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GREAT3片寄明人の「ハイレゾ・コラム」 第8回 Deodato (前編)

2015/02/16
95年のデビュー以来、普遍と革新を併せ持ったサウンドで、ミュージックシーンのみならず、カルチャーシーンからも大きな支持を得てきたバンド=GREAT3。その中心人物であり、業界屈指の音楽マニア、そしてアナログ・コレクターとして知られる片寄明人をセレクターに迎え「ハイレゾでこそ楽しみたい!」という作品はもちろん「隠れた名盤」や「思い入れのある作品」など、e-onkyo musicの豊富なカタログの中より片寄明人が面白いと思う作品をセレクトする、「ミュージシャン視点」のハイレゾ・コラムです。

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【バックナンバー】
<第7回>「The Velvet Underground(後編)」
<第6回>「The Velvet Underground(前編)」
<第5回>「The Who『四重人格』(後編)」
<第4回>「The Who『四重人格』(前編)」
<第3回>「チェット・ベイカー『枯葉』」
<第2回>「GREAT3『愛の関係』 」
<第1回>「はじめまして、GREAT3の片寄明人です。」



連載 GREAT3片寄明人の「ハイレゾ・コラム」第8回
Deodato(前編)


『ツァラトゥストラはかく語りき』
/デオダート

『ラプソディー・イン・ブルー』
/デオダート



今回紹介するのはDeodato(デオダート)。本名はEumir Deodato、1943年にブラジルで生まれた、まさに鬼才とも言えるアレンジャー、プロデューサーにしてキーボーディストです。

天才少年として若干17歳にしてブラジル音楽業界で名を上げたデオダート、彼のキャリアは実に興味深いものです。自分名義のアルバムを初めてリリースしたのは1964年、19歳のときでした。今もボサノヴァの名盤として語り継がれるワンダ・サー 「Vagamente」やマルコス・ヴァーリの1st「Samba Demais」 などのアレンジを全面的に手がけたのも同じ年のことです。その後も自らの作品をリリースするのと同時に、マルコス・ヴァーリの諸作、アストラッド・ジルベルト、ミルトン・ナシメントなどなど、ブラジルで数多くの人気ミュージシャンを手がけた1967年までが彼にとっての第一黄金期といえるでしょう。その尋常でない仕事量と残した名盤の多さはにわかには信じがたいほどです。

デオダートはその1967年、すでにアメリカで活躍していた「黒いオルフェ」の作曲者としても有名なルイス・ボンファの招きにより渡米、その後はアメリカに拠点をおいて活動することとなります。これが彼にとっての第二黄金期のはじまりです。フランク・シナトラ、ロバータ・フラック、アントニオ・カルロス・ジョビンジミー・スコットアレサ・フランクリン、マイケル・フランクス…etc、多くのミュージシャンがデオダートのアレンジを求め、彼の名前がクレジットされた名盤は枚挙にいとまがありません。

現在e-onkyoでハイレゾ配信されているデオダートのアルバムは5タイトル、そのすべてがこの渡米以降のアルバムとなります。1970年代後半からはアース・ウィンド&ファイアー、クール&ザ・ギャングをはじめとするファンク~ブラック・コンテンポラリーを、そして90年代にはなんとビョークのアレンジまでもを手がけるようになるデオダートですが、今回はまず前編として、彼の名前を世界的に有名にしたCTIレコードからリリースされた「ツァラトゥストラはかく語りき 」(1972年リリース、原題「Prelude」)と「ラプソディー・イン・ブルー」」(1973年リリース、原題「Deodato 2」)の2枚を紹介したいと思います。

CTIレコードについては以前紹介したチェット・ベイカー「枯葉」の時にも少しふれましたね。60年代にジョン・コルトレーン「至上の愛」をはじめとする数々のジャズ名盤をリリースしたImpulse! Recordsの設立者にしてプロデューサーであるクリード・テイラーが1967年、A&Mレコード内のレーベルとして立ち上げ、1970年に独立したレコード会社です。

デオダートをはじめ、ジョージ・ベンソングローヴァー・ワシントン・Jrパティ・オースティンボブ・ジェームスなど、このCTIからジャズの枠を超えたヒット作を出したミュージシャンも多く、CTIは一躍クロスオーヴァー~フュージョン・シーンの立役者として世界中で絶大な人気を博しました。

またクリード・テイラーは美麗なレコードジャケットにこだわったことでも有名で、写真家ピート・ターナーを起用し、アート・ディレクターのボブ・チカーノがその写真を美しく仕上げ、予算を度外視した豪華な二つ折りジャケットで発売したことも注目を集めました。何を隠そう僕が初めて買ったデオダートCTIでの1枚目「ツァラトゥストラはかく語りき 」に惹かれたのも、なんともいえないグリーンに染まった木陰の写真が映える光沢仕上げのジャケットに目を奪われたからでした。

このアルバムで最も話題となったのは、あのスタンリー・キューブリックの名作「2001年宇宙の旅」に使われたイメージも強いシュトラウス作曲によるクラッシックの名曲「ツァラトゥストラはかく語りき」をデオダート流にファンキー・ジャズスタイルでカヴァーした表題曲でしょう。

CTIには他にもジム・ホールによる「アランフェス協奏曲」などクラシックのジャズ・カヴァーが少なくなく、これらを仕掛けたのはクリード・テイラーだったのではないかと想像するのですが、このデオダートによる「ツァラトゥストラはかく語りき」は実に斬新に、そしてキャッチーに仕上げられた名カヴァーです。一聴して彼の編曲能力の高さを知らしめる作品となり、世界中で大ヒットを記録しました。一説によるとシングルだけで500万枚を売り上げたとも言われています。

ちなみに今作にはもう1曲クラシックのカヴァー、ドビュッシー「牧神の午後への前奏曲」も収録されていますが、こちらもデオダートによるとろけそうなフェンダーローズのプレイが味わえる流石の仕上がりとなっています。

その他のオリジナル曲も素晴らしい楽曲ばかりです。特にせつない夏の終わりを彷彿とさせる「Spirit of Summer」とカーリー・サイモンとキャロル・キングに捧げられたであろうラテン・ジャズ風味あふれる「カーリーとキャロル」は名曲と言えるでしょう。

カーリーとキャロルといえば、もうひとり名前を挙げたくなるのがローラ・ニーロ。黒人音楽を自分たちなりに洒脱に昇華させた彼女たちの音楽は、ロック~ポップス界隈はもちろん、こうした他ジャンルのミュージシャンにも大きな影響を与えたのかもしれませんね。ちなみにこのアルバムにギタリストとして参加しているジョン・トロペイは後にローラ・ニーロのアルバムやツアーでのギタリストとしても活躍した名手です。

この「ツァラトゥストラはかく語りき」には、ロン・カーターヒューバート・ローズビリー・コブハムアイアート・モレイラなどなど、まさにCTIオールスターズともいえるジャズ~クロスオーバー界の名プレイヤーが参加しています。彼らがデオダート自らが奏でるエレクトリック・ピアノと絶妙な絡みを聴かせてくれるのもたまりません。

続く「ラプソディー・イン・ブルー」も名盤です。前作とほぼ同じ演奏陣に加え、リック・マロッタ、トニー・ストゥッドなども参加したこのアルバムからは表題曲ガーシュイン「ラプソディー・イン・ブルー」のスリリングでファンキーなカヴァーが話題となりました。この曲の終盤で聴けるデオダート独特の胸が躍るオーケストレーションやブラス・アレンジは実に鮮やかで、当時の日本のアレンジャーたちにも大きな影響を与えたであろうことが容易に想像できます。

もう1曲のクラシック・カヴァー、ラヴェル作「なき王女のためのパヴァーヌ」も実に素晴らしく、その胸しめつける叙情的な演奏と美しいストリングスには、いつ聴いても心を強く打たれます。そしてまさにレア・グルーヴの極みともいえる大名曲「スーパーストラット」を収録しているのも今作です。

デオダートの作品はヒップホップでよくサンプリングされることでも知られていますが、この2枚のアルバム「ツァラトゥストラはかく語りき」と「ラプソディー・イン・ブルー」のレコーディングで実に生々しく迫力のある音像をテープに封じ込めた録音エンジニアは、あのジャズ界の巨匠ルディ・ヴァン・ゲルダーでした。

e-onkyoではこの2作をDSD2.8MHzと192kHz/24bitで配信中ですが、これらを含むCTIのハイレゾ音源はいずれも日本のキングレコードが所蔵していたアナログ・マスターテープからダイレクトにフラット・トランスファーされたもので、ルディ・ヴァン・ゲルダーが録音したそのままの音がリアルに堪能できることにも注目です。1音1音が太くうねり、名手による演奏が絡み合う様が目の前で感じ取れるこのハイレゾ音源は自分にとって理想のひとつとも言える録音です。ぜひデオダート、ルディ・ヴァン・ゲルダーがお好きな方はお聴きのがしなく!

クロスオーヴァー~フュージョンというと玉石混交なイメージが強く、ロック少年だった若い頃の自分は天気予報のバックグラウンドで流れている音楽じゃないの!?なんていう偏見を持っていたこともありますが、こうした時代を超える極上の作品を聴くと、そのクオリティの高さと音楽的な素晴らしさに感動させられますね。

次回は時を1980年代に進めて、ブラック・コンテンポラリー~ディスコの世界に足を踏み入れたデオダート作品を紹介したいと思います。


関連記事「ジャズの名門「CTI」珠玉の作品群を最新リマスタリングで




片寄明人 プロフィール

1968年5月23日 B型 東京都出身
1990年、ロッテンハッツ(片寄明人、木暮晋也、高桑圭、白根賢一、真城めぐみ、中森泰弘 )結成、 3枚のアルバムを残し、94年に解散。
1995年、GREAT3のボーカル&ギターとしてデビュー。
現在までに9枚のアルバムをリリース。高い音楽性と個性で、日本のミュージックシーンに 確固たる地位を築いている。最新作は2014年リリース「愛の関係」(ユニバーサル-EMI)。
2000年には単身渡米。Tortoise、The Sea & Cake、Wilcoのメンバーらと、 初のソロアルバム "Hey Mister Girl!"を制作。
2005年、妻のショコラとChocolat & Akito結成。
現在までに3枚のアルバムをリリース。最新作は「Duet」(Rallye Label) 。
明と暗、清濁併せ呑んだ詞世界を美しい旋律で綴り、一糸乱れぬハーモニーで歌うライブは必見。
近年は新進気鋭のプロデューサーとしても活躍。
Czecho No Republic、フジファブリック、SISTER JET、GO!GO!7188、メレンゲ、などを手がけている。
また作詞作曲、CMナレーション、DJ、各種選曲、ラジオDJなどの活動でも活躍中。

◆GREAT3 オフィシャルサイト

『愛の関係』(96kHz/24bit)
/GREAT3





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