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GREAT3片寄明人の「ハイレゾ・コラム」 第7回 The Velvet Underground (後編)

2015/01/03
95年のデビュー以来、普遍と革新を併せ持ったサウンドで、ミュージックシーンのみならず、カルチャーシーンからも大きな支持を得てきたバンド=GREAT3。その中心人物であり、業界屈指の音楽マニア、そしてアナログ・コレクターとして知られる片寄明人をセレクターに迎え「ハイレゾでこそ楽しみたい!」という作品はもちろん「隠れた名盤」や「思い入れのある作品」など、e-onkyo musicの豊富なカタログの中より片寄明人が面白いと思う作品をセレクトする、「ミュージシャン視点」のハイレゾ・コラムです。

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【バックナンバー】
<第8回>「Deodato (前編)」
<第7回>「The Velvet Underground(後編)」
<第6回>「The Velvet Underground(前編)」
<第5回>「The Who『四重人格』(後編)」
<第4回>「The Who『四重人格』(前編)」
<第3回>「チェット・ベイカー『枯葉』」
<第2回>「GREAT3『愛の関係』 」
<第1回>「はじめまして、GREAT3の片寄明人です。」



連載 GREAT3片寄明人の「ハイレゾ・コラム」第7回
The Velvet Underground (前編)


『The Velvet Underground & Nico 45th Anniversary Remaster』
/The Velvet Underground, Nico

『The Velvet Underground[45th Anniversary / Super Deluxe]』
/The Velvet Underground



前回に引き続きThe Velvet Underground編です。

1994年に訪れたハワイの中古レコード店でThe Velvet Underground and Nicoの貴重なオリジナル・モノラル盤を発見したものの、入荷直後だったのか値札がまだ付けられていない状態で、恐る恐る店員に問い合わせをしたところから話は続きます。

バイトらしき青年が「これは珍しいよな。きっと高いよ。。。待ってて、調べるから。」と分厚いプライス・リストをパラパラとめくりだし…待つこと数分。色々と確認した後に少々深刻そうな顔でこう言ったのです…「30ドル」!

「えっ?!日本円で3000円!東京じゃ10万円だよっ!」想定外の驚きと共に脳内で割れたくす玉、乱れ飛ぶ紙吹雪を悟られないよう、ポーカーフェイスを保ちつつ静かに「これ頂きます。」と答えた自分。

そして、彼が何かの拍子にこの盤が持つ真の価値に気がつかないよう心中で祈りつつ、一刻も早く支払いを済ませてこの場を去らなければ!!!と会計のわずかな間をも永遠にも感じ、照りつける南国の陽射しの中でこの盤を胸に抱え、逃げるようにワイキキ・ビーチのホテルまで帰ったのです。

ホテルに着いて冷静に思い返してみると、僕が買ったモノラル盤を見つけたレコードの山に、このバナナのアルバムがもう1枚あったことを思い出しました。それはやはりモノラル盤でしたが、トルソ・カバーのエリック・エマーソンが映った部分を大きなステッカーで隠してありました。しかしその盤の持つ意味を知らなかった自分は「なんだか謎のステッカーが貼られてるな。。。」と思い、すぐにそのことを忘れて、トルソ・カバーに意識を集中させてしまったのです。

気になったので東京に戻ってから調べたところ、このステッカーが貼られた盤は自分の写真が許可無しに使われている!と発売直後にエリック・エマーソンから訴えられたレーベルが、急遽対応策として彼の写真部分にステッカーを貼った、俗にセカンド・カバーと呼ばれるこれまた貴重な盤だったことが判明。なぜにあの時一緒に買わなかったのか!と悔やまれる1枚でした。

しかし今振り返ってみても、なぜ94年のホノルル、しかもあんな小さなお店に、極上のコンディションの『The Velvet Underground and Nico』オリジナル・モノラル盤が2枚もあったのか?謎は深まるばかり。あのレジの青年が後で戻ってきた店長に貴重盤を安値で売ってしまったことを怒られはしなかったか…今も気がかりな自分です。一生大切にするのでどうか許してください。。。

兎にも角にも、貴重なトルソ・カバーのオリジナル・モノ盤が信じられない安価で手に入ったという、僕のレコード・コレクター人生でも稀に見る体験でございました。

そしてこのオリジナル・モノラル盤の持つ、再発LPやCDの音を一皮も二皮も剥いたとしか言いようのない鮮烈な音像は僕の今作に対する認識を新たに塗り替える衝撃の経験をもたらしてくれました。

モノラルにもかかわらず、いや、だからこそ深く奥行きのある音像、録音された1966年のNYの空気がそのまま封じ込められてタイムスリップしてきたような生々しい臨場感は、まさに目の前で彼らが演奏している姿を体験しているかのようでした。。

近年、モノラル盤がCDやアナログで復刻されるたび必ずチェックしている自分ですが、やはり残念なことにこの原盤には遠く及ばない仕上がりです。 今作に思い入れのあるかたには、ぜひいつの日かオリジナル・モノ盤が持つ極上のサウンドを堪能して頂きたいと心から思います。


米国初回プレスのモノラル盤。バナナのステッカーも、ほぼ完ぺきな状態を残している。


こちらが米国初回プレスのモノラル盤の裏ジャケ。ステージの背後には
はっきりとエリック・エマーソンの姿が投影されている。


こちらがステレオ盤。


モノラル盤とステレオ盤を比べるとバナナのステッカー、矢印とテキストの位置が若干異なるのが分かる。


参考までに、こちらがエリック・エマーソンのクレームにより急遽
ステッカーを貼ってリリースされたセカンド・カヴァー。バナナのステッカーを剥いだ状態。


さてようやくハイレゾへと話が辿り着きましたが、現在e-onkyo musicで配信されている1stアルバムは「45th Anniversary Remaster」と呼ばれる2012年の最新リマスター96kHz/24bitステレオ音源です。自宅で愛用するTEAC UD-501でこの音源を再生して驚きました。かなり素晴らしい出来です。

ハイレゾで聴く『The Velvet Underground and Nico』はモノラル盤が持つ魔力こそ無いものの、アナログのステレオ初期盤を極上のシステムで再生したときのような感触がありました。例えばNicoの凍り付くような歌声からも、彼女の血筋であるドイツ系の気高さと、その心が持つ闇の深さ、そのまた奧に隠れる純粋すぎる魂までもが感じ取れるかのような音なのです。

バンドが放つ荒々しくサイケデリックな音の積み重なりが細部まで聴き取れることもあり、今まで大きな音量でスピーカーを通して聴くことこそふさわしいと思っていたこのアルバムを、初めてヘッドフォンでじっくり聴いてみたいと思わせてくれました。

この1stよりもさらに凶暴かつ、ある意味では悪音質と表されても納得してしまう音を誇るセカンド作『White Light White Heat』をハイレゾで聴く倒錯行為にもたまらないものがあります。

覚醒剤がもたらすパラノイド的世界を音で表現したともいわれるこの『White Light White Heat』ですが、ノイズとノイズがぶつかり合うエネルギー、そしてバンドが持つプリミティブな側面を飾らずに荒々しいまま封じ込めた録音、それがもたらす崇高なまでの猥雑さ、これらがハイレゾで聴くことにより途中で飽きることなく耳に絡みつくのです。

正直言うと僕がこのセカンドをここまで集中して聴くことができたのは今回が初めてです。ノイジーな音もただうるさいだけでなく、そこに耳が吸い込まれていくような感覚があり、新たな体験をすることができました。

ルー・リードといえば全編をノイズで埋めつくし、メロディーの欠片もない、1975年の問題作『Metal Machine Music』を生前彼の監修でBlu-rayによる高音質ハイレゾ・リリースしたというニュースもありました。こういったノイジーでアヴァンギャルドな音こそハイスペックなフォーマットで聴く快感があるのかもしれません。なかなか興味深いですね。

そしてちょうど昨年末にハイレゾ・リリースされたばかりの3rdアルバム『The Velvet Underground』45th Anniversary / Super Deluxe版。これは全65曲のもの凄いセットです。(より曲数を絞った22曲、もしくは10曲のヴァージョンも同時にリリースされています)

レコーディング直前に愛用の機材が盗難にあってしまったこと、そしてバンドの前衛面を多く担っていたジョン・ケイルの脱退などもあり、それまでの音とは方向性を変え、より叙情的なメロディーを歪みの少ないサウンドで静かに奏でた曲も多く、新たな側面が感じられるアルバムとなり、個人的にもかなり大好きな一枚です。

このアルバムのMIXにはルー・リード自身が主導となって制作した、親密に耳元で囁かれるような響きを持つクローゼットMIXと、レーベル主導でより大衆向けな意図で制作されたヴァル・ヴァレンタインMIXと呼ばれる2種類のMIXが存在することが以前から知られていますが、このSuper Deluxe版にはその2種はもちろん、プロモ盤のみで存在した貴重なモノラルMIXや新たにMIXされたアルバム未収録曲、ライブ音源なども大量に収録され、この時期のヴェルヴェットをあらゆる面から深く堪能できるセットとなっています。

音質的な側面から見ても、今回紹介している3枚中、最も高音質で録音されているのはこの3rdです。そのソフトで深みのある音像はハイレゾで聴くにふさわしいものでしょう。ビザールな演奏に乗って歌われる怪しげなメロディーを切り裂くように左右のスピーカーから同時に違う物語が早口でリーディングされる奇っ怪な名曲“Murder Mystery(殺人ミステリー)”などはヘッドフォンで聴くと身の毛がよだつほどの体験ができますよ。

Super Deluxe版はとにかく曲数が多いので、僕もまだ65曲すべてを深く楽しむには至っていません。今後の楽しみとして時間をかけてゆっくり味わいたいと思います。

しかしこういったCDではBOXセットとして販売されている音源をハイレゾで購入するときにいつも思うのが、BOXに付属しているブックレットを読めるようにしてくれないかな?ってことです。別売りでもかまわないので、フィジカル本やpdfファイルで資料を付けてもらえたらさらに深く楽しめるのに…と心から思います。レーベルのかた、どうぞよろしくお願いいたします。

ヴェルヴェット・アンダーグラウンドとしてはこの後に、最もポップなアルバム『LOADED』をリリースして解散(後期メンバーのダグ・ユールが中心となり、ルー・リード抜きのヴェルヴェット名義で出した『SQUEEZE』は無視します。。。) となるのですが、この『LOADED』のみレーベルが違うからなのか未だハイレゾ・リリースされていません。

このバンドの肝ともいえる女性ドラマー、モーリン・タッカーが妊娠中でレコーディングにほぼ参加していなかったり、ルー・リードがリリース直前に脱退したこともあり、曲順や最終MIXにメンバーの意志が反映されていなかったりと様々な問題こそあれ、“Sweet Jane”“Rock & Roll”など不朽の名曲を数多く含む名盤には違いありません。

『LOADED』のハイレゾ・リリースを祈りつつ、今回の幕を閉じさせていただきます。また次回お楽しみに!




片寄明人 プロフィール

1968年5月23日 B型 東京都出身
1990年、ロッテンハッツ(片寄明人、木暮晋也、高桑圭、白根賢一、真城めぐみ、中森泰弘 )結成、 3枚のアルバムを残し、94年に解散。
1995年、GREAT3のボーカル&ギターとしてデビュー。
現在までに9枚のアルバムをリリース。高い音楽性と個性で、日本のミュージックシーンに 確固たる地位を築いている。最新作は2014年リリース「愛の関係」(ユニバーサル-EMI)。
2000年には単身渡米。Tortoise、The Sea & Cake、Wilcoのメンバーらと、 初のソロアルバム "Hey Mister Girl!"を制作。
2005年、妻のショコラとChocolat & Akito結成。
現在までに3枚のアルバムをリリース。最新作は「Duet」(Rallye Label) 。
明と暗、清濁併せ呑んだ詞世界を美しい旋律で綴り、一糸乱れぬハーモニーで歌うライブは必見。
近年は新進気鋭のプロデューサーとしても活躍。
Czecho No Republic、フジファブリック、SISTER JET、GO!GO!7188、メレンゲ、などを手がけている。
また作詞作曲、CMナレーション、DJ、各種選曲、ラジオDJなどの活動でも活躍中。

◆GREAT3 オフィシャルサイト

『愛の関係』(96kHz/24bit)
/GREAT3





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