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連載『厳選 太鼓判ハイレゾ音源はこれだ!』第20回

2015/03/13
数多あるハイレゾ音源から、選りすぐりをご紹介する当連載。第20回となった今回は、ハイレゾをより良い音で聴くコツもご紹介!
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【バックナンバー】
<第1回>『メモリーズ・オブ・ビル・エヴァンス』 ~アナログマスターの音が、いよいよ我が家にやってきた!~
<第2回>『アイシテルの言葉/中嶋ユキノwith向谷倶楽部』 ~レコーディングの時間的制約がもたらした鮮度の高いサウンド~
<第3回>『ベートーヴェン:交響曲第9番「合唱付き」(1986)』 NHK交響楽団, 朝比奈隆 ~ハイレゾのタイムマシーンに乗って、アナログマスターが記憶する音楽の旅へ~
<第4回>『<COLEZO!>麻丘 めぐみ』 麻丘 めぐみ ~2013年度 太鼓判ハイレゾ音源の大賞はこれだ!~
<第5回>『ハンガリアン・ラプソディー』 ガボール・ザボ ~CTIレーベルのハイレゾ音源は、宝の山~
<第6回> 『Crossover The World』神保 彰 ~44.1kHz/24bitもハイレゾだ!~
<第7回>『そして太陽の光を』 笹川美和 ~アナログ一発録音&海外マスタリングによる心地よい質感~  スペシャル・インタビュー前編
<第8回>『そして太陽の光を』 笹川美和 ~アナログ一発録音&海外マスタリングによる心地よい質感~  スペシャル・インタビュー後編
<第9回>『MOVE』 上原ひろみ ザ・トリオ・プロジェクト ~圧倒的ダイナミクスで記録された音楽エネルギー~
<第10回>『機動戦士ガンダムUC オリジナルサウンドトラック』 3作品 ~巨大モビルスーツを感じさせる、重厚ハイレゾサウンド~
<第12回>【前編】『LISTEN』 DSD trio, 井上鑑, 山木秀夫, 三沢またろう ~DSD音源の最高音質作品がついに誕生~
<第13回>【後編】『LISTEN』 DSD trio, 井上鑑, 山木秀夫, 三沢またろう ~DSD音源の最高音質作品がついに誕生~
<第14回>『ALFA MUSICレーベル』 ~ジャズのハイレゾなら、まずコレから。レーベルまるごと太鼓判!~
<第15回>『リー・リトナー・イン・リオ』 ~血沸き肉躍る、大御所たちの若き日のプレイ~
<第16回>『This Is Chris』ほか、一挙6タイトル ~音展イベントで鳴らした新選・太鼓判ハイレゾ音源~
<第17回>『yours ; Gift』 溝口肇 ~チェロが目の前に出現するような、リスナーとの絶妙な距離感~
<第18回>『天使のハープ』 西山まりえ ~音のひとつひとつが美しく磨き抜かれた匠の技に脱帽~
<第19回>『Groove Of Life』 神保彰 ~ロサンゼルス制作ハイレゾが再現する、神業ドラムのグルーヴ~
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『Carmen-Fantasie』 Anne-Sophie Mutter, Wiener Philharmoniker, James Levine
~女王ムターの妖艶なバイオリンの歌声に酔う~


■ ハイレゾを良い音で聴くコツ、実は・・・

私はお客様宅やプライベートスタジオへ実際にお伺いして、ルームチューニングやスピーカーセッティングを行うクリニックの仕事もしています。お客様の中には、私と同じUSB-DAコンバーターを導入し、全く同じチューニング・パーツを装着してハイレゾ音源を楽しまれている方がおられます。クリニック後に、そのハイレゾ・システムを聴かせていただくと、いつも私が聴いている音とはかけ離れた、なんとも硬い音で鳴っているのに驚くことがあります。聴いているハイレゾ音源は、この連載で太鼓判を押した絶品達なのに・・・。

原因は簡単。いつも瞬時に発見し改善できます。オーディオは伝言ゲームと同じです。ハイレゾ再生の機材が同じで、ルームチューニングとスピーカーセッティングはクリニック直後の完璧な状態。ということは、その上流に“硬い音”の原因があるはずです。伝言ゲームの上流で間違えれば、後の回答者が頑張ったところで、答えを導き出すのは困難になります。

“硬い音”は、いつもといっていいほど音楽再生ソフトの設定が原因です。お客様自身で行われた設定を確認すると、音源の規格そのままに再生するのではなく、“アップサンプリングもしくはフォーマット変換を行う設定”になっています。試しに音源の規格そのままの再生に変更して聴いてみると、いつもの柔らかいサウンドが見事に戻ってくるのでした。

これにはどのお客様も驚かれます。なぜなら、“アップサンプリングもしくはフォーマット変換を行う設定”をオンにしたのは、比較試聴して選んだ結果であり、より高音質になったのを確認しての採用だったはずです。実はここに落とし穴があります。

ゲーム好きの方ならば、ロールプレイングゲームに例えるとわかりやすいかもしれません。“アップサンプリングもしくはフォーマット変換を行う設定”は、レベルが一桁のころに覚える攻撃呪文のようなものです。レベル初期のころは非常に有効でも、経験値がアップするに従い、その呪文を使わないほうが圧倒的有利に旅を進められるようになります。ちなみにゲームでの例えならば、USB-DACやケーブルは武器や防具といった感じでしょうか。

例えをゴルフやカメラなどの趣味に置き換えれば分かるでしょうし、ゲームのレベル初期というワードを、新入学生や新入社員と言い換えることもできます。経験値アップに従い、採用する機能の見直しが必要ということが、オーディオではなかなか忘れがち。それが、知らぬ間に硬い音で聴き続けてしまうという落とし穴になってしまうのです。

音楽制作現場で、“アップサンプリングもしくはフォーマット変換を行う設定”をマスター音源の高音質化に使用するエンジニアさんは、少なくとも一流と言われている人たちの中には居ません。私は出会ったことがありませんし、もしご一緒したとしても次にオファーすることは無いと思います。

ときどき思い出してほしいのは、ハイレゾ音源はそのままの規格、つまり96kHz/24bitは96kHz/24bitのまま、DSDのDSF 2.8MHz/1bitはDSF 2.8MHz/1bitのまま再生するのが、本来は一番音質が良い方法であるということ。ですが、ハイレゾの旅が始まったばかりのころは、せっかくの機能ですから積極的にアップサンプリングやフォーマット変換を試してみれば良いと思います。「今、それが必要かどうか。」がキーワード。「最近、音が硬いな」となんとなく感じたら、一度は素のハイレゾ音源を聴いてみてください。ピンボケ写真のころはシャープネスが有効でも、上手に写真が撮れるようになったら画像ソフトのエフェクトは不要になるのと同じです。音のシャープネスを外してみてはいかがでしょうか。

■ オーディオ演奏に拍手できるか、泣けるか

本日ご紹介する太鼓判ハイレゾ音源は、私がハイレゾ化を待ち望んでいたムターの『ツィゴイネルワイゼン/ヴァイオリン名曲集』です。

『Carmen-Fantasie』(44.1kHz/24bit)
/Anne-Sophie Mutter, Wiener Philharmoniker, James Levine


CD盤の時代から名演奏、名録音で有名な1枚。SACD化もされていて、オーディオのイベントでもよく使用されています。私も著書『リスニングオーディオ攻略本』の中の“私の試聴ソフト 厳選10枚”で取り上げました。5年前の自分がどんなレビューを書いたのかというと、「ムターのエモーショナルなバイオリンが魅力。#1では、バイオリンの技巧が細部まで見えるようで、なおかつオーケストラの重厚なサウンドとのバランスも自然。生演奏とは違う魅力がある、オーディオならではのクラシック世界が部屋に広がる。再生が上手くいかない場合は、この熱演が淡々として感じられるのは本当に不思議。」と、こんな感じです。

このツィゴイネルワイゼンの再生成功のポイントは、いかにエモーショナルに聴けるかにかかっています。ムターさんが歌うように奏でる美音が、熱く感じられるか否か。腕自慢、耳自慢の方はぜひ挑戦してみてください。

オーディオ・イベントを開催しているとき、その日のパフォーマンスが上手くいくと、再生のあとにお客様から自然と拍手が起こります。もちろん毎回同じように頑張ってシステムをセッティングしているわけですが、なかなか拍手がいただけることは少ないです。何せ、生演奏ではなくオーディオ装置の再生なわけです。お客様もそう簡単には感動してはくれません。しかし、本当に自然に拍手が沸き上がることがあります。まるでコンサート会場のように。更に最高レベルのオーディオ再現に成功すると、泣いてくださるお客様に出会うことがあります。泣くまでは奇跡的なケースですから、イベントで拍手があると嬉しいものです。そして、私がイベントで拍手ももらったことのある最多音源が、このムター『ツィゴイネルワイゼン』。私の力では全くなく、この音源が持つ魅力が聴く人の魂を震わせるのでしょう。

気になるのは、CD盤やSACD盤を既に所有しているクラシックファンやオーディオ好きにとって、ハイレゾ音源を更にプラスして買うかどうかでしょう。CD盤と徹底して比較試聴してみました。

基本的に、全く同じサウンドと言って良いでしょう。ハイレゾ版になって新たにマスタリングをやり直しているというような変化はありません。しかし、ハイレゾ版のこの音の深みはいったいなんでしょうか。一度ハイレゾ版を聴いてしまうと、私はもうCD盤には戻れません。

今回のハイレゾ版が44.1kHz/24bitであったことに、私は拍手を贈りたいです。SACD盤も44.1kHz/24bit音源のDSD化だったとのことですので、本作の現存する最高のマスターは、きっと44.1kHz/24bitなのでしょう。リマスタリングで192kHz/24bitや96kHz/24bitに変更することもできますが、私達が聴きたかったのは「果たしてこの名演のマスター音源は、いったいどのようなサウンドだったのか?」というポイントに尽きます。その夢を叶えてくれたと言えるのが、今回のハイレゾ版リリースです。44.1kHz/24bitに何の不満がありましょうか。

CD規格の16bitと、今回のハイレゾの24bitの違い。これを感じるのは少し難しいです。私もブラインドで聴き比べると、何割かは間違えてしまうかもしれません。その微妙な違いを楽しめるかどうか。音量感や音色は全く同じと考えてください。ほんの少しの余韻や、音像の立体感、そして音楽の深みがハイレゾ版で向上しています。CD盤と直接比較して、そう感じました。

本作は名盤中の名盤です。クラシック録音にありがちな位相感の悪さが皆無で、立体的に音楽が広がっていきます。まだこの名演を聴いたことのない方なら、間違いなく“買い”のハイレゾ音源です。CD盤やSACD盤を持っている方なら迷うところでしょうが、ムターさんのツィゴイネルワイゼンと再び恋に落ちるチャンスだと思いませんか?待ちに待ってやっとハイレゾ化された本作、太鼓判を押さないわけがありません。クラシック系ハイレゾのリファレンスとしてお薦めします。

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筆者プロフィール:

西野 正和(にしの まさかず)
3冊のオーディオ関連書籍『ミュージシャンも納得!リスニングオーディオ攻略本』、『音の名匠が愛するとっておきの名盤たち』、『すぐできる!新・最高音質セッティング術』(リットーミュージック刊)の著者。オーディオ・メーカー代表。音楽制作にも深く関わり、制作側と再生側の両面より最高の音楽再現を追及する。自身のハイレゾ音源作品に『低音 played by D&B feat.EV』がある。