたブレの無い音質選定ができるよう、ハイレゾ音源再生の向上にこれからも腕を磨き続けたいと思っております。

■ グルーヴ再現に挑戦できる新しいリファレンス・ハイレゾ音源の登場

本日ご紹介する太鼓判ハイレゾ音源は、マーカス・ミラー氏の新譜です。

『アフロディジア』 (96kHz/24bit)
/マーカス・ミラー


フュージョン系からの太鼓判選定が多いかなとも思いつつも、本作の登場には黙っていられませんでした。私はマーカス・ミラー氏の大ファンであり、著書『音の名匠が愛するとっておきの名盤たち』でインタビューを慣行したほどのマニアっぷり。もし“マーカス・ミラー作品の再生選手権”なるものが開催されたら、ぜひ出場して優勝を狙いたいくらいです。そのマーカス氏の新譜がハイレゾ版で登場。しかもCD盤に発売が遅れることなくリリースされたのですから、その時の狂喜乱舞たるやご想像にお任せします。

マーカス氏のマニアとしては、もちろんCD盤も発売日にゲット。音質評価は関係なく、マーカス氏の新譜がハイレゾで出るというだけでお祭りですので、迷わずハイレゾ版もゲットしました。ちなみに過去のマーカス作品は、日本版CDだけでなく、US盤も必ず購入しています。アメリカ生産のCD盤のほうが音質の良いケースがあるからです。実際はマーカス氏の国内CD生産はビクター工場での生産のためか、US盤と大きな音質差は感じられませんでした。音楽制作関係者では有名な話ですが、ビクター工場で生産されたCD盤は音質が良いのです。私も自分が生産にまで携わることのできるCD盤は、必ずビクター工場でプレスしてもらうようにしています。

話を元に戻すと、このマーカス氏新譜のハイレゾですが、なんと嬉しいことに太鼓判にふさわしい音質です。この『アフロディジア』に関してはアメリカ生産のCD盤は購入しませんし、日本版CDも今後は再生することは無いでしょう。ハイレゾ『アフロディジア』を聴くと、まるでステージ最前列のような臨場感が味わえますし、音楽制作スタジオのエンジニア席で演奏しているそのものの姿をモニターしているような生々しさが感じられます。これがCD盤で聴くと、同じ音楽なのに二階席で聴いているようにステージは遠のきますし、スタジオのモニターではなく正に自宅でCDを聴いているような気持ちになるのです。CD盤の名誉のために書き加えますが、決してCD盤の音が悪いわけではありません。過去のマーカス作品と同じかそれ以上のクオリティーはしっかりとあるCD盤なのですが、いかんせん相手のハイレゾ『アフロディジア』のサウンドが良すぎたという感じです。

マーカス氏の音楽は、オーディオ・イベントなどでもひっぱりだこ。いわゆる低音チェックのリファレンス音源として欠かせない存在です。マーカス氏のベースを上手く再現できているかどうかのポイントは、重低音ではありません。ベース奏法の教科書にはマーカス・ミラー風の音作りということで低音と高音をブーストして中域をカットするイコライジング例が掲載されていることがありますが、これは長年マーカス・サウンドを研究したマニアの私から言わせると間違い。特徴的な高域はブーストしてもかまいませんが、マーカス・サウンドの秘密は中低域にあります。オーディオ再生でバスレフダクトからの重低音が派手に鳴るようでは、マーカス作品再生としては理想的とは言えません。地を這うような低音というよりは、腹に響くような中低域がビシビシとくる再生が理想です。例えるなら、急加速によるGで上半身がシートに叩きつけられるようなベースサウンドを再現したいものです。

そんな低音チェック要素はもちろんですが、今回の『アフロディジア』では、その先の再現技術が求められます。より上級課題と言える、“グルーヴの再現”です。

グルーヴの再現は、特にコンピュータを使って音楽を再生する場合に難関となります。冒頭のレコード・CD・ハイレゾ対決で例えると、グルーヴ再現力という点のみで評価すれば、レコード>>>ハイレゾ>CDという感じでしょうか。デジタル音楽記録で最も難しいのが、このグルーヴなのかもしれません。

グルーヴを文字で表現するのは難しいですが、ドラマー神保彰さんから教わった例えでいうと、「楕円形の物体が坂道を転がっていく感じ」です。円形の物体が坂道を転がるのは、コロコロコロとイメージできると思います。それが楕円形の物体になるとどうでしょう?コロ~ンコロ~ンと転がるイメージが伝わると思います。こういった演奏のリズムにある揺らぎをグルーヴと呼んでいます。

『アフロディジア』はアフリカ音楽の要素を取り込んだことから、グルーヴの再現が音楽にとって非常に重要となってきます。楕円形の物体が坂道を転がっていくようなビートが上手く再現できていますでしょうか。ぜひ挑戦してみてください。『アフロディジア』のグルーヴはもの凄いリズムの揺れで、この中に混ざって一緒に演奏するとなると、多くのミュージシャンが尻ごみするのではないかと思えるくらい、グルングルンとグルーヴしています。

コンピュータで音楽を再現すると、解像度の高さという点ではレコードやCDを圧倒するものの、リズムが単調になってしまう傾向があります。機器開発技術陣はクロックの精度を高めることでこの問題は解決しようとしましたが、私には更にリズムが単調になったように感じられ、グルーヴの魅力が遠のいていくように思えます。アナログレコードは針で溝をひっかくという原始的な方式の利点から、グルーヴがそのまま記録され、そしてそのまま再現できる傾向が高いのです。

『アフロディジア』のハイレゾ音源を入手したら、ぜひグルーヴに着目してチェックしてみてください。レコードという過去からの挑戦状に太刀打ちできるようになるためには、私たちはグルーヴの再現力を向上させる技術を得る必要があります。時計を正確にするのではなく、流れる音楽に逆らうことなく、その波に乗っていくイメージです。『アフロディジア』を新たなリファレンス音源として加えるに値する太鼓判ハイレゾ音源であると、マーカス・ミラー氏のマニアとして、この連載の筆者として、そんな垣根を越えてオススメさせていただきます。

------------------------------------------------------------------------------------------
当連載に関するご意見、これを取り上げて欲しい!などご要望は、こちらにお寄せください。
※“問い合わせの種類”から“その他”を選んで送信お願いします。
------------------------------------------------------------------------------------------
筆者プロフィール:

西野 正和(にしの まさかず)
3冊のオーディオ関連書籍『ミュージシャンも納得!リスニングオーディオ攻略本』、『音の名匠が愛するとっておきの名盤たち』、『すぐできる!新・最高音質セッティング術』(リットーミュージック刊)の著者。オーディオ・メーカー代表。音楽制作にも深く関わり、制作側と再生側の両面より最高の音楽再現を追及する。自身のハイレゾ音源作品に『低音 played by D&B feat.EV』がある。音楽専門衛星デジタルラジオ“ミュージックバード”にて『西野正和のいい音って何だろう?』が放送中。