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GREAT3片寄明人の「ハイレゾ・コラム」 第9回 Deodato (後編)

2015/03/12
95年のデビュー以来、普遍と革新を併せ持ったサウンドで、ミュージックシーンのみならず、カルチャーシーンからも大きな支持を得てきたバンド=GREAT3。その中心人物であり、業界屈指の音楽マニア、そしてアナログ・コレクターとして知られる片寄明人をセレクターに迎え「ハイレゾでこそ楽しみたい!」という作品はもちろん「隠れた名盤」や「思い入れのある作品」など、e-onkyo musicの豊富なカタログの中より片寄明人が面白いと思う作品をセレクトする、「ミュージシャン視点」のハイレゾ・コラムです。

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【バックナンバー】
<第8回>「Deodato (前編)」
<第7回>「The Velvet Underground(後編)」
<第6回>「The Velvet Underground(前編)」
<第5回>「The Who『四重人格』(後編)」
<第4回>「The Who『四重人格』(前編)」
<第3回>「チェット・ベイカー『枯葉』」
<第2回>「GREAT3『愛の関係』 」
<第1回>「はじめまして、GREAT3の片寄明人です。」



連載 GREAT3片寄明人の「ハイレゾ・コラム」第9回
Deodato(後編)


『Night Cruiser』
/Deodato

『Happy Hour』
/Deodato



『Motion』
/Deodato



さて前回に引き続き、ブラジルが生んだ鬼才アレンジャーにしてプロデューサー、ミュージシャン。デオダート(Eumir Deodato)の後編です。

前編は渡米後にCTIレコードからリリースした1972年作『ツァラトゥストラはかく語りき』(原題「Prelude」)、73年作『ラプソディー・イン・ブルー』(原題「Deodato 2」)の2枚を取り上げましたが、この2作で世界的に大ヒットを記録。フュージョン~クロスオーバー・シーンの第一人者として一躍名を上げたデオダートはその後1974年にCTIを離れ、MCAへと移籍します。

MCA時代のデオダートはCTIでの路線を基本的に踏襲しながら、よりファンキーに進化したサウンドを追求。3枚のオリジナル作を残しました。僕がこの時代で一番好きな楽曲はMCAでの最終作となった1976年の「Very Together」に収録されている「Univac Loves You」。とろけそうなエレクトリック・ピアノの調べに絡むスペイシーな電子音、そして奇妙でありながらも美しさの極みに触れるコード進行とメロディー、同時代のスティーヴィー・ワンダーにも通ずる雰囲気を持った大名曲で、何度聴いても涙がこぼれそうになってしまいます。

その後、デオダートはワーナー・ブラザーズへとさらにレーベル移籍、1978年にトミー・リピューマを共同プロデューサーに迎え、より洗練された名作「Love Island」をリリースします。アル・シュミットがエンジニアを務めたこのアルバムは音質も極上な一枚で、聴いているだけでアートワークに描かれたような南国へと誘われる心地良さ。ぜひいつかハイレゾでも聴いてみたい作品のひとつです。

この1978年は、前年に公開された映画「サタデー・ナイト・フィーバー」が全世界で大ヒット、そのテーマ曲を歌ったザ・ビージーズを筆頭にディスコ・ミュージックが全盛期を迎えた時代でもありました。
デオダートのサウンドもその時流とマッチ、「Love Island」に収録された「Whistle Bump」は当時多くのDJ達に愛され、ディスコ・クラシックの1曲としていまも知られています。

その前年、1977年にデオダートは当時一世を風靡しつつあったアース・ウィンド&ファイアとも邂逅。「太陽神」という邦題で知られる「All' N All」の2曲にアレンジャーとして参加、大名曲「Brazilian Rhyme」を残しています。

そしてアース・ウィンド&ファイアとほぼ同時期に活動した硬派なファンク・バンドにして、時の流れと共にその作風を洗練させつつあったクール&ザ・ギャングにプロデューサーとして参加。1979年のアルバム「Ladies Night」を皮切りに「Celebrate!」、「Something Special」「As One」と1982年まで計4枚のアルバムに携わります。

全米1位となった「Celebration」をはじめ多くの大ヒットを手がけ、クール&ザ・ギャングのイメージチェンジにも貢献、一躍ブラック・コンテンポラリー界のスーパー・プロデューサーとしても名を上げることとなりました。

「デオダートは曲がヒットする要素を熟知していた」というメンバーの談話が残されていますが、時代の流れを読み、ディスコ~ブラコンという流行のフォーマットを巧みに取り入れてプロデュースされたこれら4枚の作品は、同時期に新ボーカリストとして加入したジェームス・”JT”・テイラーのソウルフルでありながらも爽やかな歌声と相まって、ファンク・バンドとしてのクール&ザ・ギャングを愛した旧来のファンにとっては、バンドが軟弱化してしまった時代だとも評されています。

しかしながらデオダートが加わる前、離れた後のクール&ザ・ギャング作品と聴き比べてみるとよく分かるのですが、同じ様に洗練された路線でもデオダートが手がけた楽曲が持つ音楽的な美しさには格別なものがあります。それぞれの楽器が持つレンジ感を計算し尽くし、ジェームス・”JT”・テイラーが持つしなやかな歌声が鮮明に浮かび上がるよう無駄なく巧妙にアレンジされた楽曲は、ファンクが持つ熱いグルーヴやインプロヴィゼーションの世界とは相反するかもしれませんが、いまの耳で聴いても色褪せない素晴らしい音楽的完成度を誇っています。

大ヒットとともにクール&ザ・ギャングのキャリアを救ったデオダートはその後もライト・ファンクな同路線を目指すミュージシャンからプロデューサーとして引っ張りだこになり、Juicy、Con Funk Shun、Kleeer、One Wayなど数多くのグループを手がけました。

現在e-onkyoで配信されているCTI期以外の3枚である「Night Cruiser」「Happy Hour」「Motion」は、そんな第三黄金期ともいえるディスコ~ブラック・コンテンポラリー時代にデオダートが残したソロアルバムです。

まさにクール&ザ・ギャングのプロデューサとして一世を風靡した1980年にリリースされたのが「Night Cruiser」。表ジャケットでフィルター付きの煙草をくゆらせながらオープンカーに乗り、裏ジャケでは美女の手を握るデオダート。その時代を感じさせる姿に失笑こそしてしまいますが、音の方はCTI~MCAと受け継がれてきた彼の芸風をそのままにブラック・コンテンポラリーな世界へとアップデートさせたアルバムで、彼のトレードマークともいえる美麗なホーンやストリングス・アレンジも堪能できる作品です。

今作で僕が一番好きな作品はメロウな「Love Magic」、オリジナルのアナログ盤に負けない太い音色を持つ192kHz/24bitのflacハイレゾファイルは、そのクリアな音でより細やかな楽器の重なりを楽しむことができ、デオダートのアレンジを研究するにはもってこいの音質。ついつい時間を忘れてその気持ちいいアレンジに引き込まれてしまい、何度も聴き返してしまいました。

続く1982年にリリースされた「Happy Hour」はこの時期のデオダート作品の中でも最もポップで、それこそクール&ザ・ギャングをはじめとする当時のプロデュース作品と地続きな一枚。キャンディ・ステイトン、ケリー・バレット、イーバン・ケリーという3人の歌姫をボーカルに招き、シックを彷彿とさせる「Sweet Magic」をはじめ、ブラコン~AOR作品としても一級のアルバムに仕上がっています。

ちなみにこの2作品にエンジニアとして参加したジム・ボンヌフォン(Jim Bonnefond)はデオダートと共にクール&ザ・ギャングの作品でエンジニアを担当し、デオダートがプロデュースを離れて以降は代わりに共同プロデューサーに格上げ、83年に「Joanna」の大ヒットを飛ばした人物でもあるのですが、この原稿のために彼のキャリアを調べていたところ、これらと同時期の1980年になんとニューウェーヴの名盤と誉れ高いThe Feelies「Crazy Rhythm」のミックスも手がけていたことはとても興味深い事実でした。

そのジム・ボンヌフォンとデオダートは83年に手がけたプロデュース作JUICYの「JUICY」を最後に袂を分かち、その後のデオダート・ワークスのエンジニアはジェファーソン・スターシップや80'sの名バンド、クラウデッド・ハウスの前身であるスプリット・エンズを手がけたマロリー・アール(Mallory Earl)へとバトンが渡されます。

1984年にリリースされた「Motion」はそのマロリー・アールをエンジニアに迎えて制作したアルバムで、前作同様多くの曲でボーカリストを迎えた作品なのですが、かなり音の質感が変化しています。時代の流れを敏感につかむデオダートらしく、今作では生ドラムを排除し、当時大ブームとなっていたLinn DrumやDMXといったリズムマシンを起用、当時のプリンスなどにも通ずる、よりデジタルなサウンドに挑戦したのでしょう。

一聴するとCTI時代からあったデオダートらしさが失われてしまったようにも感じられるサウンドの変化ではありますが、やはりその洒落たコード感や計算されたアレンジは当時巷にあふれていたサウンドとも一線を画すもの。今作が持つ80'sな音色の質感も近年注目されるトレンドですし、個人的にはぜひ再評価したいアルバムです。

中でも「Are You For Real」は哀愁ある素晴らしいメロディーと歌詞を持ったハウス~ガラージュの名曲で、あの伝説のDJ、ラリー・レヴァンがこれまた伝説のクラブ「パラダイス・ガレージ」が閉鎖される最後の夜、ダイアナ・ロス&ザ・シュープリームス「Someday We'll Be Together」、トゥ・トンズ・オブ・ファン「Just Us」に続き、その終わりを締めくくる曲としてフロアに流したラスト・ナンバーとしても知られています。

その後のデオダートは1989年の「Somewhere Out There」を最後に自らのアルバムのリリースは2010年の復活作「The Crossing」まで途絶えてしまうのですが、元デキシーズ・ミッドナイト・ランナーズのリーダー、ケビン・ローランドのソロや小野リサをはじめとする数々のプロデュース作品、またあのビョークのアルバムにストリングス・アレンジャーとして起用されたことでも話題になりました。

2001年には久しぶりのライブ活動も再開、32年振りとなった2006年の文京シビックホールでの来日公演には僕も駆けつけましたが、生で聴くあのデオダート節には大感動させられました。そんな近年のツアーの様子は2007年にEUMIR DEODATO TRIO名義でリリースしたライブアルバム「AO VIVO NO RIO」でも堪能できますので、ぜひ最近のデオダートを知りたいかたはチェックしてみてください。(余談ですが最近、村上春樹氏がこのアルバムを推薦していて驚きました。)



片寄明人 プロフィール

1968年5月23日 B型 東京都出身
1990年、ロッテンハッツ(片寄明人、木暮晋也、高桑圭、白根賢一、真城めぐみ、中森泰弘 )結成、 3枚のアルバムを残し、94年に解散。
1995年、GREAT3のボーカル&ギターとしてデビュー。
現在までに9枚のアルバムをリリース。高い音楽性と個性で、日本のミュージックシーンに 確固たる地位を築いている。最新作は2014年リリース「愛の関係」(ユニバーサル-EMI)。
2000年には単身渡米。Tortoise、The Sea & Cake、Wilcoのメンバーらと、 初のソロアルバム "Hey Mister Girl!"を制作。
2005年、妻のショコラとChocolat & Akito結成。
現在までに3枚のアルバムをリリース。最新作は「Duet」(Rallye Label) 。
明と暗、清濁併せ呑んだ詞世界を美しい旋律で綴り、一糸乱れぬハーモニーで歌うライブは必見。
近年は新進気鋭のプロデューサーとしても活躍。
Czecho No Republic、フジファブリック、SISTER JET、GO!GO!7188、メレンゲ、などを手がけている。
また作詞作曲、CMナレーション、DJ、各種選曲、ラジオDJなどの活動でも活躍中。

◆GREAT3 オフィシャルサイト

『愛の関係』(96kHz/24bit)
/GREAT3





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